行動経済学「ナッジ」で資源の回収を促す、効果的なごみ箱の設置方法とは?

行動経済学「ナッジ」で資源の回収を促す、効果的なごみ箱の設置方法とは?

サーキュラーエコノミーやゼロウェイストを実現させるために難しいことのひとつとして、「これまで『ごみ』とされていた資源の適切な回収」があげられます。不適切な場所にごみを廃棄する不法投棄やポイ捨ては、街の景観や治安の悪化に加え、河川や海洋汚染を引き起こして川や海の生きものに悪影響を与えるといった環境上の問題につながります。さらに、適切な分別をせずにごみを廃棄することも、本来リサイクルできる貴重な素材の損失につながるため、防がなければなりません。

とはいえ、ごみは生活していく上でどうしても発生するもの。特に外出先では、たとえごみ箱に捨てたいと思ってもごみ箱がどこにあるのかわからなかったり、ごみ箱を見つけても分別ルールがわかりにくかったりなど、一筋縄ではいかないものです。

今回は、そんなごみ箱の効果的な設置方法について、行動経済学「ナッジ」に基づいて解説します。

わかっていてもつい…「態度と行動のギャップ」とは?

ポイ捨て行動に関して、9割もの人が懸念を表明しているものの、3割以上が道路や公園などにポイ捨てをしているという調査結果があります。つまり、非常に多くの人が「ごみは適切に捨てなければならない」という態度を持っているにもかかわらず、実際はポイ捨てをしているということです。このように、態度と行動にズレがあることを「態度と行動のギャップ(attitude-action gap)」といいます。

では、このような態度と行動のギャップがある場合に望ましい行動を実行してもらうにはどうすれば良いのでしょうか?

ナッジチェックリスト:EAST

そこでヒントになるのが、人間の心理特性をふまえて自発的な行動変容を促す手法「ナッジ」です。ナッジの原則としてよく知られているのが、「EAST(イースト)」です。EASTは、Easy, Attractive, Social, Timelyの頭文字を取ったもので、ナッジの要素が大まかに4つに分類され、重要な要素が凝縮されています。

Easy
  • 簡単にできるようになっているか?
  • 手間がかからないか?
  • 情報量が多すぎないか?
Attractive
  • 魅力的なものになっているか?
  • 人の注目を集めるか?
  • 面白いか?
Social
  • 社会規範を利用しているか?
  • 多数派の行動を強調しているか?
  • 互恵性に訴えかけているか?
Timely
  • タイミングよく働きかけているか?
  • フィードバックは早いのか?
  • 事前に対処計画を作成しているか?

※大竹(2019)を参考に一部追記

今回は、このEASTの分類に基づいて、適切なごみ捨て行動を促進する事例をご紹介します。

事例1 自然な動線に合わせた形状(Easy)

エコな交通手段として見直され、最近では荷物の配送など様々な場面で活用されることが増えている、自転車。しかし、自転車に乗っていて急いでいると、ごみを捨てるためだけにわざわざ自転車を止めるのが億劫になってしまうこともあるでしょう。自転車での通勤通学を推奨しており、自転車利用が非常に盛んなデンマークのコペンハーゲン市では、自転車に乗ったまま捨てやすいように傾きをつけた形状のごみ箱を導入しています。ごみ箱は直立の形状という固定観念を超え、ユーザー側の視点や動線をふまえて最も行動がとりやすい形にデザインすることにより、望ましい行動を促しています。

事例2 足跡ステッカーで目につきやすく(Attractive)

ごみを捨てたいけれど、ごみ箱が見つからない・・・このような状態だとちょっとしたストレスになりますよね。そんなとき、こんなごみ箱があったらどうでしょうか。コペンハーゲンで導入されている、足跡を模した黄色いステッカーがごみ箱に向かうように設置されているごみ箱です。このような目を引く仕掛けがあるだけで、ポイ捨てが46%減少したそうです。人間の注意力は非常に限られているので、ごみ箱があっても見落とすことがあります。望ましい行動をとってもらうためには、ごみ箱の存在を色やデザインなどで目立たせ、注意を引くことが有効です。

事例3 ポジティブで楽しい仕掛け(Attractive)

人は誰でも楽しかったり面白かったりするものが好きです。「仕掛け学」の提唱者である大阪大学の松村真弘教授は、バスケットボールのゴールをごみ箱に取り付ける仕掛けを考案しています。仕掛けの特徴の一つは、「目的の二重性」、つまり設置する側と利用する側の目的が異なるということ。この例であれば、ごみを捨てて欲しい設置者と、ごみをボールに模してシュートしたい利用者で異なる目的をもつということです。同じ結果をもたらす行動に、複数の意味合いを付与するのです。

