廃棄物に新たな価値を。ゼロウェイストを加速させる「アップサイクル」を実践するには?
「アップサイクル」がよりサステナブルな資源循環の方法として注目を集めています。本記事では、捨てられるはずだったものが意外な形で社会貢献に役立つ、ユニークな事例を厳選しました。廃棄物というムダに着目し、ビジネスに活用する中で新たな価値を与える方法を解説します。
目次
- 1. 「アップサイクル」とは
- 2. なぜアップサイクルが注目されるのか?
- 3. アップサイクルのユニークな事例をご紹介
- 4. 事例から学ぶアップサイクルのメリット・デメリット
- 5. アップサイクルの事例をもっと調べるには?
1. 「アップサイクル」とは
「アップサイクル」とは・意味
アップサイクル(Upcycling)とは、本来であれば捨てられるはずの廃棄物に、デザインやアイデアといった新たな付加価値を持たせることで、別の新しい製品にアップグレードして生まれ変わらせることです。耐用年数を越えたソーラーパネルをテーブルとして利用したり、擦り切れたタイヤをカバンに作り変えたりと、アップサイクルは家具業界からファッション業界など、さまざまな業界で注目されています。
アップサイクルとリサイクルの違い
アップサイクルは単純な「再利用」や「リサイクル」とは異なる明確なポイントがあります。それは、これまでのリサイクルのように「原料」に戻すのではなく、元の製品として「素材」をそのまま活かすという点です。リサイクルでは原料に戻したり、素材に分解したりする際にエネルギーが使用されるのに対し、アップサイクルではそのままの形をなるべく生かすため、地球への負荷を抑えることができます。また、アップサイクルは単なる再利用のリユースとも違い、別の製品として生まれ変わらせることで、その寿命を長く引き延ばすことができる可能性があります。そのため、リサイクルやリユースよりもサステナブルであるとされています。
アップサイクルの反対語のダウンサイクル
アップサイクルに対して逆の意味を持つ「ダウンサイクル」があります。たとえば、Tシャツから雑巾を作ったり新聞紙を再生紙にしたりと、元の商品よりも価値や質が下がる再生利用のことを指します。つまりアップサイクルは製品のアップグレードで、ダウンサイクルは製品のダウングレードとも言えます。
2. なぜアップサイクルが注目されるのか?
サーキュラーエコノミーという資源循環のカタチ
アップサイクルの重要性を理解するために、その根幹にあるサーキュラーエコノミー(循環型経済)の概念を整理しておきましょう。
この図はサーキュラーエコノミーの概念を表す「バタフライダイアグラム」(エレンマッカーサー財団が提唱)と呼ばれるもので、左側が「生物サイクル」を、右側が「技術サイクル」を表しています。従来の生産、消費、廃棄の流れはリニアエコノミー(直線型経済)と呼ばれますが、技術サイクルでは有限の資源をできるだけ長く使い続けることで、持続可能な生産と消費のサイクルを確立していくことが求められています。
すでに広く知られているリサイクルも循環型といえますが、アップサイクルでできた商品が廃棄後も循環できるように設計されていた場合、アップサイクルは図の中で最もサイクルが小さい「維持・長寿命化」にあたり、大きなサイクルと比較してより少ないエネルギーでより長く資源を利用できます。そのため、資源を循環させるさまざまな方法の中でもよりサステナブルであり、サーキュラーデザインにおいても重要度が高いとされているのです。
廃材を活かすアイデアが課題解決のカギを握る
今回ご紹介していくアップサイクルの事例は、廃材を用いて新たな価値を生み出し、社会に存在する課題の解決に役立っています。環境負荷を最小限に抑えながら、さまざまなニーズに応え、課題を解決していく。アイデア次第で環境にも社会にもアプローチできるのがアップサイクルの大きな特徴です。
3. アップサイクルのユニークな事例をご紹介
それでは、アップサイクルのアイデアを用いて社会課題にアプローチしているユニークなアイデアを4つご紹介します。
①地元の廃材を、地元で活用
宮城県気仙沼市のデニムブランド「OIKAWA DENIM(オイカワデニム)」は、地元で発生する廃棄物を活用したアップサイクルのデニムを開発しました。漁業が盛んな気仙沼ではメカジキが特産品ですが、その上顎から伸びる吻(ふん)は食べられず廃棄されてしまいます。その丈夫さに目をつけ、開発されたのが、吻の繊維をデニムに織り込んだ「Swordfish Fiber Mixed Denim(メカジキデニム)」でした。
オイカワデニムは、東日本大震災の津波に飲まれた気仙沼の工場で数ヶ月後に全く傷みのない状態で発見されたことから、“奇跡のジーンズ”として復興のシンボルとなってきました。この地元の廃材を活用し新たに開発されたメカジキデニムは、アップサイクルで気仙沼を盛り上げる象徴的なアイテムとなっています。
②福祉に貢献する、ペットボトルのアップサイクル
医療・福祉分野で使用される器具の代替素材として、アップサイクル素材を活用する事例もあります。英レスター大学工科学研究所のカンダン博士は、廃棄ペットボトルから紡績されたポリエステル糸を使用したアップサイクルの義肢を開発しました。製作に要した費用は10ポンド(約1,300円)と、業界平均の5,000ポンド(約68万円)と比較すると大幅なコストダウンを実現していることが分かります。
