今日より「ちょっと良い」明日へ。デザインの力で循環型社会を目指す、ロフトワーク

今日より「ちょっと良い」明日へ。デザインの力で循環型社会を目指す、ロフトワーク

大量生産・大量消費・大量廃棄──これまでの経済システムによるひずみが社会を揺るがし、その限界が叫ばれている。そんななか、求められているのが、循環型の経済システムへの移行だ。

実際に、サーキュラーエコノミーなどの言葉は少しずつ浸透してきてはいるが、どうすれば、現在の経済システムを「循環型」にできるのだろう……?

Circular Economy

その問いの答えを「デザインの力」に見出すのが、株式会社ロフトワークだ。デザイン経営、サービスやウェブ、都市・空間のデザインやコミュニティ運営など、「クリエイティビティ」を軸に多岐にわたるプロジェクトを行っている同社は、そうした多様な活動のひとつとして、クリエイターとの共創を促進するプラットフォーム「AWRD(アワード)」の運営などを行ってきた。

そんなロフトワークが2021年、新たに「循環」をテーマにしたアワード事業をスタートした。その名も「crQlr Awards(以下、サーキュラー・アワード)」だ。

crQlr Awards 2022
crQlr Awards 2022

これまでもさまざまなアワード事業を運営してきたロフトワークが、なぜ、サーキュラー・アワードを始めたのか。そして、どのような想いで開催するのか──。

編集部は、ロフトワーク代表の諏訪光洋さん、サーキュラー・アワードの企画・運営に携わるケルシー・スチュワートさん、工藤梨央さんの3人にお話を伺った。

話者プロフィール:諏訪光洋(すわ・みつひろ)

ロフトワーク諏訪さんcrQlr Awards発起人、ロフトワーク代表取締役社長。1971年米国サンディエゴ生まれ。慶應大学総合政策学部を卒業後、Japan Timesが設立したFMラジオ局「InterFM」立ち上げに参画。同局最初のクリエイティブディレクターへ就任。1997年渡米。School of Visual Arts Digital Arts専攻を経て、NYでデザイナーとして活動。2000年にロフトワークを起業。Webデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティデザイン、空間デザインなど、手がけるプロジェクトは年間200件を超える。

話者プロフィール:ケルシー・スチュワート

ロフトワーク ケルシーさんcrQlr Awards チェアマン/ Sustainability Executive。2017年にLoftworkとFabCafeに入社。FabCafe CCOとして、FabCafe Global Networkのまとめ役を務め、世界各地のFabCafeのローカルクリエイティブコミュニティの育成と、それらのコミュニティとグローバルネットワークを繋ぐことを行っている。加えて、持続可能な開発目標の短期的な解決策を作成することを目的とした2日間のデザインソンである「Global Goals Jam(GGJ)」の東京開催の主催者でもあり、本イベントを過去に東京、バンコク、香港の複数都市で企画・実施した。

話者プロフィール:工藤梨央(くどう・りお)

ロフトワーク 工藤さんcrQlr Awards プロジェクトマネジャー。2020年ロフトワークに入社。SDGs目標の解決策を導き出すデザイナソン「Global Goals Jam(GGJ)」や、循環型社会を目指していくポップアップコミュニティ「In the Loop」の企画・実施のほか、「crQlr Awards 2022」のプロジェクトマネジャーを担当。人と自然が共により豊かになるような仕組みをデザインしていく、パーマカルチャーデザインを研究中。

定量化できない「サステナビリティ」のアイデアを増やしていく

グローバルに展開するデジタルものづくりカフェ「FabCafe(ファブカフェ)」、素材メーカーとクリエイターの共創を支援しイノベーションを生み出すグローバルプラットフォーム「MTRL(マテリアル)」、「AWRD(アワード)」の運営など、世界中のクリエイターコミュニティと共創することで、幅広いサービスを提供してきたロフトワーク。

同社は2021年、循環型経済を目指す社会や個人に新たな視座を与える、独自性と将来性のあるプロジェクトを発見・支援することを目的に「サーキュラー・アワード」を立ち上げた。

