使わなくなった飛沫防止対策パーテーションを、ごみにしないアイデアたち

使わなくなった飛沫防止対策パーテーションを、ごみにしないアイデアたち

世界中で猛威をふるってきた、新型コロナウイルス感染症。その感染症法上の分類が2023年5月8日から5類に移行するにあたり、飲食店の感染予防対策も見直しがすすめられている。

その一つとして今後、飛沫防止対策としてテーブルに設置が義務付けられたアクリル製のパーテーションが不要となり、大量に廃棄されることが予測される。日経新聞は、2021年時点でコロナ対策として使われた飛沫防止用のアクリル製パーテーションが国内だけでも300万枚あると推定(※1)。大型のため、事業者であれば産業廃棄物処理業者に依頼して処分をしなければいけない。

パーテーションは、アクリルやPET素材などの単質素材で作られている場合があり、そのままごみにしてしまうのはもったいない。廃棄せずに資源の有効活用をする方法はないのだろうか。今回は、こうした動きを見据えて始まったサービスを含め、少しでも有効活用できる方法をご紹介する。

引き取り手を探す

まず最初に考えられるのは、パーテーションの引き取りだ。「アクリル板 引き取り」などとウェブで検索をすると、引き取りサービスが複数ヒットする。

たとえば、「緑川化成工業株式会社​​」や「はざいや」では、回収したアクリル板を粉砕し、再生アクリル製品の素材として活用している。また、「はざいや」では今後、アクリル板にポスターや写真を印刷をし、再度仕様する方法も模索しているという。粗大ごみとして捨ててしまう前に、まずは、購入先に問い合わせたり、回収サービスを探してみたりしてはどうだろうか。

【参照サイト】緑川化成工業株式会社
【参照サイト】はざいや
※回収対象は、はざいやで購入されたもののみ

リユースする

額縁の表面カバーとして活用する「いずも和紙」

島根県松江市にある書道用品専門店「いずも和紙」では、不要になったパーテーションを回収し、作品を収める額の表面のカバーとして活用している。一昔前はガラス製が多かったものの、昨今は軽量で落ちた場合の安全性も高いアクリルが重宝されている。

飲食店で活用されているパーテーションは透明度も高くうってつけだという。額縁や案内板などガラスの代用品としての活用を模索するのも一つかもしれない。

【参照サイト】いずも和紙

アップサイクルする

世界で一つのジュエリーに変身させる「SHITSURAE」

透明度の高いアクリルは、装飾品素材としての活用も有望だ。サステナブルな社会をデザインで楽しむアップサイクルアクセサリーブランド​​、SHITSURAE(シツラエ)は、コロナがおさまり、不要になる飛沫防止用パーテーションが発生することを見越して2020年に立ち上げられた、まさにアクリル板のアップサイクルを目的としたブランドだ。

アクリル板の透明度を最大限生かしながら、同様に不要になった端材を組み合わせ、世界に一つしかないアップサイクルジュエリーを展開している。

キャプション:鏡の廃材を組み合わせたバージョン。メタリックな輝きがアクリル板にマッチ。   クレジット:Sawako Nezu
鏡の廃材を組み合わせたバージョン。メタリックな輝きがアクリル板にマッチしている。 / Image via Sawako Nezu
キャプション:築地市場で使われていた家具の廃材を組み合わせたナチュラルな質感のジュエリー クレジット:Sawako Nezu
築地市場で使われていた家具の廃材を組み合わせたナチュラルな質感のジュエリー / Image via Sawako Nezu

SHITSURAEの代表、井村文紀さんによると、アクリル板以外にも様々な商品を引取り、アップサイクルしているという。現在15社以上の企業、団体、作家(SHITSURAEサポーター)の方からさまざまな廃材の提供をうけており、昨年だけでも1トン以上引き取ったそうだ。

「アクリルをメインに鏡、木、紙、糸、布、化粧品、コーヒー豆、海洋プラスチック等の廃材をアップサイクルし製品化、販売しています。アップサイクル時にあえて着色等はせず、素材の持つ色味や質感、偶然できる重なりを活かし、一点ものの製品として新しい命を吹き込んでいます。高い付加価値を付けて販売することで、アップサイクル後も捨てられない価値ある製品を目指しています」と井村さん。

