「食のサーキュラーエコノミー」を実践する方法とは?ヨーロッパの事例をご紹介

「食のサーキュラーエコノミー」を実践する方法とは?ヨーロッパの事例をご紹介

食品ロスや農業の持続可能性など、さまざまなイシューが関連する「食」。今回は、ヨーロッパで生まれたアイデアを厳選し、食品業界でサーキュラーエコノミーを実践するためのヒントをお伝えします。

目次

  1. リニア型の食がもたらした厳しい現実
  2. 食のサーキュラーエコノミーとは?
  3. 【ヨーロッパ編】食品業界のサーキュラーエコノミー事例4選
    1. 食堂で使える予約アプリが食品ロス削減に貢献
    2. 廃棄予定のジャガイモを建築資材に変える
    3. 住民が主体的に食品ロス問題へアプローチする
    4. リターナブル容器×デポジットでテイクアウトをサステナブルに
  4. ビジネスモデルのサーキュラー化のために参考にしたいポイントを整理
    1. サステナブルな、そしてリジェネラティブな農業
    2. コミュニティや仕組みで、食品ロスを根本的に解決する
    3. 食品に欠かせない「容器」を循環型に

1. リニア型の食がもたらした厳しい現実

大量生産・大量消費・大量廃棄というリニア型(直接型)の食料システムは、様々な問題を引き起こしています。世界の食品廃棄量は、年間で13億トン、日本では2,842万トンにもなり、深刻な社会問題となっています。本来は私たちの生活を豊かにするための食料ですが、廃棄することによって、温室効果ガスの増加をもたらしています。都市部では、食料品や人々のし尿に含まれている栄養のうちのわずか2%しか有機資源として活用されておらず、その他は全て埋め立てや焼却処分されて、日本では食品廃棄物の処理(し尿処理を除く)に約2兆円の費用がかかっているのです。

また、リニア型の食料システムにより人々が環境負荷の大きい農業を加速させた結果、世界全体で3,900万ha(ジンバブエ一国分ほどの面積)の土壌が劣化し続け、農業が行えない状態になってしまっています。

加えて、リニア型の食料システムは、微量栄養素の欠乏や肥満など、人々の健康を損ねるという社会的なコストにも繋がっています。このまま従来型の食料システムから方向転換をしなければ、食料生産が引き起こす大気汚染、水質汚染、殺虫剤や化学肥料、家畜への抗生物質の過剰投与による健康被害が増加することが懸念されます。

2. 食のサーキュラーエコノミーとは?

食のサーキュラーエコノミーとは、廃棄予定の食品、廃棄されている食品を他のモノに活用する仕組みのことを指します。サーキュラーエコノミーは、EUが発表しているカーボンニュートラルを目指すための「Green Deal」の中でも重要な柱として捉えられていますが、中でも食や農業のサーキュラーエコノミーにも注目が集まっています。ロンドン市のサーキュラーエコノミー政策「Towards a circular economy」では、5つの注力分野に「食品」を掲げており、日本政府の「第四次循環型社会形成推進基本計画の概要」においても、2025年までに循環型社会ビジネス全体の市場規模を2000年の約2倍にすることを目指しています。日本政府の基本計画においては、2030年度の家庭系食品ロス量を半減(2000年比)させることを掲げ、様々な取り組みを行っています。

食のサーキュラーエコノミーを考えるうえでは、都市部が担っている役割について抑えておく必要があります。エレン・マッカーサー財団によると、2050年までに食糧の80%が都市部で消費されると予測されています。「経済・文化・イノベーション」の中核地としての都市部のメリットをうまく活用することができれば、食料システムの根本から変えることができる可能性があります。食料システムを変え、ポジティブな波及効果が広がり、自然再生型(土壌・農場の健康維持だけではなく、改善も目指す形)・循環型のものに変えることができれば、2050年までに約300兆円の経済的価値と健全な環境をもたらすというのです。

3. 【食品業界】ヨーロッパのサーキュラーエコノミー事例4選

ここまでご紹介してきた食のサーキュラーエコノミーの現状・可能性を踏まえ、食品業界のサーキュラー化のために参考になるヨーロッパの事例をご紹介していきます。

3-1. 食堂で使える予約アプリが食品ロス削減に貢献


フランスのスタートアップが開発した「Meal Canteen」は、食堂を利用するユーザーがメニューを事前予約することで、食料廃棄抑制に貢献できる仕組みとなっています。ユーザー側にとっては、事前に予約しておくことで自分の料理を確保できるというメリットがあります。一方で、食堂側は、ユーザー側が登録した情報に基づき、必要な量のみを調理することができます。さらに、アプリからメニューに対するコメント(フィードバック)を送信することができ、メニューの改善を図り、食べ残しを減らすことにも繋がっています。

3-2. 廃棄予定のジャガイモを建築資材に変える


ロンドンに拠点を置くデザイナーのRowan Minkley、Robert Nicollと科学者Greg Cooperの3人が、廃棄予定のジャガイモから新建築素材Chip[s]Boardを作り出しました。Chip[s] Boardは、食品として規格基準に満たないジャガイモや、ジャガイモの皮から作られており、毒性のある合成樹脂や化学物質、ホルムアルデヒドなどを含んでいません。また、廃棄時に土に埋めたとしても、生分解性なので環境にネガティブな影響を及ぼすということはありません。ゴミとして捨てられるはずのジャガイモの皮が、毒性のない建築資材となり、資材としての役目を終えても地中で分解されて肥料になるという形で、サーキュラーエコノミーを実現しています。

