遊びゴコロたっぷりにSDGsを伝えるウィーンのホテル。経営に込められた想いに迫る

遊びゴコロたっぷりにSDGsを伝えるウィーンのホテル。経営に込められた想いに迫る

オーストリア・ウィーン西駅の近くに位置するブティックホテル・シュタットハーレは、ブティックの名の通り、独創的でユニークな小型ホテルです。ホテルの大きな特徴は、サステナビリティへの取り組みを事業戦略としていること。スタイリッシュで華やかなイメージのブティックホテルに、サステナブルな取り組みが加わっています。

ホテル業界におけるサステナビリティ推進の先駆者であるシュタットハーレの取り組みの背景には、いったい何があるのでしょうか?大規模な投資が必要となるサステナビリティへの取り組みとホテル経営における経済性のバランスは可能なのでしょうか?気になる宿泊客の反応は?大きな障壁は?同ホテルの事業促進を担当するサラさんへの取材で、こうした疑問について尋ねました。

アップサイクル家具、ミニバーとエアコンはなし……工夫が光るホテルの様子

ホテルのある通りはトラムの通りから少し入った場所にあり、意外なほど静か。玄関口には、オーストリアのエコ認証ラベルをはじめとする多数のサステナビリティ関連の認定書が掛けられています。ホテル内に入った最初の印象は「お洒落!」。ホテルで使われている家具は全てアップサイクル品です。いわば「寄せ集め」を組み合わせて作ったものですが、それぞれの家具のデザイン性や創造性の高さと、セットではない家具の意外なほどのマッチ度に驚きます。加えて高級感も維持しているのは、それぞれの素材の選択や作りの丁寧さでしょうか。

このホテルでは、欧州の高級ホテルには必須のミニバーを置いていません。理由は電力を消費し、ごみが増えるからです。その代わり、ホテルのロビーには、宿泊客が24時間アクセスできる飲みものやスナックが綺麗なグラスやトレーに陳列されています。ルーフトップには、ラベンダーガーデンがあり、季節にはうす紫の花が咲き乱れます。ラベンダーやその他の植物への水やりは、雨水を貯水したものを使用。またルーフでは養蜂も行われており、自家製の蜂蜜を作っています。

サステナビリティ氷河期にスタートした、環境負荷軽減のための取り組み

欧州では近年、サステナビリティへの取り組みを実施しているホテルは増えつつありますが、シュタットハーレがサステナビリティをホテルの経営戦略に掲げたのは、2001年にさかのぼります。当時のウィーンはまだサステナビリティの「黎明期」で、環境保全やサステナビリティはすでに語られてはいましたが、ホテル経営にそれを反映するというアイデアは斬新でした。

両親が経営していたホテルの建物を引き継いだミヒャエラさんは、サステナビリティのコンセプトをホテル経営に反映しようと決心し、ホテル規模を拡大するため、偶然空いていた隣接する建物を買い取り、建物の建設から着手しました。ドイツ発の省エネ設計「パッシブハウス」の概念を取り入れたホテルには、エアコンがありません。ホテルで使用される電力は「ゼロ・エネルギー・バランス」。使用電力を全て自家生産の再生可能エネルギーでまかない、電気生産量と使用量を同じにするというものです。

再生可能エネルギー生産には、ソーラーシステム・ヒートポンプ・光起電力システムを設置しており、余剰電力は販売しています。こうしたシステムをホテルに構築したのは、ウィーン市内ではシュタットハーレが初めてでした。当時再生可能エネルギーシステムは一般家庭用など、まだ小規模なものに限られており、ホテル規模のシステム設置を請け負う業者を探すのが大変だったそうです。

両親から受け継いだサステナブルな価値観と、それを伝える役割

今回編集部は同ホテルの事業促進を担当するサラさんを訪ね、私たちが学べるものは何かをお聞きしました。

──国内でサステナビリティの概念をホテル経営へいち早く取り入れたホテルとなった背景について聞かせてください。

当ホテルのオーナーであるミヒャエラ・レイッテラは、2001年にこのホテルを両親から引き継ぎました。彼女の両親は1987年以来ずっとホテルを経営していましたので、ホテル事業は家族二代にわたっています。

ホテルのオーナーであるミヒャエラ・レイッテラさん(左)と今回取材を受けてくれたサラさん(右)

限りある資源への認識はミヒャエラの両親から受け継がれたものです。彼女は幼少時から、食べものを無駄にしない、必要ないときは部屋の電気を消すなどを習慣として育ちました。ですので、彼女がホテル事業を開始した際に、その価値観を事業へ反映し、できる限りサステナブルなホテルにしようという試みは自然なことだったのです。

──ホテル経営には、国連のSDGs目標も焦点に入れているとのことですが、具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか?

