どのNPOが信頼できる?安心して支援できる団体がひと目でわかる「グッドガバナンス認証」
「社会のためにお金を使いたい」と思ったとき、あなたが最初に思いつくことはなんだろうか。たくさんの選択肢から、たとえ「寄付」という選択にたどり着いたとしても、次の壁は寄付先選び。NPOはNPO法⼈だけではなく、⼀般社団法⼈、⼀般財団法⼈、公益社団法⼈、公益財団法⼈、社会福祉法⼈などを含めると、10万以上の団体が存在する。そんな数ある団体の中から、自分が心から信頼できる団体を見つけ出すには、一体どうしたらいいのだろう。
そうした課題にアプローチしているのが、一般財団法人非営利組織評価センター(以下、JCNE)が行う第三者認証「グッドガバナンス認証」だ。グッドガバナンス認証とは、非営利組織の中でも外からは見えにくい組織内部の状況を第三者機関に開示して、信頼性・透明性の向上に努めている団体に与えられる認証である。寄付やボランティアとして社会貢献したいという市民や企業の人々が「安心して支援できる団体」として紹介されているのが、この「グッドガバナンス認証団体」なのだ。
JCNEはこのほど、この信頼あるNPOの証であるグッドガバナンス認証を受けた30団体の活動を、1つの冊⼦にまとめたガイドブック『Good Governance Voice2021』を発⾏した。
今回は、Good Governance Voice2021の企画・編集を担当した、JCNEの村上佳央さんに「グッドガバナンス認証が社会にどんな役割を果たすのか」や、「日本の寄付市場の課題」、「どうしたら私たちが寄付を身近に考えることができるのか」について、話を聞いた。
グッドガバナンス認証は、NPOの「信頼性の証し」になる第三者認証
Q. グッドガバナンス認証を運営する「非営利組織評価センター(JCNE)」について教えてください。
JCNEは、NPOの信頼性を「見える化」する、日本で初めてかつ唯一の広域評価機関として2016年に設立されました。日本で特定非営利活動促進法が施行されたのは1998年。それ以来NPOは、国や行政の管理に縛られず、民間で自らを律して運営をしていくという自由な制度の下で成り立っています。一方で、自由な運営ができることで、NPOの信頼性を高めるためのルールも存在せず、次第にその数も増える中で乱立するだけになってしまっているのが今の状況です。
海外の動きを見ると、既に欧米やアジア諸国、インドや台湾などでは、チャリティの運営状況を第三者機関が評価し、その結果を公開する仕組みがあります。国際的なNPOの評価機関であるICFO(International Committee on Fundraising Organizations)に加盟している国は約20ヶ国あり、日本より先にNPOの信頼性を評価する仕組みができています。
国内でも元々、市民活動を活性化させていきたいという想いから、日本のNPOに合わせた評価制度が必要と考えている、NPOの運営サポートを行う中間支援組織・助成機関が多くありました。そうした団体の想いが集まって設立に至ったのが、JCNEです。
Q. JCNEの活動について教えてください。
初級者向けの「ベーシックガバナンスチェック」と、中級者・上級者向けの「グッドガバナンス認証」という2つの制度を運営しています。ベーシックガバナンスチェックは、簡易的なチェックで団体運営の基本を評価しています。グッドガバナンス認証は、27項目の基準に基づいて団体さんの運営状況を評価し、認証するものです。その中でわかりやすい指標の一つが、「情報公開」です。基準の一つに、「個人、および法人からの寄付金の募集について、適切な情報を提供するとともに使途を明示している」という項目があるのですが、もらった寄付金額を何に使ったか、どれくらい余ったかということも含め、細かい事業報告や会計報告を支援者に行うことが団体の信頼につながると考えています。
Q. グッドガバナンス認証取得までの流れを教えてください。
まず、団体さんに書面を提出いただいて、オンラインでお話を伺います。運営上のお悩みを聞きながら団体さんを評価していくという「書面」と「ヒアリング」の2つの組み合わせです。ヒアリングはJCNE事務局だけではなく、外部の評価員も担います。この評価員は、今までNPOの運営サポートをされていた中間支援組織の方々や、コンサルティングをされていた方々です。
