サイト運営者必見!無意識に不要な行動を促す行動経済学「スラッジ」を確認する方法4選

サイト運営者必見!無意識に不要な行動を促す行動経済学「スラッジ」を確認する方法4選

皆さんは、「スラッジ」という言葉をご存知でしょうか。

「スラッジ」とは、英語で汚泥やヘドロという意味ですが、行動経済学の分野では「ナッジ」の逆の状態を指すものとして使われています。

「ナッジ」とは、人間の行動や意思決定に関する特性をふまえて、選択の自由を維持しつつ、自発的に望ましい行動を取れるように後押しする手法のことで、ここには、「本人にとって有益な方向に後押しする」ことと、「スムーズに行動を取れるようにする」こと、という2つの意味が含まれています。「スラッジ」は、これとは逆に、不利な方向に行動を誘導したり、その人が取りたいと思っている行動をとりづらくさせたりすることを指します。

ナッジとスラッジの定義

ナッジ

本人にとって有益な方向に、スムーズに行動できるように後押しすること

スラッジ

スラッジには2種類あります。
①本人にとって不利な方向に行動を誘導すること
②本人にとって有利な行動を取ることを妨害すること

スラッジ①は、ユーザーにとって不利な方向に行動を誘導することです。そのうち、特にインターネット上のショッピングサイト等のインターフェースで見られるものを「ダークパターン」と呼びます。例えば、気づかないうちに自動的に商品が追加されたり、ことさらに損失を強調する利用する文言を使ったりすることが挙げられます。「ダークパターン」は、2010年頃から注目されるようになり、近年では世界的に問題視され、すでに規制の対象となっている国もあります。日本経済新聞社の調査によれば、日本国内の主要消費者向け100ウェブサイトのうち62サイトでいずれかのダークパターンが見られたそうです。消費者庁のウェブサイトでは、ダークパターンを「オンライン上の悪質商法」とする記載も見られ、今後日本においても規制の流れが強まることが考えられます。

スラッジの②は、意図的かどうかに関わらず、本人が取りたいと思っている行動を阻害することです。例として、返品や定期購読の解約手続きをわかりづらくしたり、オンライン上で完結できず電話や郵送しなければならなかったりと、手続きを複雑化させたものなどが挙げられます。営利企業に限らず、あらゆる主体においてスラッジに陥っていないかの注意が必要になります。

今回は、自社サイトやサービスにおいてスラッジがないかどうかをチェックする視点を4つご紹介します。

スラッジをチェックする視点4選

視点1 デフォルト

ポイント:デフォルト(初期設定)が利用者にとって望ましい方向に設定されているか

デフォルトとは、もともとの初期設定のことです。デフォルトでは不参加で、自分が望んだ場合にそのサービスや制度に参加することをオプトイン(任意参加)、デフォルトで参加しており、望まない場合には参加しないことを選択できることをオプトアウトといいます。

人はデフォルト状態に留まることが多いことが知られています。ある研究では、2種類の電力料金プランを提示し、どちらかを選択してもらいました。1つは従来型、もう1つは馴染みのない新型プランで、従来型が好まれると予想していたそうです。結果は、従来型をデフォルトにした場合は新型を選択する人はわずか2割と予想通りでしたが、新型をデフォルトにした場合、新型を選択する人が9割だったそうです。このように、人が何かを選ぶ際には、デフォルトとなっている選択肢をそのまま選ぶ傾向があることが知られています。

<スラッジの例>
有料オプションの追加やメールマガジンの購読などの追加的サービスがデフォルトで許可された状態にしている。

視点2 クーリングオフ

ポイント:いったん立ち止まって考える仕組みや、決定を修正できるセーフティネットが設定されているか

望ましい行動を取れるようにするには、行動がスムーズに進むことが必ずしも良いとは限りません。例えば、結婚や離婚、土地の売買といった重要や意思決定や契約がワンクリックでできるようになったらどうでしょうか。途中で考えるきっかけを作ることも重要なナッジとなります。例えば、一度決定ボタンが押された場合にポップアップを表示して再度確認する機会を与えることは、合理的な熟慮を促すこととなり、間違いや勘違い、後悔を減らす事になります。

