災害リスク軽減に役立つ、企業の気候変動への適応方法を解説
年々深刻化する気候変動。その急速な進行により、さらに緊急性の高い「気候危機」という言葉も使われるようになっています。地理的に気候変動による影響に対して脆弱な国々では、すでに農業や畜産業といった生活に欠かせない産業が打撃を受け、生活が脅かされています。日本でも巨大台風や豪雨による甚大な被害が各地で発生し、気候変動による異常気象のリスクが目に見える状態となってきています。それでは、どのように気候変動対策をビジネスに組み込めばいいのでしょうか。
今回は、気候変動自体を「緩和」するアプローチと、気候変動に「適応」するアプローチをご紹介し、特に企業が気候変動の適応策を考えるべき意義とその事例をご紹介します。
目次
1. 気候変動問題、企業が取り組むべきこととは?
気候変動による被害は世界規模の問題でありながら、なかなか切迫性を持つことができないのが大きな問題であると言えます。まずは気候変動問題に関する世界の動向をチェックし、企業レベルで取り組んでいく重要性について考えます。
パリ協定、そしてSDGs
2015年12月、フランスのパリで開催されたCOP21(第21回国連気候変動枠組条約締約国会議)において、温室効果ガスの排出削減に向けた国際的な枠組みとしてパリ協定が採択されました。産業革命前と比べた平均気温の上昇を2℃以内とする世界共通の目標を設定し、上昇を1.5℃以内に抑える努力を続けることを各国の目標とするものです。また、気候変動への適応計画の策定や温室効果ガス排出削減の実施状況の定期的な報告・レビューを求め、5年ごとに世界全体としての実施状況を検討する仕組み(グローバル・ストックテイク)が定められました。
また、同じく2015年に採択された国連の持続可能な開発目標(SDGs)の目標13では、気候変動への具体的な緊急対策を講じることを掲げています。主要なターゲットは以下の通りです。
目標 13. 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる
13-1. すべての国々において、気候変動に起因する危険や自然災害に対するレジリエンスおよび適応力を強化する。13-2. 気候変動対策を国別の政策、戦略および計画に盛り込む。
13-3. 気候変動の緩和、適応、影響軽減、および早期警告に関する教育、啓発、人的能力および制度機能を改善する。
※「持続可能な開発のための2030 アジェンダ」(外務省)より引用
日本政府もその達成に向けた取り組みを進めていますが、2019年6月には『パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略』、そして12月には『SDGsアクションプラン2020』を定め、国の成長戦略として気候変動への対策を重要視しています。
気候変動対策の「緩和」と「適応」
SDGsの目標13の内容を整理すると、気候変動への対策には大きく分けて「緩和」と「適応」という2つの主要なアプローチがあります。地球温暖化を食い止めるために温室効果ガスの排出を削減し、気候変動による災害が起こる前にリスクを抑制するのが「緩和」で、化石燃料由来のエネルギーから再生可能エネルギーへの転換がその一例として挙げられます。もう一つの「適応」は、気候変動によって激甚災害が起こった場合の人的・物理的・経済的被害を抑制することで、洪水が発生しやすい地域の排水インフラの整備や農業分野での品種改良などが挙げられます。
適応のための取り組みは人類が地球上で生き延びるために不可欠であり、その一方で気候変動の動きを緩和していくことが次の世代への責任として求められています。緩和と適応、その両輪を同時に回していくことが人類の持続可能な発展のために必要なのです。
企業が実施すべき、気候変動への「適応」の意義とは?
