ゲーミフィケーションで社会課題解決。人々の行動変容を促すアイデア・事例まとめ
日本でも話題を呼ぶ「ゲーミフィケーション」。ゲームの要素をサービスなどに取り入れて、ターゲットの行動変容を促す手法です。今回は、海外のゲーミフィケーション活用事例を中心にご紹介します。
目次
1. ゲーミフィケーションとは
ゲーミフィケーションとは、課題解決や人々の行動変容に向けて、さまざまな分野・領域でゲームデザインの技術やメカニズムを利用することを指します。人の感情や習性を活用し、ゲームをクリアすると報酬が得られる、承認欲求が満たされるなどして「楽しい」という感情を芽生えさせたり、快感や達成感を味わわせたりすることで、「もっと取り組みたい」という意欲を湧かせるものです。
ゲーミフィケーションを大いに活かせるのは、「やったほうがいいのは分かっているけれど、ハードルが高い」といったような取り組みです。たとえば、カフェやレストランで「なるべくプラスチック製のストローをもらわないようにしましょう」という呼びかけがあったとします。ストローをもらわないことが環境に良いことは分かっているものの、「ストローは無料でもらえるし、ストローがあった方が飲みやすいな」「わざわざ店員さんに『要らないです』というのが面倒くさいな」といった感情が邪魔をして結局ストローをもらってしまう。そんな経験はないでしょうか。
ゲーミフィケーションのアイデアにあてはめると、カフェでストローをもらうことを断ると、そのカフェの会員制アプリでポイントが貯まったり、ポイントが集まればそのポイント数に応じて特典がもらえたりするよう仕組みを作ることを指します。
単にストローをもらうことを断るだけでは、目に見える変化がありません。特に環境問題は、ストローを1本もらわなかったからといってすぐさま解決できる問題ではないため、「自分ひとりが取り組んだところで何も変わらないのではないか」といった感情に陥りがちです。そこで、ゲーミフィケーションを用いて、ゲーム感覚で楽しむことでアクションを促したり、モチベーションを維持したりできます。
2. ゲーミフィケーションの活用事例
本章では、ゲーミフィケーションを活用して社会課題の解決に取り組む事例をご紹介します。
2-1. 「毎日の行動をサステナブルに変える」スターバックスの会員向けゲーム
米国のスターバックスが、消費者の行動をサステナブルに変容させるため、期間限定で会員向けのゲーム「Starbucks Earth Month Game」を公開しました。スターバックスのポイント会員がプレイできるのは、4つのミニゲーム。その中の1つ「Choice & Chance」は、同店舗で使い捨てプラスチックストローを断る、食品ロスに関する記事を読むなど特定のアクションを行うことで、報酬を得ることができます。報酬は250万以上用意され、植物性ミルク1年分や電動自転車「Rad Power Bikes」の獲得券、ドリンクやフード料金の50%引などがあります。
【参照記事】「毎日の行動をサステナブルに変える」スターバックスのゲーミフィケーション
2-2. 自分の街の「危険な道路」を見つけるミッション
ノルウェーの首都オスロでは、安全な道路づくりに向けて、子供たちと協力した新しいプロジェクトが始まりました。学校に通う子供たちが「スパイ」となり、「Traffic Agent」というアプリを用いて、街の中でも交通量が多い場所、車がスピードを出している場所、視界が悪い場所など、歩行者にとって危険なスポットを探し出し、アプリ上で報告するミッションをこなします。都市環境庁らは、アプリを通じて収集されたGPSデータと子供たちの口コミ情報に基づいて改善すべき道路の場所を特定し、道路補修や横断歩道、信号の設置など優先順位の高い場所から順に道路・インフラの整備を進めていくことで、効率のいいインフラ整備を実現しています。
【参照記事】通学路にはスパイがいっぱい。安全な道路をみんなで作るアプリ
2-3. 歯磨きストレスを楽しい時間に変えるスマート歯ブラシ
音楽やゲームを通じて、子供が嫌いな歯磨きの時間を楽しいものに変えるスマート歯ブラシ「Benjamin Brush」。本体には防水スピーカーが搭載されており、歯磨きをすることでそこから好きな音楽が流れるようになっています。また、家族全員の歯ブラシ状況を記録し、それにより家族同士で歯を磨いた回数と時間の長さを競い合う「歯磨きゲーム」もできます。