<スラッジの例>
SNSで、ワンクリックでインターネットに公開投稿される設計となっている。

視点3 心理的な負担

ポイント:限定感や他者の存在を必要以上に意識させて利用者をあおっていないか。羞恥心などの心理的負担を用いて特定の選択肢へ誘導していないか

人間の心理特性として、「損をしたくない」(損失回避)、「希少なものに魅力を感じる」(希少性)、「他者の依頼を断ることは良くないことだと感じる」(互恵性)などの傾向が知られています。これらの心理的要素を踏まえた働きかけを多用したり過度に強調したりすると、ユーザーの本来の意思を歪めかねません。自分にとって商品の購入やサービスの利用が望ましいかどうかを適切に判断できるよう、ユーザーが熟慮できる環境を整えることが求められます。

なお、このような働きかけに伴い虚偽の情報が提示されるなどの不正が行われている場合、コンプライアンス上の問題にとどまらず、従業員のモラルや意欲の低下を引き起こし、長期的には経営上の悪影響をもたらす可能性が指摘されています(チャルディーニ2017)。

<スラッジの例>
・「セール期間終了まであと何分」のようなカウントダウン表示や、「他に何人がこの商品を閲覧中」などの情報を必要以上に強調する。

・追加的なサービスへの申込を促すとき、NOの選択肢として「私はそのサービスを利用せず、割引を受けることも望みません」などの羞恥心やためらいを生じさせるような文言を表示する。

視点4 手間数を減らす

ポイント:なるべく最小限の手間で済むようになっているか

ある行動を取りたいと思っても、その行動を完遂するまでに手間がかかればかかるほど、フリクション(摩擦)が高まり、行動を途中で諦めてしまうことが多くなります。ある報告では、低所得者向けの大学奨学金申請の手続きに必要なフォームを簡素化したところ、奨学金申請率、奨学金受給率がともに高まったという結果が示されています。できる限りフリクションを減らし、最小限の手間でスムーズに行動ができるよう設計することが重要です。

<スラッジの例>
・手続きの全体像が把握しづらい、同じ内容を何度も入力させる、一括選択や解除ができない、オンライン上だけで完結せずに電話や郵送を求めるなど、必要以上に手続きを複雑にしている。

スラッジになっていないかチェックするポイント

いかがでしたでしょうか。自社、そして自分がユーザーとして利用するウェブサイトで目にするものはあったでしょうか。「恣意的な方向に誘導していないか?」「利用者が取りたいと思っている行動を阻害していないか?」という2つの観点から検討してみることで、これまでとは違った点が気になってくることもあるかもしれません。今回例に挙げたようなスラッジは、信頼の低下や利用者離れなど、長期的な観点では悪影響が大きくなることが予想されます。また、必要以上の手続きを課しページ遷移が増えることは、エネルギー使用量の増加やCO2排出量の増加にもつながります。サステナブルマネジメントのためにも、自社のウェブサイトや利用者向けの手続きフローに「スラッジ」が含まれていないかどうか、改めて見直す機会を作ってみてはどうでしょうか。

【参考文献】
大竹文雄. 2019. 行動経済学の使い方. 岩波書店
チャルディーニ, R. 2017. PRE-SUASION :影響力と説得のための革命的瞬間. 誠信書房
ムッライナタン, S., シャフィール, E. 2017. いつも「時間がない」あなたに. 早川書房

【参照サイト】
日本経済新聞「消費者操るダークパターン 国内サイト6割該当

Bettinger, Eric and Long, Bridget and Oreopoulos, Philip and Sanbonmatsu, Lisa, The Role of Simplification and Information in College Decisions: Results from the H&R Block Fafsa Experiment (September 2009). NBER Working Paper No. w15361

Darkpatterns.org https://www.darkpatterns.org
Dilip, S. 2020. A Sludge: Very Short Introduction. University of Toronto.
Thaler, R. 2018. Nudge, not sludge.
Fowlie, et al. 2017. Default effects and follow-on behavior: Evidence From An Electricity Pricing Program.
Mani A, Mullainathan S, Shafir E, Zhao J. Poverty impedes cognitive function. Science. 2013 Aug 30;341(6149):976-80.

著者プロフィール

Kaori Uetake

ポリシーナッジデザイン合同会社代表。2010年横浜市役所入庁、スマートシティプロジェクトや省エネ行動促進ナッジプロジェクトに従事。2019年横浜市行動デザインチーム(YBiT)に行動科学担当として参画し、ナッジプロジェクト企画実施のほか研修講師や事業コンサルティングに従事。2021年ポリシーナッジデザイン合同会社を設立、国内外のナッジユニットや自治体、企業と連携して社会の最前線でのナッジ活用のサポートを行う。仙台市出身、2児の母。

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