スマイルズ×コクヨ「PASS THE BATON MARKET」が創る、ものづくりの未来

スマイルズ×コクヨ「PASS THE BATON MARKET」が創る、ものづくりの未来

世の中には、商品として生み出されたのに日の目を浴びず、倉庫に積まれた商品が多数存在する。株式会社スマイルズは「倉庫に文化に 光を当てれば、」を合言葉に、企業のデッドストック・規格外品にもう一度、光をあてるイベント「​​PASS THE BATON MARKET」を2019年にスタートさせた。2022年10月に開催された「PASS THE BATON MARKETVol.9」には55の企業が参加し、2日間で5,031名が足を運んだ。イベントの会場となったのは品川にあるコクヨ株式会社の東京品川オフィス「THE CAMPUS」で、スマイルズとコクヨは共催でイベントを実施している。

スープ専門店「Soup Stock Tokyo」などの事業を生み出しながら、多様なコンサルティングやプロデュースを手がけるスマイルズと文房具・家具メーカーであるコクヨ。一見分野のまったく異なる両者のコラボはどのようにして生まれたのだろうか。今回はPASS THE BATON MARKETが生まれた背景、これまでの歴史、そして両企業にとっての当イベントの意義とこれからについて、両社のメンバーに話を伺った。

話者プロフィール

休場 瑞希(やすば みずき)
株式会社スマイルズ PASS THE BATON MARKETディレクター
1993年横浜市出身。高校卒業と同時に単身渡仏、パリで服飾の専門学校を卒業。帰国後はスタイリストのアシスタントなどを経験したのち、PASS THE BATONのパートナースタッフとしてスマイルズに入社。店舗勤務を経て現在はPASS THE BATON MARKETディレクターとして企画・運営などイベント全体の業務に関わる。

 

花摘 百江(はなつみ ももえ)
株式会社スマイルズ広報 / スマイルズ生活価値拡充研究所長
2014年スマイルズに新卒入社。Soup Stock Tokyo店舗勤務を経て人事担当に。その後、兼任広報としてコミュニケーション設計・広報・編集・ライティング・SNSなどを担当。2019年4月より現職。PASS BATON MARKETでは広報やタブロイド執筆、場内MCを担当。複業で音楽レーベル、建築設計事務所などにも携わる。

 

久保 友理恵(くぼ ゆりえ)
コクヨ株式会社 ヒューマン&カルチャー本部 HR部
2013年コクヨ株式会社に入社、企業へのオフィス提案や人事業務に従事。2021年にオープンした自社オフィス「THE CAMPUS」の運営プロジェクトに参画し、PASS THE BATON MARKETの共催をはじめ、「オフィスを街に開く」取組みの企画推進を担当。

 

萩原 航大(はぎわら こうだい)
コクヨ株式会社 コーポレートコミュニケーション室
早稲田大学を卒業後、PR会社に新卒入社。主に飲料や食品系商材のPRコンサルティングに従事。その後、2022年にコクヨ株式会社に転職し、コーポレートコミュニケーション室に所属。現在は主にメディアリレーション業務や新規事業の情報発信強化などに取り組む。

個人向けリユース店舗から企業参加型イベントへ 時代にあわせた事業転換

株式会社スマイルズは2009年から「PASS THE BATON」というセレクトリサイクルショップ事業をスタート。愛用していたけれど今は使わない、でも捨てるのは惜しい。そういった品を元持ち主の顔写真とプロフィール、品物にまつわるストーリーなどを添え、それらを付加価値として大切に使ってくれる人に買ってもらうお店を展開してきた。

「PASS THE BATONをスタートした13年前に比べ、今ではフリマアプリやWebサイトなどでC2C(個人同士)の取引がより一般的になったこともあり、今年ですべての店舗をクローズしました。そんな中、企業さんからの『自社で在庫が余っていて、もったいない。なんとかできないか』という声を受け、PASS THE BATONという“店舗”型の個人向けリサイクルブランドから、企業がデッドストック品を持ち寄ってひとつの“場所”に集うイベントへと形を変えるきっかけとなりました」(スマイルズ・休場氏)

使われずに眠った物に光を当て、ストーリーと共に届けるといった事業コンセプトは変わっていないが、時代の流れやニーズの変化に合わせて、個人向け店舗の事業から企業参加型のイベント事業へとスタイルを柔軟に転換させていったのだ。

コクヨとの出会い、みんなのワーク&ライフ開放区 “THE CAMPUS” でのイベント開催

現在のイベント会場であるコクヨの「THE CAMPUS」は、自社ビルをリノベーションし、その一部を開放し誰でも利用できるパブリックエリアを新設したオフィスとして2021年にオープンした。

「2019年に行った『PASS THE BATON MARKET Vol.1』は、取り壊しが決まっていた戸田建設さんのビルを使わせていただきました。2週間後にはなくなる場所に最後にもう一度、光をあてるということに、コンセプトの繋がり、魅力を感じました。その後はコロナ禍の影響でオンライン開催となりましたが、オンラインは出店者とお客さんとのコミュニケーションが、対話というより一方的なものになってしまいやすいという課題がありました。そんな時に、THE CAMPUSとの出会いがあり、リアルで出店者とお客さんが対話することで、イベントとしての“楽しさ”が生まれたと感じています」(スマイルズ・休場氏)