書面評価・ヒアリングをとおして、27項目全ての基準を満たしていると判断した場合のみ、団体さんを「認証審査委員会」にかけることができます。この認証審査委員会も、JCNEとはまた別の外部の委員で構成されています。つまりJCNEだけで、評価認証を行う組織として確立しているわけではありません。評価員の方々や、最終的なジャッジを行う認証審査委員会の方々など、日本のNPOをこれまで支えてきた方々のご意見が、評価認証に反映される仕組みになっています。お申し込みから認証までにかかる期間はおよそ4か月程度で、認証にかかる費用は現在無料です。
受益者の声は、“団体の存在理由”。声を集めた「Good Governance Voice2021」
Q. 今回発行された「Good Governance Voice2021」について教えてください。
グッドガバナンス認証を取得された団体さんを、一覧で見ることができるパンフレットとして初めて作成したのが、今回発行した「Good Governance Voice2021」です。寄付をしたいと考える方も、「信頼できるNPOはどこなのかわからない」という方が多かったり、ボランティアや就職先を探している方々にとっても、「一体どこを自分の働く先として考えたらいいのか迷う」というお声が多かったりと、インターネット上からの情報だけでは、信頼できる団体さんを見つけるのが困難なのが現状です。そこで、信頼あるNPOをいつでも探すことができるツールとして、Good Governance Voice2021を作成しました。
Q. 「Good Governance Voice2021」では、団体さんをどのように紹介しているのでしょうか?
認証となると、どうしても堅い話になってしまいがちなので、どのように紹介するかはとても悩みました。応援したい団体をこのパンフレットで見つけられるようにすることを目標として、Good Governance Voice2021では「受益者の声」を集めて掲載しています。
こちらは今回制作をお願いしたデザイナーの北牧さんの言葉ですが、「このNPOがあって生活が良くなった・楽しくなったという受益者の声というのはまさに、“団体の存在理由”」なんです。なぜ今このNPOを運営しなければならないのか、社会にどうしてこのNPOがあるべきなのか、といった存在意義の部分は、「その団体があるからこそ周りの方々の生活が良くなった」や、「1人じゃないんだと病気に立ち向かうことができた」などという受益者の声に反映されています。
Good Governance Voice2021では、「受益者の声」と「団体さんからの声」、そして第三者である「JCNEの声」の3つが合わさり、「この団体はいい事業をやっているだけではなく、運営もしっかりしている団体である」ということを伝えています。
Q. Good Governance Voice2021では団体さんのことが丁寧に書かれていますが、団体の方々とはどのようにしてこうした丁寧なコミュニケーションを取られているのでしょうか。
「評価」や「認証」というと、やはり少し冷たい印象があるというか、一方的に「ここができていないですよ」と指摘をされるのではないかなど、団体さんも最初は不安に感じている方が多いんです。なので、一方的な指摘ではなく、ヒアリングや説明会を通して、団体の運営状況をよく知ることを大切にしています。
団体さんがどのような想いを大切にしていて、今までどのような運営を行い、その上でどの部分が弱いのかわかるように、認証取得までの4か月は何度もコミュニケーションをとりながら進めています。そしてガバナンスは一時的なものではなく、継続することが大切なので、できていなかった部分については1年半後に中間ヒアリングを行うなど、認証取得後も団体さんに寄り添うことを大事にしています。
また、今年から年4回程度、認証団体の交流会を開催します。いろいろなNPOが持つ共通課題について、良いやり方があればお互いに共有して教え合う場にしたいと思っています。特に今はオンラインでの活動も増え、認証団体も全国に増えてきているので、横のつながりも広がっていくのではないでしょうか。
また、「認証取得までのハードルが高い」というお声も多いので、一番最初は、「マンデーサロン」という組織運営の相談会を設けています。グッドガバナンス認証の27の基準をざっと見るだけでも、NPOの運営でどういったところに注意するべきなのかがわかるようになっているため、その基準を一つ一つ解説しながら、状況をヒアリングしています。
