サステナビリティ課題への企業の姿勢を伝える、効果的なコミュニケーションとは?

サステナビリティ課題への企業の姿勢を伝える、効果的なコミュニケーションとは?

企業のブランド価値を高める上でサステナビリティ戦略の重要性が増したことで、企業はSDGsやサステナビリティ、ウェルビーイングサーキュラーエコノミーといった言葉を用いた情報発信を積極的に行うようになりました。しかし、企業のなかには本質的な取り組みを伴わないコミュニケーションを行っている(グリーンウォッシングSDGsウォッシングなど)ケースもあり、消費者や投資家の目は厳しくなっています。

とはいえ、すでにある事業をサステナブルな方向へ変革していく移行フェーズにおいては、正解がなく手探りの状態です。変革した先の事業の姿ももちろん重要ですが、まずは自社の立ち位置や社会のニーズからマテリアリティ(重要課題)を認識すること、そして具体的な方針を現状とのギャップも含めて情報を開示していくことが必要です。その伝え方については多くの企業が模索していますが、本記事ではサステナビリティ課題への取り組みやブランドとしての姿勢を効果的に発信している事例をご紹介します。

目次

1. 企業のコミュニケーション事例まとめ

Finback Brewery:ビールのパッケージで人々に人種差別についての対話を促す

ニューヨークのブルワリー「Finback Brewery」は、人種差別について人々に対話を深めてほしいとの願いから、「Breathing: Conversations(息をする、話をする)」という名前のビールを醸造しました。2020年5月にミネソタ州で黒人のジョージ・フロイド氏が警察官に殺害されて以降、世界に広がったBLM(Black Lives Matter)運動ですが、暴力ではなく対話によって課題に向き合うことをパッケージで訴えています。ビールのラベルには向かい合って話をする男女の横顔が印刷されており、「#BreathingConversations」というハッシュタグを使って、会話を共有する取り組みも広められました。

パンテーン:ブランドからの問題提起で社会に新しいムーブメントを起こす

ヘアケアブランドのパンテーンは、多様化する社会での教育における課題に焦点をあてた広告を打ち出しました。広告が発表された当時、都立高校の約6割で、生徒には地毛証明書の提出が求められ、学校によっては、地毛が茶髪の生徒に対しても黒染めを命じていたといいます。広告はダイバーシティ・インクルージョンが謳われる現代の学校の校則の在り方について、生徒と教師の対話を促す内容となっています。SNS上でハッシュタグで広がった「#この髪どうしてダメですか」という問いかけは大きな話題を呼び、署名活動に発展し、その数は約2万にものぼりました。

Noticias de la Comarca:森林火災予防の啓発に「燃えない新聞」を活用する

アルゼンチンの新聞社 Noticias de la Comarcaは、森林火災予防についての啓発活動として、耐火性のある紙を使用した「燃えない新聞」を世界で初めて発行しました。アルゼンチンでは、2021年3月にパタゴニア地方で大規模な森林火災が起き、2万5,000ha以上の森林が焼け、数百人の住民が家や仕事を失いました。「燃えない新聞」の紙面では森林火災の現状や予防策等が掲載しており、これが新聞社ならではの伝え方であることから、アルゼンチンの消防財団法人への寄付金額が500%増加したといいます。

イケア:店舗空間を活用してサステナブルな暮らしのアイデアを届ける

スウェーデン発の家具製造・販売大手イケアは、家具に第二の人生を与え、顧客にサステナブルな暮らしのアイデアを届けるスペース「Circular Hub」をオープンしました。イケアのサステナビリティ戦略「People & Planet Positive」に基づく取り組みで、全世界の店舗で展開が進められています。リユース品を購入できるだけでなく、家具の組み立てを見学できたり、商品のメンテナンス方法などに関するワークショップがあったりと、顧客がより簡単かつ手頃な価格でサステナブルな暮らしを実現できるよう提案していくスペースです。店舗の空間やその場での体験を通じて、顧客を巻き込んでサステナビリティを体現しようとしているといえます。

豊島:コンテスト形式で服の売れ残り問題を解決する

繊維商社の豊島株式会社主催、atelier HIKITSUGIが運営する参加型リメイクコンペティション「Clothes Renovation Contest」は、廃棄されてしまう新品の服をリメイクし、新たな価値を吹き込むコンテストです。日本の衣類廃棄量は年間約51.2万トンにのぼり、一度流通した衣類の衣類の3分の1程度しかリユース・リサイクルされていないという現状があります。参加者に衣類廃棄の問題を知ってもらう機会となるうえ、コンテストそのものをクリエイティブな解決法とする手法は他の業種でも参考になりそうです。

