自然の力を借りて防災・減災、地域活性化。注目されるグリーンインフラとは?事例もご紹介

自然の力を借りて防災・減災、地域活性化。注目されるグリーンインフラとは?事例もご紹介

中小企業白書によると1970年代から2015年まで年々日本の災害の発生件数や被害額は増加傾向にあります。防災や減災に向けたテクノロジーや防災対策は進んでいるにもかかわらず、地球温暖化や人口減少による里山の荒廃が起きていることが原因であると考えられています。

少子高齢化が進む中で、インフラの維持コストは増大しており、今後30年で2018年の 1.3倍ほどのコスト(約5.9~6.5兆円)になるだろうと推定されています。人の力ではとても制御しきれなくなってしまうほど甚大になりつつある災害被害に対して、一つの解決策となるのが自然の力を借りようとするグリーンインフラです。今回は、グリーンインフラの意義と欧米のグリーンインフラの事例をご紹介します。

目次

1. グリーンインフラとは?

グリーンインフラは、自然の持つ多様な機能を活用したインフラや土地利用を推進する概念です。環境保全に留まらず、防災・減災や地域振興といった要素の重なる部分を、自然の機能を活用したインフラである、グリーンインフラが担います。

例えば、グリーンインフラの一つである屋上緑化や芝生を空地に植えることは、都市部のヒートアイランド対策や雨水の貯留効果、さらに地域に住む人の癒しや賑わいを生むきっかけとして期待されます。

一般的に、グリーンインフラの持つ効果として以下が挙げられます。

  1. 生物多様性保全(生き物の生息・生育空間の提供など)
  2. 気候変動の緩和(地球温暖化の緩和など)
  3. 防災・減災(浸水対策など)
  4. コミュニケーションを生むことにより地域振興/地方創生
  5. レクリエーションなどによりQOLの向上
  6. 不動産価値の向上(緑化による土地ブランド力向上・遊休資産の活用など)

日本におけるグリーンインフラに関する気運の高まりとしては、2015年に国土交通省の行政計画である国土利用計画、社会資本重点整備計画にグリーンインフラが盛り込まれたことが発端です。そして2019年には国土交通省がグリーンインフラ推進戦略を発表し、2020年には多様な主体間の連携基盤となるグリーンインフラ官民連携プラットフォームが立ち上がっています。今まさに、グリーンインフラの実践に向けて、生態系の活用と土木・建築や情報技術など、様々な分野や主体間の新たな結びつきが模索されています。

日本国内においては、東京駅近くにあるショッピングモール「KITTE」の屋上庭園や、舗装に雨水貯留砕石を使用した横浜のグランモール公園などがグリーンインフラを活用した例として挙げられます。グリーンインフラは、全て自然の機能に託すのではなく、テクノロジーとのハイブリッドで運用することが重要です。東日本大震災では人工物である防波堤と防風林の両方の掛け合わせで津波被害を軽減できたと言われています。

2. 注目される欧米のグリーンインフラ

ここからは、欧米で進むグリーンインフラの事例についてご紹介します。

2-1.廃棄された貝殻で人工岩礁を


防潮堤として、そして貝や魚、海草が育つ場所として人工岩礁を機能させるニューヨークの事例です。この岩礁には地元のシーフードレストランで廃棄されるハマグリやカキといった貝殻を使っています。人工岩礁ではあるものの、時間とともに自然の岩礁によく似た形になり、海中生物の生息地となります。また、下水と廃水で長年汚染されてきた海水をろ過するのにも役立つとのことで、廃棄物削減、生物多様性、さらに海洋汚染解消を実現する機能があると期待されています。

巨大な防潮堤を建設することについては多くの議論を呼んでいます。例えば津波による被害を少しでも抑える役割はあるものの、陸と海の連続性が分断されることによる生態系の壊滅、海を中心とした地域コミュニティの希薄化といったデメリットもあります。一方で防潮堤の代替案となるものは少なく、このようなグリーンインフラの開発が待たれています。