Q. Good Governance Voice2021は、毎年更新されるものなのでしょうか?
今回発行したGood Governance Voice2021は、2021年版なので、来年の年明けにまた更新予定です。グッドガバナンス認証団体を認定する「認証審査委員会」は2か月に1回、1年で6回の頻度で開催されます。そのため、グッドガバナンスの認証団体は毎年増えていきます。
社会の流れやガバナンスに求められているものは日々、変わっているので、こうした認証や評価は有効期間が3年間となっています。3年経つと失効するか、もしくは認証団体に更新をしていただいて、改めて27基準に基づいて評価をさせていただきます。
寄付市場拡大に重要な、「NPOセクター全体」の信頼度
Q. NPOの資金集めの課題について教えてください。
NPOは少ない人数で運営しているところも多いので、広報専門の担当者が動いていない問題がよくあります。事業では、目の前で困ってる人を助けることに労力を割いているので、広報が後回しにされてしまったり、手の空いた際にしか取り組めていなかったりというパターンが多いんです。
一方で、逆に「広報をやりすぎてしまう」というパターンもあります。たとえば、該当の社会課題を煽りすぎてしまい、広報の文章や写真が誇張表現になることで、かえって信頼性を損なってしまうこともあるんです。JCNEの27基準の一つに「寄付集めをする際に誇張表現をしていない」という項目があります。NPOの資金集めは、企業が品物を販売してその対価を得ることとはまた違うところが、広報を難しくしていると感じています。
テレビや新聞で取り上げられた団体、広報が上手な団体に支援が集中してしまい、同じようなことをしていてもなかなか目を向けられないNPOがあるという構造も、やはりあります。そうした中で、広報を過剰に行わなくても支援が受けられるよう、グッドガバナンス認証のマークを活用していただけたらと思っています。グッドガバナンス認証を付与した団体の広報をしていくのは、JCNEの役割のひとつでもあります。広報に関しては、Good Governance Voice2021だけではなく、たとえば都道府県ごとに認証評価を受けた団体を一覧にしたポスターを作っています。なかなか一般の方々は、どんなNPOがあるのかを知らないんですよね。知ってる団体というと、本当に有名な団体だけに限られてしまっていたりして。
PRエージェンシーであるエデルマンの調査「エデルマン・トラスト・バロメーター2021」で、日本では最も信頼できるセクターが「企業」だといわれており、NPOの信頼性はあまり高くありません。限られた団体だけが頑張るのではなく、NPO全体として協力していく必要があると考えています。NPOというセクター全体の信頼度を、もっと上げる必要があるのだと思います。
NPOは社会実験の場。成果を外に公開することが社会のためになる
Q. 寄付を集めるために、やはり「団体の活動の良い面しか見せていない」という団体さんも多いと思います。その点については、どのように考えていらっしゃいますか?
これに関しては、企業にもNPOにも共通する、全ての組織の課題だと思っています。特にその中でも、NPOの場合は成果が財務諸表上からわかりにくいという点が原因にあります。企業で言えば、売り上げの上下が大きな指標になりますが、NPOの場合はそれが、「どれだけ困難を抱えている人の助けになったか」「社会課題をどれだけ解決に向かわせることができたか」になるので、そこは財務諸表上からはどうしても読み取れません。
そこでJCNEとしては、単年度と中長期的な事業計画をどちらも定め、目標の達成度合いを明らかにすることを重要視しています。27基準の中でも、「中期計画を作成しているかどうか」「その中期計画に基づいて、定期的に振り返りを行っているか」という項目もあります。社会課題の達成度合いは、漠然としたとらえどころのないものだと思いますが、団体自らが目標を定め、それに対して今年はどれだけ進んだかというのを明らかにしていく。それを事業報告と一緒に発信していくことが、団体の良い点、そして課題の両方とも発信することになるのかなと思います。
これは私自身の考え方なのですが、NPOは「社会実験の場」だと思っています。政府よりは小回りがきく、企業よりはもっと社会性を第一に考えることができる、というように、社会問題を解決する試行錯誤を繰り返していく。社会実験と捉えたら、成功しても失敗しても、どちらにとっても社会にとって有益なことですよね。その情報を明らかにしていくことが重要だと思います。JCNEのベーシックガバナンスチェックでは、団体が「満たしていない基準」も合わせて公開しており、NPOの実態や、現在の状況を具体的に表記しています。たとえ何かうまくいかないことがあっても、新しい試みをしているので、失敗するのは当然。そう思ってどんどん発信していくことで、NPOに興味を持ってくれる人はたくさんいるのではないかと思います。そうすることで支援者が増えていくのではないでしょうか。
