行動経済学でサーキュラーファッションを促進する6つのポイント

行動経済学でサーキュラーファッションを促進する6つのポイント

近年、サーキュラーエコノミーの発祥の地である欧州を中心に、サーキュラーファッションを標榜する取組が拡大しつつあります。ファッション業界が気候変動に与えている影響は大きく、その規模は世界の炭素排出量の10%を占め、国際航空・海運業界を合わせたよりも大きいと推定されています。また、消費者の衣服の保管期間は15年前の約半分になっており、約7-8回の着用で廃棄されるとの調査もあります。日本国内で1年間に供給される衣服は約35億着で、そのCO2排出量9500万トンは、世界のファッション産業から排出されるCO2の4.5%に相当します。

これに対する近年の動きとして、日本でも中古品売買アプリが定番化したり、洋服のサブスクリプション型サービスも少しずつ広まりを見せたりといった、サーキュラーファッション実現の素地となるような状況が見られます。2021年8月には、環境省の呼びかけを契機に、ファッション・繊維企業11社によるジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)が共同創設されるなど、日本においてもサーキュラーファッションに向けた取組が加速しています。

今回は、無意識に良い行動をするように促す行動経済学「ナッジ」を使ってサーキュラーファッションを促進する方法について解説します(これまでのナッジの事例紹介はこちら)。

サーキュラーファッションとナッジ

サーキュラーファッションを実現するには、「安く手軽に流行のファッションを取り入れたい」という消費者の購買態度や購買行動の変容も必要となるでしょう。とはいえ、消費者の洋服への期待や役割などの性質やその重要性、また実際の購買行動の動機や頻度などは人それぞれ異なり、決して同じではないと考えられます。そこで、現実的な人間中心的な設計で自発的な行動変容を促す「ナッジ」を活用できる余地は大いにあります。

ファッションと人の関わり:意味と機能

まずは、人間中心的な設計を実現するために、人がファッションに求めることについて見ていきましょう。私たちにとって、衣服を着るという行動は、外界の脅威から身を凌ぐという意味で生理的欲求を満たすためのものであると同時に、自分自身を表現するという意味で自己実現の欲求を満たすものとも言えます。

心理学者の神山進(1998)によると、ファッションには、(1)自己の確認・強化・変容、(2)情報伝達、(3)社会的相互作用の促進・抑制、という3つの機能があります。(1)の「自己の確認・強化・変容」機能とは、おしゃれをして自尊感情や自意識を高めたり、高級ブランドの服を着たりすることでイメージチェンジを図る場合など、自分を確認し、強め、変える働きのことです。(2)「情報伝達」機能とは、アイデンティティ、感情、多くの人が認める価値(健康、若さ、地位など)などの情報を衣服を通じて表現する働きのことです。 (3)「社会的相互作用の促進・抑制」機能とは、対人距離を適切に調整したり、対人関係を結ぶ際に相手を判断する手段として活用したりする働きを言います。

ファッションは、自己をより好ましい人物と他人にアピールするために提供されるイメージの一部(自己呈示)として活用され、自分の地位をより高く見せたり、権威があることを見せたいときにはドレスアップをしたり、逆に弱さを見せたい場合や助けて欲しい場合はドレスダウンしたりします。

このように、人は実に多様な意味を衣服に託したり、逆に衣服を通じてその人物を読み取ったりしています。そのため、購買態度や行動についても、多くの心理的要素が関わってくるのです。

サーキュラーファッション実現を阻む行動的要因は?

そのように非常に重要な意味を持つ「服を着る」という行動ですが、サーキュラーファッション実現のために必要なのは、「適切な量を入手する」「手に入れたものを活用しきる」「まだ活用できるものは廃棄せずに中古品として提供したり、自分も中古品を活用したりする」といったような行動だと考えられます。
これらの行動を阻害する行動的要因としては、

  1. 衣服の値段(初期費用)にのみ注目して全体としてのコストを考慮しない
  2. 服は新品のほうが良いというスキーマ(固定観念)
  3. 買ったあとにしまい込むなどして、その服を買ったことを忘れてしまう
  4. まだ活用できるものであってもリサイクルせずに捨ててしまう

ことなどが挙げられるでしょう。
こういった阻害要因に対処するためのナッジの例として、英国ナッジユニットBITが紹介している例を中心に、考えられるものをご紹介します。

1.1回あたりの着用コストをイメージできるようにする

1着あたりの価格が安いからと何着も買ってしまい、結局その服を着ることがほとんどないまま流行遅れになったり着る気が無くなったりして、また買い直してしまう…このような経験がある人は多いかもしれません。いくら服があっても、通常は1日に1着しか着られません。

となれば、着用の頻度と回数を掛け合わせて1回あたりの着用コストを示してみるのはどうでしょうか?例えば、シーズンが3ヶ月として、そのうち週に3回着る場合、週に1回着る場合、1ヶ月に2回着る場合、などいくつか想定して、その1回あたりの着用コストを提示しておくなど、消費者がその衣服に費やす現実的なコストをイメージしやすくする情報を示してはどうでしょうか。逆に、購入時には一見高額だと思えるものも、シーズンの間ほぼ毎日着るとしたら、1日あたりの着用コストはだいぶ低くなることがわかるでしょう。

