気候変動を「解決策」から語るメディアが増える今、情報発信者が気をつけたいこと

気候変動を「解決策」から語るメディアが増える今、情報発信者が気をつけたいこと

戦争や新型コロナ、政治家のスキャンダルに殺人事件…。こうしたセンセーショナルな報道が、連日のように繰り広げられるいま。英オックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所は、2019年に発表した調査報告書で、人々がニュースを避ける理由の最上位は「ニュースを見ると、後ろ向きな気持ちになるから」だということを明らかにした。世界で起こっていることを知るのは大切だが、ネガティブな報道ばかり見ていると気落ちしてしまうのは事実だろう(※1)

近年、こうしたセンセーショナルな事実のみを伝える報道を改め、現実の社会課題を建設的に解決(ソリューション)する役割を担うジャーナリズム、ソリューションジャーナリズムが新たに台頭している。ソリューションジャーナリズムは、一般の人々や企業、自治体、NPOなどに、解決へ向けた新たな行動を呼びかける。そして、政策などに結びつけることによって、現実に社会や制度を動かそうとするのが特徴だ。本ウェブサイト、IDEAS FOR GOODもソリューションジャーナリズムを標榜するメディアとして日々活動している。

近年、「解決策」を提示するジャーナリズムが増加している

こうしたなか、経済メディアを対象とした調査「気候変動に関するコミュニケーション」では、このような「解決策」を提示するジャーナリズムが、2020年から2021年の間で気候変動の領域において54%増加していると公表している。この調査は、世界のニュースソースから収集した25,000記事を分析しているが、数が増えただけではない。その内容も炭素排出量取引や水素技術、自然資本などこれまで以上に幅広いテーマを扱うようになっている。

調査に協力した記者によれば、このような「解決策報道」が増えている背景は次のようなものだという。人々は差し迫る危機や生態系破壊の「暗い」ニュースよりも、イノベーションや新しいテクノロジーのトレンドを知りたいし、どのような商品が生き残るのかを見定めたいのだ、と。こうした人々の心理も手伝って、気候変動に関するソリューションジャーナリズムはビジネス分野で盛んに使われ始めている。

他方、日本の研究では、日本の気候変動に関するソリューションジャーナリズムはまだまだ不十分だとする見解が示されている(※2)。「解決策」をどのように定義し、分析方法をどのように設定するかという問題もあるかもしれない。だが、いずれにしても、気候変動のように長期的視座を必要とする社会課題は、短期的発信である「ニュース」にはそぐわない。それゆえ、気候変動における広い意味でのソリューションジャーナリズムは今後ますます増加するし、増加すべきでもあるだろう。

今後の「よりよい」ソリューションジャーナリズムに求められるものは?

それでは、今後の「よりよい」ソリューションジャーナリズムに求められるものは何だろうか。まず、データに裏打ちされた確かな報道の必要性が挙げられる。ネットメディア時代は、記事の更新頻度が大幅にアップしているが、人材は十分とはいえないかもしれない。そうしたスピード重視・人材不足のなかでいかに信頼に足りる記事を提供できるかが問われることになる。

次に、メディアが安直なソリューションに飛びつかないことである。たとえば、解決策提案が商品紹介に取って代わり、特に先進国の「市場」に取り込まれる可能性がある。そこでは、いかなる理念や哲学のもとに解決策を紹介するのかが問題となる。

さらに、ソリューションだけにフォーカスするあまり、社会課題そのものと向き合わない危険とも隣り合わせだろう。経済先進国や富裕層の人々による環境に負荷をかける行為のしわ寄せが、貧しい国に住む人々や経済弱者に及んでいる。そうした中で、そうした気候変動の不公正な負担を強いられる弱者に視点を置いた問題解決を目指すべきだという「気候正義」が今世界で叫ばれているが、実際に危機に瀕している人々を忘れてしまっては本末転倒だ。

最後に、解決策はメディアが一方的に提示するものではないことにも留意すべきだろう。1つの解決策が別の問題を引き起こすことも十分考えられる。太陽光発電は気候変動時代に不可欠のソリューションだが、景観問題や廃棄問題も引き起こしている。それゆえ、多様な立場の人々が議論や対話に参加し、その議論を促進するような役割がメディアに求められているといえよう。

メディアの役割はニュースを報じるだけではない。解決策の提示やさらに異なった解決策へのきっかけとなるような議論を誘発することも、よりよいソリューションジャーナリズムの未来を拓くために欠かせないメディアの役割といえるだろう。

※1 Reuters Institute Digital News Report 2019
※2 気候変動とソリューション・ジャーナリズム – GNV (globalnewsview.org)

【参照サイト】The Communications of Climate Transition
【参照サイト】As media coverage of ESG grows, climate doomism is making room for solutions journalism
【参照サイト】 (seesaa.net)
【参考文献】清水麻子(2018)「問題解決模索型ジャーナリズムという新潮流:市民に多角的な視点を提供する日米欧の民主主義実践を事例に」、『日本マス・コミュニケーション学会・2018年度秋季研究発表会・研究発表論文』1-6頁。

Edited by Erika Tomiyama

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事です。

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