サーキュラー型ビジネスモデルを創出するには?アイデアやワークショップの手法も解説

サーキュラー型ビジネスモデルを創出するには?アイデアやワークショップの手法も解説

株式会社電通が2020年4月に全国の10代〜70代の男女約1,400名を対象に行った第3回「SDGsに関する生活者調査」では、サーキュラーエコノミーの認知率(聞いたことがある)は33.9%、SDGsの認知率は29.1%と、SDGsよりも認知度が高い結果となりました。

約3割以上の認知率があるサーキュラーエコノミーは、2030年までに約500兆円もの経済効果を生み出すと見込まれ、欧州では世界のスタンダードにしようと官民あげて取り組んでいます。また、公的・民間投資のお金の流れもこの方向に向かっています。

日本ではこれまで3R(リユース・リデュース・リサイクル)の分野で世界を先導してきました。サーキュラーエコノミーは3Rも重要な要素として構成されますが、あくまでも構成要素の一部として捉えられます。サーキュラーエコノミーの根底にある考え方は、設計によってあらかじめ廃棄物をなくすということです。廃棄ありきでリデュース・リサイクルをすることは大切ではありますが、これは環境破壊を遅らせるだけであり、根本的な問題解決とはなっていません。そのため、サーキュラーエコノミーは、3Rとは一線を画し、これまでの資源の再活用方法について理解を塗り替えるものだといえます。今回は、具体的にサーキュラー型ビジネスモデルを構築するにはどのようにすればよいのか、その一例として、ワークショップの実施方法を解説します。

目次

1.サーキュラー型ビジネスモデルを構築するために大切な3つの方法

まず、サーキュラー型ビジネスモデルを構築するために必要な情報収集や考える手法として、次の3点が重要になります。

  1. サーキュラーエコノミーとは何かを正しく知る。
  2. サーキュラーエコノミーの事例を数多く知る。
  3. 1.2 をもとに自組織に当てはめてみる。

1、2については、姉妹サイト Circular Economy Hubで日々ご紹介しているので、ご参照ください。ここでは3について、一つの方法を紹介します。その方法とは、後述する「バタフライダイアグラム」と自組織のビジネスモデルを重ね合わせてみるという方法です。ここではこの方法をバタフライダイアグラムワークショップと呼ぶことにします。

エレン・マッカーサー財団 バタフライダイアグラムを筆者が和訳

まずバタフライダイアグラムとは何でしょうか。バタフライダイアグラムは、上記の蝶型の図のようにサーキュラーエコノミーの仕組みを示しているものです。英国のサーキュラーエコノミー推進機関であるエレン・マッカーサー財団が、これまでのサーキュラーエコノミーの理論や学派の考えを発展させて作ったシステム概念図の別名として知られています。これについては、Circular Economy Hubのこちらの記事で解説しているので、下記ワークショップの実践方法に進む前に必ずご一読ください。

バタフライダイアグラムが何かを掴んだうえで、バタフライダイアグラムワークショップを実施すると、これまでになかった新たな視点が得られるようになります。

2.バタフライダイアグラムワークショップを実施する際に意識したい3つの心構え

ワークショップを始める前に意識したい3つの心構えをご紹介します。3つの心構えとは、「ブレインストーミング」「無条件」「肯定」です。順番に紹介していきます。

2-1.ブレインストーミング

このワークショップはいわゆるブレストだと捉えてください。誰からも評価され非難されることはありません。見栄え良く格好良くする必要もありません。思ったこと・感じたことを外に出すのみで、失敗の数を重ねるほど質は上がっていきます。

2-2.無条件

2-1に関連しますが、いかなる場合も制約条件はありません。その業界に長年在籍して活躍していればいるほど、これまで培ってきた知識や経験から定性的・定量的な制約が思い浮び、取り払うのはなかなか難しいです。ただ、これは一つの固定観念かもしれないと言い聞かせ、思うがままに無条件に実施してみることが肝要です。したがって、その都度そのアイデアが実現可能かどうかを確認したり、データを調べたりするのは最低限にしましょう。まずは書きだしてみることが大切です。

2-3.肯定

複数人で実施する場合は、お互いを否定しない(デザインシンキングの重要な考え方でもあります)。相手のアイデアを評価する場合は、そのアイデアに感謝し肯定したうえで、追加のアイデアを出すようにしましょう。この場では、評論家ではなく実践家になることを意識します。

