SDGsが生み出す未来のビジネス。国内外の最新事例に学ぶ、SDGsマーケティング戦略-BDL勉強会レポート#2

SDGsが生み出す未来のビジネス。国内外の最新事例に学ぶ、SDGsマーケティング戦略-BDL勉強会レポート#2

SDGs(持続可能な開発目標)の達成期限となる2030年まであと10年。

日本のビジネスの現場でもSDGsという言葉が浸透してきていますが、いまだにSDGsをどのように事業戦略に統合すればよいのか、SDGsに基づいてどのように事業リスクや収益機会を見出せばよいのかが分からないという方も多いかもしれません。

そこで、IDEAS FOR GOOD Business Design Labでは、SDGsを会社として取り組まなければならないものと捉えるのではなく、事業を成長させるフレームワークとして捉え直すイベントを開催いたしました。

本イベントでは、今年の6月に『SDGsが生み出す未来のビジネス(できるビジネス)』を出版された、株式会社メンバーズ執行役員の原 裕氏、株式会社TreeでChief Executive Officerを務める水野 雅弘氏の二人をお招きし、SDGsをいかに自社の成長戦略に取り入れるかのヒントを伺いました。

モデレーター:原 裕氏(株式会社メンバーズ執行役員)
原 裕さん
株式会社メンバーズ執行役員・株式会社エンゲージメント・ファースト代表取締役・ハーチ株式会社 社外取締役。アメリカン・エキスプレスで営業、マーケティング、その後、外資系広告代理店(JWT)を経て1999年メンバーズに入社、アナログとデジタル領域の経験からマーケティングを追求。2011年には社会課題をマーケティングで解決し、持続可能な社会を共創するためのマーケティング支援会社「エンゲージメント・ファースト」を立ち上げ、「社会課題解決×マーケティング×デジタル」をテーマに様々な企業のコンサルやプロモーション企画・実施を行なっている。
スピーカー:水野 雅弘氏(株式会社Tree Chief Executive Officer)
水野 雅弘さん
1988年に日本初のITマーケティングコンサルティング企業「株式会社Telephony」を設立。顧客マーケティングの先駆者として、米国からコールセンターやCRMを日本市場に導入。2006年から英国環境映像メディア「GreenTV」の日本代表・エグゼクティブプロデューサーを兼務し、2016年に持続可能な開発目標SDGsを達成するために「SDGs.TV」を開始。動画を使ったESD教育から SDGs普及啓発の自治体研修、セミナー講演など持続可能な社会を推進。現在クリエイティブプロデューサー兼マーケティングコンサルタントとして活躍。

成長機会としてのSDGsとは?

なぜSDGsをビジネスに取り入れる必要があるのでしょうか。

  • 日本では年間2550万トンの食品廃棄物が出ており、このうち本来食べられる「食品ロス」は612万トンで、これは世界全体の食料援助量の約1.6倍。(2017年)
  • 全世界の二酸化炭素排出量は1990年以来、50%近く(2018年)
  • わずか2%の都市部でエネルギー消費の60-80%、炭素排出量の75%を占めている。(2018年)

挙げればきりがありませんが、世界では様々な問題が深刻化しています。2010年頃から「世界中の人が現在の生活様式を変えず、二酸化炭素の排出と天然資源の乱用が続けば、2030年までに地球が2つ必要になる」と言われるようになりました。

image via ShutterStock

それから10年経った今、私たちの生活様式は変化しつつあります。未来の消費者である若年層は環境への意識が高まり、社会課題の解決に積極的に取り組む企業の商品やサービスの購入意欲も高まっていると言われています。

SDGsに企業が取り組むことで環境や社会的な観点で新しい価値を創り出せるため未開の市場の開拓や将来性の担保といったポジティブな効果が期待できます。また、2030年までに年間最大12兆ドルのビジネス価値を生み出し、3億8000万人の雇用を生み出す可能性があるというデータもあります。

これまでビジネス成長と社会課題解決は別のベクトルを目指すものとされてきましたが、これからはSDGsが企業にとってのビジネスチャンスとなりえる共創イノベーションの時代なのです。

