フードロスをコミュニケーションで解決。クリエイティブな実践事例とは?
深刻化するフードロスの問題解決には、企業努力のみならず一般市民も巻き込んだ全員参加型の体制が必要不可欠です。問題解決に向けて、その先頭を走る飲食業界はどのようにして人々の参加を促すことができるでしょうか。今回は、国内外のユニークな5つの事例とともに、クリエイティブな課題解決策を見てみましょう。
目次
1.フードロス問題の実情とは?
1-1.フードロスとは
フードロスとは、本来食べられるにも関わらず売れ残りや食べ残しなどの理由から捨てられてしまう食品のことを言います。
政府広報オンラインによると、日本全国の食品ロスは2019年には年間で643万トンにのぼり、これは国民一人あたり年間で50キロ以上の食品を廃棄しているのと同等の数量です。さらに地球全体で見てみると、世界で生産される食料の3分の1の量にあたる約13億トンが毎年廃棄されているのです。
1-2.飲食業界で起こるフードロス
サプライチェーンの長い飲食業界では、フードロスが起こりやすい場面が多くあります。その代表例が、規格外品の廃棄です。畑で採れる農作物のうちサイズが基準に満たないものや十分に成育していないもの、製品の製造過程で出る欠損品や不合格品、さらに店頭や飲食店で売れ残った在庫品や賞味期限切れ品など、食品製造の各過程でフードロスが発生しています。特殊な例では、食品そのものには問題がないにも関わらずパッケージの印字ミスによって規格外品とみなされ、回収・廃棄されてしまうこともあります。
近年では、それらの廃棄されてしまう食品のうち基準には満たないがまだ食べられるものを集めて「わけあり品」や「B級品」などとして販売したり、フードバンクに寄付したり、あるいは子ども食堂や炊き出しを開いて提供したり、様々なフードロス削減のための工夫がなされています。しかしながら、本来は食べられる状態であったにも関わらず賞味期限切れや製品の劣化などの事情から食べられない状態となり、そしてやむを得ず大量廃棄されてしまうケースも多くあるのが実情です。
1-3.家庭で起こるフードロス
年間643万トンと言われるフードロスですが、国内で発生するフードロスの約半分は、実は家庭から出る食品廃棄であると言われています。さらに、環境省によれば、4人家族の1世帯で毎年約6万円相当の食品を捨てているという見積もりもあります。
家庭で発生するフードロスの事例には、例えば調理後の食べ残し品や、手付かずのまま賞味期限を迎えてしまう食品、さらに調理の際に過剰に除去されてしまう可食部などが挙げられます。また食品の間違った保管方法によって、食べられるはずのものが劣化・腐敗し、食べられずに破棄されてしまうこともあるのです。
そこで環境省では「7日でチャレンジ!食品ロスダイアリー」と題して、日々の生活で発生するフードロスの量を日記形式で記録し可視化できるツールを提供しています。またその集計結果から、フードロスによる環境への影響や家庭への経済損失を換算できるなど、家庭でのフードロス削減に子どもから大人まで取り組むことができるようサポートしています。
1-4.フードロス削減に向けて
このように、フードロスの問題は飲食業界のみならず一般家庭も関与する、深刻な社会問題の一つです。そのため莫大な食品廃棄の課題解決には、フードロスに対してあまり関心のない人や深い知識を持たない人も含め、立場に関わらず全員が協力・協働し合って廃棄量を減らす努力をしなくてはなりません。
では、より多くの人を動かしフードロスに対して問題意識を持ってもらうために、飲食業界ではどのようなアプローチができるでしょうか。本記事では、「コミュニケーション」を軸にフードロス削減に取り組むクリエイティブなアイデアをご紹介します。
2.コミュニケーションで課題解決。フードロス削減の事例5選
2-1.マルシェの売れ残り食材を活用し、地域ぐるみで取り組む
東京都中央区浜町で開催される「浜町マルシェ」では、余剰食品をポジティブに捉え、別のものとして生かす「福ごはんプロジェクト」に取り組んでいます。「残りものには福がある」ということわざの通り、売れ残りの食材を「福」として再販売する「福ごはん販売」や、売れ残り品で特別メニューを提供する「福ごはん料理」、そして老舗の銭湯と売れ残りのフルーツを浮かべた果実風呂「福ごはんの湯」を提供し、フードロスの削減に貢献しています。
2-2.循環型農業が「見える」ことで学べるレストラン