これでバタフライダイアグラムワークショップの準備は完了です。

3.バタフライダイアグラムワークショップの6つのステップ

バタフライダイアグラムワークショップの6つのステップを下記に紹介します。ここでは、ワークショップのイメージが湧くように「傘」を例にとって考えます。もちろん6つのステップはあくまで実施方法の一例なので、それぞれの実施環境に合わせてアレンジしてください。

バタフライダイアグラムワークショップの6ステップ

  • ステップ1:現在の製品ライフサイクルを描く
  • ステップ2: ステップ1で描いた製品ライフサイクルをバタフライダイアグラムと重ね合わせる
  • ステップ3: 製品・サービスの最終段階を考える
  • スタップ4: ビジネスモデルを当てはめてみる
  • ステップ5: ステップ1のサーキュラー版製品ライフサイクルを描く
  • ステップ6:有力候補を抽出し、(部署横断的プロジェクトチームを組んで)、プロジェクトに着手する。

実施環境:

  • 複数名で実施するのが望ましい。
  • 最低限必要なものは、2枚の紙(A4以上)とペン。
  • 全員がバタフライダイアグラムを理解しておくことが必須条件。
  • 所要時間:1時間半〜2時間が望ましい。必ずお互いのモデルを共有する時間を確保する。

ちなみに下記の写真は、英語ではありますが、ワークショップ終了後のシートです。上が従来の製品ライフサイクルであるリニア型モデル、下がサーキュラー型モデルです。あくまでもイメージとして捉えてください。このワークショップは、サーキュラー型のアイデアを出す目的以外の何ものでもないため、絵心は必要ありません(もちろんあればより一層良いですが)。

サーキュラーエコノミーワークショップ終了後シート
ワークショップ終了後のシート

ステップ1. 現在の製品ライフサイクルを描く

まずは、対象となる製品やサービスの製品ライフサイクルを描いてみましょう。より視覚的にするため、文字だけではなくできるだけ多くの絵を描いてみましょう。下記は問いの例です。

  • 傘の原材料は?
  • 加工・輸送方法は?
  • どんなエネルギーを利用する?
  • 誰が加工する?
  • どこで販売される?
  • どんな風に利用される?
  • 利用された後はどのように処理される?
  • 処理されたものは廃棄されるのか、再利用なのかリサイクルなのか?

など

ステップ2. 製品ライフサイクルをバタフライダイアグラムと重ね合わせる

前述したバタフライダイアグラムの考えに基づき、下記について考えてみましょう。

  • そのサイクル内で回す(再利用する)ことはできるか?(小さな円ほど優先順位は高い)
  • そのサイクル内での循環が完結すれば、その次に大きな円で回してみる。小さな円から大きな円へ、できるだけ何回もサイクルを回せる方法はないかを考える。
  • 生物資源と技術資源を混ぜないで作る方法はあるか?(生物資源と技術資源はそれぞれのサイクルの中で別々に扱われるべきである。)また、有害物質が使われていないか?
そのサイクル内で回すことはできるか?
  • 傘をなるべく小さなサイクルで回す方法はあるか?
  • 耐久性を強くするべき?
  • あるいはあえてシンプルに作るべき?
  • どのようにしたら電車や店に忘れないのか?
  • 究極の選択として、傘を使わずにタクシーを使う方が環境負荷は低いのか?
小さな円から大きな円へ、できるだけ何回もサイクルを回せる方法はないかを考える。
  • 次のサイクルとして、傘のシェアリングや改修サービスは成り立つのか?
  • アップサイクルありきで設計することは可能なのか?
  • 新品を買うより改修サービスを利用する方が得だと思ってもらうサービスはないか?
  • 壊れたパーツだけ消費者が取り替えられるようにモジュール化するという方法は可能か?
生物資源と技術資源を混ぜないで作る方法はあるか?有害物質が使われていないか?
  • 傘の構造を観察する。
  • 生物資源と技術資源は混在していないか?
  • シャフトの素材は何でできている?傘布の素材は?
  • 傘布の撥水性や防水性を保つためにどんな化学物質が使われているか?

など

ステップ3. 製品・サービスの最終段階を考える

次に、製品の最終段階について考えてみましょう。問うべき問いは、最後は廃棄されるのか?リサイクルされるのか?回収はどのように行う?またその方法はマテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、あるいはサーマルリサイクル、埋め立て・焼却とするか?などです。

  • 傘はどのように廃棄されるのか?
  • 回収方法は?
  • 傘の処分に困っている企業や団体はあるのか?
  • その廃棄処理方法はほとんどが焼却なのか?
  • アップサイクルやマテリアルサイクルは可能か?
  • 最終手段として、新たな原料を使わずにケミカルリサイクルで「傘から傘」へ作り変えることは可能か?

