誰も否定しない、縛らない。これからの広告のかたちとは- “ジェンダー・ポジティブ”な広告を考えるワークショップ

誰も否定しない、縛らない。これからの広告のかたちとは- “ジェンダー・ポジティブ”な広告を考えるワークショップ

電車の中や、スマホの画面でたびたび目にする広告。みなさんはその内容に違和感を覚えたことはありますか?

女性が食事の準備をして、家族で美味しいご飯を食べるCM。「ムダ毛のせいで彼氏にフられた!」というストーリーで脱毛を促すポスター。「アンチ・エイジング」を打ち出すコスメライン。……誰もが目にする広告は、価値観を新たに生み出すだけではなく、すでにある価値観をより強固にしていく機能を備えています。「女性が食事の準備をするのが普通」「少しでも若く見られるのが良い」「女性は毛のないつるすべ肌であるほうが好ましい」「男性は髪が薄くなったら育毛すべき」……内容を間に受けているつもりはなくても、そうした価値観は私たちの中に少しずつ繰り返し刷り込まれているのです。

こうした広告からもたらされる居心地の悪さをいかに乗り越えていけるかを考えるため、IDEAS FOR GOODは【Media for Good “ジェンダー・ポジティブ”な広告を考えるワークショップ】というイベントを開催しました。イベント前半は、貧困や差別のない社会を目指し、とくに女の子や女性への支援に力を入れる国際NGO「プラン・インターナショナル・ジャパン」のユースメンバーによる「Z世代による広告意識調査」の結果発表。イベント後半ではグループごとに、「街でよく見かける『脱毛』や『ダイエット』の広告をもっとジェンダー・ポジティブにするとどうなるのか?」参加者の皆さんと一緒に考えていきました。

ファシリテーター

松尾沙織さん(ライター)

ゲスト

永富さん、米田さん(プラン・インターナショナル・ユースグループ)
佐藤暁子さん(弁護士 / 認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ事務局次長)

登壇者たち

メディアが刷り込む偏ったイメージ

──まずは、プラン・インターナショナルのユースメンバーである永富さん・米田さんから「広告でのジェンダー描写に関するユースの意識調査」の結果についての発表がありました。こちらの調査は2019年「Girl’s Leadership(ガールズ・リーダーシップ)女の子が変える未来」の一環として実施されたもの。15歳~24 歳の若者392名(うち女性330 名<84.2%>男性54 名<13.8%>その他8 名)を対象にオンライン意識調査を実施し、身近な広告でジェンダーがどのように描かれているか、そして実際にユースが広告からどのような影響を受けているのかについて明らかにしました。

永富さん:さっそくですが、参加者の皆さんに質問です。あなたは「理想の容姿イメージ」についてメディアから影響を受けていると思いますか?……今、ここにいるほぼ全員の方が「受けている」というふうに回答してくださいましたが、私たちの調査の結果でも同様の結果が得られました。メディアは、自分の容姿イメージについて家族が与える以上の影響力を持ち、学校で受ける教育や友人に匹敵するほど強い影響を与えていることが明らかになりました。

スラリとしたファッションモデルたち
Image via Unsplash

それではさっそく、意識調査で明らかになった「それぞれが理想とする男女の像」と、実際の広告における男女の描かれ方を見比べてみましょう。

理想とする女性の容姿について意見を聞いてみると、

1位 個性を大事にしている
2位 痩せている
3位 目鼻立ちがはっきりしている
4位 顔が小さい
5位 肌が白い

という結果に。

一方、広告に登場する女性の容姿は、

1位 痩せている
2位 顔が小さい
3位 化粧をしている
4位 目鼻立ちがはっきりしている
5位 背が高い

という要素が強調して描かれているよう感じられるとの調査結果が出ました。

両者を比較してみると、「痩せている」「顔が小さい」「目鼻立ちがはっきりしている」など上位を占める項目に共通のものが多いことがわかります。また、男性の理想像と広告での描かれ方を比較してみても、上位の項目には共通するものが多いと判明しました。このことから広告に描かれる容姿がユースの理想を形成している可能性が高いと言えます。

一方で、理想とする女性の容姿・男性の容姿共に「個性を大事にしている」が上位にランクインしているのも興味深いポイントです。「個性」というキーワードが上位に入っているということは、広告に登場する人と理想とする人の特徴が異なってきている、ニーズが変化してきているということの象徴なのではないかと考えました。

製品によって起用モデルの性別が決まっている?