循環型経済の実現に欠かせない「サーキュラー・デザイン」の実践に必要なのは、既存の産業における実践的なノウハウだけではない。国内外の事例に触れて視野を広げること、起業家やアーティストなど、幅広い分野のクリエイティビティを活用する総合力──これらがカギを握るのではないか──そんな想いを背景につくられたアワードだ。

個人や企業、団体など、誰でも、世界中から応募可能。大規模なプロジェクトから会社でボツになったアイデアまで、サーキュラー・デザインに関わるものであれば何でも審査の対象──そんなサーキュラー・アワードを始めるに至った経緯について、諏訪さんに伺った。

諏訪さん「ここ数年、より多くの企業がSDGsやサステナビリティに本気で取り組み始めました。その流れをもっと大きなムーブメントにしたいという想いがあったんです。また、これまでも日本や海外でサステナビリティに関するアワードはあったと思いますが、『かっこいい』ものが少ないと感じていたのも理由です。

ですので、僕たちはデザインやクリエイティビティの力を大事にしながら、『実験的なプロジェクトもあっていい』というスタンスでやっています。あとは、『感覚』も大切にしていて、アワードの審査員にはサーキュラーエコノミーの専門家の方以外にも、レストランのシェフなど、面白い視点を持っているさまざまな人を集めています。

サステナビリティって、実は世間で考えられているよりもっと広い概念だと思っていて。たとえば、『CO2を何トン削減しました』というような定量的なものがすべてではないと思っているんです。だからこそ、『味』など、定量化できないものを扱う人にも審査員に入ってもらうことも意味があることだと思っています」

左からケルシーさん、諏訪さん、工藤さん
左からケルシーさん、諏訪さん、工藤さん

そんな審査員の多様さはもちろん、集まったプロジェクトの規模も多様だ。サーキュラー・アワードに寄せられた作品は、大学の研究室の取り組みからスタートアップ、大企業の人たちによるプロトタイプ的なプロジェクトまでさまざまだという。

諏訪さん「どのような場所であっても、サステナビリティに関する取り組みの予算をとることは簡単ではないと思います。しかし、たとえば企業の中でサステナビリティやSDGs担当として頑張っている人たちがアワードに応募し、審査員たちからコメントをもらうことができれば、社内で自信を持って報告できます。また、資金集めやブランディングのためにアワードを使ってくれているスタートアップの人もいます。

アワードを通して、色々な人たちがアイデアを創出する後押しをすることはもちろん、始めたプロジェクトが大きくなり、次につながっていくきっかけになっていけば嬉しいですね」

「サーキュラー」に注目する理由

続いて、サーキュラー・アワードの発起人であるケルシーさんに、いま「サーキュラーエコノミー」に注目する理由について尋ねてみた。

ケルシーさん「日本では、4,5年くらい前からSDGsが注目されるようになりました。ただ、SDGsというのは一つの目標で、その目標を達成するために何をしたらいいのか、プロセスは分かりづらいように思います。一方で、サーキュラーエコノミーは、やり方やヒントが詰まった『方法論』。その理論を使うことで、誰でも0から1、いや、100まで目指せると思いました。

それから、もう一つの魅力は、サーキュラーエコノミーが、モノの作り手にとっても買い手にとっても『選択肢を増やしている』ことです。たとえば、モノの作り手の多くは、これまで環境問題に対して取り組むとき、リサイクルという選択肢をとってきたと思います。しかし、サーキュラーエコノミーの考え方では、分解してリサイクルするよりも、商品の形をできるだけ残しながらリペア(修理)する方が大事にされます。つまり、商品設計の段階で、修理しやすい素材や作り方を選ぶことが重要になってくるのです。

このように、サーキュラーエコノミーの考え方を取り入れることで色々な場面で選択肢が増え、これまでなかったような商品が生まれるかもしれません。ただ、それがかっこよくなければ、消費者に選ばれないのも事実。だからこそ、クリエイティビティやデザインの力を使い、より魅力的な選択肢を増やしていきたいと思っています。そうしたアイデア創出のきっかけになればという想いで、サーキュラー・アワードを実施しています」