など

ステップ4. ビジネスモデルを当てはめてみる

ステップ1-3を考えれば、サーキュラー型ビジネスモデルが見えてきそうです。サーキュラーエコノミーと親和性のあるモデルは、「製品のサービス化」「シェアリング」「技術資源の生物資源への置き換え」「回収とリサイクル」「アップサイクルやカスケード利用」など。このようなモデルが当てはまるかを確認してみましょう。すでにそのサービスがあるかどうか確認するのは最低限にし、また、繰り返しになりますが、思い浮かんだビジネスモデルの実現可能性を検証するのはステップ6まで待ちましょう。

  • 傘のシェアリングは可能か?(すでに日本では傘シェアリングサービス「アイカサ」がリリースされているが横に置いておこう)
  • 傘のサブスクリプションはうまく機能するか?「雨に濡れないこと」がそもそもの傘の価値であるとするなら、傘というモノを売るのではなく、濡れないという価値を前面に押し出す方法はないか?
  • 傘の位置情報をスマートフォンと連動させ、傘が自分からある程度離れた場合に知らせる機能を実装するのは有効か?
  • すべて竹からできた傘など、生分解性原材料に置き換えることは可能か?
  • 後から分解してその部分だけ取り替えられる、傘のモジュール化は可能か?
  • 「一生使える傘」として、耐久性が高く価格帯も高い製品とその付帯サービスの開発は可能か?
  • アップサイクルあるいはダウンサイクルを想定して設計することは可能か?
  • 優先順位としては低いが、「傘から傘へ」ケミカルリサイクルできるように製品設計と回収スキームを組む立てることも考えられるのではないか?

など

ステップ5. ステップ1のサーキュラー版製品ライフサイクルを描く

上記が終われば、もう一枚紙を用意し、ステップ4までに培った思考やアイデアをもとに、サーキュラー版モデルを描いてみましょう。そしてそれを参加者同士で共有して、意見を交わしましょう。「物理的に無理だね」「コストがかかりすぎる」「とっくにもうそのサービスは出ているよ」といった否定ではなく、「いいね」「こうしたらもっと良くなるかもしれない」「どのようにしたら〜できるだろうか」「もっとこうすれば〜」といった言葉が飛び交うはず。

ステップ6. 有力候補を抽出し、プロジェクトに着手する。

合意を得たモデル2つあるいは3つの有力候補を絞り出してみましょう。その候補を絞り出せれば、やっと知識やデータの出番です。実現可能性・すでに世の中にリリースされているのか・キャッシュポイントなどについて検討してみましょう。この段階からは「評価」が役に立ちます。選定したモデルの詳細を慎重に詰めていくステップです。

組織が大きければ大きいほど、部署横断的にプロジェクトチームを作ることをお勧めします。あるいはサステナビリティ・CSR推進室などが社内に設置されていれば音頭をとることも考えられるでしょう。部署横断的なチームは、多様なアイデアとつながりが創造的な相乗効果を生むからです。

バタフライダイアグラムが意味するもの

バタフライダイアグラムはサーキュラーエコノミーのシステム概念図であり、理解することは大切ですが、それ単体では意味をなしません。バタフライダイアグラムを使っていかにサーキュラー型モデルを作り出せるかがポイントです。逆にいうと、バタフライダイアグラムを意識することで、環境負荷を抑えながらも新たなキャッシュポイントを生むことも可能です。

ここに挙げた方法はあくまでもこの目的を達成するための手段ですので、ワークショップの方法はいかようにも応用できます。大切なのはバタフライダイアグラムが提供してくれる新たな視点を積極的に発見していくということです。

サーキュラー型ビジネスモデルを構築するノウハウをもっと知るには?

本サイトを運営するIDEAS FOR GOOD Business Design Labでは、「Make Sustainability Desirable.(サステナビリティに、ワクワクを。)」をコンセプトに、会員の方向けに(登録無料)SDGs・サステナビリティ・CSV・サーキュラーエコノミー関連プロジェクトの企画立案・立上・運営までをサポートしております。IDEAS FOR GOODならではの豊富な国内外の事例を活用し、御社の強みを生かした事業づくりについて考えてみませんか?IDEAS FOR GOODチームとの共創プロジェクトも可能ですので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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【参照記事】第3回「SDGsに関する生活者調査」を実施
【関連記事】Circular Economy Hub Learning #3 (動画「Dame Ellen MacArthur: food, health and the circular economy」よりバタフライダイアグラムの解説
【参照記事】Circular Economy System Diagram
【参考サイト】アイカサ

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