資源を循環させる「サーキュラーエコノミー」を実践するには?

資源を循環させる「サーキュラーエコノミー」を実践するには?

大量生産・大量消費社会に限界を迎えつつある今、「サーキュラーエコノミー」が注目されています。既存のビジネスモデルと異なるため、一見難しそうに思えますが、どのように実践すれば良いのでしょうか。海外での事例を中心にご紹介します。

目次

1.サーキュラーエコノミーとは?

サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは、従来は「廃棄」されていた製品や原材料などを新たな「資源」と捉え、廃棄物を出すことなく資源を循環させる経済の仕組みのことを指します。

サーキュラーエコノミーの実現には、メーカー・小売・回収・リサイクル企業など幅広い業種の連携が必要となるほか、製品回収・リサイクルにおいては消費者の協力も必要となり、業界や立場を超えたあらゆる人々の協働が必要不可欠となります。サーキュラーエコノミーの推進を通じて様々な異業種・異分野連携が生まれ、地域のつながりの再構築や、オープンイノベーションにつながることも期待されています。

サーキュラーエコノミー各国の変遷
 2015年12月:EU、サーキュラーエコノミーパッケージ採択
 2016年9月:オランダ、「2050年までにサーキュラーエコノミーの100%実現」を発表
 2017年6月:ロンドン、「London’s Circular Economy road map」を公表
 2018年6月:日本、「第四次循環型社会形成推進基本計画」が閣議決定
 2019年11月:スコットランド、「Circular Economy Bill」を提出
 2019年12月:EU、欧州グリーンディール政策公表(サーキュラーエコノミーを柱の一つに据える)

2.サーキュラーエコノミーの概念図

オランダ政府は2050年までに100%サーキュラーエコノミーを実現するという目標を掲げており、以下の図を用いてサーキュラーエコノミーの概念を説明しています。

From Linear To Circular Economy
オランダ政府 From a linear to a circular economyより引用

リユース・エコノミーは、廃棄物の削減(リデュース)、再利用(リユース)、再資源化(リサイクル)など、廃棄物を有効活用することで環境への負荷を減らすことを目的としています。しかし、「廃棄物を排出する」ことが前提となっており、リニア・エコノミーの延長線上のモデルにすぎません。サーキュラーエコノミーは「廃棄物と汚染を発生させない」ことを前提としていることが、リユース・エコノミーとの大きな違いです。

3.なぜサーキュラーエコノミーが必要なのか

私たちの生活は、大量生産・大量消費を前提とし、いつでも好きな物を入手できるという生活を送っています。地球の資源やエネルギーを使って製品を生産・販売し、使い終わったら廃棄する一方通行の「リニア・エコノミー(直線型経済)」の上に成り立つものです。しかし、地球の多くの資源を消費し、最終的には廃棄するというこのモデルは、世界的な人口増加や資源の枯渇といった問題を抱える現代において、限界寸前のモデルであるといえます。

1.6――この数字は、現在と同じ生活を世界中の人々が送った場合に必要な地球の数です。地球が限界を迎えつつある今、地球1個分の環境容量(プラネタリーバウンダリー)の範囲内で環境負荷と経済活動を分離(デカップリング)させる持続可能な経済システムとして注目されているのが、サーキュラーエコノミーなのです。

4.サーキュラーエコノミー3つの原則と5つのビジネスモデル

国際的なサーキュラーエコノミー推進機関として有名なエレン・マッカーサー財団が提唱した「サーキュラーエコノミーの3原則」を見てみましょう。

(1)廃棄物と汚染を生み出さないデザイン(設計)を行う(Design out waste and pollution)
(2)製品と原料を使い続ける(Keep products and materials in use)
(3)自然システムを再生する(Regenerate natural systems)

