「環境活動家をなくしたい環境活動家」が考える、社会課題解決のためのコミュニケーションとは?

「環境活動家をなくしたい環境活動家」が考える、社会課題解決のためのコミュニケーションとは?

記者・ライターとして、サステナビリティについて「伝える」ことが筆者の仕事。一般的に「善」だと思われていることの多いサステナビリティを伝えることは、社会にとっても必要だと思いがちだ。しかし、あくまで「伝えたい」というのは、書き手のエゴとも言える。

筆者の場合は、書き言葉でサステナビリティについて伝えているが、話し言葉で気候危機について多くの人に伝えているのは、今回取材をした露木しいなさん。

露木さんは、インドネシア・バリ島にある「グリーンスクール」の卒業生で、現在は日本の大学を休学し、全国の学校で講演をしている環境活動家だ。グリーンスクールは、教育内容のみならず、校舎の素材や造りなども環境に配慮し、自然や人との「つながり」をコアバリューに掲げているインターナショナルスクールである。詳細については、こちらの記事をご覧いただきたい。

インドネシア・バリ島にあるグリーンスクール
インドネシア・バリ島にあるグリーンスクール

この記事では、露木さんがエゴだとわかっていながらも、試行錯誤して実践している社会課題の伝え方をお伝えしたい。企業の広報の方やNPOで働かれている方にとって、ご自身が関わっている社会課題を広める際のヒントを得たり、それ以外の方も、露木さんのパワフルさから、なぜだか元気をもらえたりするだろう。

露木しいなさん
露木しいなさん

同年代から学んだバリ島での3年間

露木さんは、神奈川県横浜市生まれで、中学校までは地元の学校に通っていた。小さい頃から自然が好きで、長野県で山村留学もしていたという。環境問題について知ったのは、グリーンスクールに留学した時だった。

「バリ島でごみ山を見に行った時に、環境問題と言われるものが本当にあるんだと知りました。気候変動の問題と直結の因果関係ではないですが、ごみ山を見たことが環境問題を知った一つのきっかけです。多くのごみを目の前にして、自分の日々の選択、選ぶという行為が、環境に負荷をかけてしまっていることに気が付きました。」

グリーンスクールで環境問題に関心を持ち、在学中には妹の肌アレルギーをきっかけにエシカルな手作りコスメワークショップも始めた露木さん。グリーンスクールで受けた起業家精神を養うための授業やプロジェクト、またオフグリッドやコンポストなど自然との調和を大事にする学校生活全体を通じて、環境問題に関心を持ったという。多くのことを学んだ中で、グリーンスクールに留学して一番良かったことは何だろうか。

口紅作りを研究している
口紅作りを研究している

「『何かを始めるのに大人になるまで待たなくていい』ということです。お金儲けより、世の中にある問題を解決したいという想いから、NPOを運営したり、起業したりしている友人が周りに多くいました。彼ら彼女たちを見ていると、自分にもきっとできると勇気が湧いてきました。なので、学校の先生から学ぶというよりは、同級生から肌で感じるものが多かったなと思います。一番インスピレーションをもらえるのは、年齢の近い同世代であることが多いですね。国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)に一緒に出席したスウェーデンの環境活動家グレタさんも、その一人です。」

環境問題が現実に存在することや、その原因が自分の日々の選択にあることを肌で感じたバリ島で、同年代からインスピレーションや勇気をもらい、共に学んだ3年間の経験は、今の露木さんの活動に直結している。

グリーンスクールでの同級生たち
グリーンスクールでの同級生たち

講演会では等身大の生き方を伝える

日本に帰国後、「すべては知ることから始まる」と考えた露木さんは、2020年11月から全国の学校で気候変動について講演をしている。対象者は露木さんと同世代。それは、「自分の強みを最大限に活かせるのは、同世代や近い年齢の人に話すこと」だと感じているからだという。

講演内容は、大きく分けて環境問題と自身のキャリアのことだ。具体的には、グリーンスクールでの生活から国連COPに参加したこと、手作りコスメワークショップまで幅広い。

その中でも大事なメッセージの一つは、「消費者の選択が地球を変える」ということ。

「日々のすべての無意識の選択に、思いやりがあれば気候変動も解決できると思っています。世の中で一番権力がある人は誰かと考えた時、消費者なんです。消費者として日々無意識にしている選択に目を向けることができれば、できることが無限にあります。環境問題を自分ごととして考えるようになるには、普段何気なく消費している食べ物や商品などを、まずひとつ手に取ってみて、どういう工程を経て作られているのかを知ることが、一番早いのではないでしょうか。グリーンスクールの在学中に開発したコスメキットも、環境について知ってもらうきっかけづくりで始めました。ただその手段が、その時、その時代によって変わっていくと思います。」

そして、学生たちに新しい生き方を考えてもらうため、講演中にはキャリアについても多く話す。

「自分みたいな生き方、女性でこの年齢でこういう活動をしている人は多くないので、私の話が誰かのインスピレーションになったり、こういう生き方もあるんだと思ってもらえたりしたら嬉しいです。」

グリーンスクールで同級生から多くの刺激を受けた露木さんらしく、今後は自分がそんな存在になるべく、同世代に語り続けているのだ。

国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)に出席
国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)に出席

市民運動や社会変革は3.5%の人が賛同すると成功する可能性が高いと言われる。そのため露木さんは、活動を始めた当初は「日本の中高生の約600万人のうち、21万人に気候変動のことを伝える」という目標を掲げていたが、活動をするにつれて、活動の指針についても変化していったという。

