建設・不動産業界で脱炭素化を推進するには?世界の動きや事例を解説

建設・不動産業界で脱炭素化を推進するには?世界の動きや事例を解説

建築物の資材調達、施工、回収、解体といったライフサイクル全体において、資源、エネルギーの使用やCO2排出などによって多大な環境負荷を発生させている建設業界。特に、建設工事に伴う建設廃棄物は、産業廃棄物全体の約2割を占めます。今回は、脱炭素化に向けた、建設・不動産業界における取り組みを中心にご紹介します。

目次

1. 建設・不動産業界における脱炭素化の動き

パリ協定の採択によって世界的に脱炭素化に向けた動きが加速する中、建設・不動産業界においても脱炭素化に向けた取り組みが求められています。その取り組みの一つに、グリーンビルディングがあります。建設や運営にかかるエネルギーや水使用量の削減、施設の緑化など、建物全体の環境性能が高まるよう最大限配慮して設計された建築物を言い、米国のLEED(Leadership in Energy & Environmental Design)認証や日本のCASBEE(Comprehensive Assessment System for Built Environment Efficiency)認証など、各国で独自の認証制度を用いてグリーンビルディングの普及を進めています。たとえばCASBEE認証では、建物の境界内の環境品質を評価する評価分野Q(Quality)と、CO2排出や騒音、廃熱、排水など、建物の境界外への環境負荷を評価する評価分野L(Load)に分けて評価しています。

しかしながら、建設物の施工段階における二酸化炭素(CO2)の総排出量はいまだ増加傾向にあります。また、Global ABCによると、現時点において、世界全体で2060年に建っていると想定される建物の数のまだ半分も建設されていません。つまり建設される建物の数は今後30年でますます増加していくということになります。それにもかかわらず、環境への負荷が十分に削減されずに建設されていけば、脱炭素化への道のりは遠くなってしまいます。では、脱炭素化に向けて、どのように取り組んでいけば良いのでしょうか。

2. 建設・不動産業界での脱炭素化の事例

本章では、脱炭素化に向けた建設・不動産業界の事例をご紹介します。

2-1. 積水ハウスの「グリーンファースト ゼロ」モデルでエネルギー収支をゼロに

積水ハウスは建材を工場で生産し、現場で組み立てるプレハブ工法を用いています。そのため、現場での作業が軽減されるうえ、工場で一定量をまとめて生産することにより低コスト化が実現できます。その積水ハウスZEH(ゼッチ、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略称)「グリーンファースト ゼロ」モデルは、快適な暮らしを維持しつつ、高い断熱性と省エネ設備により消費エネルギーを大幅に削減する一方、太陽光発電などの設備により、必要な消費エネルギーに相当するエネルギーを創り出し、エネルギー収支ゼロを目指しています。

住宅のライフサイクル全体(90年)でのCO2排出量は従来型の戸建て住宅と比較して62%少なく、また、発電による余剰電力は積水ハウスのカーボンニュートラル化にも役立てられています。2018年には8,000軒以上が建設され、積水ハウスが施工した戸建て住宅の79%を占めています。

2-2. 低炭素の建材を使用するWOODEUM

2014年にフランスで設立されたWOODEUM。低炭素の建材を用いて木材パネルを製造し、プレハブ工法でアパートなどの建物を建設しています。木材は空気の湿度を自然に調整することができるうえ、従来建物の建設に使用されてきたコンクリートの約15倍の断熱性があり、暖房代などの節減が見込めます。解体される際も使用された木材を再利用またはリサイクルできます。また、環境負荷を抑えるだけではなく、住民のQOLを向上させるべく、著名な建築家とのコラボレーションによってより街並みになじむ最先端の木造住宅を設計しており、景観にもこだわっています。

