ホテル業界必見!ゼロエミッションでビジネスチャンスに近づける世界のアイデア
近年、インバウンド需要の盛り上がりを背景に活気づいていたホテル業界。しかし、新型コロナウイルス感染症が世界的な猛威を奮っていることもあり、ホテル業界は現在厳しい状況となっています。今回は、「ゼロエミッション(廃棄物を出さない仕組み)」という観点から、ホテル業界のビジネスチャンスになるアイデアをご紹介していきます。
目次
- 1. ホテル業界の現状
- 2.ホテルがゼロエミッションに取り組む意義
- 3. ホテルのゼロエミッションに役立つ世界の事例
- 4. アイデアを実現するポイント
ホテル業界の現状
ジャパン・ホテル・リート投資法人の(2020年 変動賃料(月次開示対象)物件の運営実績)によると、2020年の2月以降、ホテルの稼働率が非常に低迷しています。例を挙げると、2020年5月は客室稼働率が前年と比べると-79.7% で、約5分の1という数字を叩き出しています。
この背景には、新型コロナウイルスが世界的に流行していることによる、訪日外国人の減少、国内旅行や出張を自粛せざるを得ない状況などが挙げられます。2020年7月22日から始まった国の支援事業GO TO トラベルキャンペーン(宿泊費用の負担や旅行先で使えるクーポンの発行)により、国内旅行需要は一定数向上していますが、ホテル業界は未だ先が見えない状態です。
1-1.ホテルが生み出す廃棄量
2018年の消費者庁消費者政策課が発表した「食品ロス削減関係参考資料」によると、日本の食品廃棄物量は、年間2,842万トンにもなります。そのうち食品ロス(食べられるにもかかわらず捨ててしまう食品の量)は646万トンで、国連世界食糧計画(WFP)による食料援助量(約320万トン)の約2倍以上の数値となっており、食品ロスは日本の大きな問題となっています。
食品廃棄物量の2,842万トンの内訳は、事業系食品廃棄物等が2,010万トン。家庭系食品廃棄物等が832万トンで、事業系食品廃棄物等の方が、圧倒的に多いです。事業系の中でも、廃棄量・食品ロスの量が多いのがホテルなどの宿泊施設です。理由としては、飲食店の場合「食べに行く」ことが前提になるのですが、ホテルの場合は披露宴など何かに「行くこと・出席する」ことが優先となり、食べることが前提として考えられていないことがあるからです。その結果、宴会や披露宴での食べ残しが発生し、ホテルなどの宿泊施設が生み出す廃棄量が多くなっています。
1-2.コト消費・コロナ禍で変わりつつある観光(グリーンツーリズム・マイクロツーリズム)
コロナ渦の影響によって、インバウンド需要は落ち込んだものの、GOTOトラベルキャンペーンの影響で少しずつ国内旅行の需要が高まっています。コロナ渦の中でも旅行が楽しめるスタイルとして、「マイクロツーリズム」が注目されています。マイクロツーリズムは、株式会社星野リゾートの代表 星野佳路氏が提唱したもので、自宅から1時間圏内の地元や近隣への短距離観光のことです。
マイクロツーリズムと同時に注目されているのが「グリーンツーリズム」です。グリーンツーリズムは、農村や漁村で自然や文化を楽しむ、モノ消費ではなくコト消費の旅行スタイルのことを指します。3密を避けて旅行したいという人が増加している背景から、グリーンツーリズムが注目されています。多くの国内旅行客は、マイクロツーリズムとグリーンツーリズムのどちらの要素も取り入れています。
2.ホテルがゼロエミッションに取り組む意義
ホテルに取り入れることで大きなビジネスチャンスになり得る、ゼロエミッション。ゼロエミッションとは、1994年に国連大学が提唱した考え方で、廃棄物を一切出さない資源循環型システムのことを指します。ゼロエミッションに取り組むことで、どのようなメリットがあるのか具体的に解説していきます。
2-1.コスト削減
ゼロエミッションに取り組むことで、廃棄物を減らすというアプローチから、そもそも廃棄物がでない仕組みを構築しようというアプローチに変わります。廃棄物が出ない仕組みを作るためには、どのような資源を使って、何を作るのか、など根本から全てを見直す必要があります。
例えば「ホテル内で菜園を始める」というアイデアを考えてみると、ホテルのレストランで出た生ごみをたい肥化し、ホテル内で使う食材の肥料にすれば食材にかかる費用を大幅に削減できます。また、耐久性のある備品に代えることで壊れやすい備品を買い替える費用も削減できます。
仮にゼロエミッションを進めていく上で、初期段階で調査費用や仕組みを構築するのに多額の費用が必要になったとしても、長期的に見れば廃棄物を減らすことができ、大きなコスト削減に繋がります。
2-2.新規顧客の獲得
新規顧客を獲得するためには、広告などを用いて宣伝する必要があります。一方でゼロエミッションに取り組むことは、新たなブランディングとして、地球環境に配慮していることを社会に対してアピールできることでもあります。
世界的にみれば注目を集めているゼロエミッションですが、日本ではまだまだ浸透していないのが現状です。しかし、ヴィーガンやオーガニックといった言葉は少しずつ理解され始めています。日本にゼロエミッションが浸透するきっかけの先行事例を作ることができれば、多くのメディアから注目されることになります。それが結果として、多くの人に認知され、新規顧客の獲得に繋がるでしょう。
2-3.周辺地域住民との関係性構築