3-3. 住民が主体的に食品ロス問題へアプローチする


「Taste before you waste(TBYW)」は、2012年に学生だったルアナ・カレット(Luana Carretto)氏が立ち上げた、様々なイベントを行っているイニシアチブです。具体的には、アムステルダムを拠点に、食料品店から出る廃棄食材を使ったディナーパーティーやフードサイクルマーケット、ワークショップなどを行っています。現在は、オランダのユトレヒト、ベルゲン、さらにはカナダのキングストン、ニュージーランドのオークランドにまで拡大しており、世界で食料廃棄を削減するためのムーブメントを起こしています。レシピや食品の保存方法などの情報交換や持続可能な食料システムを考えるための学びの場として機能しているだけではなく、人々の繋がりを強くするコミュニティーの場を提供することで、サーキュラーエコノミーへの継続的な取り組みを後押ししています。

3-4. リターナブル容器×デポジットでテイクアウトをサステナブルに


ロンドンのデザインスタジオPriestmanGoodeが開発した食品配送用の容器は、サステナブル素材を活用し、繰り返し使える仕組みをつくることでテイクアウトサービスのサステナブル化を実現しています。本体の素材にはカカオ豆の殻(チョコレート製造の副産物)から作られたバイオプラスチックを使用しているほか、ふたやテイクアウト用のバッグにまで天然由来の素材を活用し、テイクアウトによるプラスチックごみの削減に寄与しています。また、容器のサステナブル化に加え、循環型のサービス設計を通じて使い捨て文化からの脱却を目指しています。食品の注文時に容器代をデポジットとして上乗せし、返却時に払い戻す仕組みにすることで消費者に再利用のための返却を促しています。

食品配送サービスの普及とともに、システムをいかにサステナブルにするかが課題として浮かび上がってきました。新たな資源を使わない選択肢をとりつつ、今あるモノを循環させ続ける設計が求められています。

4. ビジネスモデルのサーキュラー化のために参考にしたいポイントを整理

先進事例をもとに、食品業界でサーキュラーエコノミーを実践するためのポイントをご紹介します。

4-1. サステナブルな、そしてリジェネラティブな食材を調達

ビジネスモデルのサーキュラー化のために、取り組むべきポイントはサステナブルな、リジェネラティブな農業を目指すことです。リジェネラティブ農業とは、負荷を減らすだけでなく、農地の土壌を修復・改善しながら、自然環境の回復に繋げることを目指す農業スタイルのことを指します。

食のサーキュラーエコノミーを考える際、「減らす」「やめる」に焦点が当たることが多いです。しかし、昨今の気候危機などに対応するためには、「リジェネラティブ」を意識することが必要となってきます。上記の事例でご紹介した、新建築素材Chip[s]Boardの事例のように、減らすだけではなく、自然のシステムを再生させるという観点が、ビジネスモデルを考える上で重要となります。

4-2. コミュニティや仕組みで、食品ロスを根本的に解決する

サーキュラーエコノミーの概念でもっとも基本的なことは、資源の無駄を生み出さないこと。食においては、まずはその前提に食品ロスを生み出さない仕組みと余っている食材を生かす方法を考えなければいけません。そのためには、食材を必要としている人に届けるためのコミュニティの活用や、廃棄された食品を回収する仕組みを構築する必要があります。アプリを活用したオンデマンド型の食堂のように、必要な食材を必要な時に調達し、提供する仕組みも、食のサーキュラーエコノミーを推進するための重要な一手であるといえます。

4-3. 食品に欠かせない「容器」を循環型に

食品を無駄にしないだけでなく、容器の資源削減についても検討する必要があります。堆肥化可能な素材を用いて新たな容器を作り出すという方法や、容器の所有権を消費財や食品のメーカー・提供者が持ち、回収・洗浄・再利用するというような循環型の仕組みが考えられます。

本記事では、食品業界に存在する問題を起点に、ヨーロッパの食にまつわるサーキュラーエコノミー事例や、実際にビジネスで取り組む際のポイントについてご紹介してきました。食を通して人々に喜びや健康を与えながら、その一方で食を支える地球環境を再生していくことが、これからの食品業界に求められます。食に関するさまざまな課題を知り、先進的なアイデアを活用した取り組みを考えてみてはいかがでしょうか。

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【参照サイト】消費者庁消費者政策課 「食品ロス削減関係参考資料」(平成31年3月8日版)
【参考記事】「食のサーキュラーエコノミー」エレン・マッカーサー財団学習プログラム From Linear to Circular #8
【参照サイト】欧州委員会 「The European Green Deal」
【参考記事】サーキュラーエコノミーは、コミュニティにも恩恵をもたらす。LWARB「Circular London」に学ぶ、循環型都市への道のり
【参照サイト】London Waste & Recycling Board 「Towards a circular economy」

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