SDGsで再定義されるマーケティング「4P」

そこで原氏と水野氏は、ビジネス成長と社会課題解決の2軸が共創する持続可能なビジネスを考えるのに役立つ、マーケティングの4PとSDGsの5Pの概念を組み込んだ新しいフレームワーク「SDGs Marketing Matrix」を考案しました。

縦軸にマーケティングの4P(Product・Price・Placement・Promotion)、横軸にSDGsの5P(People・Planet・Peace・Prosperity・Partnership)を用いたマトリックスで、このマトリックスの下方にはもうひとつのP「Purpose(パーパス/存在意義)」が土台になっています。

マーケティングの「4P」とSDGsの「5P」を掛け合わせた独自のフレームワーク
マーケティングの「4P」とSDGsの「5P」を掛け合わせた独自のフレームワーク

従来のビジネスで用いられるマーケティング視点とは違い、マーケティングとSDGsの重なりを考えることで、地球環境や社会の持続性を加味し、さらにこれからの消費者のニーズを踏まえて事業を見直すヒントになります。

最近では、企業の成長戦略を考える際にパーパスが重要視されるようになってきました。アップルやマイクロソフト、ユニリーバ、無印良品など、先進企業はパーパス経営を推進しています。SDGsを取り入れた成長戦略を考える際にも、このパーパスがしっかりと定義され、社員ひとりひとりが理解している状態を築くことができれば、パーパスを軸にぶれない判断ができるようになります。

また、企業では業務が細分化・分断されており、お互いのPを考えられていないことが多いかもしれません。原氏と水野氏が企業のワークショップを行う際には、ベースとなるパーパスをもとにクロスセクションで人を集め、それぞれが担当するPをお互いにレビューし合う仕組みを作っていると言います。

日本では包括的にSDGsの5Pを考えられている企業はまだ少ないのが現状ですが、多様な意見を出し合い、自分たちが注力していることがしっかりと当てはまっているのか確認していくツールとしてもこのフレームワークは有効です。

SDGsを成長戦略にしている国内外企業の最新事例

マーケティングの4PとSDGsの5Pの概念を組み込んだ新しいフレームワークに基づき、国内外の最新事例を紐解きます。

平和のファッションとしてよみがえる不要な衣服(日本環境設計株式会社)

欧州を中心にサーキュラーエコノミーを推進している中、日本環境設計は、ポリエステルの衣類から、再び繊維をつくるためのポリエステル樹脂を取り出す技術開発に成功しました。その技術をもとに、不要になった衣服をリサイクルするプロジェクト「BRING」を開始。アパレルメーカーをはじめとする様々な企業と協働し、衣服の回収から再生ポリ生産、それを素材とした新しい商品の販売まで、1枚の服が循環する仕組みを構築しています。市民が洋服を廃棄することなくもう一度作ることに参加するという点がポイントとなっています。

この事例のマトリクス:

  • 1C(平和を実現する製品づくり)
  • 3A(⼈に負担のない流通の仕組みづくり)
  • 4E(パートナーと共創するコミュニケーションの創造)

タッチ決済で社会課題を一緒に解決(三井住友カード株式会社)

キャッシュレス決済に参入する企業が続々と増えレッドオーシャンになっている中、三井住友カードは、老舗の会社は社会に良いことをしていくべきだろうという経営戦略のもと、健全なキャッシュレス社会の実現に向けて、「タッチハッピープロジェクト」を展開しました。顧客がタッチ決済をするたびに、三井住友カードから社会課題の解決に取り組むNPOなどに寄付がされる仕組みで、顧客とともに社会課題の解決をする共創プロジェクトとなっています。

この事例のマトリクス:

  • 4A(共感性の⾼いコミュニケーションの創造)
  • 4E(パートナーと共創するコミュニケーションの創造)
  • 4D(⼼豊かなコミュニケーションの創造)

エコファーで高野山ふもとから世界へ(株式会社岡田織物)

