交通業界で注目されている、MaaS(マース)とは?意味や定義、海外事例と国内企業の動き

交通業界で注目されている、MaaS(マース)とは?意味や定義、海外事例と国内企業の動き

近年、「人々の移動を根本から変えるサービス」として登場したMaaS(マース)。Mobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)の略語で、フィンランドではじめて実現した概念だ。日本でも、交通機関や自動車会社が中心的に開発を進めている注目のテクノロジーである。

MaaSは一体どんなサービスで、どんな恩恵を私たちの生活にもたらしてくれるのか。本記事では、MaaSの意味や定義、目的、海外で取り組まれている事例など、わかりやすくご紹介する。

MaaS(Mobility as a Service)とは?

MaaSは、バスや電車、タクシー、飛行機など、すべての交通手段による移動を一つのサービスに統合し、ルート検索から支払いまでをシームレスにつなぐ概念である。

現在、私たちは遠くに移動をするとき、地図アプリなどで行きたい場所へのルートを検索し、交通機関の専用サイトでチケットの予約や支払いをし、空港や駅から目的地までのタクシーをまた電話で予約する…… など、それぞれの移動手段ごとに違うサービスを使っている。MaaSのシステムを導入し、広げていくことで、たとえばこれらの工程を一つのアプリで完結させることができるようになるのだ。

以下は、フィンランド運輸通信省によるMaaS紹介ムービー(英語のみ)である。

MaaSのメリット

あらゆる「移動」が一つのサービスに統合されることで、ユーザーの利便性を大幅に高めることは想像できるだろう。他にもMaaSによる「移動の効率化」や「交通機関の積極的な利用」などにより、以下のようなさまざまなメリットが考えられる。

  • 都市部の交通渋滞を減らす
  • 都市部のCO2排出量削減、大気汚染対策
  • 駐車場の面積を減らし、緑地などに変えることが可能に
  • 足の悪い人や高齢者などの交通弱者対策
  • 交通手段が少ない地域に住む人々の、ラストワンマイルの移動が可能に

MaaS Allianceによると、MaaSの目的は「自家用車に代わる移動手段を提供すること」だという。

MaaSの歴史

MaaSの概念が知られるようになったのは比較的最近のため、協会や企業によってその定義は異なる。

もともと、1996年に開かれたIFTTT(ITと旅行と観光のための国際連盟)のカンファレンスで、さまざまな旅行サービスと観光サービスを統合した「インテリジェントインフォメーションアシスタント」の概念が紹介され、その後スウェーデンのイェーテボリではじめて交通機関のサブスクリプションモデルの実験が行われたのがMaaSのはじまりだと言われている。

2012年6月には米カリフォルニア州のサンフランシスコで「E-Mobility as a Service」をテーマとした会議が開かれ、デジタルプラットフォームを通したシームレスな交通サービスについての議論が交わされた。その後、2015年にフランスのボルドーで開催された ITS世界会議にてMaaSが注目され、MaaSのパートナーシップを世界各国で強化するためのMaaS Allianceが結成された。

世界で最初のMaaSアプリ「Whim(ウィム)」ができたのは、その後の2016年である。

【用語説明】MaaS(Mobility as a Service)とは・意味

海外のMaaS事例

ここからは、海外で取り組まれている具体的なMaaSの事例を見ていこう。

01. 元祖MaaS。交通機関をつなぐフィンランド発アプリ「Whim」

世界で初めて開発されたMaaSアプリが「Whim(ウィム)」だ。フィンランドのMaaS Global社が開発したWhimは、首都ヘルシンキ市内のバスや電車などの公共交通機関から、タクシー、レンタカーまであらゆる移動を便利にするアプリで、目的地までのルート検索から予約までを行うことができる。

Whimのサービス開始後、実際にヘルシンキでは自家用車の利用率が減り、交通機関を使う人が増えた。2018年には、イギリスのウェスト・ミッドランズ州でもサービス提供を開始している。

  • 国名:フィンランド
  • 団体(企業)名:MaaS Global Oy
  • リンク:Whim公式サイト
02. ホテルやラウンジも予約できる、イギリスの「Mobilleo」

イギリス北部のリーズで誕生した「Mobilleo(モビレオ)」は、複数の旅行プロバイダーを横断し、電車からホテル、タクシー、フライト、レンタカー、空港ラウンジまでの検索・予約・支払いをワンストップで行うことができるアプリ。旅程はすべてアプリ内に保管され、利用者の利便性を高めている。

また、「ミドルオフィス」という機能では、一つのダッシュボードで複数のユーザーが旅行を管理できるため、会社や団体で使うことができることが特徴的である。

03. 東急やJRも使ったドイツの「REARCH NOW」

ドイツの大手自動車メーカーであるダイムラー社、そしてBMWグループのジョイントベンチャーの一員である「REACH NOW(リーチナウ)」。2019年に「Moovel」というサービス名から今の名前に変更された。

リアルタイムで交通状況を把握でき、公共交通機関やタクシー・カーシェア・レンタサイクルなどの都市交通をシームレスにつなぐサービスで、支払い方法もクレジットカードだけでなく、Apple PayやGoogle Payといったオプションが選べる。