ホテルの宿泊客全員がSDGs目標についての知識を持っているわけではありません。そこで、ホテル事業を通じて知識の拡散や広い意味での「教育」を目指しています。2020年に完成したプロジェクトでは、SDGsの17目標をそれぞれのテーマとしてホテル内の17部屋を改装しました。全ての部屋のカーテンにはSDGs目標がプリントされています。

例えば、目標14は「海の豊かさを守ろう」ですが、この目標をテーマとした部屋では、海洋から収集されたごみをアップサイクルしたインテリアが置かれ、宿泊客にはそれぞれの装飾の説明が提供されています。壁にかけられた大きな魚のオブジェは、オーナーが休暇で行ったベトナムの浜辺で清掃作業をした際に集めたビーチサンダルでできています。

ランプシェードの一つは魚つり用の網を使ったものです。コーヒーテーブルの脚部分には、海洋で集まられたごみが入っており、オブジェとして海洋汚染を訴えるものです。部屋の家具は、我々のパートナーであるウィーン市内のアップサイクル専門店で作られています。リネンやタオル類にはオーガニックやリサイクル製品を使用しています。


改装における私たちのコンセプトは、「遊びゴコロを取りいれた、楽しいもの」。お客さまが部屋を開けた途端に、「なにこれ?」と注意を引くものにし、SDGsに興味を持ってもらうよう考えています。魚のオブジェのようにインテリアのアップサイクルには、小さなストーリーがありそれぞれとてもユニークで創造的なアイテムです。当ホテルで提供する朝食は全てオーガニック食品から作られています。ルーフトップの養蜂からとれたハチミツも朝食で楽しめます。

当ホテルでは、雇用者の扱いについてもSDGsの概念に沿うよう努めています。ホテル業界は一般的にスタッフの出入りが激しいのですが、ここは雇用者の離職率が低いことも特徴の一つです。理由の一つは、福利厚生の良さだと思います。例えば、賃金も平均と比較すると高いです。スタッフはホテル内で販売するスナックや飲みものの提供を受けられますし、2週間に一度理学療法士のサービスも利用できます。加えてホテル規模が小さいこともあり、スタッフ間には家族のような雰囲気があります。

会社にとっては、スタッフが気持ちよく楽しく笑顔で働けることも非常に重要です。なぜなら、それはお客さまのサービスへも反映されますから。もう一つ重要なことは、ここで働くスタッフは皆サステナビリティに関心を持っており、その意味でもスタッフ全員に一体感があることです。私自身も就活の際、サステナビリティを重視している会社を探しており、このホテルを見つけました。

ホテルがホテルとしてできること

──ホテルの客層について教えてください。どのような人がこのホテルを選ぶのでしょうか?

客層については、多数がサステナビリティの取り組みに惹かれて当ホテルを選択されています。宿泊客の大半は、年齢40代から70代でしょうか。当ホテルの設定価格は少し高めですので、価格帯では学生さん向きではないでしょう。国別では、地元オーストリア、ドイツ、欧州全般、北米となっています。アジアからは中国、韓国からが主流です。

もちろん、すべてのお客さまがサステナビリティへ関心をもった人というわけではありません。ホテルのロケーション上、コンサート会場へ近いという理由で宿泊される方も多数います。一方で、環境問題に全く関心のない人が当ホテルへ宿泊することにより、SDGsについて興味を持つきっかけを提供できると思っています。

──顧客へのサステナビリティ教育に貢献しているのですね。

そうですね。でも押し付けるのではなく、「ちょっとワクワクするような楽しい方法」で、皆さんの興味を引くように心がけています。また、インセンティブの提供も実施しています。例えば、ホテルへ電車や自転車で来るお客さまへは宿泊代の10%を割引しています。

宿泊客からの全体的なフォードバックは極めて良いので、ホテルとしてはとても嬉しく思っています。ホテル予約サイトにおける評価も平均以上を獲得しています。お客さまから特に高い評価を得ているものの一つは、緑いっぱいの夏のテラスや庭です。中庭のある当ホテルは、ロケーションからは想像ができないほど静かです。街中にあって、鳥の鳴き声が聞こえ、ルーフトップにはラベンダーが咲き乱れる庭があります。スタッフのサービスの質も高評価を得ています。これはオーナーや私たちにとって最も嬉しいフィードバックですね。

コストと利益性のバランス、見方を変えれば見えてくるもの

──ゼロ・エネルギーバランスに必要な設備など、サステナビリティへの取り組みへの投資は決して少ないものではないと思いますが、経済性についてはどうでしょう?

