【プラ新法特集(中)】設計・製造の段階から循環を意識する ~プラ新法は使用抑制への一里塚となるか?~
※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Circular Economy Hub」からの転載記事です。
プラスチックの資源循環を実現するためには、サプライチェーンの上流である製品の設計・製造の段階からのアプローチが不可欠だ。このため、2022年4月に施行された通称「プラスチック新法」(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律)では、製造事業者などが努めるべき環境配慮設計に関する指針として「プラスチック使用製品設計指針」を策定、同指針に沿った製品で特に優れた設計を主務大臣が認定する仕組みを設けることになった。
同指針には、プラスチックの減量化や単一素材化、代替素材の使用や石油由来のバージンプラスチックではない素材の利用といった、プラ製品の構造や材料の変更で取り組むべき内容が列挙されている。従来より、またはこれを受け、各社であるいは業界内外での連携を通じて取り組みを強化しつつある。
構造:減量化、再使用・再資源化のしやすさ
まず、構造については設計段階から以下の項目に配慮して製品化を行うべきとしている。バージンプラ素材の絶対的な使用削減とともに、後のリサイクルがしやすくなるような配慮が求められている。
菓子大手のロッテは、キシリトールガムファミリーボトルの容器でのプラスチック重量を従来品よりも21.8%減量。キャップの開封性を改善させる構造変更とともに評価され、日本包装技術協会が主催する「2021日本パッケージングコンテスト」で「アクセシブルデザイン包装賞」を受賞した。容器包装のプラ減量化は、製品の効率的な積載による物流効率の向上と相まって、輸送時の温室効果ガスの排出量削減にもつながる。地道な取り組みだが、着実な波及効果を得られる取り組みとも言える。
減量化や包装の簡素化といった比較的着手しやすい項目がある一方で、その他については中長期にわたる研究開発やプラットフォーム構築を伴うものも多く、各社ともに数年前から始めた取り組みが今、動き始めている。
長期使用、長寿命化による使用量削減
スターバックス・ジャパンが販売している繰り返し使用可能なプラスチック製軽量カップ「リユーザブルカップ」は、3回以上繰り返し使えば紙カップ生産時に発生する環境負荷を下回るとしており、製品の長期使用・長寿命化の一つの例と言えそうだ。また、2019年に策定したESG戦略「Kirei Lifestyle Plan(キレイライフスタイルプラン)」でプラスチックの削減と循環に取り組む花王は、詰め替え容器入りのシャンプーなどを本体ボトルに移さずにそのまま差し込んで使えるスマートフォルダーをすでに販売しており、本体ボトルのプラスチック使用量の一層の削減を図っている。なお、こうした製品がプラスチック使用製品設計指針に基づく設計認定を受けられるかどうかを決める基準については、製品分野ごとに今後定められる。
単一素材化でリサイクル促進
印刷会社各社では、包装材を中心にリサイクル促進のカギを握る単一素材化に取り組んでいる。このうちDNPのモノマテリアル包材は、独自のコンバーティング技術を活かしてポリエチレンまたはポリプロピレンのモノマテリアル化を実現。欧州の軟包装業界におけるサーキュラーエコノミー推進コンソーシアムであるCEFLEX(A Circular Economy For Flexible Packaging)のガイドラインに準拠した設計が可能としており、ユニリーバの紅茶ブランド「リプトン」の一部製品でも採用されている。
材料変更:木材や紙への代替、バイオプラは市場拡大
材料に関しては、以下4つの項目による対応が求められている。
まず、プラスチック以外の素材への代替では、木材製品や紙製品への切り替えが代表的だ。同時に、コンビニや外食のテイクアウトなどで配布されるカトラリー類など、ただちに削除または有料化すると消費者の利便性を損なうと捉えられているものを中心に、プラスチックの提供を継続しながら素材を*バイオプラスチックにする動きも目立つ。
*バイオプラスチックは、生分解性プラスチックとバイオマス由来プラスチックの総称
米調査会社Report oceanによると、世界のバイオプラスチック市場は年率12.8%成長し、2030年には145億米ドルに達すると予測。日本でも、環境省が「バイオマスプラスチック導入ロードマップ」を策定し、バイオマスプラの利用促進や消費者への訴求、研究開発を支援している。リコーはバイオマス由来で生分解性(コンポスタブル)を持つポリ乳酸(PLA)を活用した新素材の発泡PLAシート「PLAiR(プレアー)」を開発、このほどテスト販売をスタートさせた。緩衝・梱包材料から商品トレイまで幅広く対応できるため、緩衝資材商社や食品容器メーカーから多くの問い合わせがあるという。
使用済みプラスチックやフィルム容器を水平リサイクル
また、再生利用がしやすい材料の使用も求められており、各社は私たちの暮らしに身近な製品で取り組みを進めている。