この3原則を実現するための循環の仕方を図式化したものが「バタフライ・ダイアグラム」です。

バタフライダイアグラム
バタフライ・ダイアグラム

バタフライ・ダイアグラムでは左右に2つの循環が広がっています。右の「技術的サイクル」は石油や石炭、金属、鉱物などの「枯渇資源」を循環させる場合、左の「生物的サイクル」は動植物、魚などの「再生可能資源」を循環させる場合を表しています。「技術的サイクル」・「生物的サイクル」は図の中央に近い円ほど、環境負荷が抑えられます。資源の性質により循環の仕方が異なるため、枯渇資源と再生可能資源に分け、それぞれで循環を進めていく必要があります。

戦略コンサルティングファームのアクセンチュア社は、サーキュラーエコノミーによって以下の5つのビジネスモデルが生まれると予測しています。

(1)循環型供給

循環型の仕組みを作ることができる原料や素材を開発し、そのまま供給したり、加工品にしたりして供給するビジネス。

(2)シェアリング・プラットフォーム

(1)によって作られた製品をシェアリングするビジネス。

(3)サービスとしての製品

(1)によって作られた製品を単に販売せず、サービスとして利用料金を支払うビジネス。たとえば、照明器具メーカー・フィリップス社が法人顧客向けに展開する「サービスとしての証明(Lighting as a service)」が挙げられる。

(4)製品寿命の延長

修理やアップグレード、再販売によって使用可能な製品を活用するビジネス。

(5)資源回収とリサイクル

廃棄予定の設備や製品の再利用による生産・廃棄コストの削減

ここで注意したいのは、「サーキュラーエコノミーの3原則」に則った上でビジネスモデルを考えること。たとえば、シェアリングビジネスを展開する企業が(2)のビジネスモデルに該当することを理由に「自社はサーキュラーエコノミーに取り組んでいる」と考えるのは誤りです。シェアされる製品自体がサーキュラーエコノミーの3原則に則って作られていなければなりません。

また、(2)および(3)に関して、製品の所有権はメーカーにあることもポイントです。リニア・エコノミーでは、製品を購入した後の所有権は消費者にあり、製品を使い捨てることを前提にしていました。サーキュラーエコノミーでは製品の所有権がメーカーにあることで、製品を廃棄することなく、最大限に利用可能な範囲で循環させることが可能になります。

5.サーキュラーエコノミーの市場規模

アクセンチュア社の試算によれば、サーキュラーエコノミーの市場規模は2030年までに4.5兆米ドルに成長すると予測されています。欧州ではサーキュラーエコノミーを新たなビジネスチャンスと捉え、徐々にサーキュラーエコノミー型の新たなビジネスモデルが拡大しつつあり、今後ますます拡大していくと考えられています。

6.サーキュラーエコノミーを実践する先進事例

本章では、サーキュラーエコノミーを実践する事例についてご紹介します。

6-1.容器の所有権をメーカーが取り戻す「Loop」

米テラサイクル社が立ち上げた、世界初となる循環型ショッピングプラットフォーム「Loop」。各メーカーが使い捨て容器などを繰り返し使える素材に変え、Loopで販売します。Loopで注文すると商品が自宅に届き、商品使用後はテラサイクル社が購入者の自宅から容器だけを回収し、洗浄、補充した上でリユースをするしくみ。使い捨て容器を廃止する分、長期的に見ればコスト削減が期待できます。

6-2.さとうきびストローがもたらす循環で街づくり

株式会社4Natureは、さとうきびストローの導入店舗に回収用のガラス瓶を無償で提供しています。使用済みのさとうきびストローを集めてもらい、ストローが溜まったタイミングで店舗が連絡すると、4Natureに登録しているボランティアが回収しにいくというシステム。回収したストローは「青山ファーマーズマーケット」を介して家畜農家に持っていき、コンポストに利用してもらいます。4Natureは飲食店で使われたストローが農家の手に渡り、野菜を育てるためのコンポストに活用され、育った野菜をシェフが買いに来て、お店で提供されるという理想の循環型システムを目指しています。