サーキュラー・アワードをきっかけに生まれる「つながり」

そんなサーキュラー・アワードには、2022年も世界中から多くの応募があった。およそ30の国から集まったのは、131のプロジェクト。そのなかから、10人の審査員による「審査員賞」とコミュニティのためのボトムアップな活動を評価する「特別賞」が選ばれた。数多くのアイデアのなかからどのように審査しているのだろうか。

ケルシーさん「サーキュラー・アワードは、優れたアイデアのランキングを決めるものではありません。また、実際に事業として実現しているかどうかも評価にとっては大事な要素ではありません。インスピレーションが与えられるか、『People(人)・Planet(地球)・Profit(利潤)』の3つの視点が入っているかを大事に、私たちは審査しています。

ですので、たとえば表現力に欠けている(たとえば、応募した写真の画質が粗すぎる、自信を持って伝えようとしていないなど)と思われるものやプロトタイプ的なアイデアでも、発想が面白ければ、選ばれるプロジェクトもあります」

サーキュラー・アワード応募作品の写真
サーキュラー・アワード応募作品の写真

アワードから生まれた、コミュニティの循環

そんな世界中に開かれたサーキュラー・アワードの特徴の一つ。それが、アワードの開催後も意見交換するなどのコミュニケーションができていることだ。受賞者たちは、審査員や他の応募者とオンライン上でやり取りを行い、アイデアをブラッシュアップすることも。昨年はアワードを通じたつながりから、海外のあるスタートアップ企業が、日本でビジネスパートナーを見つけたそうだ。

さらに、サーキュラー・アワードから派生して、世界中の審査員や受賞者を巻き込んだトークイベント「crQlr Summit(サーキュラー・サミット)」も開催されている。最新事例や知識を共有し合うなど、参加者同士がつながりながら、サーキュラーエコノミーを共創していくムーブメントを作っている。

さらに、サーキュラー・サミットのほかにも、FabCafeで行われるリアルなイベントとも相まって、新たな「循環」が生まれ始めている。

ケルシーさん「これまでいくつかのFabCafeで、『In the Loop』というリアルイベントを開催してきました。シェフやオーガニックの日本酒を出している人、アップサイクルされたプラスチックジュエリーをつくるクリエイターなど、さまざまな取り組みを実践する人たちが集い、ワークショップなども行われています。来た人が体感しながらサーキュラーエコノミーを学べる場になっています」

ロフトワーク In the loop
ポップアップコミュニティ「In the Loop」開催の様子

工藤さん「このIn the Loopを昨年、名古屋のFabCafeで開催した際に、出店してくださったクリエイターさんと来てくださった方がつながり、別の機会に一緒に登壇してもらったことがありました。In the Loopというリアルな場からサーキュラー・アワードでもつながって……と、コミュニティ自体が循環していくのが見られたのも良かったですね」

ケルシーさん「アワード自体はオンラインなので、リアルなタッチポイントはありません。ですが、実際に何か触れて、記憶にすることができるリアルな場も必要だと思っています。たとえば、実験的に挑戦できるリアルな場であるIn the Loopで何か作品をつくってみて、そこで得たフィードバックをもとにブラッシュアップしてサーキュラー・アワードに応募する──そんな流れも今後できていけば面白いなと思います」

平等(equality)、公平(equity)、すべての人を尊敬したうえで、循環を考えていくこと

オンラインでのプラットフォームからリアルなイベントまで、コミュニティ自体が循環しながら、循環型社会に向けた共創を生み出しているサーキュラー・アワード。開催するうえで特に大事にしていることを伺ってみた。

ケルシーさん「裏側の話かもしれませんが、とにかく『リスペクト』を大事にしています。審査員の方々に対しても、応募者に対しても。その人たちが、どういうバックグラウンドを持っているのか、彼らの視点を尊うようにしています」