米田さん:また、広告は容姿だけでなくジェンダー役割に関する意識にも影響を与えていることがわかりました。

広告において、女性は「美しくある・かわいくある」「家事・育児をする」、男性は「リーダーシップがある」「仕事をする」という役割の担い手として描かれていることが多くあります。

例えば、料理を作る、子どもの世話をするような広告であれば女性のモデルが起用されていたり、工事現場で作業する、エナジードリンクを飲んで働くというような広告であれば男性モデルが起用されていたりしますよね。

料理をつくる女性
Image via Pexels

ユースの自由回答でも、「家事で疲れた、育児で疲れたと描く時は女性が多く、 反対に仕事の疲れを描く時は男性が多い」という意見や「食器用洗剤のCMは主婦、ビールのCMは男性サラリーマンというように広告の種類によって出る役者の性別がほぼ固定化されている」というような意見が得られました。

これらの結果から、私たちは「広告は、性別によるステレオタイプやジェンダー規範を再生しているものの一つなのではないか」と考察しました。

広告で偏見を覆すこともできる:海外CMを例に

米田さん:反対に、30%と少数ではありますが「ジェンダーの固定観念を変えるような広告を見たことがある」という方もいます。その広告のほとんどが海外のものという結果でした。その一例として、P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)社による生理用品ブランド「オールウェイズ」が2015年スーパーボウルのCM枠で公開したキャンペーン広告をお見せしたいと思います。思春期を過ぎた男女、小さな女の子たちそれぞれに「女の子みたいに走って」「女の子みたいに戦って」とお願いしたとき、彼らがどう行動するかを映像に収めています。

こちらのキャンペーン広告「Like A Girl(女の子みたいに)」は、見る者に「弱い」「かわいらしい」「あまり運動ができない」といった「女の子らしさ」は「つくられたもの」であることを教え、女の子であっても全力で戦って良いこと、性別に縛られる必要がないことを訴えかけます。

今回の意識調査で、ユースたちが求めるのは「商品やサービスを正しく紹介する」だけでなく「社会問題を考えるきっかけを与える」「(LGBTQ+を意識した内容など)様々な価値観を反映している」「ステレオタイプや固定観念を再生産しない」広告であるとわかりました。こうした広告を求めるユースだからこそ、「Like A Girl」のような固定観念を壊す動画を印象的な広告に挙げたのではないでしょうか。

皆の声から生まれた「息苦しくない、不快じゃない」広告たち

──世の中には、偏った考えを刷り込み、見る者の不安や恐怖を煽るような広告も存在します。電車内の中づり広告を見て、「女なのに毛深いなんて」「男なのに筋肉がないなんて」自分はだめかもしれないと溜息をついたり、動画サイトの合間に流れるCMを見て「痩せないとダメだ」「このままでは誰にも愛されないかも」と恐怖を感じたりしたことがある人も少なくないでしょう。今回は、プラン・ユースによる発表を参考にしながら、参加者どうしで、ジェンダー・ポジティブな広告を考えてみました。

数々の発表のなかでも、筆者の印象に残ったのが「アンチエイジング化粧品」「ダイエットサポートアプリ」の2つの広告アイデアでした。

アンチエイジング化粧品チームの広告キャッチコピーは、「自分らしいが美しい」。誕生日を迎えることを喜べなくなった主人公の女性が、「頑張ってきた印だから、私は自分のシミやしわが好き」と公言するおばあさんと出会い、「美しさとは何か」について考え直すというストーリーの動画広告です。歳月を重ねるにつれて熟成され、旨味を増していくワインのように、それまでに重ねてきた年月や経験こそがその人らしさであり、その人の美しさになるのだというメッセージを打ち出していました。