このように、着用コストをイメージしやすくすることで、リサイクル品の利用やレンタルサービスの利用なども含めた代替案と比較検討することを促せるかもしれません。

2.表現を魅力的に

消費者が目にするラベルなどの文言にも工夫ができる可能性があります。ファッションから少し離れますが、サステナブルな食事を推奨するため、カーボンフットプリントの低い野菜メニューをなるべくお勧めしたいときにどのような文言が効果的か検証した実証実験があります。菜食の朝食メニューを「field-grown breakfast」(畑育ちの朝食)と表記した場合と「meat-free breakfast」(ミートフリー(肉なし)の朝食)と表記した場合とを比べたところ、「field-grown breakfast」(畑育ちの朝食)の注文が2倍になりました。たとえ中身が同じでも、どのような表現を用いて提示するかというちょっとした違いで人の選択がこれだけ大きく変わるのです。

これと同様に、サーキュラーファッション推進のため、洋服についている値段タグや店内の広告、CMやプロモーション時に消費者の心に届く魅力的な文言を使用することで、サーキュラーファッションを選ぶ人の割合を大きく増やせるかもしれません。

3.新たな常識を体感できる環境をつくる

サーキュラーファッションをニューノーマルとして体感できる場を作ることも重要です。イギリスのアパレル業者Asdaは、まだ着られる中古の洋服を店舗で販売しています。中古品といっても、新品と同じようにきちんとハンガーに吊るされた洋服はすべて、同社のサステナブルチームが厳選したデザイナーズものなどのヴィンテージで、その品質は新品と遜色ないものばかり。同社のサステナブル担当であるウィルソン氏は、「この取り組みを行うことで、お客様がヴィンテージやデザイナーズアイテムを手頃な価格で購入できるだけでなく、まだ十分活用できる品々に第二の人生を与えることができ、廃棄物の削減につながります」とそのメリットについて語っています。

また、協力企業であるPreloved Vintage Kilo社の運営責任者ライナム氏は、「サーキュラーエコノミーに賛同して、ヴィンテージ商品、レトロ商品を購入する人が増えれば増えるほど、気候変動に大きな影響を与えることになります。私たちは事業をビジネスとして行う中で、800トン以上の衣類を廃棄せずに済みました。このパートナーシップの拡大により、再利用がさらに拡大するでしょう」と期待しています。日本においても、新品と中古品が同等にポジティブに扱われるようになれば、リサイクル品活用の裾野の拡大が期待できます。

4.衣服にかかる環境コストを見える化する

スウェーデンのメンズウェアブランドAsketは、販売する衣服に実際にかかる環境負荷を示すレシートを作成しています。そこに書かれているのは、購入したアイテムの「原料生産、素材製造、製品製造、仕上げ、輸送」といったそれぞれの工程の「CO2インパクト(kg)、水(㎥)、エネルギー(mJ)」の内訳です。アパレルウェアブランドでありながら、服を何着も買うのではなく一着を長く使ってほしいというメッセージを出すとともに、消費者に対しても環境コストを共有することで、消費者としての責任(レスポンシビリティ)を考えてもらうきっかけとなることを目指した取組です。

5.購入した服の活用状況を尋ねる

また、洋服を着ずにしまいこんでしまうのを防ぐためには、次のような取組も考えられます。もし、購入者とのタッチポイントがある場合は、「購入いただいた服はいかがですか?」といったような、洋服を購入したことを思い起こさせるメッセージを送付することで、購入した服がそのまま使われずにおかれるのを防ぐことができるかもしれません。そのメールをきっかけに消費者の着用を促したり、あるいはその商品に関する消費者のフィードバックが得られる可能性もあります。

6.処分する場合の選択肢をいくつか用意する

たとえ入手時にいろいろ検討したとしても、もう自分では活用することがないと思う服もあるでしょう。その場合でも、ごみとして捨てる以外にいくつか選択肢があります。「資源ごみとしてリサイクルする」「リサイクルショップや中古品売買アプリで売る」の他にも、「購入した店の回収BOXに持参してもらう」という手段もあります。回収BOXの存在に気づいてもらい、利用を促すために、色や足跡のステッカーなどでナッジすることも考えられるでしょう。

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まとめ

ファッションは、自分自身の考えやイメージを表現することで心に豊かさや潤いを与えたり、自分の一部として社会的な役割を果たしたりといった、人間の文化にとって非常に重要な側面を持っています。ファッション界がサーキュラーに変化していくためには、移行するうえでの課題をあらゆる主体が共有しつつ、必要な変化を受け入れやすく提示して行動変容を促す必要があります。この分野でのナッジの活用はまだほとんどなされていませんが、今後活用できる可能性は少なくないと考えられます。

【参照サイト】ASDA “We’re launching a vintage clothes range as part of our sustainable fashion commitment”
【参照サイト】Vennard D., T. Park, and S. Attwood. 2018. Encouraging Sustainable Food Consumption by Using More-Appetizing Language. Washington, DC: World Resources Institute.
【関連サイト】環境省 サステナブルファッション

著者プロフィール

Kaori Uetake

ポリシーナッジデザイン合同会社代表。2010年横浜市役所入庁、スマートシティプロジェクトや省エネ行動促進ナッジプロジェクトに従事。2019年横浜市行動デザインチーム(YBiT)に行動科学担当として参画し、ナッジプロジェクト企画実施のほか研修講師や事業コンサルティングに従事。2021年ポリシーナッジデザイン合同会社を設立、国内外のナッジユニットや自治体、企業と連携して社会の最前線でのナッジ活用のサポートを行う。仙台市出身、2児の母。

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