世界で手足を切断した経験のある人の数は1億人と推定されていますが、義肢の費用が高額であることから、開発途上の地域などでは義肢が手に入らない患者が数多く存在しています。この製品は、義肢を必要としているそのような人々に希望をもたらす一方で、環境保全のために利用を控える動きのあるペットボトルを有効活用するというアップサイクルの好事例といえます。
③海洋ごみのアップサイクルで課題解決
イギリスのワイト島にある「Wyatt and Jack」という夫婦が営む会社は、海辺に捨てられたビニールのおもちゃやデッキチェアなどを、カラフルなかばん、ポーチ、アクセサリーにアップサイクルしています。スタイリッシュなアイテムを生み出しながら、海洋ごみ問題にアプローチする課題解決型のビジネスといえます。
これまで100トン以上のプラスチックごみを一点もののアイテムにアップサイクルしてきたというWyatt and Jackのウェブサイトでは、商品のカテゴリーごとに「I Was A Bouncy Castle (私はバウンシーキャッスルでした)」、「Vintage Salvaged Deckchair Canvas (回収されたヴィンテージのキャンバスデッキチェア)」といったキャッチコピーが付けられ、材料となったもとの製品のストーリーを想起させるものとなっています。
④Xmasイルミネーションで、ごみ問題への意識を高める
流行最先端のファッションと音楽の中心地であるロンドンのCarnaby Street(カーナビーストリート)では、2019年のクリスマスイルミネーションで海洋環境保護のチャリティ団体「Project Zero(プロジェクト・ゼロ)」とのコラボレーション企画を催しました。人々が見上げるイルミネーションの装飾はすべて、廃棄物をアップサイクルして作られたものです。漁網やペットボトルなど、海に捨てられたごみを活用し、イルカやカメ、サメ、クジラなどを含む11匹の海の生き物たちを模した装飾が施されました。
「One Ocean One Planet(ひとつの海とひとつの地球)」というメッセージを掲げ、持続可能な海をつくっていくための海洋保護の緊急性を訴えるこの催し。装飾に加え、カーナビーストリート沿いにある飲食店は海洋保護に賛同するお店ばかりで、使い捨てプラスチックやフードロスなどの廃棄物の削減や、持続可能なシーフードの調達に取り組んでいます。
4. 事例から学ぶアップサイクルのメリット・デメリット
いかがでしたでしょうか。世界で問題となっているプラスチックごみから、地域特有の産物に由来するごみまで、さまざまな廃棄物に着目した事例をご紹介しました。そして社会に存在する課題と結びつけるアイデア次第で、廃棄物を再生利用すること以上の価値が生まれるということをお分かりいただけたかと思います。実際にアップサイクルのアイデアをビジネス化する上で参考となるポイントは以下の通りです。
■メリット
- 再生時のエネルギー利用が抑えられ、環境負荷が小さい廃棄物を代替素材として活用することで、低コストを実現できる
- アップサイクル前の製品が見た目でわかりやすく、人に語りやすいストーリー性がある
- アップサイクル後の製品次第で、別業界に参入するチャンスになることも
- 無駄に着目したビジネスで、新たな雇用創出も期待できる
■デメリット
- 廃棄物を原材料とするため、安定的な回収システムを構築することが難しい
- 利用する素材によっては洗浄・分解などのプロセスが必要
- 製品デザインに独自のノウハウが必要で、共同開発するパートナー企業を見つけることが難しい
- ゼロウェイストを実現するためには循環を続けなければならない
廃材をどう活用し、どうサービス展開していくのかという循環型のデザインが必要ですが、まずは身近な“ムダ”に着目すること、そしてアップサイクルを通じて解決できそうな社会課題と掛け合わせて、さまざまな可能性を探ってみることが最初の一歩です。アップサイクルすることがゴールではなく、アップサイクルを通じてゼロウェイストにアプローチする一つの方法として検討してみてはいかがでしょうか。
5. アップサイクルの事例をもっと調べるには?
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※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」から一部転載しております。
【参照サイト】エレンマッカーサー財団「システムダイアグラム(バタフライダイアグラム)」
【参照記事】Circular Economy Hub Learning #3(バタフライダイアグラムの解説)
【参照記事】サーキュラーエコノミー移行の要、サーキュラーデザインとは?
【参照記事】自社商品をサーキュラーエコノミーで長寿命化させる!その意義と事例をご紹介
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