おばあさんの手
Image via Pixabay

印象に残ったもう一つの広告は、運動や食事などの習慣づくりを通して、自分がなりたい体形になるためのサポートをするスマートフォンアプリを宣伝するものです。動画広告の主人公は、健康上の問題を抱えている痩せ気味の女性。彼女はこのアプリと出会い、これまで体重を落とすためにやってきた運動や食事制限には無理があったこと、それが体の不調の原因だったことに気づきます。アプリで学んだ適切な食生活や運動を実践していくうち、体の調子が整っていき、自分のことを認められるようになった彼女。アプリ使用開始前と見た目はほぼ変わりませんが、ダイエットという「自己肯定感のエクササイズ」を通して、彼女はより自分らしくなることができたのです。ダイエットというと「減量する」「見た目を細くする」ことを思い浮かべがちですが、こちらの広告を考えたチームは、「自分の生活スタイルを見直すことで、自分が好きな自分でいられる」ことをダイエットと定義。何キロ痩せた、細いほうがモテる、というような「表面的な指標」や「人からの評価」ではなく、「自分の幸福度」を指標にしようというメッセージを発信していました。

さまざまな体形の女性たち
Image via Shutterstock

ワークショップでは他にも素敵なアイデアが生まれていました。そこに詰まっていた、ジェンダー・ポジティブな広告メッセージングのヒントを以下にまとめます。

◇ジェンダー・ポジティブな広告メッセージングのポイント◇
1.決めつけない

・性別で線引きをしない。
・「女性なら~べき」などと決めつけない。
・人を縛り付けるような固定概念を刷り込む表現になっていないかチェックする

2.特定の人や状態を否定しない

・「今の時点のあなたも素敵」が前提
・一般的に良くないものとされるものも、「ダメ」なものではない。(しみもそばかすもしわも、傷も、その人の歴史なのだから。)
・今のあなたも素敵だが、「より健康になるため」あるいは「あなたがもっとあなたを好きになるため」の提案をさせてくださいというスタンスを忘れない。

3.優劣をつけない

・白い肌と焼けた肌。太っている人やせている人。筋肉のあるなし。過去の自分と今の自分。……どちらが優れていて、劣っているということはない。
・どちらが優れている/劣っている、と言うことで、相手の選択肢を狭めない

4.目的は何だったかを思い出す

・広告の目的のひとつは、商品やサービスを知ってもらう、購入してもらうこと。では、その商品やサービスがかなえたい目的は何だっただろう?──とにかく体重を減らしてもらうこと?周囲から浮きたくないと不安になってもらうこと?他者に好感を持たれるために焦らせること?──そうではないはず。ダイエットも、脱毛も、化粧品も……商品やサービスは、誰かの健康を守ったり自信をつけてもらったり「誰かの幸せな人生をお手伝い」するためのものだということを何度でも思い出す。

広告は人を縛ることも、解き放つこともできるもの

──ワークショップ後の発表時、弁護士の立場から各チームへフィードバックを返していた佐藤さん。全てのチームが発表を終えると、人権を守るという視点で広告を作る時に大切なことについてお話してくださいました。

佐藤さん:製品を作る過程で関わる労働者の人権を守ることの大切さは、多くの企業が認識していると思います。しかし、製品やサービスを消費者に届けるための「広告」が人権を守っているかについては、今の日本ではまだ十分な議論はされていないと感じることも多いです

大切なのは、「その対象になるかもしれない人たちの声をきちんと聞くこと」です。メインターゲットが女性/男性である製品の広告を、男性/女性だけで作ったとしたら?ちぐはぐなものが出来上がってしまうのも仕方ありません。

広告を作るとき、製品をつくるとき、「そこにどれだけ多様性があるか」が一つの大きなポイントだと思っています。今日はジェンダーというテーマにフォーカスしていましたが、人種や障がいなどマイノリティの方たちの声についても同じことが言えるでしょう。