2-2.花粉媒介者であるハチを救済する緑化策


特にヨーロッパ各国では養蜂の価値が問い直されています。食物生産において、野菜・果物の花粉媒介者として大事な役割を果たすハチ。しかしいま農薬や都市部での農地の激減、環境破壊などでハチが激減しています。アメリカでは2010年から毎年38%近く減少しているというデータもあります。世界の主な食用作物の75%以上が、ハチをはじめとする花粉を媒介する昆虫に受粉を頼っており、この激減による食糧危機が懸念されています。

そこで、ハチを増やすことを含めて少しでも緑化を推進するためにオランダのユトレヒトでは屋根の緑化に奨励金を出しています。虫の住処を作るインセクトホテルも有名です。

人間のためのグリーンインフラではなく、虫の視点に立ったグリーンインフラが、最終的には社会のサステナビリティにつながるのです。今回のコロナ感染拡大も動物の住処に人間が侵入しすぎてしまったことが原因の一つであると言われており、生物多様性の重要性は見直されていくでしょう。

2-3.壁面緑化で「再生する」建築物


ステファノ・ボエリというイタリアの建築家によって進められている「垂直の森」という壁面緑化の住宅があります。壁面緑化の効能としては放射能や騒音から人々や建物を保護したり、夏は涼しく冬は太陽光を取り入れるためエネルギー消費抑制になったり、あるいは空気を浄化させるという働きがあります。

このような効能により、安価な土地でも壁面緑化によって低コストで快適な空間を維持できることからオランダのアイントホーフェンでは低所得者向けの公営住宅を彼が設計しています。

建築資材や屋内でのエネルギー使用といった、消費の場であった住宅がこのような空気浄化や太陽光発電の普及等により資源を生産する場、つまりリジェネラティブな場にシフトできるといえるでしょう。
【記事URL】https://ideasforgood.jp/2018/01/26/bosco-verticale/

3.グリーンインフラを実現するポイント

3-1.行政と企業、周辺住民による活発なコミュニケーション

グリーンインフラの実現に至っては、地域の安全をつかさどる行政と、施工管理や技術面でグリーンインフラを担う民間の協働による開発が不可欠になります。施工後も自然環境・緑地を維持することにコストがかかってしまいますが、これをコストととらえず、グリーンインフラによって生まれる効力に価値づけをし、その理解を波及させていくためのコミュニケーションを取ることが重要です。

3-2.透明化された体制

このようなインフラ整備については自治体や地域住民の合意形成といった複雑なプロセスを経ることから、ステークホルダーが多くなってしまう傾向にあります。実施体制を透明化し、分野を横断したプラットフォームを構築すること、そして実施計画や合意形成プロセスを策定することがポイントです。

3-3.持続可能なコミュニティづくり

グリーンインフラがもたらす効果は多くありますが、コミュニティの活性化は特に価値があるといえます。地域住民の協力や連携によって共通体験を持つことが地域の力を強靭なものとするのです。課題解決に向けた住民間の議論を活発化させるためにも、地域住民を巻き込んだグリーンインフラ設計が重要になっていきます。

3.「共災」に活かすグリーンインフラ

いかがでしたでしょうか。近年、防災だけでなく、災害と共存していく「共災」という考え方が進んでいます。共災していくために、減災、環境保全、地域コミュニティの活性化といったグリーンインフラのポテンシャルを人口減少時代にどう活かしていけるか、今後の期待が高まります。

さらに新型コロナの影響で都市の脆弱性が露見された現在、このような土地活用はさらに加速していく分野となりそうです。(記事監修:京都産業大学 生命科学部 西田貴明准教授)

【参照サイト】中小企業白書 第二章防災減災対策p.398
【参照サイト】 国土交通省 インフラメンテナンス情報(2018年)
【参照サイト】グリーンインフラ 官民連携プラットフォーム
【参照サイト】国交省:グリーンインフラ推進戦略の概要
【参照サイト】スマートシティインスティテュート:2020.08.04「グリーンインフラによる社会課題の解決へ」

※本記事の執筆にあたり、Business Design Labが提供する国内外の事例検索機能IDEAS Explorer(会員登録後閲覧可能)を使用しています。会員登録は無料ですのでぜひご活用ください。

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