世界的なエシカルファッション市場で成功している、和歌山県は高野山麓にある織物会社。世界中のファッションブランドがアニマルライツに注目している中、数人の従業員からなる小規模事業者が、地域に受け継がれる優れた技術を背景に、上質なエコファー商品をファッションブランドにも提供し、グローバル市場に参入しています。同じように地場産業を支えてきた地域の同業者たちと連携し、国境を越えて安定的に供給できる仕組みを構築しています。

この事例のマトリクス:

  • 1E(パートナーと共創する製品づくり)

顧客と社会の安心・安全を共創(株式会社みずほ銀行)

不正送金がテロで使われている現状を背景に、みずほ銀行は、不正送金被害を防ぐためのキャンペーン「不正送金ゼロプロジェクト」を展開しました。従来と異なる社会課題解決型マーケティングの手法を採用し、ワンタイムパスワードアプリかワンタイムパスワードカードの申し込みが10,000件に達成した場合、紛争解決を目指すNPO「アクセプト・インターナショナル」を支援する仕組みです。企業、顧客、NPOの共創により社会課題解決貢献とビジネス成果を創出しました。

この事例のマトリクス:

  • 1C(平和を実現する製品づくり)
  • 4C(差別や争いのないコミュニケーションの創造)

パーパスと情熱を店内POPで表現するローカルスーパー(株式会社東武)

北海道の道東・中標津町に位置する地域に根差したスーパーマーケット「TOBU SOUTH HILLS」。「いつまでも若くいつまでも健康に長生き、そして良質な生活を楽しんでいただく」ことを目指し、地域の農産物やオーガニック食材などを積極的に取り扱っています。店内では、地域農家への応援や、子供の健康増進を促すメッセージをPOPで表現しています。主要な顧客である地域住民への配慮あふれる取り組みが特徴的です。売ることだけがプロモーションではないということがよく理解できる事例となっています。

この事例のマトリクス:

  • 4D(⼼豊かなコミュニケーションの創造)

エネルギーの力で資源循環型社会を実現(横河電機株式会社×北海道下川町)

北海道の北部に位置する下川町は、住民のおよそ40%が65歳以上で超高齢化課題先進地域に指定されています。一方、町の面積の90%を森林が占めており、森林や林業の振興と、森林バイオマスを利用したエネルギー供給による、資源循環型社会の実現にも挑戦しています。この循環型社会の実現のため、高効率な地域熱供給システムの構築を横河電機株式会社などと共同研究しているBtoB事例です。

この事例のマトリクス:

  • 1B(資源に配慮した製品づくり)
  • 3B(環境に負荷をかけない流通の仕組みづくり)

SDGsを自社の事業に活かすためのミニワークショップ

原氏と水野氏によるトークセッションの後、参加者の皆さんに、自社の課題解決やSDGsに基づく事業創造に向けた具体的なマーケティングアイデアや本イベントの感想を共有していただくミニワークショップを実施しました。

オンラインホワイドボードツール「Miro」を活用。※お名前が入っているものはモザイクをかけております。

パーパスの重要性を再認識したという方が多く、社内でパーパスを浸透させるためのコミュニケーションに取り組んでいきたいという声がありました。ぜひ今回参加されたメンバーで繋がっていただき、これから何ができるのかみんなで考えていただきたいと思います。

SDGsに基づく事業創造に向けて、もう一歩踏み込むためには

いかがでしたでしょうか。

現在の生活様式を続けていれば2030年までに地球が2つ必要になると言われている中、SDGsにビジネスがアプローチする意義や、上記で紹介した新しいマーケティング手法を通して企業が一般の方により深く訴求していく重要性を感じられたのではないかと思います。

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【参照サイト】消費者庁 食品ロスについて知る・学ぶ
【参照サイト】国際連合広報センター 持続可能な開発目標(SDGs)ー 事実と数字(2018)
【参照サイト】LIVING PLANET REPORT 2018(2018)
【参照サイト】社会課題解決と地球温暖化に関する生活者意識調査(CSVサーベイ)2019
【参考書籍】SDGsが生み出す未来のビジネス(できるビジネス) できるビジネスシリーズ

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