2-3. ライフスタイルに合わせてカスタマイズ可能な「ハチの巣」型住宅

HIVE(Human-Inclusive & Vertical Ecosystem)は、「ハチの巣」からインスピレーションを受けたハニカム構造(六角形)の住宅・共有施設です。たとえば、共有キッチン、書斎のほか、子供が小さいうちは遊び場やプールのための部屋をつくるなど、居住者のライフステージに合わせて自由にカスタマイズできるようになっています。生分解性の資材を用いて建設されているため、たとえば子供が大きくなったことで遊び場が不要になれば、簡単に解体することができます。

もう一つの大きな特徴は、食料づくり、エネルギーづくりを含むサーキュラー・エコノミーのスキームを作り、土地の生態系や自然の再生を促進していること。たとえば廃水のリサイクルや太陽光などの再生可能エネルギーを利用しています。また、断熱効果も高く、夏や冬でも低エネルギーで生活できる仕組みが整っています。

2-4. 地元で回収されたアルミ缶と堆肥を緑の外壁に

フランスを本拠地とする水処理大手ヴェオリアの英国法人である「ヴェオリアUK」が、テムズ川付近の5階建ての建物にリサイクルされたアルミニウムと堆肥でできた緑の外壁づくりに挑んでいます。使用されるアルミニウムは、ロンドン市民および市内の企業がリサイクル用ごみ箱に捨てた飲料用アルミ缶をリサイクルしたもので、壁面に植物を植えるために使用される堆肥は庭ごみをリサイクルしたものです。壁の建設にはアルミニウムは約2トン、堆肥は約1.5トンを要し、2021年の完成を目指します。街の環境をよくする(緑化を進める)ための資材が、市民から回収された廃棄物で賄われている点がユニークです。

2-5. 壊すときのことを考えて設計するサーキュラー建築

bureauSLAは建築家と建築史学者、都市設計家、エネルギー専門家からなるオランダの建築スタジオで、資源やエネルギー、廃棄物の潜在価値を最大限に高める建築プロジェクトを手掛けています。廃棄物全体のうち、建築・解体廃棄物の割合が大きく、一度使われた建材や資材は廃棄されてきました。そこで、bureauSLAはサーキュラーモデルの建物をデザインし、中古資材だけでクリーンで魅力的な建物を建設しました。建物が不要になったときのことを考えてからつくる・買うというサーキュラー思考を実践しています。

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3. 事例から学ぶ脱炭素化のポイント

建設・不動産業界の脱炭素化に向けた取り組みのポイントを3つにまとめました。

3-1. 環境負荷もコストも抑える工法を用いる

環境に優しく、かつ経済的な工法を採用することが大切です。たとえば、積水ハウスの事例のようにプレハブ工法の利点を活かすことで、可能な限りCO2排出量を抑えながらコストも抑えることができるほか、建設に必要な期間の短縮も見込めます。削減されたコストや時間を活用し、その住宅のエネルギー効率の向上や企業側のカーボンニュートラル化など他の部分でCO2排出量削減の方法を検討することができます。

3-2. 使用する建材や資材のサステナブル化を進める

CO2を吸収する木材やすでに廃棄物として捨てられたごみをリサイクルして資材に用いるなど、建材や資材のサステナブル化を意識することも建物を建設する上で考えるべきポイントです。また、建物を解体する場合を考え、建材を再利用できるようにするなど、なるべく建材すべてが廃棄物とならないような工夫が必要です。

【参考記事】サーキュラーエコノミー移行の要、サーキュラーデザインとは?

3-3. エネルギー効率を高める設計をし、自然エネルギーを活用する

断熱効果を高める設計にすることで、暖房の使用などを抑えることができます。省エネルギー型電気製品のための環境ラベリング制度であるエネルギースター(Energy Star)によると、床、壁、天井を完全に断熱することで、建物の年間総エネルギーコストを最大10%節約できるといいます。また、太陽光を室内に取り入れる設計にすることで照明の使用が抑えられるだけでなく、太陽から窓を通して室内に入ってきた熱が室内を温めるため、暖房の使用を節減できます。自然エネルギーを活用することが、脱炭素化への第一歩といえそうです。

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