地元で採れた野菜をホテルのレストランで提供する。このような地産地消を取り入れることで、地球環境に配慮できるだけではなく、地域活性化にも貢献することができます。
また、廃棄物をリサイクルするなど、廃棄物を出さない取り組みをすることで、公害を防ぐことができ、周辺地域住民から評価されることになるでしょう。ゼロエミッションに取り組むことで、周辺地域住民との関係性を自然な形で構築することができます。
3.ホテルのゼロエミッションに挑戦する世界の事例
3章では、ホテルがゼロエミッションに取り組む意義を踏まえ、ゼロエミッションに取り組む上で知っておくべき世界の事例についてご紹介していきます。
3-1.ホテルの廃棄物を誰かの価値に変える
ウィスティンホテルが、Bコーポレーションを取得したClean the world社とカナダのDivergent Energy社と連携し、使い終わったリネンを子供用のパジャマに織り直すという取り組みです。織り直したパジャマは、恵まれない子供たちにプレゼントするという、リサイクルと国際貢献ができる一石二鳥のモデルとなっています。
3-2.「建造物の廃棄」もゼロに
スペインの大手ホテルグループ「パラドール・デ・トゥーリスモ・デ・エスパーニャ」は、歴史的建造物を無駄にせず、ホテルにリノベするという、「建造物の廃棄」をゼロにする様々な取り組みを行なっています。
さらに、「使い捨てプラスチックとの戦い」と称した取り組みも実施しており、滞在客ごとに設置していたミニボトルを客室備え付けの大容量ボトルに置き換えたり、使い捨てられた歯ブラシを含むアメニティ・グッズを環境に配慮した素材に切り替えたりしています。
3-3.地元住民の課題の解決策になる
アースバックでできたMana Earthly Paradiseは、施設の建築から宿泊客が使う水回りまで、全てのプロセスで現地の社会問題を増長させることなく快適に滞在できるモデルを追求したホテルです。訪れた観光客によって、地域が汚染されることを防ぐアイデアが数多く取り入れられています。周辺地域住民との関係性を構築する上で、必要なことはMana Earthly Paradiseから学べるでしょう。
3-4.ヴィーガンという体験を提供
Hilton London Banksideに、世界初の”ヴィーガンなスイートルーム”が作られました。部屋のカードキーやリネン、床、文房具、掃除用具まで、徹底的に植物ベースの素材でできたものを取り入れています。
3-5.消費の場から生産の場へ
ノルウェーの建設会社「Snøhetta(スノヘッタ)」が、年間のエネルギー消費量よりも生産量が上回ることをコンセプトに掲げたホテル「Svart」を建設しました。1年をとおしての太陽の動きや日射量などを計算して、太陽光によるエネルギーを1年中最大限利用できるようなホテルのデザインになっています。
4.アイデアを実現するポイント
4章では、ここまでご紹介してきたホテルの現状やコロナ渦で変わりつつある観光スタイル、ホテルのゼロエミッションに役立つ世界の事例を踏まえて、アイデアを実現するポイントについてご紹介していきます。
4-1.ゼロエミッションを目標に掲げる
コロナ渦で厳しくなっている現状を変えるためには、まずはゼロエミッションを目標に掲げることが大事になります。ゼロエミッションを目標に掲げることで、廃棄物を減らすアプローチではなく、そもそも廃棄物が出ない仕組みについて考え、取り入れるきっかけとなります。それが結果として、環境に配慮しているホテルであることをアピールでき、新規顧客の獲得に繋がります。また、無駄なコストの削減にもなります。ゼロエミッションに取り組むことは、今後企業の競争力を高める上で必須になっていきそうです。
4-2.ホテルからプラスチック製のモノをなくす
ゼロミッションに取り組む上で、始めに抑えておくべきポイントはホテルからプラスチック製のモノをなくすことです。例えば、上記でご紹介したスペインの大手ホテルグループ「パラドール・デ・トゥーリスも・デ・エスパーニャ」が行なっている、使い捨て歯ブラシを環境に配慮した素材のものにすることやまた、客室ごとにシャンプーボトルなどを設置している場合、大容量のものにして詰め替えタイプにすることが挙げられます。
いきなり廃棄量を減らすことは難しくても、廃棄するものを環境に配慮したものに替えることはできるかと思います。まずは現実的に実現可能なアイデアから取り入れてみてはいかがでしょうか。
4-3.廃棄物をアップサイクルする
廃棄物を減らすのではなく、そもそも出ないようにするためにはアップサイクル(リサイクルによって価値づけし、元の商品よりも価値を高めること)という観点が大事になります。上記でご紹介したウィストンホテルが行なっている「使い終わったリネンを子供用のパジャマに織り直す」など、ホテルで使用しているモノをリサイクルし、新たな価値を生み出すことを検討してみてはいかがでしょうか。
自社の強みを活かしたゼロウェイストを実現するには?
いかがでしたでしょうか。ホテル業界の現状を変えるために、ゼロエミッションの観点は重要になりそうです。様々な先行事例がある中で、自社ならではの強みや特徴を活かしたゼロエミッションを取り入れた企業づくりの方法を考えてみてはいかがでしょうか。
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