オフィスの空間デザインやコンサルテーションを行う、コクヨ。コロナによってオフィスの在り方、存在意義が改めて問われるようになったという。そんな中、コクヨに根付く“実験カルチャー”でオフィスを街に開くという発想から生まれたのがTHE CAMPUSだった。

「スマイルズさんからはオープン前からTHE CAMPUSで開催したいとお声がけいただいていて、コクヨとしてはまず“街に開く”オフィスとして一度やってみようと、THE CAMPUS初のパブリックイベントとして開催に至りました。

その後の大きな反響を受け、スマイルズさんからは単発ではなく定期開催したいという“ラブコール”を改めていただいていました。事業モデルの転換を目指すスマイルズさんの本気の眼差しに対し、THE CAMPUSの運営メンバーは『やりたい!』と即答したい気持ちでしたが、コクヨにとっての“一緒にチャレンジし続ける意味”を改めて定義する必要があると考え、一度社内に持ち帰りました。

ちょうどその頃、コクヨ内でも長期ビジョンやサステナブル経営について社内議論が深まっていたところでした。このマーケットの企画や運営に事業や社員を巻き込んでいくことで、これまでとは異なるサステナブルな切り口で物事を見る感度を高めたり、こうした社内の機運醸成を後押ししたりできるのではないかと仮説を立て、私たちもこの船に一緒に乗ろう、という覚悟を決めました」(コクヨ・久保氏)

PASS THE BATON MARKETが与えた社内への影響

マテリアリティの一つとして社会課題解決の牽引に取り組むと掲げているコクヨ。その活動は受動的なものではなくアウトプット、参画することが重要だとしている。PASS THE BATON MARKETにおいても、さまざまな場所で社員の活躍が見られる。

「アップサイクルをテーマにした新商品をPASS THE BATON MARKETで発表してお客さんの反応を見たり、社内で『もったいない』と感じているもの・ことを公募して情報を拾い上げ企画にしたりと、PASS THE BATON MARKETを通じてサステナビリティに関するさまざまな実験的取り組みを行っています。

また、イベント当日のブース運営スタッフは毎回半分のメンバーを入れ変えることで、社内の多くの人がこの空気に直接触れ、自分ごととして社会課題に向き合えるようにしています。東京以外の地域の社員や多様な事業、部門からの参加が拡大し、社内でPASS THE BATON MARKETを通じてサステナブルな取り組みに関わる人がどんどん増えています」(コクヨ・久保氏)

オフィスで回収した不要なプラスチックのクリヤーホルダーを、定規にアップサイクルするワークショップ

「場の提供者」から「共催者」へ。コクヨ×スマイルズで生まれた化学反応

THE CAMPUSという「場」の提供から始まった関係だが、こうしたコクヨの前のめりな姿勢が、強力なコラボにつながっている。

「コクヨのみなさんがテーマカラーのピンクのものをイベント当日に身につけてきてくれたり、コクヨの社長さんや社員さんが家族を連れて、お買い物をたくさんしてくださって、イベントを楽しみ盛り上げてくれたり。一緒にこのイベントを創っているんだ!と胸が熱くなりますし、コクヨさんの雰囲気、熱量があるからこそ、それが関係者に伝わって精神的な連帯感を感じることができます。また、運営側としてだけでなく、自社内に『もったいない』ものはないか、イベントで新たな取り組みや発信ができないかなど、プレイヤーとしてもイベントを支えてくれています。企業のひとりひとりが、役職や立場関係なく生活者としてイベントを楽しむことができるからイベントが活気づくんだと感じます」(スマイルズ・休場氏)

「東京に限らずいろんな地域から社員が集まり、立場を超えてこのイベントに参加することで、普段の仕事とは違った同僚の一面が見られるのが社内的にも、とても良いことだと感じます。また、いつも自分が仕事している場所が、こんなふうに生まれかわるんだ、というワクワクした気持ちになります」(コクヨ・萩原氏)

「実際こういったイベントごとは、社内だけで、いつものメンバーで行ったほうが運営としても負荷が少ないことが多いと思いますが、コクヨさんは社内の様々な部署の方を巻き込んでこのイベントを盛り上げてくれています。品川のオフィスを開放してこれだけの規模のイベントをすることに心の広さを感じますし、スマイルズとコクヨさんの関係性があるからこそ、思い切りできるイベントだと思っています。毎回、新しい気持ちでイベントに挑み、いつもコクヨさんと共に小さな実験を積み重ねています」(スマイルズ・花摘氏)

出展者も主催者も全力で楽しんでいるから、みんなにとって魅力的なイベントとなる

PASS THE BATON MARKETは2022年12月に10回目を迎えた。イベントが長く続いていくのは、その思いに共感する企業や消費者が多くいるからこそだといえる。運営側として、イベントを魅力的なものにする秘訣を伺った。

