ブランドマーケティングで活きる、「パーパスに責任を持つ覚悟」とは?【AW2020:ASIAイベントレポート】
近年、様々な業界で「パーパス」や「サステナビリティ」という言葉が飛び交っています。これらは一時的なPRであってはならず、パーパスに責任を持つということは、戦略のコアにパーパスを掲げる覚悟とコミットメントが求められます。
今回は、世界最大級のマーケティング&コミュニケーションイベント「Advertising Week2020:Asia」のイベントで「日本の工芸を元気にする」 を経営戦略のコアに掲げる中川政七商店 取締役・緒方恵氏と、「学際的リベラルアーツ」を経営戦略のコアに掲げるブランドマーケティングエージェンシーFICC 代表取締役・森啓子氏によって語られた、「パーパスを掲げる覚悟」における考え方をご紹介します。
目次
- 1. 「好感を得て、共感を得て、信頼を勝ち取る」ためのビジョン
- 2. 「パーパスに責任を持つ覚悟」とは何か?
- 3. パーパスとプロフィットの継続的に両立するためには?
- 4. パーパス経営を実現していくためには?
「好感を得て、共感を得て、信頼を勝ち取る」ためのビジョン
ブランドの存在意義と経営のコアについて、中川政七商店ではどのように考えられているのでしょうか。
緒方さん:中川政七商店は1716年創業、300年を超える老舗企業です。メーカーで反物を問屋さんに卸すと、エンドユーザーの感想がわからないことが悩みだったため、10年前、自分たちのブランドを立ち上げるSPA(製造小売業)に業態転換を行いました。現在は3つのブランドを全国60店舗で展開しています。
ビジョンとは、自分たちがどう生きるかということです。そして、ブランディングにおいてはそのビジョンをどう伝えるかが重要になってきます。人の生き様を信頼できるかというのは人間関係の基礎であり、企業にとってもそれが大切なのです。これからは消費行動がますます投票行動と等しくなってくる時代なので、消費者は「この会社に残ってほしいから、投票する」というメンタルでモノやサービスを購入します。便益や価格だけを見ているわけではないのです。好感を得て、共感を得て、信頼を勝ち取るためにも、ビジョンを設定することが大切です。
中川政七商店のビジョンは「日本の工芸を元気にする」。「日本の工芸が危ない」「職人が減少している」という危機感が我々の使命感となり、存在する意義となっています。一人で速く進むのではなく、みんなで遠くに行くことを目標に、ビジョンを掲げ、事業を展開しています。ビジョンを見据えた結果、現在はSPA事業だけではなく、コンサルティングや営業代行なども行っています。
「パーパスに責任を持つ覚悟」とは何か?
FICCでは、「ブランドマーケティング」の考え方が重要視しているといいます。「ブランドマーケティング」とは、消費者の生活の中にある価値、つまりブランドこそが、マーケティングの最重要資源であるとする考え方です。その中では、パーパスとプロフィットは共存しうるものとして扱われます。
これは人に関しても同じです。ブランドも人も異なる価値を発揮し、コラボレーションすることで、一人ではなし得ないことを作っていく時代に突入していると言われています。
森さん:FICCでは、ブランドパーパスと学際的リベラルアーツの融合を掲げています。学際的リベラルアーツで最も大切にしているのは、「問うこと」「答えを出さないこと」です。
日本では、今まで個人の考え方を尊重する教育がされてきたとは言えませんが、その人独自の問いをつくることは非常に重要です。特に、VUCA時代と言われるコロナ禍では、社会の決めた枠の中だけで価値を創造し続けることには限界があります。どんな時代であっても、どんな環境であっても、独自の価値を創出し続けられることが大事になってくるのです。
緒方さんは、今回のイベントの主題でもある「パーパスに責任を持つ覚悟」についてどのようにお考えですか。
緒方さん:会社を人として見てみましょう。会社の欲求は「自己実現」「社会貢献」「利益追求」の三つに整理することができます。それらが重なるところに「ビジョン」があるのです。
達成の欲求や危機感がない、つまり覚悟がないビジョンは戯言でしかありません。つまり、パーパスを体現するために、ビジョンを確実に達成していくことが不可欠になります。新型コロナによって弊社のビジョンが変わることはありませんでしたが、時代は10年単位で早まったように感じています。ECの拡大など今の時代でもできることを模索しているほか、客数でお客さんを捉えず、コロナ禍でお客さんと再会できたことを喜び合うということを意識しています。
パーパスとプロフィットの継続的に両立するためには?
事業の指針となり、社会にその企業が存在する意義を示す「パーパス」と、経済的な利益を指す「プロフィット」。それらは両立するのかと疑問に思う方もいるかもしれません。それらを両立させるためにはどうすれば良いのでしょうか。
森さん:パーパスとプロフィットを継続的に両立するためには下記のことが重要になると考えています。
森さん:「2.イノベーティブな社会意義『パーパス』を見出す」ですが、ビジネスにイノベーションという言葉が使われますが、社会的意義によるマーケティングのためには、「パーパス」にこそ、イノベーティブな思考が求められます。イノベーションは、なにか新しい技術を開発することではなく、固定観念や既成概念から開放し、新しい思考によって、より良い社会へと導くこと。そして、より良い社会へと、ブランドが打ち出す新たな思考とその一般化こそが、ブランドの社会的意義によるマーケット創造なのです。
「日本の工芸を元気にする」というパーパスを掲げる中川政七商店さんでは、各項目について、具体的にどのようなことが意識されているでしょうか。
緒方さん:「1.ベネフィットの生み出し方」について、私たちはWHY(パーパス)が強くあった結果、SPA事業だけではなく、産地支援事業にも進出しました。強いWHYにHOWとWHATが引きずられてきた感じですね。WHY→HOW→WHATの順で考えると、後者の抽象度がどんどんあがっていきます。結果「なんでもやる」ことになるのです。弊社の場合、WHYに基づいて取捨選択をし、事業が唯一無二のものに積み上がっていった感じですね。
また、強いWHYの設定は、企業文化を創造する役割もあります。「日本の工芸を元気にするためにはなんでもやる!」という覚悟が、判断をアグレッシブにしてきました。300年の老舗企業でありながら、社風はとてもスタートアップっぽいんですよね。
「3.共感される『パーパス』は、資源を調達し、マーケットを創造する。」について、一つは顧客に対するコミュニケーションを大切にし、少しずつマーケットの幅を広げていくことを意識しています。ビジョンが顧客の共感を生むのです。
そして、もう一つは、他社との共創です。ビジョンへの共感は他社を呼んできて、ともに戦う仲間を作ります。そして、それがコミュニティになっていきます。弊社が主催する合同展示会はその最たる例ですね。
森さん:続いて、「4. パーパスによる『イノベーション』を、人とともに起こす」についてですが、今までは「顧客が実現したいこと」と「自社の利益」が重なる部分で事業を展開してきた企業が多いかと思います。これからはそれだけではなく、より良い社会のために新たなマーケットを創造していくことが大切です。SDGsは新たにマーケットを生む可能性があると言われており、私たちはそうした新たな市場に目を向けていく必要があります。
パーパス経営を実現していくためには?
いかがでしたでしょうか。VUCA時代にパーパス経営が自社の社員にとって重要になってくるのはもちろん、生活者に自社のプロダクト・サービスの魅力を訴え、また他社とビジネスの新しい形を「共創」していく中でも、「パーパス」がいかに重要であるかがお分かりいただけたかと思います。
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【参照サイト】AW2020ASIA
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