「にわか歓迎」漁業のリアルと課題をみんなで考えるプロジェクト“丘漁師組合”

「にわか歓迎」漁業のリアルと課題をみんなで考えるプロジェクト“丘漁師組合”

近年、海の豊かさの持続可能性が国内外で問題視されている。例えば、産業排水や生活排水などによって海洋汚染が引き起こされていたり、乱獲によって資源の枯渇や生態系バランスが悪化したりするなど、問題は多岐にわたっている(※1)。そして漁業に関しては、一般の人々が料理で使うのは難しい種類の魚や、規格外サイズの魚が廃棄されてしまうという産業の構造上の問題もある。

都市部に暮らす人の多くも、魚を食しているだろう。しかし、海や漁業が身近ではない人にとって、それらの課題に向き合う機会は多くない。今回は、そんな人でも漁業の現実と課題に向き合えるようなプラットフォームを作り、海の問題の解決に向けてさまざまな取り組みを行っている「丘漁師組合」の発起人・水谷岳史さんに、これまでの取り組みについてインタビューを行った。

話者プロフィール:水谷岳史(みずたに・たけふみ)

水谷さん株式会社On-Co 代表取締役。1988年生まれ。三重県桑名市出身。高校時代から商店街活性化、飲食や音楽などのイベント企画に携わる。家業である造園業に従事し、デザインや施工、設計管理スキルを習得。同時に空き家を活用したシェアハウスや飲食店を運営。ライフデザインやコミュニティ形成に取り組む。最近では都市部と過疎地(山村・漁村)の特徴を捉え、関わる人の主体性を上げる企画を創出。誰もが自由に挑戦と失敗ができる社会を目指し、実証実験を続けている。

海の課題を、みんなで考える

以前より漁師さんと仲良くしていた水谷さんは、彼らから海の課題を聞く機会が多かったという。

「自分は漁師さんを通して海の課題をたくさん知っているのに、釣りもできず、魚もさばけない。そんな『頭でっかちさ』を気にしていました。しかし、それはある意味で『初心者』の視点で多角的に考えられるため、海の課題解決に必要な要素なのかもしれないと思うようになりました。そこから、サーファーの格好をしているのに実際にサーフィンはしない『丘サーファー』から着想を得て、『丘から海を考える』というコンセプトのもと『丘漁師組合』というプロジェクトを開始しました」

丘漁師組合の仕組み

海の課題は漁師だけが考えるものではない。そう感じた水谷さんは、漁師と一緒に漁に行ったり、魚をさばいたりと、さまざまな取り組みをしてきた。2022年1月には、トンガ王国で海底火山の大噴火が起こった際、日本の漁に壊滅的ダメージがあるという過度な報道がされた(※2)。実際には日本の牡蠣は食べられるのにもかかわらず、ニュースでは「鳥羽の牡蠣が取れない」と報じられたという。

落ちない牡蠣

そこで水谷さんたちは、受験シーズンに合わせて、岩に強く付着するため「落ちない」牡蠣と受験に「落ちない」こととを掛け合わせ、「落ちない牡蠣」のプロモーション企画を行い、牡蠣の消費量を上げる試みを行った。

「忙しい漁師さんの代わりに僕たちが海の問題を伝えていくきっかけになれば良いなと思っています。『将来食べられなくなるくらい魚が減っている』という漁師さんたちの声をよく聞くのですが、私たち消費者はその事実を知りません。その状況を止めるためにも、『落ちない牡蠣』の企画などさまざまな人たちを巻き込みながら自分たちで考えて行動することが必要だと考えています」

「未利用・低利用魚」の活用プロジェクトにも尽力

FabCafe Nagoyaとのコラボ商品
「FabCafe Nagoya」と低利用魚メニューを開発

他にも、丘漁師組合は収穫しても一般の人々が料理で使うのはなかなか難しい未利用・低利用魚の活用(※3)にも注力しており、「FabCafe Nagoya」と低利用魚メニューを開発するなど、多くの人たちにこの問題を発信する活動も展開している。

実際に、海面漁業や内水面漁業などを合わせた総水揚げ量のうち、約3〜4割が市場で値がつかないなどの理由で、未利用魚として廃棄されていると言われている。未利用魚を廃棄することは、漁獲従事者の利益を減少させることにもなる。未利用魚の活用は、フードロスの防止、 そして漁業従事者の利益を確保することで獲りすぎを防ぎ、持続可能な漁業への一歩につながると考え、水谷さんたちは行動を起こした。

「市場に流通せず、地元の人しか食べない魚はたくさんあります。サイズが規格から外れて小さすぎる/大きすぎるということによって魚の価格は変動し、最終的に値段がつかない魚は捨てられることもあります」

「水揚げ量自体も減っていて、漁に出ても漁獲量の7割が売れない魚だともう一度漁に行くそうです。売れない魚のほとんどは廃棄されたり魚の餌になったりしており、漁師さんたちも大変だし、多くの資源が失われています。そこで、飲食店にこの状況を理解していただいて、未利用の魚が流通するように試みています」

今後はさらに多くの人が海の文化を知るきっかけを

これまで、海の問題に取り組んできた丘漁師組合だが、今後は「もっと人と海の文化をつなげていきたい」と水谷さんは話す。

「丘漁師組合ツアーをたくさんしたいですね。高校の修学旅行の一環で、地域の課題を知るきっかけとして、漁村のアテンドをしたことがあるのですが、もっと漁村に遊びに行く人を増やしたいと思っています。現地に赴くことで海の問題の解像度を高めると現地の住民たちとのコミュニケーションも変わります。まさに、その地域のファンを増やしていくような感覚ですね」

また、水谷さんたちはこうした海の問題のみならず、日本の文化全体をどのように残していくかを思案しているという。

授業の様子

「海の文化という日本人の『民俗』としての結集した知恵や文化が失われていくというのは、日本の文化自体がなくなることを意味すると思っています。その中で、これまで世の中でやられてこなかったことをするのが僕らの役割なのではないかな、と。自分は漁業の専門家ではないですが、僕が課題だと思っているのはみんなが海の問題を知らないということです。この状況を伝えていく役割の人が少ないからこそ、僕たちの活動を通して海に関わる人を増やしたいと思っています」

編集後記

四方を海に囲まれた日本に住んでいるものの、普段「海」について意識する機会は少ないという人も多いのではないだろうか。それゆえ、海の問題について耳にしても、具体的なイメージが浮かばないことがある。こうした状況は海のみならず、森や山、川など「自然」そのものにも言えるかもしれない。普段、あらゆる媒体で環境保護のメッセージが発せされているが、都会に住んでいると感触的に理解がしづらい現状がある。

だからこそ、「頭」で理解しようとせず実際に現地へ赴き「五感」で自然を感じる機会を作っていくことも大切である。丘漁師組合の取り組みを通して、私たちと海との距離が縮まるとともに、現地だから感じられる「海の問題」の本当の姿が見えてくるはずだ。

※1 環境省 海洋生物多様性保全戦略公式サイト「海のめぐみって何だろう?:海のめぐみを損なう要因とは」
※2 トンガ海底噴火、私たちには何ができる?募金先・支援団体まとめ
※3 【丘漁師組合が広げる[海の課題に取り組む「素人プロ」]の輪。 】「FabCafe Nagoya」が低利用魚メニューを開発。10月1日より提供スタート。
【参照サイト】丘漁師組合 ホームページ
【参照サイト】On-Co ホームページ
【参照サイト】株式会社On-Co Facebook
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Edited by Megumi

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事です。

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