「最近は中高生に限らず、小学生から大学生までにお話をさせてもらっているので、どれだけ多くの人にお話しを届けられるかというよりは、実際に行動してくれる人が増えるかどうかを重視しています。そのため、講演をして終わりではなく、その後生徒さんと継続的につながり、実際に行動できるコミュニティを今作っています。」

現在は、一度でも露木さんの講演を聞いた学生なら参加できるコミュニティ「エコロジーの集い」を作り、それぞれのメンバーが自分の強みを活かし挑戦できる場所を模索している最中だ。

「楽しい」から伝わっていく

2020年11月から始めて、2021年3月時点で約80校で9000人以上を前に講演をしている露木さん。講演会後、環境問題に興味を持ってくれる人やそうでない人など反応は様々だが、年齢が近かったり同じ学生という立場だったりするため、話を理解してくれる生徒さんが多いという。中には、小学生が企業にプラスチックのパッケージについて問い合わせをしたり、家の電力を持続可能なエネルギーに変えたりするなど、実際にアクションを取ってくれる人もいるそうだ。

一方で、ジレンマを感じることもあると言う。

「講演をした直後、生徒さんが変わってくれるとか、二酸化炭素排出量が削減するとかいうものではなく、講演という手段は、環境問題に対してすぐに答えを出せるものではありません。しかし、そもそもすぐに答えが出るものは世の中に少ないので、地道でも多くの人がやり続けることによって成果が出るんだと思います。だから、すぐに答えを求めようとしないように気をつけています。」

講演の様子
講演の様子

露木さんはモヤモヤを抱えながらも、着実に想いを届けた人の数を増やしている。その中で、「伝える」ことの難しさも感じているという。

「やはり伝えることは、すごく難しいことだと感じています。自分が伝えていることと相手が受け取る内容はそれぞれ異なります。そのギャップを埋めることや、そもそも環境問題に関心がない人に興味を持ってもらうことは、すごくハードルが高い。だから、伝えた後、関心を持つか否か、行動するかどうかは、個人の自由なので、その人を説得しようとは思っていません。組織の中で2対6対2の法則があります。関心・無関心・その間の層をこの法則で分類すると、6割の人は環境問題について今はあまり関心のない人です。その人たちがもっと積極的に関心を持つと、全体の8割が関心のある人になり、残り2割の環境に興味がない人も関わらざるを得ない環境になっていくと思っています。だから、無関心の人をわざわざ説得するよりは、どちらでもない人にもっと関心を持ってもらい、関心のある仲間をどんどん増やしていきたいなと思っています。」

「もちろん講演をした後に行動に移してくれる人がいたら、それはとても嬉しいです。一方、人に環境問題について伝えたいというのは、自分のエゴじゃないですか。それでもやるのは、そもそも自分がやっていて楽しいからです。そして、私の想いに共感してくれる人がたくさんいるからこそ、今活動ができています。」

講演後の様子
講演後の様子

「伝えたい」のはエゴでもありながら、続けているのは、それが「楽しい」から。講演でもよく聞かれる質問の一つが、「その笑顔はどこから来ているのか」だという。

「環境問題は深刻であることに変わりはないけれども、私はそれをずっとニコニコして話しています。私の性格的に、楽しいことしかできないので。大人は、深刻な顔をして辛い仕事をしている、やりたくないことをやらされているというイメージを、今の若い世代の人たちが持っていると感じました。だから、私を見た時に小学6年生の男の子からそんな質問が出たんだと思います。私は、自分のやりたいことを楽しく活動にしているという話をしています。」

最後に、「人に伝える時に大切にしていること」を聞いてみた。

「『寄り添うこと』ではないでしょうか。相手を理解するうえで、思いやりを持った選択が大事だと思います。何を発言するかも、選択です。思いやりを持って相手のことをきちんと理解した上で発言しないと、『環境問題が危機的状況だから、行動しなさい』と言われても行動したくないですよね。環境問題に興味がない人を説得して変えなくてもいいと思います。興味ないのですから。人数分の答えがあると思っているのでそれはそれで正しいと思います。」

自然が大好きな露木さん
自然が大好きな露木さん

社会課題について語る時や日常の中で誰かと話す時、つい自分の「正義」を押し付けてしまいがち。しかし、「正義」は時代や個人によっても変わってくるものだ。露木さんはそれを理解しているからこそ、自分を特別視せずに、同世代の人と学校の休み時間に何気ない会話をするようなカジュアルさを持って、話すことができているのだろう。

編集後記

「もしも『環境活動家』という肩書きがない世界に生まれたら何をしたいですか?」と質問すると、一瞬驚きながらもワクワクしたような顔で答えてくれた。

「え、何をやりたいのか、その答えを考えたことはないですね。でも、自然が好きなので、畑をやりたいかな。おばあちゃんから昔のレシピで作るご飯を学ぶとか、大好きです。」

時代が環境活動家を必要としているからやるという「使命感」からというよりも、「楽しい」から今の活動をしているというのがよく伝わる応えだった。人は、何かに夢中になっている人のことを応援したくなる。だからこそ、露木さんに全国から講演依頼が殺到しているのだろう。

また、露木さんが挑戦している社会課題の伝え方にも共感する部分が多かった。「伝える」ことは、ときにエゴでもあるからこそ、受け手がそれを読んで、見て、聞いて、どう感じるのかに想いを馳せるのを忘れてはいけない。

それを心得ながら「伝える」活動をする露木さんは、全国の学生に「自分の好きなことに夢中になって良いんだよ」というメッセージも広めている。

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事となります。

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