パッシブハウスの建設や再生可能エネルギーシステムの設置については、ウィーン市から支援を受けることができました。当時はこうした支援が始まったばかりの時期でしたので、支援額は現在ほど多いものではありませんでしたが。このエネルギーシステムを設置したことで、(エネルギー価格の動きで変動もありますが)利益も出ています。夏は需要を上回る電力が生産できるので余剰は販売し、冬は不足がちなので購入が必要となりますが、総合的には「ネットゼロ・バランス」を達成しています。

ただ現在は、予期しなかったエネルギー価格高騰により、不足分を補う必要のある冬の電力価格がかなり上昇しているため、我々もその影響を受けていることは否めません。

また、当ホテルではオーガニック食品を使用していますので、コストの面では割高です。ただ、そのおかげで朝食の質の高さを評価されており、宿泊客以外でも朝食だけを食べにくるお客さまがいるほどです。こうしたフィードバックは、コストをかけても良いものを提供する大きなインセンティブにつながっています。もちろん、コストが高い分販売価格も上がりますが、当ホテルの強みは、「質に対して対価を支払う」というお客さまを惹きつけることができる点です。

──サステナビリティへの取り組みにおけるコスト効率において迷う同業者へのアドバイスはありますか?

一つには経営者の意図にかかっていると思います。事業としてどこまで利益を追求するかではないでしょうか。ただ、利益性の追求とサステナビリティへの取り組みにおけるコスト効率は、矛盾するものではないと思います。

例えば、当ホテルの食品や飲料の調達部門ですが、毎日の在庫管理に特に注意を払っています。自動的に同量の注文を定期的に行うといったことを避け、細かく必要な量を確認して発注し、ロスを極力削減することに注力しています。私が以前勤務していた別のホテルとの比較では、当ホテルは食品ロスの大幅な削減に成功しています。余ったパンを揚げてチップスにしたり、前日の残りを使用して作れるメニューを考えたり、食品の「リユース」も実施しています。

当社の人件費は、ホテル業界平均を上回っています。しかし、離職率が低いことで、人件費が低くてもスタッフの入れ替わりが激しいホテルとの比較では、コストを削減できています。目先のコストだけを見るのではなく、中期・長期的な視野と異なる角度からのアプローチも必要だと思います。

目標の達成には業界全体が同じ方向へ向かうことが重要

──2030年までのSDGsなど、今後、オーストリアや欧州内のホテル業界もサステナブルな取り組みが進む中で、サステナビリティ自体がブランディングとならなくなる可能性があります。そうした状況での御社の中期・長期的ビジョンについて聞かせてください。

2030年までのSDGs目標は、かなり野心的だと思います。すでに2023年ですが、まだ目標の半分にも達していないのが現状です。気候変動対策目標の1.5℃についても、現時点での目標到達は不可能だと指摘されています。そんななか、私たちが望むのは、可能な限り同業者であるホテルも私たちと同じ方向へ進んでくれることです。

確かにいずれ現在の我々の取り組みは目立つこともなくなりますが、私たちの目標は業界のモデル的役割を果たすことです。一方で、これまで当ホテルが打ち立ててきたものを競争力とし、リピート客を確保できると思っています。実際に当ホテルはリピーターが多く、中には100回を超えるお客さまもいらっしゃいます。

当ホテルのブランドはすでに確立されており、ほかの競合に対する競争力を維持できると思っています。すでに述べたとおり、オーナーの考えは、サステナビリティを業界に推進することです。ミヒャエラは先駆者としての経験を活かして、他のホテルへのコンサルティングも実施しており、知識や技術を業界で共有しています。これは、サステナビリティやSDGsというビジョンを持つ上では、当然のことだと思います。なぜなら、皆が一致団結して取り組まなければ達し得ない目標だからです。

編集後記

筆者がウィーンで暮らして、一般の人々の環境保全やサステナビリティへの意識がとても高いと感じることがしばしばあります。今回取材したホテルのオーナーについても、子供の頃から資源の大切さを教育されて育ったことが現在の価値観へ繋がっているという話を聞き、サステナビリティにおける日常教育の重要性を強く感じました。そしてオーナーの信条は、ホテルという場を通じて人々へ情報や知識を拡散することにつながっています。

また事業における利益性の追求と環境や社会への貢献と、そのためのコストついても、バランスをとる方法を見つけ出すことは可能であり、そのバランスの度合いは実は自己で設定するものなのだという話も印象に残りました。SDGs目標は、単独や少人数が取り組んだだけでは決して到達できるものではなく、世界が一体となって同じ方向へ進む必要があります。

サステナビリティの促進には、まず企業がより高い利益だけを追求するところから脱却する必要があるのではないでしょうか。事業における競争と協調のバランスの度合いを設定し、必要な情報や知識を共有し、業界が一体となって取り組むことが問われているように思います。

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