サステナブル企業の「軸」が伝わるコミュニケーション戦略-BDL勉強会レポート#3

サステナブル企業の「軸」が伝わるコミュニケーション戦略-BDL勉強会レポート#3

最近では、数多くのメディアを通して、「サステナブル・ブランド」や「コミュニケーションデザイン」といった言葉を耳にするようになりました。環境汚染や地球温暖化の問題が深刻化している今日では、サステナビリティを意識して会社経営を行うことは、社会的信用を得るための必須条件になっています。一方で、顧客やステークホルダーへの伝え方によっては「SDGsウォッシュ」などと批判されるリスクもあり、どのようなコミュニケーションを取るべきなのかは重要な課題です。

本イベントでは、今回はソーシャルグッド専門のPRエージェンシーとして多くの企業やNGOのPRを手がける傍ら、社会課題データをアートにする「Chart Project」など、クリエイティブなコミュニケーションを展開しているひとしずく株式会社代表のこくぼひろしさんと、グラフィック、建築、経営コンサルティングなど幅広い分野で、課題のその先を見据えたチャネル設計・デザインを行うデザイン事務所であるセイタロウデザイン代表の山崎晴太郎さんをお招きし、サステナビリティを意識した企業(サステナブル・ブランド)の確立方法について、特に「コミュニケーションデザイン」という観点について伺いました。

モデレーター : こくぼ ひろし氏(>ひとしずく株式会社代表、PRコンダクター)

こくぼ ひろし氏
社会課題解決に取り組む人を後方(広報)で支える。「脱炭素(カーボンフリー)」の社会デザインに取り組む。一般社団法人チャートプロジェクト 理事、一般社団法人RELEASE; ディレクター。

スピーカー : 山﨑晴太郎氏(株式会社セイタロウデザイン代表、アートディレクター、デザイナー)

山﨑晴太郎さん
京都造形芸術大学芸術修士。企業・サービスのブランディングを中心に、グラフィック、WEB、空間、プロダクトと多様なチャネルのアートディレクション・デザインワークを手がける。アジアデザイン賞、IFデザイン賞、グッドデザイン賞金賞など国内外の受賞多数。各種団体主催のデザイン賞審査委員や省庁の有識者会議検討委員を歴任。FMヨコハマ「文化百貨店(毎週日曜2430−2500)」メインパーソナリティー。NPO ATRSWORKS理事。東京2020組織委員会スポーツプレゼンテーション・クリエイティブアドバイザー。

コミュニケーションデザインの概念を考えるまえに。そもそもデザインとは?

最近では、コミュニケーションデザインや組織デザインのように「デザイン」という言葉が流行していますが、そもそもデザインとは何かを理解している人は少ないかと思います。

デザインで意識すべきことは、「伝える」と「伝わる」の違いを理解し、受け手に気持ちよく価値観が伝わっているかということです。例えば、ある人が友達を紹介する時に、情報の受け手にとってはその友達が「お金持ちでいい人」くらいの認識に集約されるにもかかわらず、伝える側は本質的でない情報も伝えすぎてしまうことがあります。

伝える側になってしまうと、受け手の視点が見えにくくなり、「伝わる」のではなく「伝える」ことを意識してしまう傾向があります。受け手の視点を取り入れたデザインには、企業独自が持つ「軸」を意識することが欠かせません。

優れたコミュニケーションデザインとは、企業の「軸」を言語化し、企業に関わっている人の腑に落ちている状態のことを指します。

ひとしずく株式会社代表 こくぼひろしさん

企業の「軸」を見つける方法

デザインの本質を理解した上で、サステナブル・ブランドを確立するためには、企業独自の「軸」を見つける作業プロセスが必要になります。「軸」を見つけるためには、すでに言語化されている部分と曖昧になっている部分の両方を洗い出していくことが重要です。

曖昧な部分を洗い出すためには、言語化できていない部分を1つ1つ丁寧に棚卸していく作業が必要になります。丁寧に棚卸作業を行うことで、理念と行動のズレを発見することができるでしょう。

例えば、サステナビリティを推進したい企業との打ち合わせで、その企業の方からペットボトルのお茶を手渡されるとズレを感じてしまいます。特にサステナビリティの領域においては、企業の理念(マインド)と行動にズレがあるときのショックが大きく、そのブランドが好きだった消費者にとっては裏切られたように感じてしまうことがあります。

今はネット、口コミ、ポップアップストアなどブランドに出会うさまざまな種類のタッチポイントがあります。それぞれの出会い方でズレがあると、そのブランドのことが理解できなくなります。ズレのないように企業の価値観をデザインすることで、一本芯の通っている「軸」を作ることができます。

サステナブル・ブランドの確立に欠かせない。ブランディングのプロセス方法

価値観が多様化している昨今では、「軸」となる1つの言葉で社内がまとまることは難しいです。そうした中で企業の軸を統一するためには、言葉ではなく、企業を1人の人格として作っていく必要があります。その人格を形成するためには、人事制度などで共通の「価値観」「行動」「見た目」のデザインを行うことが重要です。この3点を一貫させるためにも、社内のコミュニケーションを円滑につなぐことを意識したいです。

そんな企業の人格となる「軸」を作っていくのに適している部署は、「役員」「広報」「経営企画」の3つ。これら3つの部署が適しているのは、組織を横断する力があり、俯瞰的に軸を捉えることができるからです。

企業の「軸」を浸透させ、サステナブル・ブランドを確立するためには、この3つの部署を中心に組織の末端まで価値観が浸透するようにデザインすることが大切になります。組織内に価値観(軸)が浸透すれば、それが外部に溢れ出て、自然と周りにファンがついてくるのです。