ベトナムで日本人が経営するレストラン「Pizza 4P’s」では「アクアポニックス」と呼ばれる、水産養殖と水耕栽培を掛け合わせた循環型有機農業に取り組んでいます。キッチンから出る食品廃棄物をミミズのコンポストで堆肥化し、その堆肥を利用して店内で野菜を育てます。さらに、レストランの利用者もレストランに併設する農場で苗の植え付けに参加できるサービスを提供しており、人々がサステナビリティを学ぶ機会も作り出しています。
2-3.アイデア勝負!アリモノを活用したクッキングバトル
クックパッド社を含む、CCB実行委員会が主催する「クリエイティブクッキングバトル」。審査基準には、従来の料理バトルで重視される「美味しさ」と「料理の見た目」に、「生ゴミの廃棄を少なくするための工夫のアイデア」と「生ゴミの量」を加えています。料理のプロではない一般家庭でも、フードロス削減に貢献できることを自然と意識し学ぶ機会を提供しています。
2-4.食材は持参?!五つ星シェフのアレンジを楽しむレストラン
大手マヨネーズ会社ヘルマンズがブラジルで手掛けるのは、フードロス解消を訴える「食材を持たない」期間限定のレストラン。食材はレストランの利用者が家の冷蔵庫から持参した余り物。それをシェフがオリジナルにアレンジし、再びお客さんに提供します。食事の後にはそのレシピを配布し、利用者はフードロスを解決する工夫を学ぶことができます。
2-5.フードバンクで子どもの貧困もフードロスも削減
福岡県の生協「エフコープ」は、こども食堂に特化したフードバンク「ふくおか筑紫フードバンク」に対し幅広い後方協力を行っています。生協だからこそ提供できる情報やネットワークを駆使して、子ども食堂を始めたい地域住民に向けた運営知識の提供や衛生管理の研修、フードバンクの活動に関心のある取引先企業との仲介など、活動支援を通じたフードロスの削減に寄与しています。
3.クリエイティブに取り組むためのヒント
フードロスというと、レストランやコンビニエンスストアから出る食べ残しや売れ残りをイメージしがちですが、実は食品廃棄物の多くは一般家庭から出るフードロスであると言われています。フードロスという大きな社会問題の解決には、企業だけの力ではなく一般市民も一丸となってみんなで取り組んでいく体制が欠かせません。そこで、企業には市民への参加を働きかけ、共に課題解決に向かうきっかけと機会の提供が求められています。
3-1.アップサイクル・ダウンサイクルの視点を取り入れる
余り物や残り物で価値が下がってしまった食品でも、調理を加えたり、皮を剥いたり、砕いたり、パッケージを変えたり一手間加えることで、新たな価値を持つ製品に生まれ変わることがあります。それが、「浜町マルシェ」の「福ごはん料理」や「福ごはんの湯」のようなリサイクルの仕組みです。食品が元々持っている価値のまま提供するだけではなく、別の形にして価値観を変えるアップサイクル・ダウンサイクルの視点が問題解決策の一つになります。
3-2.フードロスを自然と意識できるきっかけを作る
フードロスはまさに「塵も積もれば山となる」ように、一人ひとりの食品廃棄量が少なくても、それを集めると莫大な量になってしまうところに問題があります。そこで、「クリエイティブクッキングバトル」に学ぶように、「楽しくクッキングをしていたら自然とフードロスの解決策が身についていた!」というような自然な気付きを提供すると、子どもから大人まで個人単位で問題意識を普及させることができます。
3-3.実際の解決策を提示する
問題意識を「自然と」持つような工夫を加えたうえで取り入れたいのが、人々の参加を促進するためのアイデアです。フードロスに対して問題意識を持ってもらった先に、その解決のために自分にもできることがあるということを知ってもらう必要があるからです。例えば、「Pizza 4P’s」が提供する苗の植え付け体験や「エフコープ」の子ども食堂の衛生管理研修は、市民が個々人でも取り組むことができる具体的な工夫を示し、実際の行動に結びつけるアイデアとして有効です。
4.フードロス削減を実践するためのBDLのワークショップとは?
いかがでしたか?本記事では、フードロスの問題解決に欠かせない企業と市民の協働のポイントをご紹介しました。それらのヒントを生かして、フードロス削減に向けた工夫に取り組んでみませんか?
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【参照サイト】政府広報オンライン
【参照サイト】環境省|食品ロスポータルサイト
【参照記事】環境省|食品ロスを減らすために、私たちにできること
【参照記事】アクアポニックスとは・意味
【参照記事】アップサイクルとは・意味
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