企業とNPOの関係をリデザインする「寄付」のニューノーマルとは?-BDL勉強会レポート#5
気候危機や資源枯渇、貧困・格差など様々な社会課題が山積するなか、複雑に絡み合う構造的な課題を解決に導くためには、リアルな社会課題の現場に精通したNPOと、解決リソースを持つ企業との有機的なコラボレーションが欠かせません。企業・NPO連携の手段として「寄付」に取り組んできた企業は多いと思いますが、どの社会課題に取り組むか、どのNPOと連携するか、悩みを抱えている企業も多いのではないでしょうか。
一方で、社会課題解決に必要な資金を集めるために企業からの寄付を集めたいものの、思うように企業にアプローチできていない、ただ寄付をいただくだけの関係性で終わってしまっている、パートナーとしての持続的な関係性を築けないという課題を持つNPOも多いのではないかと思います。 本来は企業とNPOの間で資金やナレッジなどのリソースが循環し、共創関係の中で社会課題解決に取り組んでいく形が理想なのですが、理想的な連携の実現にはハードルが多いのが現状です。
そこで、今回のイベントでは、NPOのためのファンドレイジングサービス「コングラント」代表取締役・アクトコインを運営するソーシャルアクションカンパニー株式会社代表取締役でもある佐藤正隆氏と、クリエイティブの力で社会課題解決に取り組むドキュメンタリストの高島太士氏をゲストに迎え、NPOと企業の両方がつながりあえるような、これからの時代に求められる「寄付のニューノーマル」について紐解いていきます。
登壇者
佐藤 正隆氏(ソーシャルアクションカンパニー株式会社 CEO / リタワークス株式会社 CEO)
IT業界で培った経験とソーシャルビジネスに特化したサービスで大阪・東京で2つのIT企業を経営。2008年設立のリタワークス株式会社は「利他の想いと行動で、世界をより良くする」という理念を掲げ、非営利業界・病院業界に特化したソーシャルビジネスを展開し、コングラント(https://congrant.com/jp/)をはじめ多くの顧客にサービスを提供。大阪府のベンチャー成長プログラム「booming!」に2年連続で採択され、毎年着実に成長し続けている。2018年に設立したソーシャルアクションカンパニー株式会社はアクトコイン(http://actcoin.jp/)を開発・提供。個人の社会貢献を可視化し、幸せと繋がりなどの新しい価値を創出していくプロジェクトとして社会実装に挑戦。
高島 太士氏(一般社団法人 NEW HERO 代表理事)
株式会社1979年 大阪生まれ:演出家、ドキュメンタリスト。
人の一度しかない瞬間や感情を引きだし、映像に切りとる。心を動かす強さと透明感のあるメッセージが特徴。ソーシャルグッドに特化した演出で、これまで手がけた作品は国内はもとより海外広告祭での受賞も多数。代表作はP&G パンパースの「ママも1歳、おめでとう。」など。長年にわたり広告で培った表現手法やアイデアを、社会課題解決の分野に応用し、人の心に届くストーリーをひとつでも多く生み出すことに時間を費やしている年2月一般社団法人NEW HEROを設立、クリエーターの目線から社会課題解決にアプローチするため、ソーシャルアクティビストとクリエーターが繋がるコミュニティの運営などを行っている。
目次
1.NPOに求められるアップデート
従前、企業とNPOは遠い存在でしたが、「ソーシャルビジネス」や「社会課題解決」が謳われるようになり、企業とNPOが連携することの重要性が増してきています。しかし、連携するにあたり、NPOが今後アップデートしていく必要のある問題がいくつか見受けられます。
1-1.情報の可視化
まず企業側が「どこに寄付したら良いかよく分からない」という問題があります。たとえば企業が、ある課題の解決のために従業員から募金を集め、その課題の解決に取り組むNPOに従業員から集めた募金を寄付したいとします。しかし、どのNPOがその課題の解決に取り組んでいるかといった情報がほとんどないため、中間支援団体のNPOに寄付せざるを得ないのが現状です。NPOとしては、多くの人の目に触れ、分かりやすく伝えるコミュニケーション方法を検討することが重要です。
1-2.経営面の強化
NPOも、「経営のことはよく分からない」と匙を投げるのではなく、経営について勉強し、強化していく必要があります。上手くいっているNPOは、経営やマネージメント、組織づくりができています。企業と連携する際、経営やマネージメントができているかという点も企業側から見られているため、今後はそういった点もアップデートしていかなければなりません。
1-3.3ヶ年計画
「○○がかわいそうだから、○○の問題に直面していて困っているから、寄付してください」というような、情に訴える方法では、その課題の解決のためにどれくらいの寄付が必要なのかが伝わりません。たとえるなら、「山に登りたいのはわかるけれど、高尾山なのかエベレストなのか分からない」という状態です。企業が公表する3ヶ年計画のように、3~5年後に何を達成したいか、そのために寄付金が○○円必要で、○○の人材が必要だというように計画を立て、公表することが必要です。
