脱炭素で出張はどうする?コロナ後もオンライン・オフライン会議をうまく使い分けるには
新型コロナウイルスの感染拡大を機に従来の働き方が見直され、在宅勤務やオンライン会議を活用するケースが増えています。「脱炭素」という観点から見ると、出張に伴う飛行機や鉄道、自動車などでの移動が減ることでCO2排出量が大幅に削減されますが、今後アフターコロナの社会になった時、出張の有無を含めた働き方はどう変わっていくべきなのでしょうか。
目次
1. 脱炭素化における、出張の削減。その意義とは?
2020年10月に菅首相が2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言しました。官民問わず、あらゆるセクターが脱炭素社会の実現に向けて努力することが求められます。
企業が脱炭素社会を実現する上でまず考えたいのが、自社がどれくらいのCO2を排出しているのか、「サプライチェーン排出量」を把握することです。サプライチェーン排出量とは、事業者自らの排出だけでなく、原材料調達・製造・物流・販売・廃棄など、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した排出量を指します。
サプライチェーン排出量は一般的にScope1からScope3に大別され、Scope1は事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)、Scope2は他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出、Scope3はScope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)が該当します。Scope3には従業員の出張や通勤なども含まれ、そこで発生するCO2についても計上していく必要があります。現在はコロナ禍でやむを得ず出張の機会が制限されていますが、脱炭素社会を目指す上では、そのような制限の有無にかかわらず出張ポリシーの見直しが必要になってくるのではないでしょうか。
コロナ前はビジネスや旅行で毎年40億人以上が飛行機に乗っており、航空業界のCO2排出量は、すべての離着陸で毎年約9億トンで、全世界のCO2排出量のほぼ3%を占めていました。2019年には、航空業の気候変動への影響の大きさから、飛行機に乗ること(=環境破壊に加担すること)を恥とし、鉄道など他の移動手段をすすめる「フライトシェイム(飛び恥)」という言葉が散見されました。日本の国土交通省が公表した、旅客輸送における輸送量あたりのCO2排出量に関する資料では、自家用乗用車と飛行機はそれぞれ鉄道の5~6倍となっており、脱炭素化を目指す上では、飛行機や自動車より環境負荷の低い他の移動手段の利用が好ましいといえます。
2.リモート会議のメリット・デメリット
出張の回数を削減するとなると、必然的にリモート会議の機会が増えます。リモート会議のメリットは、場所を選ばずに会議できるため、移動する際のCO2排出量や交通費を削減できることが挙げられます。移動時間が省けることはメリットではありますが、気持ちを切り替え、仕事の生産性を上げる上では移動時間は必要だという考えもあり、Microsoft社は、同社の提供するTeamsにバーチャル通勤時間の機能を追加しました。デメリットは、同じ空間にいないために空気感が伝わりづらく、特に初対面の相手とのリモート会議ではやりづらさを感じることが挙げられます。
一方、対面会議のメリットは、細かい意識の共有ができるため、相手との意思疎通が図りやすいこと、会議用資料の印刷の手間が省け、紙資源の削減につながることが挙げられます。デメリットは、移動時間がかかったり、移動する際のCO2排出量や交通費がかかったりすることが挙げられます。
リモート会議、対面会議はそれぞれメリットやデメリットがあり、環境負荷や仕事の生産性とのバランスを見ながら使い分けていく必要があります。リモート会議と対面会議を併用する場合、オフィスは出社する人がいることでこれまで通りの電力が必要となるうえ、リモートワークでは自宅での電力消費が増え、結果として余計に環境負荷が大きくなってしまう可能性があります。単にリモート会議と対面会議を併用する場合は、飛行機を使って移動しなければならないほど移動が長距離に及ぶなど、オフィスでの電力消費よりもCO2排出量が多い場合はリモート会議と併用する、といった基準を設ける必要がありそうです。
