働き方やオフィスの工夫で、サステナビリティ推進を加速させるには?従業員のウェルビーイングを高める事例をご紹介
世界経済フォーラム2021での「グレートリセット」への言及から、人々のウェルビーイングを再考すべきという議論が生まれていたり、ウェルビーイングエコノミーやドーナツ経済学など、「ウェルビーイング」がキーワードとなった新たな経済の概念が登場していたりと、近年「ウェルビーイング」が盛んに叫ばれています。
事業のサステナブル化にあたっては従業員の働きやすさを考えることも重要であり、経済産業省によるウェルビーイング経営(健康経済)の促進をはじめ、企業が従業員のウェルビーイングを高めるために動き出しています。今回は、従業員のウェルビーイングを高めるための世界の事例をご紹介します。
目次
1. ウェルビーイングな働き方への注目
もともと、社会福祉・医療・心理などの分野で使われていたウェルビーイングという言葉ですが、昨今、職場環境や働き方を見直す一つの指標になり、ビジネスシーンなどでも用いられるようになりました。ウェルビーイングエコノミーアライアンスは、ウェルビーイングビジネスの原則として次の8つを掲げています。
ウェルビーイングビジネスを定義する8つの原則
- ビジョンの再定義:自然との調和を保ちながら、社会のニーズに応える
- 透明性の確保:環境、社会、経済のパフォーマンスに関するデータを開示
- 外部性の内部化:環境的及び社会的影響を認識し、負の外部性を減らす
- 長期的なビジョン:会社、社会、自然を含む全ての重要な利害関係者に利益を
- 人を資産にする:社内の声を優先する
- 生産のローカライズ:エネルギー源や財源、流通のローカライズ
- サーキュラーエコノミーへの切り替え:環境および社会システムとの共存
- 多様性を受け入れる:価値観、所有構造、財務の多様性を認識
アメリカやヨーロッパの国々はウェルビーイングに率先して取り組んでおり、近年ではオーストラリアなどでも注目を集めています。アメリカでは高額な医療費ゆえに、健康への予防意識が強く、企業でも積極的な施策が打たれているほか、ヨーロッパでは昔から社会保障が発展しています。また、長い間環境の保護に積極的に取り組んできたオーストラリアでは、人や環境にやさしいオフィスが多く存在し、社員にやさしいウェルビーイングの概念が浸透しています。
また、個人のライフスタイルや価値観の変化も働き方の変化に影響しています。ミレニアル世代以降の人々は、物質的な豊かさに重きを置くよりも、経験といった目に見えないものに幸福を感じる価値観や、社会的意義のある活動に取り組みながらウェルビーイングを達成することへの関心が強い傾向があるといわれています。それに加えてコロナ禍で従来の働き方を変えることを余儀なくされ、精神面での健康やリモートでの働きやすさの向上に向けた動きが加速しました。
ただ、コロナ禍でのリモートワークの拡大の一方で、ニューノーマルの働き方においても従業員同士のコミュニケーションを通して信頼関係を醸成する場所だという側面からメインオフィスの重要性は変わらないといわれています。企業は、オフィスで働きながらも従業員のウェルビーイングをどう実現するか、考えていく必要があります。
さらに、企業のサステナブル・トランスフォーメーション(SX)の実現にも従業員のウェルビーイングが必須といえます。これは、たとえ環境にポジティブなインパクトを与える事業を展開していても、従業員のウェルビーイングが失われていては事業自体が持続可能とはいえないためです。また、従業員が働き方を見つめ直す中でサステナビリティを自分の問題として捉え、課題を理解することにつながるというメリットも考えられます。事業・組織の持続可能性と社会の持続可能性の双方にアプローチしていくため、ウェルビーイングビジネスの原則にもあるような長期的な視点でビジョンを描いていく必要があります。
2. オフィスや働き方の工夫でSX実現の土台をつくる
本章では、テクノロジーを活用して従業員の健康増進を進める事例や、自然環境・地域社会とのつながりを生み出し、SXを加速させるための事例をご紹介します。
2-1. アプリで従業員の健康を支援するスマートオフィス家具
オフィス家具メーカーのハーマンミラー社は、「ヒューマンセントリック(人間中心)」という概念をオフィス家具設計思想の中心に据えており、新たにIoT(Internet of Things)技術を活用した次世代のスマートオフィスデスクを開発しました。このデスクは、専用のアプリ「LiveOS」とペアリングすることで、デスクを利用する従業員のデータを取得し、アプリを通じて姿勢をよくするよう促してくれるほか、従業員の健康も管理してくれます。これにより、職場における作業効率を高めると同時に従業員の健康向上も促すことができます。