ナイキ:気候変動とスポーツの関係をビジュアルで伝える

スポーツウェアブランドのナイキは、ウェブサイト上で気候変動の深刻化によるアスリートへの悪影響をビジュアルで伝えています。気温が上昇するほどマラソン選手のパフォーマンスに悪影響を及ぼしてタイムが落ちること、テニスの四大大会開催地の気温が上昇していることなど、さまざまなスポーツのプレーヤーからの視点で気候変動のデータを解釈して気候変動問題への取り組みを訴えるというものです。「ビジネスを続けるために、そしてユーザーがスポーツを楽しみ続けるために環境を守る」というストーリーを的確に伝えている事例といえます。

平均気温の上昇により、マラソンのタイムが落ちることを示すインフォグラフィック

【参考URL】MOVE TO ZERO

ニールズヤード:ブランドストーリーと関連づけた情報開示を行う

化粧品メーカーのニールズヤードレメディースは、ウェブサイトのブランド紹介の中で自社のサステナビリティに対する取り組みやサプライチェーン情報を公開しています。オーガニックにこだわったブランドポリシー、原料選びの基準、その調達過程、再生可能エネルギーを活用した工場、取得している認証、容器包装についてなどがブランドの理念や歴史と関連づけて説明されていることで、「どの商品もこの理念のもとに作られている」という安心感を生み出しているといえます。

ブランド概要ページでは、創業者の想いやロゴマークの意味とともに、商品づくりの根本となるサステナビリティへの考え方・取り組みを紹介している

【参考URL】NEAL’S YARD REMEDIES – ABOUT US

オールバーズ(Allbirds):SNSで商品情報とともにブランドのビジョンを発信する

サンフランシスコ発のシューズブランド オールバーズ (Allbirds)は、SNSを通じて自社が目指す将来のビジョン、それを実現するための目標を発信しています。2025年までに、自社が所有・運営する施設で100%再生可能エネルギーを使用すること、カーボンフットプリントを2025年までに半減し、2030年までに95%削減することなど、具体的な数値を用いた発信が特徴的です。商品情報については、持続可能な天然素材の使用割合まで公表しており、商品ができるまでの工程とそこから発生する環境への影響まで知ることができる投稿となっています。

アッパーにカーボンフットプリントを記載したシューズの紹介。「カーボンフットプリントは、気候変動を悪化させる大きな要因となっています。」との説明も

【参考URL】allbirds twitter

2. 課題への取り組みを効果的に伝えるには?

社会課題をどのように解釈し、ストーリーにするか

マテリアリティの特定で重要なのは、自社の事業が環境や社会にどのような影響を与えているかを理解し、ステークホルダーからの期待や要請を踏まえ、優先すべき取り組みテーマを選ぶことです。例えば、ナイキはグローバル展開するスポーツブランドとして、アスリートに目を向け、グローバル課題である気候変動に焦点を当てた取り組みを行っています。今回紹介した事例からも、対象とすべきターゲットを的確に絞り、自社の事業に関わりが深い課題を選ぶことが大切であることがわかります。

パーパスから商品・サービスのコンセプト、情報発信までに一貫性を持たせる

ステークホルダーに、自社の取り組みに興味を持ってもらうためには、なぜ自社がこの課題に取り組むのか、自社の理念や歴史、課題に取り組むまでの経緯などの情報を加えながら、一貫したストーリーとして発信することが効果的です。これにより、取り組みを通じて自社のことをより深く知ってもらうことができ、共感や賛同を生むきっかけとなります。自社の過去、現在、未来を、明確なゴールに向けた一貫性のあるストーリーとして発信していくことでステークホルダーにより効果的に情報を届けることができます。

体験を通じて「考えさせる」コミュニケーションへ

店舗やイベントなどでの参加型の体験を通じたコミュニケーションは、ステークホルダーが社会課題をより身近に感じ、行動を起こすきっかけとなります。課題を自分ごととして捉え、ステークホルダーも共に課題解決のために取り組み参加してもらうことで、より深い関係性を築くことができます。また、店舗やイベントで実際にステークホルダーと対面することで、取り組みに対する反応や評価、期待を知ることができ、今後の取り組みに生かすことができます。

サステナビリティ課題への取り組みが必須のものとなる一方、「できていること」の発信のみにとどまらず「できていないこと」も含めたありのままを見せる必要があり、これまで以上に透明性が求められるようになっています。パーパスやブランドの思想と一貫した事業展開、コミュニケーションの仕方がステークホルダーの共感につながるといえます。IDEAS FOR GOOD Business Design Labでは、ブランドのサステナビリティを伝えるユニークなコミュニケーションの事例を多数掲載しています。アイデア検索機能「IDEAS Explorer」(無料会員になるとご利用いただけます)もご活用ください。

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