資源循環を体感する店舗の事例まとめ・ポイントを紹介

資源循環を体感する店舗の事例まとめ・ポイントを紹介

サーキュラーエコノミーの原則の一つに「製品や原材料を使い続ける」が掲げられています。廃自動車の窓ガラスを回収してガラスの食器に作り替えるというような資源を回収しアップサイクルするという事例が増えてきたものの、アップサイクルする際の環境負荷の懸念や、アップサイクル商品の再資源化の難しさから、アップサイクルを「地球にやさしい」・「循環型モデル」と呼ぶことの危うさがあります。今回は、「製品寿命を延ばす」ことに焦点を当て、多くの商品を取り扱う小売店舗が生活者に資源循環の体験を提供している事例やポイントをご紹介します。

目次

1.加速する、店舗の「資源回収・詰め替え拠点」化

日本でのごみ資源の分別回収は1975年に静岡県沼津市が最初に取り入れたといわれています。その後分別回収のしくみは全国に広まり、近年は、従来であれば捨てられてきたプラスチックのガムボトルや化粧品の空容器までもが回収され、「モノを売る」場であった店舗が資源回収の拠点になってきています。

たとえば、イオンでは2021年5月に日用品や食品などの容器を回収、洗浄し再利用するショッピングプラットフォーム「Loop」の商品の販売を開始しました。利用者がLoopの商品を購入し使い終わった後、店舗に設置されたLoopの容器回収機で発行されるQRコードを使用済み容器に貼り付け、利用者のLoopアプリでスキャンした後に容器を投入すると、2週間程度をめどにアプリ経由で容器代が返却される仕組みになっています。

ロフトでは「容器回収リサイクルプログラム」を開始し、店舗で対象の化粧品容器を回収しています。

資源回収だけでなく、店舗で商品の中身を詰め替えるしくみも登場しています。資生堂では「Sustainable Beauty Actions」を始動させ、店舗で商品のボトルを詰め替えるサービス「アルティミューン ファウンテン」を開始しました。

またテラサイクルなどがさまざまな業界・セクター向けに資源回収のプラットフォームを提供し、このような回収システムを支えています。

2. 製品寿命の延長に貢献する店舗事例

前章で見たように、店舗が資源の回収や詰め替えの拠点となる事例は増えてきたものの、資源を回収し、アップサイクルのみに帰結する場合、アップサイクル過程での環境負荷や、アップサイクル商品を使い終えた後の資源循環が課題となります。そこで、最近は製品寿命を延長し、同じ商品を長く使い続けるためのヒントを小売店舗が生活者に提示するケースが増え始めており、本章ではその事例をご紹介します。

2-1. 資源循環の裏側が分かるBOOK OFFの「REMARKET」

BOOK OFFではリサイクル工場に持ち込まれた廃棄物を新しい素材とみなして「マテリアル」と呼び、「廃材の図書館」として棚に並べたり、瓶に詰めたりして陳列しています。陳列されたマテリアルは、一部を除き購入することもできます。

また、REMARKETではマテリアルを使用した「モノをつくる」「モノを解体する」体験型イベントのワークショップが開催され、モノと触れ合う楽しさや、モノを分解する過程ではモノのしくみを学ぶことができます。

REMARKET『使い方を創造し、捨て方をデザインする』

2-2. 家具の第二の人生を提案するイケア「Circular Hub」

イケア・ジャパンは、家具に第二の人生を与え、顧客にサステナブルな暮らしのアイデアを届けるスペース「Circular Hub」をIKEA港北にオープンしました。顧客から買い取ったイケアの家具や展示品を購入できるほか、従業員による家具の組み立てを見学できるコーナーや、商品のメンテナンス方法などに関するワークショップ「Learn & Share area」を設け、顧客がより簡単かつ手頃な価格でサステナブルな暮らしを実現できるよう提案しています。

2-3. 中古品販売と修繕を行うパタゴニア「Worn Wear」

パタゴニアの「Worn Wear」プロジェクトでは、ミシンを積んだトラックで各地を回って服の修繕を行ったり、使用済みのパタゴニア製品をオンライン上で取引するプログラムを提供したりしています。先着順でパタゴニア以外の製品も無料で修理してもらうこともできます。

同プロジェクトのポップアップ店舗では、使用済みの製品だけでなく修繕不可能な衣料品をスクラップして作られたバッジやジャケット、ベストなどの商品も置かれ、ステッチングなど修理やアップサイクルの方法を教えてくれるワークショップも開催されています。

2-4. H&M店舗内の“見える”リサイクル工場

H&Mは、ストックホルムの同社店舗内に古い衣服を新しいファッションアイテムにリサイクルするシステム「Looop」を導入しました。Looopは、持参した古着を機械に投入すると、繊維化や洗浄の工程を経て、数時間後には新しいファッションアイテムに生まれ変わるというもの。服を「捨てる」という考えをなくすためのH&Mの新たな挑戦として、注目を集めています。

2-5. モノを買わない消費者の心をつかむ“アフターケア・サービス”

オランダのデニムブランド「Denham」がGINZA SIX内にオープンした店舗では、同ブランド専任のデニムスペシャリストがジーンズを洗浄する様子を見ることができます。店内には無料のコーヒーバーが併設されており、自分のデニムが乾くまでコーヒーを片手にゆっくりとくつろげます。一つの商品への愛着が増すようなアフターサービスを提供することで、製品寿命を延ばし、ブランドへの愛着や信頼を高めることにつなげています。

モノを買わない消費者の心をつかむ“アフターケア・サービス”

3. DXの文脈に留まらない「売らない店舗」とは

最近では店舗の役割が変容しつつあり、「売らない店舗」が注目を集めています。DXの発達によりネットショッピングが主流になりつつある今、店舗は試着や商品を実際に目にするショールームのような役割を担い、実際商品を購入するのはネットで、というような棲み分けが出てきました。たとえば新宿マルイアネックスにある「ワコム」では商品が購入できず、体験のみ可能です。

しかし、「売らない店舗」はデジタル化のための手段としてだけでなく、前章までにご紹介したような資源回収から修理、詰め替えといった資源循環の体験や知識を提供する場としての役割も増しており、リアルな体験をもってサーキュラーエコノミーへの理解を深める動きが国内外で見られるようになっています。また、このような店舗設計では、修理や詰め替えのために利用者は何度も店舗に足を運ぶことになり、ブランドへの理解や愛着が湧くというメリットも考えられます。今後は、ブランドのもつストーリーの理解をさらに深め、ロイヤルティが高まったり、商品を所持することの充足感を感じてもらえたりするチャンスに繋げるような店舗設計が求められていきます。

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