Q. 寄付大国のアメリカでは、年間30兆円以上の寄付が集まるという中で、日本ではまだその額に及びません。日本における寄付の課題を村上さんはどのように考えていらっしゃいますか?
二つあります。一つは、日本ではまだ非営利組織は利益を出してはいけないとか、高額な給与を受け取ってはいけないと考える方が多いという点ですね。非営利組織とは、余剰金の分配を行わない、そして解散した際に残余財産の公益機関への贈与を定めている組織だと考えます。アメリカのように既に寄付文化が根付いている国では、学生の就職希望ランキングの上位にNPOが入っており、優秀な人材がNPOで働きたいと思うような社会が既にできています。そう考えると日本も、社会課題の解決に奮闘されている方々に、適切な金額の給与が支払われることを意識することで、より寄付の文化が根付くのではないでしょうか。
もう一つは、日本の寄付者の特徴として、1人が年間3〜4団体の複数の団体に対して寄付を行っているというデータがあり、寄付をする人が限られているのが現状です。それにより、寄付をしたのにお礼の報告がない、寄付を不明瞭な使い方をしている、といった団体が一つでもあると、NPO全体の印象が悪くなってしまい、他の団体にも寄付をしなくなってしまうことも考えられます。一つの団体の信頼性の低下が、他の団体に寄付をすることを躊躇してしまう連鎖ができてしまうのです。その点についても、NPO全体の信頼性の向上に取り組まなければいけません。
NPO全体の信頼性が上がることで実現する、未来への希望が持てる社会
Q. 私たちの生活の中に無理なく寄付を取り入れていく上で、アドバイスはありますか?
二つあります。一つは、近所のNPOを探して寄付をしてみると、自分の生活にも良い影響があるかもしれないという点で、おすすめです。国際協力の団体さんに寄付をするのも一つですが、それとはまた別に、自分の住んでる地域を良くするという視点も、寄付を身近に捉えるきっかけになると思います。
手軽に寄付できる仕組みとして企業との協働プロジェクトもおすすめです。「ハチドリ電力」さんに電力を切り替えるだけでNPO団体に寄付ができます。また、Amazon「みんなで応援」プログラムは、全国各地のNPO団体・施設・個人 が必要としている物品を、Amazon.co.jpを通じて寄付することができるプログラムです。どちらのプログラムにもグッドガバナンス認証団体が登録されています。スタンダードにお金を寄付すること以外でも、電力を切り替えたり、Amazonで物品を寄付したりと、今はいろんな方法があります。
Q. グッドガバナンス認証で目指す具体的なゴールや今後の展望などについてお教えください。
こちらはJCNEの存在意義だと思うんですが、「グッドガバナンス認証団体」という信頼あるNPOの数を増やし、客観的で信頼性のある情報を社会に提供することをゴールとしています。それによって信頼あるNPOや情報が社会に増え、NPO全体の信頼性が上がり、NPOが社会課題解決に取り組む活発な社会──たとえ今課題があったとしても、それはいずれ解決されるという、未来への希望が持てる社会が、実現できるのではないかと思っています。
編集後記
「Good Governance Voice2021」をぱらぱらとめくってみると、「子どもとの関わり、社会教育などを行っている団体」「環境保全、まちづくりを行っている団体」など、さまざまなカテゴリーごとで団体を見ることができる。そのカテゴリーの多さに、社会には解決すべき多くの課題があることに驚くが、それと同時に、課題解決のために活動している団体や人々が大勢いること、そしてそれによって救われている人々がたくさんいるのだということに、希望を持つことができる。
寄付という行為は、社会とつながる一つの手段でもある。寄付をすることで寄付先の団体とつながり、活動により興味を持ったり、関わる社会課題について「もっと知りたい」と好奇心が湧いたりした経験はないだろうか。寄付をすることによって「与える」ばかりではなく、「与えられる」もののほうが実は多いと、筆者は思う。
「何か社会のためにできることはないだろうか?」そう考えている人がいたら、まずは「Good Governance Voice2021」を見てみてはいかがだろうか。新しい世界を見せてくれる、お気に入りの団体に出会えるかもしれない。
【参照サイト】 グッドガバナンス認証制度 | 一般財団法人非営利組織評価センター
※本記事は、ハーチ株式会社が運営するIDEAS FOR GOODからの転載記事となります。
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