製品を長く循環させるカギとは?愛着が湧くデザインの原則と事例

製品を長く循環させるカギとは?愛着が湧くデザインの原則と事例

大量生産・大量消費社会を脱し、サーキュラーエコノミーを実行する上で必要な観点の一つに「いかに製品を長く使い続けられるか」があります。その際、製品の物理的な耐久性を高めるだけでなく、その製品自体に消費者が愛着を持てるような「情緒的耐久性」も製品寿命の延長を設計する上で重要なポイントとなります。今回は、情緒的耐久性を高めるための製品デザインについて事例を交えながらお伝えします。

目次

1. 製品寿命を延ばすカギを握る「情緒的耐久性」とは?

エレン・マッカーサー財団の提唱するサーキュラーエコノミー3原則の1つに「製品と原料材を捨てずに使い続ける(Keep products and materials in use)」があります。大量生産・大量消費社会において、資源や製品の使い捨てを前提とするリニアエコノミー(直線型経済)が主流でした。最初から使い捨てを前提としているために、物理的な製品寿命が短くなっているということもありますが、単に物理的な製品寿命が短いだけでなく、企業がこまめにモデルチェンジすることで、今持っているものが流行遅れであるかのように感じさせ、「ダサい、イケてない」と思わせることで、まだ物理的に使用可能にもかかわらず新しいものを買わせるという手法も多く見られることがあります。

たとえばApple社の開発するiPhoneは、数年に一度新しいモデルが発表され、人々が発売当日に並んで購入するという現象も起きています。新モデルになり、より高性能なカメラが内蔵されても、ほとんどの人にとってその機能が必須かといわれるとそうではありません。しかし、「より良い写真を撮れるようになりたいから」「有名人も新しいiPhoneに買い替えているから」「皆が新しいiPhoneを持っているから」と消費者の心理を動かしている面もありそうです。今後、リニアエコノミーを脱却してサーキュラーエコノミーに移行していく上で、製品寿命を延ばすためには物理的耐久性と情緒的耐久性の双方から考えて製品を設計することが求められます。

2. 情緒的耐久性を高める製品デザインの事例4選

消費者が「ずっと使い続けたい」と心から思えるような製品を設計するにはどうしたら良いのでしょうか。本章では、情緒的耐久性を高める製品デザインの事例をご紹介します。

2-1. サステナブルな買い物に必要なのは“愛着”。モノへの向き合い方を変えるブランド「lilo」

滋賀県信楽町のライフスタイルブランド「lilo(リロ)」は「道具へのカンシャ」という価値観を提案し、何十年も大切に使い続けられるような道具を販売しています。たとえば、信楽で生まれた陶磁器製のダッチオーブン(無水調理鍋)は、野菜や肉を煮込むだけでなく、蓋の部分でグリル焼きができるようになっており、使い手の工夫次第で調理の幅が広がります。調理の幅が広がることで使用頻度が高くなり、使い続けようという意識も芽生えやすくなります。また、見た目も美しく、キッチンに飾っても絵になるようなデザインを採用していることも、大切に使い続けたいと思わせてくれるポイントです。

2-2. 製品寿命延長に向け、パタゴニアが終了した企業ロゴ入れ

米アウトドア用品大手のパタゴニアは、自社製品に企業や団体などのロゴを入れるサービスをやめることを2021年4月に発表しました。企業や団体のロゴが入っていると、仮に企業や団体を辞めた時に着づらくなり、プライベートで着たり人に譲ったりしにくいため、服を廃棄する要因になり得ます。パタゴニアは、服の寿命を9か月間延ばせば炭素排出、水の使用、廃棄物のフットプリントを20〜30%削減でき、2年間延ばせば全体のフットプリントを82%も減らせるといい、ロゴを入れるサービスをやめることで、パタゴニアの製品をより長く使ってもらいやすくなります。

2-3. 回収したバッグを新製品にリメイクするマザーハウスの循環型ブランド「RINNE」

「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を掲げる日本のアパレルブランドであるマザーハウスは、その製品がどのように作られたかを接客の際に伝え、店員がストーリーテラーであることが大きな特徴です。製品がどのように作られたかを知ることで顧客は作り手の想いを知り、製品を大切にしようという気持ちや愛着が生まれます。また、2020年、バッグの回収や修理を行うプロジェクト「SOCIAL VINTAGE(ソーシャルビンテージ)」を発表しました。回収されたバッグは工場で解体され、その革を再利用して新たなシリーズ「RINNE(リンネ)」の商品に生まれ変わります。

2-4. QRコードを読み込むと思い出を語る家具ブランド「Heirloom Design」

米国の家具デザイン会社Uhuru Designは、オフィス家具会社One Workplaceと提携し、「Heirloom Design」というブランドを立ち上げました。同ブランドは丈夫で長持ちする循環型デザインのオフィス家具を取り扱っており、そのオフィス家具が一つの会社で使われなくなると他の会社に引き渡される仕組みです。家具に付けられたQRコードを読み込むと、家具がそれぞれの会社で持つ思い出(ストーリー)を見ることができ、家具デザイン会社に家具の所有権がありつつも、使い手が家具に愛着を持ちやすい仕組みになっています。

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3. 自社製品の情緒的耐久性を高めるには?

マザーハウスのように、「この製品を大切にし続けたい」と購買時に思わせてくれることや、製品自体も流行に左右されないような洗練されたシンプルなデザインのものが多いことから、消費者は製品を大切にし続けることができます。仮に製品を手放すことになっても、自社で回収プログラムを設け、別の製品としてよみがえらせることができます。

製品への愛着が芽生えると、その製品を所有したいという気持ちが生まれます。その気持ち自体は良いことであるものの、サーキュラーエコノミーで提唱されるシェアリングサービスやPaaS(Product as a Service)と相対する概念となってしまいます。製品を他人と共有しても愛着を持ってもらうためにはどうすればいいか、そのヒントとして挙げられるのが前章でご紹介した「思い出を語るオフィス家具」です。製品寿命の長いオフィス家具が、今までどのような持ち主とどのような思い出があるのかを知ると、かつては他人が使用していても愛着が湧きやすくなるかもしれません。

今後情緒的耐久性を高めるキーワードとして、「過剰にロゴを入れない」「流行に左右されない普遍的なデザイン」「商品づくりのストーリーを伝える」「個人の記憶と紐づくような購買体験の提供」「使用方法の自由度の高い設計」が挙げられそうです。みなさんの身の回りにある、大切にしたいものはこれらのキーワードにあてはまるでしょうか。情緒的耐久性を上げる条件について議論を深めていきたいですね。

【参照記事】製品寿命延長に「情緒的耐久性」が重要な理由と6つのデザイン戦略とは?

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