企業の「人格」を作ること
企業の「人格」を作ること

組織のリブランディングに欠かせないスキル

多くの企業は、すでに何らかの軸を持っており、ブランディングが確立されている状態がほとんどでしょう。そのリブランディングの際に中心となる人が持っておくべき重要な素質としては、周りから話しかけられやすく、情報が自然と集まってくる状態を意図的に作れるコミュニケーション能力です。情報が自然と集まってくるような人であれば、どのようなアプローチで軸を浸透させると効果的なのかを判断することができます。

また、高いコミュニケーション能力がある人は、軸を浸透させる際に「この人に言われたなら仕方ない」と思われるポジションを確立しやすいので、組織のリブランディングには欠かせないスキルになっています。

その他には、「ポジティブさ」も欠かせないスキルとして挙げられます。前向きに企業を変革しようとする人がいれば、徐々にではありますが、企業内部に浸透していくからです。

メンバー全員が「軸」を意識して、円滑に回っていくチームの形とは

メンバー全員が「軸」を意識して動くためには、ROI(投資費用に対してどれくらい利益が返ってきたのかを判断する指標)を設定するのが理想的です。数字で計れる目標設定を行うことで、追いかけるべき目標が明確になり、メンバーのモチベーション維持につながります。

しかし、一方で数字ばかりを見ていると、数字の間にある価値(数字では測れないが感じられる価値)を見落としてしまいます。感じられる価値を見落としてしまうと、理念と行動がずれてしまう恐れがあります。理念と行動のズレをなくして、一貫した「軸」を追求し続ける企業が理想的なチームの形と言えるでしょう。

セイタロウデザイン代表 山崎晴太郎さん
セイタロウデザイン代表 山崎晴太郎さん

サステナブル・ブランドの確立に成功している企業

ここまでは、サステナブル・ブランドを確立するためのコミュニケーションデザインの方法についてご紹介してきました。ここからは、実際にサステナブル・ブランドの確立に成功している企業の例をご紹介していきます。

パタゴニア

パタゴニアは、高性能なアウトドアウェアを販売しているグローバル企業ですが、「故郷である地球を救うためにビジネスを営む」というミッションを掲げる環境に配慮した企業として知られています。「レジ袋をもらわずに、商品を手で持ってストリートを歩く際に、ブランドの一員になっているかのような感覚がある」と山﨑さんは言います。それは企業の発信したいブランド力が店舗の細部にも浸透しているからこそ、消費者にも伝わっているのです。

Instock

オランダのアムステルダムにあるInstockは、捨てられるはずだった食材を活用して、料理を提供するレストランです。Instockはサイトや店舗もおしゃれなのでソーシャルグッドでありながらもデザインもかっこいいという、我慢ではなく、「行きたい」と感じさせるようなお店づくりを徹底しています。Instockは、サステナブル・ブランドを確立する上で大切な「伝える」と「伝わる」の違いを理解した上で経営を行っていると言えます。

マザーハウス

マザーハウスは、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」とコンセプトに掲げて、レザーやジュートなどの素材を用いて、モノづくりの生産から販売までを行っている企業です。マザーハウスは、「おしゃれなカバンが欲しい」という欲望に対してアプローチし、その後に「途上国の人々への貢献につながる」というソリューションにつながるようデザインしています。人は感情(欲望)で動くことを理解した上で、ソーシャルグッドなビジネスとしてデザインしていることが重要です。

BtoBの会社をサステナブルに変えていく方法

メディアなどで取り上げられている、サステナブル・ブランドの確立に成功している企業の多くは「BtoC」の企業だと思います。BtoCであれば、消費者に直接アプローチすることが可能なため、サステナブル・ブランドの構築がしやすいという特徴があります。

しかし、BtoBを行っている企業でもプロセスを意識することで、サステナブルに変えていくことは可能です。BtoBがサステナブルな企業に転換していくためには、大きな変化をもたらすのではなく、ピースを1つスライドさせるような小さなアプローチを繰り返していくのが理想といえます。小さな変化をもたらし続けることで、大きな変化を生んでいく。このプロセスが、BtoBの会社をサステナブルに変えていく上では必須です。

サステナブルブランドを実現するためのコミュニティーデザインを活かすためのミニワークショップ

こくぼ氏と山﨑氏トークセッションのあと、参加者の皆さんに、自社の課題解決やサスティナブル・ブランドを確立するための事業創造に向けた具体的なブランディングアイデアや本イベントの感想を共有していただくミニワークショップを実施しました。

参加者が感じる課題をグループ内でディスカッション
参加者が感じる課題をグループ内でディスカッション

ぜひ今回参加させたみなさまで繋がっていただき、サステナブル・ブランドの確立につながるアイデア交換を引き続き行っていただければと思っております。

サステナブル・ブランドを実現するためのコミュニケーションデザインを行うためには

いかがでしたでしょうか。
サステナブルな企業を目指すことの意義や、上記でご紹介したサスティナブル・ブランドを構築するためのコミュニケーションデザインの重要性を感じられたのではないでしょうか。

本サイトを運営するIDEAS FOR GOOD Business Design Labでは、サステナブル・ブランドを確立していく上で必要になる、コミュニケーションデザインのヒントを得られる視察ツアーのご提案やワークショップなどについて、御社に合わせたプランで提供することができます。

また、CSV事業開発・異業種ネットワーキングに役立つ会員限定のイベントをオンラインで毎月実施しています。さまざまなアイデアを事業開発としてどのように始めたらいいのか分からない、近い志を持った仲間を異業種や同業種で見つけたいという方におすすめです。

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