気候変動への対策において、緩和と適応という2つのアプローチがあると説明しましたが、企業が取り組みやすいポテンシャルがあるのは適応のためのアプローチです。緩和アプローチは温室効果ガスの排出を削減するための取り組みで、省エネや物流の効率化などは各企業が取り組んでいく必要があります。
一方、適応アプローチは業種によりその方法が多様であり、事業の中で実践していくことで他社との差別化を図りながら企業独自の価値を発揮でき、気候変動によるリスクの軽減や災害被害からの早期再生が可能となります。具体的な方法として、以下のようなものがあります。
- 原材料の調達先(サプライヤー)の多様化
- 気候変動によりサプライチェーンが断絶するリスクを軽減するため
- 地域のハザードマップの作成と災害時のパートナーシップ
- 災害に強い(レジリエントな)まちづくりへの貢献により、企業としての機能の再生を早めるため
- オフィス機能の分散、災害リスクの低い地域への移転
- 各地で発生する大規模災害に備え、リスクを分散するため
上記以外にも気候変動への適応策は考えられますが、いずれも地域やサプライチェーンにおけるパートナーシップがポイントとなりそうです。次のセクションでは、気候変動への適応策のヒントとなる具体的な事例をご紹介します。
2. 気候変動への「適応」のための事例3選
2-1.被災者や難民に住まいを提供する寄付プログラム
大手民泊プラットフォーム「Airbnb」は、難民や被災者など安定した住居を得られない人々を対象にAirbnbの住居を緊急避難先や一時滞在先として無償提供する取り組み「Open Homes Program」を2012年から実施しています。しかし、困っている人を助けたいと思うホストたちも、いつでも住居を提供できるわけではありません。そこで新たに米国で開始したのが「Airbnb Donations」と呼ばれるサービスで、ホストが得る収益の一部を、一時避難先提供のために活動するNPOに寄付することができます。
Airbnbは世界191カ国で600万件以上の宿泊先を提供しており、仮に米国内のホスト全員が収益の1%を寄付すると、困っている200万人がNPOを通じた支援を受けられる概算です。シェアリングサービスを活用した住居や物資の提供、またそのための寄付の仕組みは、災害時の被災者支援においても大きなポテンシャルがあると言えます。
2-2. 雨水を循環させて洪水を防ぐデンマークの歩道
デンマークの首都コペンハーゲンにつくられた歩道用舗装「CLIMATE TILE」は、建築事務所THIRD NATUREが設計した雨水の処理能力に優れたタイルです。近年、台風や豪雨による大規模洪水が頻発していますが、都市での洪水の原因の一つとして、雨水が道路の下に浸透せず短時間に降った大量の雨が一気に道路脇の側溝に流れ、排水しきれなくなることが挙げられます。
この歩道や道路脇の建物の屋根に降った雨はタイルを通じて効率的に排水され、既存のシステムに比べて30%多い雨水を処理できます。雨水の一部は植栽にも直接流れ、街の緑に潤いをもたらしています。気候変動により、これまでに構築されてきたインフラでは大規模な被害を避けられないほどになってきていますが、企業レベルでもオフィスの防災機能を高めるなどの工夫をすることで地域の被災リスクを下げられる可能性があります。
2-3. 普段からつながりを。地域との関係構築
横浜市のリフォーム会社・太陽住建は、本業と社会貢献が一体化した事業を展開する地域貢献型の企業として注目を集めています。太陽光発電事業では介護施設の空いている屋上を借りて太陽光発電を設置し、地震などの災害時でも福祉避難所として電力供給ができる拠点作りを進めてきました。その設置工事には地域の就労支援施設と協働して障がい者の方々を雇い入れており、新たな雇用機会も生み出しています。
また、横浜市で少子高齢化に伴い深刻化している空き家の問題にも積極的に取り組んでいます。二階建ての一戸建てをリノベーションした「Yワイひろば」は、コミュニティスペースやシェアオフィスとしての空間を提供し、地元の人々が集まる地域会議を開催しています。地域の企業が先導して地域の様々な資源を活用し、地域の人々とのつながりを大切にしている事例であり、事業の中で構築してきた拠点や関係が非常時にも大きな役割を果たすことが期待されます。
3. 事例から学ぶ、気候変動対策のポイント
空間の活用とコミュニケーション
まず、Airbnbの被災者への住まい提供のための寄付のポイントは、住居が確保できないリスクに日頃から備えるために宿泊先と資金源を確保している点にあります。人口減少社会において増加している空き家やほとんど使われていない遊休資産を、いざというときに活用できるように協定を結んでおくことも気候変動への適応策の一つです。
太陽住建も空き家の活用に積極的ですが、その中で構築されるつながりは多面的な役割を果たしています。話し合いに住民を巻き込むことで地域の課題解決を目指すだけでなく、住民からの率直な意見を受けて企業としての役割を問い直し、事業そのものの改善へとつなげているのです。今一度、地域の課題や自社の役割を見つめ直し、その中で気候変動への対策を考えてみてはいかがでしょうか。
「インフラ」としてのオフィスの役割
また、いざという時のためのパートナーシップだけでなく、街の中のインフラとしてのオフィスの役割を見直すことも大切です。コペンハーゲンの事例のように道路を整備するのは容易ではありませんが、排水設備や電源、ガス源、避難所、休憩所、Wi-Fiスポットなどの機能を備えておくことが可能です。建物全体の環境性能が高まるよう最大限配慮して設計された建築物「グリーンビルディング」も注目を集めており、日本でもLEEDなどの認証取得に向けて動き出している企業が現れ始めています。
近年その緊急性が増してきている気候変動問題へのアクションですが、「緩和」と「適応」という2つのキーワードに沿って実施できることから具体的に対策を練っていくことが重要です。今回ご紹介したのは「適応」のアプローチでしたが、気候変動による自社サービスへのリスクを検討していくこと、そして地域やサプライチェーンなど、普段関わりを持つステークホルダーといざというときに備えて対応を協議していくことで、急速な気候変動に対応しながら長期にわたって持続的に事業を遂行できる可能性が高まります。
4. 気候変動「緩和」のアイデアをもっと知るには?
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【参照サイト】国連開発計画駐日代表事務所 持続可能な開発目標 目標13:気候変動に具体的な対策を
【参照サイト】外務省 「持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」仮訳
【参照サイト】環境省 気候変動適応計画について(2018年11月)
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