「主催者も出店者も参加者も、皆が『倉庫を空っぽにしよう』『違った角度から光を当てよう』という共通の思いがあって、イベントではそれが合言葉になっています。その場にいる全員が同じテーマを持って前進しているからこそ生まれる連帯感を大切にしています。出店企業の紹介では、商品を届けようとしている人の体温が伝わるものにしたいと考え、よくある企業の紹介コピーや売り文句ではなく、どういう思いで出店したのか、イベントに対する意気込みを語ってもらうようにして、出店者の熱い志に、さらに私たちの熱を重ねて伝えています。参加者もその思いに共感し、一緒にイベントを盛り上げようと思ってもらえるような言葉選びを心がけています」(スマイルズ・花摘氏)

「出店者さんの本気を後押しすることが私たちの役目だと思っています。出店者も参加者も、そして主催の私たちも、立場の垣根をこえて、ワクワクした気持ちや熱狂を感じられるイベントにすることを大事にしていますし、正しさより楽しさを重視しています。イベントでは、実は『サステナビリティ』といった言葉をあまり全面に出していないんです。楽しくお買い物をして、結果的にサステナビリティにつながる。形式的な言葉だけが先にいかないようにしています。『倉庫をからっぽにしよう』というコンセプトで始まりましたが、今後やりたいことは200ぐらいストックがあるんです。イベントのたびに、なぜそれをやりたいのか、そもそもなぜこれをやっているのか、立ち返って議論をしています」(スマイルズ・休場氏)

多くの企業がひとつの社会課題をテーマに集う。共創から生まれる価値とは?

回を重ねるごとに注目度も上がり、Vol.9では業種もさまざまな55の企業が出店したが、出店企業を選ぶポイントは「共感」にあるという。

「ある基準や条件を決めてというよりは、スマイルズのメンバーそれぞれが感じる、この企業が好き、一緒にやりたいという気持ちを大事に、自分が“推す”企業の魅力をメンバーにプレゼンして出店企業を決定することもあります。企業の関係や立場を超えてコミュニケーションをとりながら行うイベントだからこそ、お互いに共感を大切にしたいと思っています」(スマイルズ・休場氏)

PASS THE BATON MARKETに出店する企業にとっての価値や起こり得る変化もあるようだ。

「PASS THE BATON MARKETではお客さんに対して営業トークではなく、自分の話をしてもらう場所です。出店者は商品として出せなかったモノを、端によけてしまうのではなく、マーケットに持っていくという前向きな形で捉えることができます。また、出店企業にとって当イベントが新入社員を連れてくる場所になったり、自社の工場の方々と初めて会うきっかけいなったりと、社内コミュニケーションのきっかけになったという声も聞きます。さらに、普段は競合である立場の企業同士がイベントを共に創り、楽しんでいます」(スマイルズ・休場氏)

「コクヨも『大量生産・大量消費』の仕組みの中でビジネスを行ってきた企業の一つです。そんな私たちが、品川という“ものづくり”の歴史をもつビジネス街で、自分たち自身が模索しながらも、他の企業さんや生活者の方々にも開かれたサステナブルな場を催すことに意味があると感じています」(コクヨ・久保氏)

PASS THE BATON MARKETのこれから

「Vol.10を迎えましたが、回を重ねるごとに新たな実験を行っています。PASS THE BATON MARKETはみんなの場所です。私たちは皆さんに対してスーパーウェルカムです!いろいろな企業さん、個人の方々に知ってもらい、足を運んで欲しいと思います」(スマイルズ・休場氏)

「実は来年もTHE CAMPUSで定期開催する方向で話が進んでいます。オフィスを提案するという事業を行っている当社としては、自社のオフィスでこのイベントを行うことは、社会に対して、未来につながるオフィスの在り方や、オフィスに来る意味を模索する自社の取り組みを発信することにもなります。企業は今、社会課題とどう向き合うかが問われています。当イベントは社員が体験を通じて、社会とつながることができる場です。今後、事業や社員のサステナブルな実験や新たな挑戦をこのマーケットで後押しすることで、社会の熱量を高めていくことに少しでも貢献していきたいと思っています」(コクヨ・久保氏)

ひとつの課題解決をテーマに垣根を超えて集い、それをポジティブなエネルギーにして発信し、人の心を動かす当イベントは、まさに新しいビジネスや企業共創のかたちと言えるかもしれない。スマイルズの持つ“創造力”や“柔軟性”とコクヨに根付く“実験カルチャー”や“ものづくりの精神”が組み合わさることで、課題解決のその先にあるクリエイティブな未来をよりリアルに想像することができる。今後のイベントでの新たな挑戦や取り組みにも目が離せない。

コクヨの工場で出る、ノートの切れ端を使ったフレーム(額縁)に、思い思いのペインティングを施してインテリアにアップサイクルするワークショップ

【関連サイト】PASS THE BATON MARKET Vol.10(2022年12月10日〜11日開催)
【関連サイト】PASS THE BATON
【関連サイト】コクヨ株式会社

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