都市と自然の共生で、サステナビリティを高める。街づくりで環境を守る事例まとめ

都市と自然の共生で、サステナビリティを高める。街づくりで環境を守る事例まとめ

新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、リモートワークの機会が各段に増えた2020年。働く場所を自由に選ぶことができるようになり、自然あふれる地域に価値を見出している人々が増加傾向にあるといいます。さらに、徐々に気候変動の緩和や適応、災害リスクの減少のため、グリーンインフラをはじめとした、都市で自然を活用する動きが海外を中心に増え始めています。そこで、自然と共生する都市のありかたについてのアイデアをご紹介します。

目次

1. 都市における自然の役割とは?

都市における自然の役割を理解する上で重要なのが、「グリーンインフラ」です。グリーンインフラとは、自然環境が有する機能を社会における様々な課題解決に活用しようとする考え方で、海外を中心に取り組みが進められ、日本でもその概念が導入されつつあります。たとえば、屋上緑化や芝生を空き地に植えることで、都市部のヒートアイランド対策や雨水の貯留効果が期待できます。

近年、日本では土砂災害をはじめとする自然災害が多く発生しています。「国土交通白書 2020」によれば、2000年~2009年は平均1,006件の土砂災害が発生したのに対し、2010年~2019年は平均1,476件と増加傾向にあり、特に2018年は過去最多の3,459件、2019年も1,996件と多くの土砂災害が発生しました。また、日本は平地が少なく、平野や沿岸部の埋立地に人口が集中していることから、国土面積の約35%、全人口の約74%が災害リスクの高い地域となっています。グリーンインフラを活用することで、災害リスクを減らすことにもつながります。都市緑化による温室効果ガスの吸収量の算定も進んでおり、地球温暖化の解決と一助となるか、期待がかかります。

また、都市において自然を増やすことで、都市の魅力を向上させることも期待できます。緑化によって人々に癒しを提供し、住みやすい街づくりに貢献します。「本当に住みやすい街大賞2021」の3位までにランクインしている川口、大泉学園、辻堂がランクインした理由として「大きな公園がある」「自然が豊か」なども挙げられており、不動産としての価値も向上しています。さらに、少子高齢化に伴い、都市郊外において空き地率の高さが問題になっています。一方、2017年に都市緑地法が改正され、官民連携による都市の緑地整備が進めやすくなりました。空き地を空き地のままにしておくのではなく、植物を植えるなど緑化することによって、都市の魅力が向上することにつながります。

2. 都市の自然環境を守るアイデア4選

本章では、都市の自然環境を守るアイデアをご紹介します。

2-1. 自然とテクノロジーを融合させる、成都近郊の都市プロジェクト

中国の成都近郊で開発が進められる、都市空間と自然との融合を目指す都市モデル「天府新区」。農業と森林管理不足により荒れた地において、景観と生態系を回復させることが目的です。元からある山の隆起や池などの自然を活かし、地区の動植物の生態系や環境を保護するといった工夫とともに、廃棄された瓦礫を用いた壁や、地理情報システムを利用した水や路面などの造形など、現代の技術も用いることで、居住者や訪問者が騒がしい都会から離れ安らげるように工夫されています。

2-2. 廃工場のリノベーションで生態系を保護。台湾台中市の環境保護施策

台湾では、経済成長期に作られた多くの大規模工場の劣化が進み、使われなくなった工場を解体するにもその構造の劣化により危険が伴い、結果として誰も手をつけられないまま放置されています。そこで、廃工場や古い校舎を再利用し、魅力的な場所へ新たに生まれ変わらせる活動が官民協同で活発に行われています。たとえば、台中市の廃工場跡地はリノベーションにより大規模公園兼文化施設に生まれ変わりました。この公園の約半分の面積を占めるのが、「星泉湖」という巨大な湖。元々、跡地に地下水が溜まってできた湖で、その跡地を市政府が買い上げ、今回の施設を作ることになりました。ビルの建設過程で、ただの水たまりだと思われていた湖に豊かな生態系が根付いていることが判明したため、市政府は、湖の環境整備の際にできるだけ元々の環境に近い状態を残しながら、より自然な状態で生態系の保護に努めています。

2-3. パリのゴミ埋立地が生まれ変わる。 NYセントラルパークの5倍の広大な森林計画

フランスの首都パリが、環境保全への取り組みの一つとしてアメリカ・ニューヨークのセントラルパークの約5倍の広さに匹敵する森林を作る計画を行っています。パリ中心部から約30キロ離れた埋立地で、かつてこの地域の畑に下水残留物が散布され続けた結果、土壌汚染が進み、さらに大量のゴミの不法投棄も問題となっていました。ごみの埋立地となっていた場所をハイキングコースや乗馬センター、100万本以上の木々が生い茂る森林に変えることで、森林は植物や野生動物の生息地を生み出し、温室効果ガス排出量の削減などにも役立ちます。

2-4. パーマカルチャーを学ぶ。ノートルダム大聖堂のサステナブルな再建アイデア

2019年4月にノートルダム大聖堂火災が発生し、鎮火した後にフランス政府はノートルダム大聖堂の一部再建のため国際コンペを発表し、世界各地から修繕の建築アイデアが集まりました。国際コンペに寄せられたアイデアの一つは、パーマカルチャーを活用して「焼け落ちた屋根と尖塔部分をガラス張りにして、温室(グリーンハウス)と養蜂場を設ける」というもの。このアイデアが実現されれば、訪れた人々に都市農園やパーマカルチャーの可能性、生物多様性のあり方を問い直す場になりそうです。

3. 自然を活かし、都市のサステナビリティを高める

自然を活かしながら、都市のサステナビリティを高めるにはどうしたら良いのでしょうか。ポイントを3つにまとめました。

3-1.地域の生態系を知る

都市にいながら自然と共に暮らすことで、私たちの生活の質の向上につながるだけでなく、気候変動を緩和するなど、地球環境がよくなることにも結び付きます。先ほどご紹介した台湾の事例では、地下水が溜まってできた湖をなくすのではなく、湖にある生態系を守りつつ、人々の憩いの場となるよう湖の周囲に公園をつくりました。人間と自然、双方にとってより良い選択肢をとることで、住みやすく豊かな環境を守ることにつながります。

3-2.都市の再生にパーマカルチャーを取り入れる

ノートルダム大聖堂の事例では、伝統を重んじ、火災前の状態に修繕することを求める声が多く上がっていました。ノートルダム大聖堂の事例にかぎらず、より良い未来をつくっていくためには、伝統を守り続けるだけでなく、自然の仕組みを取り入れるなど、刷新していくことも必要なのではないでしょうか。

3-3.官民連携のコミュニケーションデザイン

中国の天府新区の事例では、天府新区が内地の先端産業の発展と国際的・自然環境を重視した国際的新型都市モデルを推進する地区に制定され、伝統的な中国庭園の要素を用いたり、子供たちのための遊ぶ場所を確保したりと、民間企業(デザインスタジオ)であるSasaki associatesと連携しながらプロジェクトを推進しています。少子高齢化により人口が減少していく中、税収の減少をどう補うか、人口が減少する中で地域内連携をどう深めていくのか、といった課題があり、官民連携のコミュニケーションが解決策の一つになり得ます。

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