サーキュラー・アワード審査会の様子
サーキュラー・アワード審査会の様子

ケルシーさん「応募した人はネイティブアメリカンの出身かもしれないし、貧困層かもしれない。はたまた、障害を持っているかもしれないし、伝統的な価値観や昔の時代の知識を持っているかもしれません。たとえば、プラスチックカップをたくさん使ったアイデアを出した人は、コンビニエンスストアしか近くにない地域に住んでいるかもしれません。

そうした背景を尊重しつつ、全体のことを考えていけたら、社会を「循環」型にするだけでなく、その先にある『リジェネラティブ(再生)』にもつながっていくと感じているんです。平等(equality)や公平(equity)を大事にしながら、すべての人を尊敬したうえで、循環を考えていくことが大事ではないでしょうか」

好きなことで好きな場所から。明日を「もうちょっと良く」していく

最後に、ロフトワークの皆さんが思い描く未来について伺った。

ケルシーさん「現在の大量生産・大量消費の直線的なものづくりにおいては、作り手の『想い』や『意志』が欠けているように感じます。これからはクリエイティブな方法で廃棄を減らすデザインを考えるなど、作り手が『想い』を持って作ることができればいいなと思いますね。あとは、買い手である消費者一人ひとりも『想い』をベースにモノを選択していけるようになることが大事だと思っています。

ごみは、捨てたら消えるわけではありません。何かを作るときや買うとき、作り手にも消費者にも、もっと『モノの一生』について考えてほしいなと思います」

諏訪さん「ロフトワークやFabCafeには、『明日ってちょっと良くなるよね』と真面目に思っている人たちがたくさん集まっています。そうした人たちは、サステナビリティのことを考えていながらも、それぞれが自分の好きなことや得意なことから『小さなタッチポイント』を見つけてアクションを起こしています。

重要なのは、環境問題などマクロな問題よりも『どういう小さな点を見つけるのか』だと考えていて。たとえば、どこかの地方のこの技術を残したい、というプロジェクトもそういう小さな点の一つで、そこから気候変動などのマクロな問題の解決にもつながると思うんです。

マクロの問題を一気に解決しようと思ってもなかなか難しいし、マクロ政策レベルに関与できる人は限られている。じゃあそれぞれが好きな土地で、好きなことから『明日をもうちょっとよくすればいいんじゃない?』と思っています」

編集後記

ロフトワークのウェブサイトを訪れると、こんな言葉が並んでいた。

「クリエイティブであること。それは、特別な人だけが持つ才能ではありません。……『つくる意志を持って行動する人』は誰でも、自身の創造性を発揮する<クリエイター>です。」

それから、こんな言葉も。

「それぞれの創造性が発揮されれば、明日の社会はもっと豊かになるし、面白くなる。」

未来のことなんてどうなるかわからない。混沌とした世界に生きる私たちは、時に希望を失って打ちひしがれたり、何をすればよいかわからなくなったりすることがある。

そんなとき、こんなふうに自分自身に問いかけてみるのはどうだろう。

「今日よりほんのちょっとだけ、明日を良くするために、何ができるだろう?」

みんなが自分の中に眠るクリエイティビティを目覚めさせて、ワクワクする明日をつくっていけたら……未来は少しずつ良くなっていくかもしれない。

※crQlr Summit 2022のお知らせ
2023年2月、受賞者と審査員による特別セッションを中心とした、多彩なゲストとのクロストークが展開される「crQlr Summit 2022」がオンラインおよびオフラインにて開催予定。サーキュラー・エコノミーに関わる第一線のゲストや参加者と繋がる機会として、ぜひご視聴・ご参加ください。詳細に関しては、2023年1月中に公式ウェブサイトより発表いたします。

公式ウェブサイト:https://crqlr.com/2022/ja/

【関連記事】循環経済をデザインする世界的アワード「crQlr Awards 2022」受賞したのは?
【参照サイト】crQlr Awards HP
【参照サイト】crQlr Awards 2022 結果発表 プレスリリース
【参照サイト】FabCafe HP
【参照サイト】ロフトワークHP

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事です。

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