2.寄付の「これまで」と「これから」
人はなぜ寄付をするのでしょうか。佐藤さんは、「寄付することで嬉しい気持ちになったり、繋がりが生まれたりするので、金銭的対価とは別のリターンが得られる」と言います。自分のスキルを使って寄付先のNPOに貢献できたことを対価と捉える人もおり、寄付の対価をどう捉えるかは人によってさまざまです。
高島さんは寄付のニューノーマルの仮説として、「寄付&テイク」を提唱します。寄付によって生まれた関わりで想像以上に心が躍らされる体験を寄付者に提供することができれば、持続可能な団体になれるのではないか、という仮説です。
寄付の「これまで」(従来の寄付のあり方)と寄付の「これから」(今後の寄付のあり方)について、以下の表にまとめています。
従来の寄付は、金銭的に余裕のある人が困っている人を助けるといった、一回寄付したら関係性が終わってしまうような、一方通行な関係性でした。
「ニューノーマル」な寄付のあり方が実現すれば、単なるモノの行き来だけでなく、寄付したら寄付先からも金銭的対価以外の何かが返ってくるような、温度感のある寄付に変わっていくのではないでしょうか。また、従来は寄付先からの情報提供といえば活動報告書だけでしたが、それだけでなく、さまざまな情報発信やイベントの開催など、寄付者を巻き込み、繋がりを持ち続けるような方法が考えられます。NPOに関わる選択肢として「寄付」しかないNPOが多いですが、プロボノなど色々な選択肢が増えると良いのではないでしょうか。いかにNPOは寄付者を巻き込み、双方向型のコミュニケーションを取れるかが問われます。
今後の寄付のあり方を考える上で外せないのが、オンラインの活用です。オフラインでのコミュニケーションであれば伝わるものも多いですが、コロナ禍でオンラインに移行せざるを得ません。オンラインの活用が上手なNPOは支援を増やしており、オンラインをどのように活用できるかが鍵となってきます。
本イベント中には、寄付の「これまで」と「これから」を考えるオンラインワークショップも行われました。「寄付することで、その社会課題がジブンゴトとなるようなやり方が必要ではないか」「複数のNPOが寄付者を奪い合う構図ではなく、NPO同士で横の繋がりも強化できたら良いと思う」「『寄付』という言葉自体に『与えてあげる』というニュアンスが含まれているように思うので、寄付に変わるニューノーマルな言葉を考えたら良いのではないか」といった意見がありました。
3.寄付の「ニューノーマル」への備え
では、今後の寄付のあり方はどう変わっていくべきでしょうか。いくつかの視点の中から、ここでは3点にまとめてご紹介します。
3-1.課題よりも、「人」を中心にしたエンタメを見せる
寄付の前に、まずNPOのことを知ってもらうことが重要です。事業内容の紹介で終わるのではなく、どんな人が働いているのか、どのような想いを持っているのかといった、NPOで働く「人」に焦点を当てます。課題などのネガティブな要素ばかりを伝えるよりも、NPOでがむしゃらに頑張る人の様子を見て、勇気が湧いて寄付する方もいるのではないでしょうか。その人のファンになるエンターテインメントとして、サードプレイスのような居心地の良い場を提供することにより、NPOとの緩やかな接点をつくることも考えられます。
3-2.寄付の新しい市場をつくる
現在、認証NPOは約5万、認定NPOは約1,100ほど日本に存在しますが、その上のランクはありません。佐藤さんは株式会社でいうと株式上場のように、NPOの中でも「認定NPO」よりさらに上の評価をつくり、寄付先をファンドレイズできるような、まさしく「ニューノーマル」な基準をつくっていきたいと考えています。
3-3.企業とNPOの枠組みを超えて「社会の公器」と捉える
企業が社会課題の解決に直接足を踏み入れにくい一つの理由として、課題が細分化されすぎているためにマーケット自体が小さく、リターンも小さいとみなされていることがあげられます。しかし、小さな課題に取り組むNPOとタッグを組むことで企業の付加価値を上げていくことができます。企業やNPOを「社会の公器」と捉え、お互いに巻き込みあいながら一緒に社会を創り上げていくという意識が必要なのではないでしょうか。
いかがでしたでしょうか。ニューノーマルな寄付のあり方についてご理解いただけたかと思います。企業とNPOそれぞれが既存のあり方を超えて協力しあい、新しい寄付文化を創ることで、社会がより良い方向に向かっていけるのではないでしょうか。
4.企業とNPOが連携を強化する方法をもっと知るには?
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