要らなくなってしまった廃材が、また誰かに必要とされるものとして大切にされるよう、「新しい命」を吹き込む。内側から輝くようなジュエリーの魅力は作り手の愛情から生まれているような気がしました。

ジュエリーが壊れた場合も、再度アップサイクルできるため、引き取りは可能という。まさにサーキュラーエコノミーを具現化したようなジュエリーといえそうだ。

【参照サイト】SHITSURAE

次に、現段階で飛沫防止用のアクリル板を活用しているわけではないが、今後、再利用のアイデアとして考えられる事例をいくつか紹介したい。

ポップなアンティーク家具と合わせる「P/OP」

古い家具に少し手を加えることでもう一度その価値を伝えるアップサイクルカンパニー、株式会社家‘s​​では、年季の入った家具にカラフルなアクリル板を組み合わせたブランド「P/OP(ポップ)」を展開している。

古い箪笥の多くは、背面が割れたり古びたりしやすい。そこにアクリル板を入れることで、再び使えるようにするだけではなく、木材の経年変化と現代的なプラスチックの質感、両方を楽しむことができる新たな価値をつくりだしている。

現段階では、飛沫防止用のアクリル板の活用はされていないということだが、古いものとアクリル板を組み合わせてみるのも面白いかもしれない。

【参照サイト】yes | P/OP

ノベルティグッズとして活用できる「エコつく」

環境に配慮したノベルティグッズを制作している「エコつく」では、工場でグッズ製造時に出たアクリル板の端材を活用してキーホルダーを作成している。

こちらも現在、飛沫防止用のアクリル板の再利用をしているわけではないが、会社から大量に廃棄されるアクリル板を活用して、こうしたイベントや販促用のノベルティグッズをつくるのも一つかもしれない。

【参照サイト】エコつく

ケミカルリサイクルする

大量のパーテーションを処理するためには、最終的にはケミカルリサイクル、つまり、素材を一度、化学的に分解して原料に戻してから再利用する方法の模索も必要だろう。

アクリル板の原料となる樹脂の世界シェア4割を占める三菱ケミカルは、2024年をめどに新品と遜色ないレベルの製品を商品化すると発表している。回収コストなどを含めると新品よりもコスト高になるものの、CO2は6割削減できるという。気候変動緩和の訴求と合わせたリサイクル素材の活用推進が求められる。

「モノが役目を終えた後、どうなるか」を考えたものづくりを

新型コロナに対する見方が世界で変わっていくなかで、コロナ禍で感染予防として使用したさまざまなものが不要になりつつある。

その一つが、今回取り上げたパーテーションだ。引き取りサービスも少しずつ拡大しているものの、対象が自社製品に限られていたり、製品仕様の確認や分解の手間などがかかったりする場合もある。面倒な手続きに嫌気がさして、単純に廃棄することを選んでしまうこともあるだろう。

しかし、パーテーションに多く使われているアクリル板は透明度が高く、思わずアップサイクル欲がかきたてられるような質感がある。今回ご紹介したような額縁の表面やジュエリーをはじめとして、美しさや質感を重視する何かに再使用することもアイデアとして十分考えられるのではないだろうか。

廃棄されるアクリル板の量を考えると再びアクリル製品として活用するマテリアルリサイクルや一度化学的に分解してケミカルリサイクルも必要になると思われるが、後者が社会実装されるには数年かかると予測される。

気候変動の影響によって、今後、感染症が再び蔓延する可能性も指摘されている。今回のように、パーテーションをはじめとする、プラスチック素材を活用した感染症予防製品が再び必要になる時が来る可能性もある。

感染症の拡大を防ぐためにはさまざまなモノが必要になる。パーテーションやマスク、消毒液を入れるボトル、ふきん、医療用の使い捨てガウン……。

感染予防という性質上、一定の期間でごみにせざるを得ないものも多い。コロナの感染拡大は急を要したため、予め準備することはできなかったが、今後再び何らかの感染症が蔓延することを見据え、リユースやリサイクルを前提とした製品開発、サービスの設計を考えておいてもよいのではないだろうか。

※1 コロナ対策のアクリル板、三菱ケミカルなど再資源化へ
Edited by Kimika

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事です。

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