3. 出張や会議のポリシーを検討するためのポイント
出張や会議のポリシーをどのように決めればいいのでしょうか。検討するためのポイントを3つにまとめました。
3-1. 出張による環境負荷を測定し、出張の必要性の判断基準を作る
環境省はグリーン・バリューチェーンプラットフォームでサプライチェーン排出量の算出方法を公開しています。算出方法を参考に出張による環境負荷を測定し、開示している企業も出始めています。その値をもとに目標値を設定し、その達成のために「出張のために飛行機を使うか、電車を使うか、オンラインにするか」の基準を距離や期間ごとに作ることも一つの方法です。SMBCグループは、環境負荷データを自社ホームページ上で公開し、CO2排出量およびエネルギー使用量の削減に向けてどのような取り組みを実施しているかをまとめています。
英国のロイズ銀行は、同銀行全体のCO2排出目標を定めています。なかでも出張時に排出されるCO2については、2019年の50%以下に抑えるという具体的な数値目標を定めています。
3-2. ウェブシステムを活用し、出張を削減する
マイクロソフト社は、コロナ前に同社の従業員専用のフライトレーンが用意されていたほど、多くの従業員が出張しており、飛行機の利用によるCO2排出量は年間378,230tと、ブルンジ(289,000t)、サモア(147,000t)など一国が1年に排出するCO2よりも多い状態でした。そんなマイクロソフト社は、環境負荷の軽減や生産性の低下を考慮し、コロナを機にTeamsを使うよう推奨し、自社でも積極的にTeamsの利用を取り入れています。
3-3. エコな交通手段へのインセンティブを設ける
エコな交通手段に切り替えるため、飛行機の代わりに鉄道を使ったら福利厚生のインセンティブを設けるといった社内規程を設けることも選択肢の一つです。ロンドンに拠点を置く、英国ウェブ制作会社のWholegrain Digitalは、会社としてロンドン市内のフリーサイクルに登録し、社員のロンドン中心部の移動は基本的に自転車で行っています。また移動には出張には飛行機を使わないというポリシーを掲げ、代わりに鉄道を使う、リモート会議を実施するなど代替策を全社で推進しています。
▶︎英・Wholegrain Digitalに聞く。IT企業は本当の意味でサステナブルになれるのか?【ウェルビーイング特集 #2 脱炭素】
また、航空業界ではCO2削減のための取り組みが活発化しており、それぞれの取り組みから、優先する航空会社のマッピングも有効な手段でしょう。トランジットが多いチケットであると、その分CO2がかかってしまい、直行便との違いは100kgほど(冷蔵庫の1年間の使用程度)といいます。金額は安いのですが、そのバランスについても検討する必要があります。その他、以下のような点も見直す余地がありそうです。
- 出張先での電気自動車やハイブリッド車・シェアサイクルの使用
- eチケットとアプリの使用(紙を使用しない)
- できるだけ少ない荷物になるように工夫する
- 不必要な使い捨てプラスチックのアメニティを受け取らないようにする
3-4. 出張でかかったフットプリントの計測と寄付の仕組みづくり
どうしても必要な出張でかかったフットプリントを計測し、寄付できるプラットフォームがいくつかあります。これらのツールを活用することで、上述したサプライチェーン排出量の計算に役立てるだけでなく、1年分の出張のフットプリントを可視化し、PDCAに繋げたり、非営利組織との繋がりの構築にも貢献できます。
- Carbonfund.org:個人や事業で使った大まかなカーボン量に対してオフセットが可能。
- atomosfair:出発から到着までの空港を入力する使われたCO2が計測され、オフセットが可能。
- Cool Effect:飛行機での移動だけでなく、車での移動や宿泊にかかるCO2も計測される。オフセットも可能。
いかがでしたでしょうか。「出張の制限」と考えると苦しいですが、出張のマネジメントを行う企業EGENCIAは、出張のKPIとして旅行者のウェルビーイングを挙げています。例えば深夜便を使用したり、移動時間が多かったりするとウェルビーイングが下がってしまいます。環境への配慮・出張による効果・経済面での実現可能性、そして出張者の幸福度を総合的に考えるポリシーについて検討してみてはいかがでしょうか。
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