2-2. 在宅勤務をウェルビーイングにする「バーチャル通勤時間」の導入
リモートワーカーのウェルビーイングを高めるべく、Microsoft Teamsの新機能に「バーチャル通勤時間」が追加されました。スタッフは就業開始時にTeams上で「通勤」をスケジュールし、その時間帯は散歩やコーヒーを飲んで1日の計画を立て、仕事に向けて気分を整えます。仕事を終える時も、1日の調子を振り返ったり、瞑想をしたりして、徐々に仕事から自分を切り離すようにします。同社はMicrosoft Teamsで瞑想体験を提供するにあたり、500社以上にマインドフルネス関連の製品やサービスを提供してきた会社「Headspace」と協業しており、Headspaceが提供する瞑想体験はストレスを軽減し、集中力とレジリエンスを高めることが臨床的に実証されたといいます。瞑想にかける時間は1日10分でも効果が得られるようです。
2-3. AIでオフィスを快適にするグリーンウォール
フィンランドのスタートアップNaavaが、AIとIoTを活用した完全自動による空気清浄、給湿、室内植物といった多くの機能を兼ね備えたユニークなグリーンウォールを開発しました。電源があればオフィス内の壁で使用することができます。水タンクが内蔵されているため水やりをする必要はなく、照明器具が内蔵されていることから日光に当てる必要もないため、簡単に管理できます。オフィスの中の設置場所は自由で、壁に固定できるほか、下に車輪をつけてオフィス内を自由に移動させ、空間の仕切りとして使うことも可能です。
Naavaは、この自然とハイテクを兼ね備えたグリーンウォールを「NaaS(Nature as a Service)」と表現しています。無機質になりがちなオフィスに自然の温かみのある緑を取り入れられ、従業員の働き方や生産性にポジティブな影響をもたらせるのではないでしょうか。
2-4.ABN AMROが建てたサーキュラーエコノミー複合施設「CIRCL」
オランダの三大銀行のうちの一つ、ABN AMROが建てた複合施設「CIRCL(サークル)」は、サーキュラーエコノミーの考え方に基づいて建設され、施設を使う従業員や地域住民などへの環境意識の浸透という意味でも重要な役割を果たしていますました。たとえば、施設解体後に表面を削ることで新たな木材としてもう一度使えるよう、柱が通常の建物に比べて太くなっていたり、天井の断熱材が使用済みジーンズをダウンサイクルしてつくられていたりと、CIRCLを訪れた人が資源や自然の循環を意識できるようになっています。
CIRCLには会議室やイベントホール、カフェテリア、バー、ショップ、アートの展示などが並んでいます。クライアントや地域住民、通りすがっただけの人など誰もが気軽に訪れることができるよう建設され、社会やコミュニティとのつながりが生まれる場となっています。
3. SXの実現へ、オフィスや働き方の面で工夫するためのポイントとは?
オフィスで働く従業員のウェルビーイングを高めるためのポイントを2つまとめました。
3-1. 心と体の健康を高める空間・仕組みづくり
従業員の労働時間やインターバルのみを管理し、出勤時間中に従業員がきちんと休憩をとれているか、確認できていない会社も少なくないのではないでしょうか。スマートオフィス家具の事例のように、テクノロジーを使った従業員の健康管理ができるようになれば、従業員の働きやすさや生産性も向上しそうです。
また、オフィスにフリースペースのような開放的な空間を設け、気軽に話せる場づくりや、緑あふれる空間にすることで従業員がリフレッシュできるようにすることも必要です。特に、フリースペースを設置する余裕がない場合には、観葉植物をいくつか置くだけでも雰囲気が変わり、従業員のウェルビーイングの実現につながるかもしれません。
3-2. オフィスの役割を再考し、サステナビリティ推進の拠点に
オフィスは単に働く場としての役割ではなく、グリーンウォールやCIRCLの事例などのように、自然や地域社会へのアクセスの機能を持つことで、従業員のサステナビリティやウェルビーイングへの関心を高めることにつながります。リモートワークが拡大する中、オフィスにそのような役割を付け加えることで、サステナビリティ推進のシンボルとしての役割を果たすのではないでしょうか。
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