無意識に社会貢献?企業のブランディングにつなげる注目の「ナッジ」とは

無意識に社会貢献?企業のブランディングにつなげる注目の「ナッジ」とは

温室効果ガスの削減、環境に配慮した取り組みなど、様々な社会問題に対してのアプローチが求められている昨今において、1つの効果的なアプローチとして行動経済学で用いられる理論「ナッジ」を活用し、無意識に社会問題の解決に向けた行動を設計するという方法があります。今回は、企業のブランディングに活用できる「ナッジ」について、また「ナッジ」を活かした世界のユニークなアプローチ方法についてご紹介していきます。

目次

1. 「ナッジ」とは

ナッジとは、行動科学の知見から、人が望ましい行動をとれるようにアプローチすることを指します。ナッジは、罰則やインセンティブによって、人を動かすのではなく「自発的に行動するように環境をデザインする」という特徴があります。

ナッジが大きな注目を集めた要因としては、2017年にシカゴ大学のリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞したことが挙げられます。ナッジを活用することで、比較的コストをかけずに自発的な行動を促すことができるので、ビジネスシーンや医療現場、公共交通機関、また国の施策などに積極的に取り入れられるようになりました。

2020年5月に環境省と日本版ナッジ・ユニット (BEST) 事務局によって新型コロナ対策として市民の自発的な行動変容を促す方法の募集が始まり、ナッジが自治体・政府からも様々な問題の解決につながると期待されていることが伺えます。

前の人と距離を取ることを指示されずとも分かる表示
前の人と距離を取ることを指示されずとも分かる表示

2. ナッジはコーポレートコミュニケーションに役立つか?

昨今では、消費者ニーズの多様化により、商品による差別化が難しい状況となっています。そのような時代では、企業自体が社会や消費者から認知され、一定数の支持を得るための効果的なコーポレート・コミュニケーションが必須となってきます。

ナッジを活用することで、コストを最小限に抑えつつ、企業のブランディング活動を行うことができます。例えば、社員に持ち運びたくなるデザインのエコボトルの無料配布を行い、それに適したドリンクサーバーを社内に設置します。そうすると、自然とエコボトルを持ち歩く社員が多くなり、社外から環境に配慮している会社だと徐々に認知されていくでしょう。

企業のサステナブル・ブランドを確立するためには、社外に対して「伝える」のではなく、あくまでも「伝わる」というプロセスが大事になってきます。「伝わる」というプロセスで、ブランディングすることができれば、自然とファンがつき支持される会社へと成長していきます。ナッジを活用したコーポレートコミュニケーションは、今後企業が存続していく上で、なくてはならないものになってきそうです。

3. ナッジを活かした世界のユニークなアイデア5選

人々の心に訴える、ナッジを活用した世界のユニークなアイデアをご紹介していきます。

サステナブルに関心の強い株主を増やす

スコットランド発の大手ブルワリーBrewDogが、同社が販売しているビールの空き缶50個と自社の1株式を交換する「Cans for Equity(缶と引き換えに株)」というキャンペーンを行いました。リサイクル業者であるFirst Mile Recyclingと手を組み、このキャンペーンで回収したアルミ缶はリサイクルされます。

BrewDogの株を保有すると、2010年から運営を続けている株主のコミュニティー「Equity Punks」に加わることができ、どこに次のバーを開くべきかといった決断に関わることができる仕組みとなっています。サステナブルな取り組みやキャンペーンに共感してくれる人が株主になることは、企業が長期的な指針を持ってサステナブルな事業を行うことができるようになるというメリットがあります。ユニークでサステナブルな取り組みは、他の業界でも活用できるでしょう。

福利厚生で社員のサステナブル行動を促進する

ByCyclingは、従業員の健康を促進した企業向けのインセンティブ付与アプリです。このアプリを活用すると、企業は従業員の自動車走行距離をトラッキングし、その距離に応じた現金ボーナス、また有給休暇など自ら設定した報酬を与えることができる仕組みとなっています。

企業は社員の健康を促進できるというメリットがあり、従業員は健康になりながら報酬を得られるという、双方にメリットがある仕組みとなっています。ByCyclingの自転車による通勤とインセンティブを結びつける方法は、従業員のエンゲージメントを高めながら企業価値を向上させるための参考となります。

脱プラを消費者に浸透させる

カナダでは2021年までに段階的にビニール袋などの使い捨てプラスチックが禁止となっていますが、なかなかレジ袋の使用が減らないという課題がありました。そこで、バンクーバーのスーパーEast West Marketが店頭で販売するレジ袋を持ち歩きたくない、恥ずかしいデザインにすることで、レジ袋を使用しないことやエコバッグ持参を促す取り組みを始めました。
プラスチックの使用に関して羞恥心に訴えることで人々の習慣を改善しようというナッジはB To Cビジネスだけでなく、B To Bビジネスでも活かせそうです。