私は広告にとても期待をしています。上手に使えば、マイノリティの人たちをエンパワメントすることだってできますし、常識を変えることもできますから。本当に素敵だなと思えるような広告が溢れる世の中にしていけるように、商品・企業・ブランドを選択する立場にある私たち消費者が、企業にどういうメッセージを伝えられるか一緒に考えていけたらいいなと思っています。

多様な人が集まるミーティング
Image via Pixabay

──最後は、プラン・ユースの永富さん・米田さんによるまとめです。2人は、今後の広告の在り方を考えるうえで参考になりうる事例として、イギリスにおけるジェンダー表現の広告規制について紹介してくださいました。

【イギリスにおけるジェンダー表現の広告規制】
1~6のことを禁止する規制を設けています。
1.役割:特定の性別から連想される職業や役割を描く
2.性格:特定の性別から連想される特徴や行動を描く
3.からかい:ジェンダーの固定観念に合致しない人の振る舞いや見た目をからかう
4.性的対象:性的な対象として人を描いている
5.“モノ”化:体や体の一部をフォーカスして描く
6.ボディイメージ:「痩せている体型がいい」といった体に対する不安をかき立てるように描く

永富さん:イギリスではこうした規制が設けられており、例えば、日本でよく見られる「ダイエットに成功した女性が告白して成功する」という内容の広告は、イギリスだとNGということになります。

米田さん:こうして例を挙げてみると、イギリスのように規制をしましょうと言っているように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。注意しなければいけないのは、「イギリスの例をそのまま輸入したら良いわけではない」ということです。国が異なれば、価値観も、同じシチュエーションを見たときに抱くイメージも違います。だからこそ、私たちが、私たちの社会に合ったやり方で、どのような広告を作っていけばよいのかをきちんと考えていく必要があると考えています。

発表の最後に、意識調査のなかで出てきた印象的な回答をご紹介させてください。

広告はこのまま男尊女卑を加速させることも、社会を変えることもできる存在だと思う。
だからこそ、社会にどのような影響を与えるかまで考えて制作してほしい。

米田さん:この言葉はまさに、すべてを言い表すものだと思います。広告ひとつで固定観念を強めることも、壊すこともできる。だからこそ、企業や広告代理店の方には、自分たちの作ったものが与える影響を考えて、きちんと話し合いをしながら広告を作っていってほしいですし、私たち消費者もきちんと動向を見守っていかなければいけないなと思います。

笑顔の子どもたち
Image via Shutterstock

編集後記

「もっとこんな広告ならポジティブに受け取れるのに」「もっとこういう伝え方なら傷つかないのに」──そうやって、実際にジェンダー関連の表現にもやもやを抱えた参加者の方々が自由に生み出す広告アイデアは、どれも素敵なものばかり。誰かを否定したり、不安や恐怖を煽ったりして消費を促進するのではなく、「今のあなたも素敵」「もっと自分の好きな自分になろう」というポジティブなメッセージに溢れていて、とてもわくわくしました。

私たち消費者が広告を批判的な目で捉え「こんな広告はおかしい」「こんな広告をもっと増やそう」と声をあげることで、少しずつでも広告の常識は変わっていくはずです。このようなイベントを通して、引き続きジェンダー・ポジティブなメディア発信について考えていきたいですね。

今回、プラン・ユースメンバーのお2人が発表してくださった意識調査の結果の全容は、プラン・インターナショナルの公式WEBサイトで公開されています。また、調査結果とともに公開されている、ユースメンバーが考えた「広告制作時のチェックリスト」は、制作側はもちろん、広告を消費する側が批判的に広告を分析するための手助けにもなるはず。皆さんも一度チェックしてみてはいかがでしょうか。

【参照サイト】プラン・インターナショナル
【参照資料】「広告でのジェンダー描写に関するユースの意識調査」
【参照資料】ユースが考えるジェンダー平等に配慮した広告にするためのチェックリスト
【関連ページ】ジェンダー不平等
【関連ページ】ジェンダー・ポジティブとは・意味

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事となります。

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