6-3.サーキュラーエコノミーを実現する、環境に優しいエシカルスマホ「Fairphone3」

オランダのスタートアップ企業Fairphone社は、紛争鉱物を使用しないエシカルなスマートフォン「Fairphone3」を販売。Fairphone3に使われる原料がどのように調達されたかを公式サイトですべて公開しているほか、Fairphone3の製造地・中国での労働環境の向上や透明化、教育研修にも取り組んでいます。また、Fairphone3が壊れた際に修理しやすいよう、接着剤ではなくねじを使って部品を接続しているのも特徴です。

6-4.建築材からインテリアまで建物全体で循環させる

オランダの三大銀行のうちの一つ、ABN AMROは複合施設「CIRCL(サークル)」を建設しました。ABN AMROの第二のオフィスとして活用するだけでなく、市民に気軽に訪れてもらえるよう、イベントホールやカフェテリア、バー、ショップ、アートの展示なども併設。特徴的なのは、いつかCIRCLを解体する場合に備え、環境負荷をできるだけ少なくすることを念頭に置いて設計されていること。そのため、建物に使われている木材や屋上パネルのアルミニウム、オフィスのインテリアなどは使用済みのものか、今後再利用できるものばかり。化学接着剤は使用せず、取り外し可能な金具のみで建設されました。そのほかにも、CIRCLのいたるところにサーキュラーエコノミーのアイディアがちりばめられています。

 

6-5.廃ペットボトルを人気ツアーと家具の「資源」に

オランダのスタートアップ企業「Plastic Whale」が提供するのは、運河に捨てられているごみが海洋に流出する前にボートに乗ってみんなで釣り上げる(回収する)という有料の体験型ツアー。観光客がまちを綺麗にすることによりまちのつくり手側に回ることができるのがユニークなポイントです。またPlastic Whaleでは、プラスチックをゴミではなく「資源」と捉え、年間4万本以上の回収したペットボトルをアップサイクルして新たな家具を作っています。

7.サーキュラーエコノミーを実現するポイント

7-1.新たなイノベーションは「共創」が生み出す

テラサイクル社の事例では、テラサイクル社と使い捨て容器を用いて製品を製造・販売していたメーカーが協力し合うことで新たなプラットフォームであるLoopが実現しました。サーキュラーエコノミーを実現させるにあたって、同じパーパスに向かって他の業界との垣根を超える「共創」がポイントになります。

7-2.構想当初から「廃棄」を見据える

サーキュラーエコノミーの3原則にもあるように、サーキュラーエコノミーでは「廃棄物を出さない」ことを目指しています。ビジネスモデルの構想段階から「どうすれば廃棄物をなるべく出さずに、循環のサイクルに組み込めるか」を意識しながらビジネスモデルを設計することが重要です。

7-3.消費者が生産者になる「体験」を提供

消費者が単にプラスチックを消費する側にいるだけでなく、Plastic Whaleの事例のように捨てられたプラスチックごみを回収し、新たな製品の原料にする。消費者を生産者にすることで、海洋プラスチック問題により関心を持つようになったり、実際にプラスチックごみを削減するための行動をしやすくなったりと、消費者一人ひとりの意識が変わるきっかけを生み出しています。

7.自社事業にサーキュラーエコノミーを取り入れるには?

本サイトを運営するIDEAS FOR GOOD Business Design Labでは、「Make Sustainability Desirable.(サステナビリティに、ワクワクを。)」をコンセプトに、会員の方向けに(登録無料)SDGs・サステナビリティ・CSV・サーキュラーエコノミー関連プロジェクトの企画立案・立上・運営までをサポートしております。IDEAS FOR GOODならではの豊富な国内外の事例を活用し、御社の強みを生かした事業づくりについて考えてみませんか?IDEAS FOR GOODチームとの共創プロジェクトも可能ですので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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