普段の生活を便利に。未来の地球も住みやすく

2020年3月から、ヨーロッパのルクセンブルクでは、世界で初めて全国的に電車、トラム、バスなどの公共交通機関の乗車賃を無料化しています。学生達は学校発の無料シャトルバスで通学することができるので、国民の利便性をそこなわずに様々なメリットが受けられる仕組みとなっています。この取り組みは、自家用車の保有によるCO2排出を抑えると同時に、交通渋滞を緩和する効果があります。また、切符を廃止することで切符の製造・回収にかかるコストを削減することにもつながっています。

観光の活性化のため、ウェブのシステムにナッジを活用

アフリカのケニアで「COULTRURE CAPTCHA」と名付けられたシステムが導入されました。このシステムは、ケニアの有名な地名や建築物などの観光名所を紹介する短い動画が流れ、そこで動画に映っている観光名所の名前を入力すると、ページにアクセスできるようになっています。このシステムの狙いは、ケニアの人々に自国の観光名所について知ってもらい、国内旅行を推進するとともに、観光客の人々の手助けをしてもらうことです。国民1人1人に自国の観光を盛り上げてもらうため、ナッジが活用されています。

4. アイデアを実現するポイント

ここまでご紹介してきたナッジとコーポレートコミュニケーションの重要性や事例を踏まえて、アイデアを実現するポイントについてご紹介していきます。

良いナッジとスラッジの違いを理解する

企業のブランディングにつなげる「ナッジ活用」を行うためには、良いナッジと「スラッジ」の違いを理解する必要があります。スラッジとは、選択者が望まない選択を自発的にさせてしまうことです。例えば、宣伝メールの解除を難しくさせることでユーザーがメールの解除を億劫になるような方法はスラッジといえます。

ナッジを活用する際には、スラッジにならないように、選択者にとっての良い選択について、ナッジを活用する前段階で設定しておかなければいけません。ナッジという手段を重視するあまり、達成したい目標がおざなりになっていると、スラッジになってしまう可能性があります。そのため、ナッジを活用する際には、良いナッジとスラッジの違いを理解した上で、選択者に提供したい経験(エクスペリエンス)を検討することが必須だといえるでしょう。

サステナビリティに関心のある、ステークホルダーを増やす

企業がサステナブル・ブランドとして認知されるためには、長期的なサステナブルな取り組みが必要になってきます。上記の例でご紹介した、スコットランド発の大手ブルワリーBrewDogのように、何らかの形でサステナビリティに関心のある株主を増やすことができれば、長期的にサステナブルな取り組みを行うことが可能となるでしょう。

地球温暖化や気候変動などの問題が深刻化している背景もあり、企業の社会的責任がより一層求められることが予測されています。株主に留まらず、自社のビジョンに共感するステークホルダーにアプローチする取り組みを考えてみてはいかがでしょうか。

社員のサステナブル行動を促進する、ナッジを活用する

ナッジを活かした世界のユニークなアプローチの事例でご紹介した、ByCyclingの事例(社員の健康とインセンティブをつなげて、サステナブル活動を促進させている)のように、社員に無意識的に、サステナブル行動を促すことができれば、サステナブル企業として認知されることにつながります。

例えば、社内に食堂やカフェを併設している場合、マイボトルやマイタンブラーを持ってきた人には「ドリンク一杯を無料提供する」などのナッジ活用が考えられるでしょう。ナッジを上手く活用することで、コストを最小限に抑えつつ、環境に配慮した本質的な取り組みを行うことが可能となります。

いかがでしたでしょうか。企業の社会的責任が求められている昨今において、企業のブランディングにつなげる「ナッジ」活用の観点は重要になりそうです。様々な先行事例がある中で、自社ならではの強みや特徴を活かしたナッジ活用を行い、企業のサステナブル・ブランドの確立方法を考えてみてはいかがでしょうか。

5. ナッジの事例をもっと調べるには?

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【参考記事】ナッジ(行動経済学)とは・意味
【参照サイト】新型コロナウイルス感染症対策における市民の自発的な行動変容を促す取組(ナッジ等)の募集について
【参照サイト】ナッジ活用のためのCOOL CHOICE 普及啓発の事例のデザイン分析
【参照サイト】2019年8月22日 日経産業新聞 悪いナッジと良いナッジ

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