しっかりとした歯磨きの習慣を身につけることは、子どもにとってとても大切なことですが、歯磨きが面倒くさいという子供たちの気持ちを最新テクノロジーがサポートし、ゲーミフィケーションで解決するという、非常にユニークなアイデアです。
2-4. ダイエットするたび空腹の子供を救うウェアラブルバンド
子どもたちが手に装着して運動をすることで、連携しているアプリを通じて自分の運動量を測定することができるウェアラブルバンド「Kid Power Bands」。ただ運動量を測定するだけでなく、アプリ上のミッションをこなすとポイントを貯められるようになっており、貯めたポイントの分だけ、栄養価の高い食料が途上国の栄養失調の子どもたちに届けられます。自分が楽しみながら体を動かせば動かすほど、飢餓に苦しむ子どもたちの命を救えるという仕組みです。
2-5. スマホを放置すればするほど「ご褒美」がもらえるアプリ
学生のスマホ依存を改善し、勉強に集中できるようにするためのアプリ「Hold」。このアプリを立ち上げ、時間を設定すると、その間は他のスマホ機能が使えなくなる仕組みになっています。時間が延びるにつれポイントが貯まり、コーヒーからお菓子、映画のチケット、はたまた学校の奨学金まで、さまざまな「ご褒美」と交換でき、放置するほど得するアプリです。
スマホを使いすぎると勉強に集中できないほか、視力の低下、睡眠の質の低下、頭痛などさまざまな不調を招くおそれがありますが、それらを分かっていてもついスマホを見てしまいがち。「スマホを見ないように」と我慢を強いるのではなく、「ご褒美がほしいからスマホを見ないようにしよう」とユーザーが進んでスマホを見なくなるようにゲーミフィケーションを活用しています。
2-6. エコな交通手段を選択すると報酬がもらえるフィンランドのプロジェクト
ヨーロッパ随一の環境先進都市であるフィンランド・ラフティの政策で、「CitiCAP」というアプリが開発されました。アプリを登録した市民の移動手段、距離、所要時間などからCO2排出量を自動で算出し、シェアカーや自転車といった比較的環境に優しい交通手段でCO2排出量を抑えると、バスの割引券や自転車修理の割引クーポンなどといったさまざまな報酬がアプリを通して得られる仕組みになっています。
3. ゲーミフィケーションを設計する際のポイント
ゲーミフィケーションは、ただポイント集めやレベルアップの要素を取り入れればいいわけではありません。まず、ターゲットとしたい人はどんな人かを想定した上で、そのターゲットがどんな行動をとるようになってほしいのか、「目的」を明確にします。
次に、ターゲットが喜ぶ報酬は何かを考えます。この時、この報酬は組織の目的に沿ったものでなければ一貫性がありません。例えば環境問題に関するゲーミフィケーションで環境負荷をかける商品を報酬にしないように注意する必要があります。
また、金銭的なメリットが得られる報酬だけではありません。安全な道路づくりに向けたノルウェーの取り組みでは、子供たちは「スパイ」になりきり、身近にある危険な道路をアプリ上で報告することでミッションをクリアし、達成感や満足感が得られます。このように、ターゲットが喜ぶインセンティブを考え、報酬を設計することが求められます。
最後に、アクションを促すだけでなく、行動した結果どれくらい達成できているのかをユーザーにとって分かりやすい形で達成状況を可視化することも重要なポイントです。例えばスマホアプリを活用し、行動結果をポイントとして貯める仕組みを作ることで自分のこれまでの努力が目に見え、報酬がもらえるまであとどれくらい頑張ればよいかが一目で分かるため、モチベーションの維持につながります。
このように、目的やターゲットを明確にすれば、ゲーミフィケーションをぐっと活用しやすくなるはず。サービスを通じた消費者の行動変容や社員の環境意識向上などにゲーミフィケーションを活用してみてはいかがでしょうか。
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