バスケットボールのゴールという「仕掛け」を設けたごみ箱(松村真弘教授ウェブサイト)

類似の事例に、以前ご紹介した英国のHUBBUBによる投票式の吸い殻入れがあります。こちらも、吸い殻を捨てるという行動に、投票という意味を付与しています。
このように、楽しいポジティブな仕掛けを作り、目的の二重性を利用することで、ごみ捨て行動を行う動機付けを与えることができます。

事例4 感謝メッセージ(Social)

人には、感謝されたり期待されたりするとその気持ちに応えたいと思う「互恵性」という傾向があります。例えば、ある研究では、情報の送り手が明確な場合、「○○していただきありがとうございます」という感謝メッセージの方が、「○○してください」という命令メッセージよりも行動抑制意図が高かったそうです(油尾・吉田 2017)。

日本コカ・コーラでは、ペットボトルのラベルに感謝メッセージを記載しています。現在の法律では、ラベルレスは箱売りの場合のみ認められており、1本ずつ販売する場合は成分表示等を行うためにラベルが必要です。「リサイクルしてください」という趣旨の表記をよく見かけますが、日本コカ・コーラ製品のラベルには「リサイクルしてね いつもありがとう、またよろしくね」という分別やリサイクルをユーザーが行うことに対する感謝や期待が示されたメッセージが記載されています。

「リサイクルしてね」「ありがとう」と互恵性に訴えかけるラベル(PR TIMES)

看板設置がかえって逆効果になることも!?

皆さんも見たことがあるであろう「ポイ捨て禁止」の看板。実は、逆効果になりかねないこともあるのです。アメリカの国立公園では、来園者による貴重な化石木の持ち出しに困っていました。

そこで、どのような看板を設置すれば有効かを確認するため、複数のバージョンの看板を掲示して実際に持ち出される量を確認するという実証を行いました。そのうちの一つに、「多くの人が持ち出すために、化石の森の環境が変わってしまいました」というメッセージに、持ち出そうとしている来訪者の写真を組み合わせた看板があったのですがこのバージョンを設置した場合には、看板が全くなかった時よりも化石木が持ち出される量が多かったのです。

これは、この看板は「多くの人が持ち出しを行っている」ということを暗に示すメッセージとして受け取られてしまい、ネガティブな社会的証明(他の人の行動に同調すること)が生じたためと研究者は結論づけています(Cialdini et al. 2006)。

このタイプの表現、皆さんのまわりでもよく見かけませんか?望ましくない行動に言及すると、期せずしてネガティブな同調効果をもたらす可能性があるため、注意が必要です。ポジティブな同調効果を促進するには、その場でどう行動すべきかを明確に伝えること、望ましい行動をしている人の数や割合について強調することが推奨されています。

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まとめ

今回は、ナッジの原則「EAST」に基づいて、ごみ捨て行動に関わる事例のご紹介をしました。ナッジは比較的低コストで実施できるものが多くあります。これらの事例をヒントに、ナッジの視点を取り入れてみてはいかがでしょうか。

※各事例のナッジの分類は主要なものであり、他の要素を排除するものではありません。

【参照サイト】WWF JAPAN 海洋プラスチック問題について
【参照サイト】Green Nudge: Nudging Litter Into The Bin
【参照サイト】EAST: Four Simple Ways to Apply Behavioural Insights
【参照サイト】3+1 Nudges for sustainable Waste Management
【参照サイト】大阪大学 シカケラボ(松村真宏教授ウェブサイト)
【参照サイト】コカ·コーラシステム、「ボトルtoボトル」を推進 2020年のリサイクルPET樹脂使用率が28%に
【参考文献】大竹文雄, 2019, 行動経済学の使い方, 岩波新書
【参考文献】Robert B. Cialdini , Linda J. Demaine , Brad J. Sagarin , Daniel W. Barrett , Kelton Rhoads & Patricia L. Winter (2006) Managing social norms for persuasive impact , Social Influence, 1:1, 3-15.
【参考文献】油尾 聡子, 吉田 俊和, 送り手との互恵性規範の形成による社会的迷惑行為の抑制効果 : 情報源の明確な感謝メッセージに着目して, 社会心理学研究, 2012, 28 巻, 1 号, p. 32-40.

著者プロフィール

Kaori Uetake

ポリシーナッジデザイン合同会社代表。2010年横浜市役所入庁、スマートシティプロジェクトや省エネ行動促進ナッジプロジェクトに従事。2019年横浜市行動デザインチーム(YBiT)に行動科学担当として参画し、ナッジプロジェクト企画実施のほか研修講師や事業コンサルティングに従事。2021年ポリシーナッジデザイン合同会社を設立、国内外のナッジユニットや自治体、企業と連携して社会の最前線でのナッジ活用のサポートを行う。仙台市出身、2児の母。

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