このうち、コカ・コーラは2030年を目指した新たな環境目標「World Without Waste(廃棄物ゼロ社会)」で、2025年までにすべての容器包装をリサイクル可能にするとともに、2030年までに容器包装の50%にリサイクル材を使用する方針を表明。その上で、2030年までに全飲料の25%以上を詰め替え・返却可能なガラスまたはプラスチックボトル、充填機による詰め替え用容器で販売することを目指すとしている。キリンホールディングスと三菱ケミカルは、ケミカルリサイクルでペットボトルをペットボトルへ再資源化するために必要な技術検討と回収プログラム構築を共同で行っている。
同業他社などとのアライアンスによって、プラスチックの再生利用を進めようとする動きも目立ってきた。花王はユニリーバ・ジャパンやライオンといった同業他社とともに、ボトル容器やフィルム容器の回収、リサイクル実証実験を国内各地の自治体との連携で進めている。サントリーホールディングスなどは、回収プラスチックの選別処理から、包装容器製造、商社、飲料メーカーなど業界横断で使用済みプラスチックの再資源化事業に取り組む共同出資会社アールプラスジャパンを設立。2027年に使用済みプラスチックの再利用の実用化を目指す。
再生プラスチックの活用
ソニーは2010年以降、独自開発の再生プラスチック「SORPLAS™」を主に内部部品で使用してきたが、部品の設計を見直し、材料物性や成型条件などの改善を行いながら、テレビの大物部品である背面カバーに採用できる材料を開発。これにより、製品の梱包を含めたバージンプラスチックの使用量を従来比で最大約50%削減できたとしている。
プラスチック使用製品設計指針は、このようにプラスチックを製造、使用する事業者にさまざまな設計対応を求めている。その一方で、例えば資源回収やリサイクルに時間とコストをかけすぎることでかえってエネルギー使用量の増加やそれに伴うCO2排出量の増加を招くといった、いわゆるトレードオフの関係となる可能性に留意すべきともしている。その判断を適切に行うためにも、製品のライフサイクルアセスメント(LCA)が必要となってくるのだ。この点は、製品のライフサイクル評価を同法は促している。
リデュース:デジタルパッケージという考え方も
そして何よりも、プラスチックの使用そのものを絶対的に減らす工夫を怠ってはならないことを意識したい。
英国発フレッシュハンドメイドコスメブランド・Lush(ラッシュ)はこれまで、ソープなどの固形アイテムの包装を行わない「Naked(ネイキッド)」とともに、プレゼント包装を用意せずに「Knot Wrap(ノットラップ)」と呼ぶリサイクルPETやとオーガニックコットン製のオリジナル風呂敷を販売するなど、ブランド側からのプラスチックの提供を極力なくす取り組みを続けてきた。
今や日本での展開商品の40%がネイキッドのため、成分などのラベル表示が必要最低限となっている。そこで同社は、独自開発したアプリ「Lush Lab」内の「Lush Lens」という機能を通じて、店内の商品にスマートフォンをかざすと、原材料情報とともに商品の使い方やバスボムなどの溶け方が動画コンテンツとして表示されるようにしている。同社は「私たちはデジタルパッケージと呼んでいますが、包装がなくても紙で表示する以上の分量でより付加価値のある情報を提供できています。お客様は宝探しのようにゲーム感覚で店内を回遊されています」(アースケアチーム)と話す。
同社は、プラスチック容器でのリサイクル材の使用や空容器の店頭回収・水平リサイクルについても、それぞれ2008年と2010年からすでに始めている。2021年9月からは循環型容器返却プログラム「BRING IT BACK(ブリング・イット・バック)」に新たなスキームを追加し、使用済みの容器を1個から持参でき、会計時に容器1個につき30円として利用できるようになった。同社によると、2010年の容器回収開始以来、社内利用した商品容器も含めて同社全体では累計約237トンの再生プラスチック容器を水平リサイクル。昨年度の容器リサイクル率は22.2%(重量換算で18トン)となった。
同社は今回のプラ新法について「使い捨てよりも循環性が高まることにつながり、消費者のライフスタイルの見直しにもつながるはず」と評価した上で、「英国では、4月から再生材使用率30%未満のプラスチック包装材への課税が始まっています。日本でも、リサイクルプラスチックの使用率向上につながる対策を打ってほしい」と期待感を示している。
参考情報・記事
- BRAVIAの環境配慮(ソニーホームページ)
- DNPモノマテリアル包材(DNPホームページ)
- 生分解性プラスチックの課題と将来展望(三菱総合研究所)
- 植物由来発泡シート「PLAir」(リコーホームページ)
- コカ・コーラ、2030年までに25%の容器包装を再利用可能に(Circular Economy Hub 2022年3月10日)
- キリン、三菱ケミカルと共同プロジェクトを開始(Circular Economy Hub 2021年1月5日)
- サントリーなど12社、使用済みプラスチックの再資源化事業で新会社「アールプラスジャパン」設立 (Circular Economy Hub 2020年7月10日)
- プラスチック資源循環促進法、何が変わる?わかりやすく解説
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