これまで東京急行電鉄(東急)、JR 東日本、ジェイアール東日本企画などが前身であるMoovelのシステムを利用した実証実験を行った。

04. ベルリンでも大活躍。リトアニアの「Trafi」

リトアニアで生まれた「Trafi(トラフィ)」は、複数の公共交通機関やシェアカーなどのサービスを一つのデジタルプラットフォームに統合したもの。リアルタイムでの運行情報に基づいたルート検索から、決済サービスまでを提供している。

独ベルリン市交通局(BVG)の2019年に本格展開を始めたアプリ「Jelbi(イェルビ)」のMaaSプラットフォームを提供したのもこの会社だ。2020年夏には、住友商事がTrafiとの業務提携の締結を発表した。

05. 駐車券の購入も可能な、イタリアの「myCicero」

「myCicero」は、電車やローカルバス、長距離線や地下鉄などさまざまな手段からの情報を組み合わせて、リアルタイムにイタリア国内の旅行ソリューションを提供するアプリだ。他のアプリと同様、ルート検索からチケットの購入までを一括操作できるほか、駐車券の購入なども可能にしている。パーキングメーターやコインいらずになるサービスだ。

06. 交通プランのカスタマイズに最適。シンガポールの「Zipster」

Zipsterでは、MRTやバスなどの公共交通機関やシェアサイクルなど複数の移動手段からルート検索をし、それにかかる金額も算出してくれる。ユーザーそれぞれにあった交通プランをカスタマイズでき、支払いまでできる便利なアプリだ。「Grab」や「Gojek」などのモビリティシェアサービスとも提携している。

07. ビッグデータ解析あり。お得なクーポンもついてくる台湾の「UMAJI」

UMAJI遊。買。集(ユマジ)は、ビッグデータの分析や、スマート交通、モバイル決済などの機能が使える台北の旅行・交通アプリだ。他のMaaSアプリであるようなルート検索から支払いまでの操作はもちろん、乗車券の読み取りや、ポイント交換による割引が適用されるお店の情報まで手に入るサービスとなっている。

また、金曜日と土曜日の特に利用者が少ない時間帯にはプレゼントをもらえる特典もついており、都市の渋滞の緩和に寄与している。

日本国内でのMaaS活用事例

日本国内においては、政府が2018年に「未来投資戦略2018」を掲げ、自動運転の発展や交通機関同士の統合などに関する施策が盛り込まれた。現在は、交通機関や自動車会社を筆頭にさまざまな取り組みが進められている。

JR東日本

JR東日本が開発を進めるのは、「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」。移動に関するあらゆる情報収集から、乗車券の予約、支払い・決済をシームレスに提供するプラットフォームで、さまざまなアプリやタクシーなどの配車サービスとの連携が構想されている。

2020年1月には、Suicaをシェアサイクルやタクシーなどにも利用できるようにするアプリ「Ringo Pass」の実証実験を行い、5月には社内で「MaaS・Suica推進本部」を新設した。Suicaを利用しながら、さまざまな移動手段のシームレス化を目指すようだ。

小田急電鉄

小田急電鉄は、国内の鉄道やバスなどの交通データを広く共有する基盤の開発を進めている。2019年11月には、MaaSアプリ「EMot(エモット)」を公開し、新宿駅や新百合ヶ丘駅で実証実験を開始。2020年7月から順次、アプリで購入できる電子チケットの種類や機能を拡充するという。実証実験は、2020年10月末まで行われる。

ほかにも、「観光型MaaS」として箱根湯本駅近くにある温浴施設「箱根湯寮」の電子チケットを発行したりと、宿泊施設や商業施設の予約もあわせてアプリで行える工夫をしている。単に移動だけでなく、観光に関する一通りのプロセスを一括で行えることを目指しているのだ。

リンク:EMot公式サイト

国土交通省

国土交通省は、現在MaaSに関して「大都市近郊型・地方都市型」「地方郊外・過疎地型」および「観光地型」の3つの種類の取り組みを行っている。

2020年には、地域の課題解決に資するMaaSのモデル構築を図る「日本版MaaS推進・支援事業」について、国内の38事業を選定した。地域課題の解決に寄与することが見込まれ、新たなMaaSのモデルとなり得る事業を支援することで、日本版MaaSの拡大を目指している。

トヨタ自動車

トヨタ自動車が以前から取り組んでいるのが、自動運転システムの開発だ。現時点では、自動運転の支援システムにとどまっているが、今後は完全な自動運転を目指している。2018年には、ソフトバンクと共同出資をしてスマートモビリティの会社「MONET Technologies」を立ち上げた。

また、日本でオリジナルのスマートシティも展開しようとしている。「Woven City(ウーブン・シティ)」と名付けられた実証都市は、2020年末に閉鎖される同社・東富士工場(静岡県裾野市)の跡地を利用し、2021年初頭から着工する予定だ。

東京メトロ

東京メトロは2020年初旬から、鉄道からシェアサイクル、タクシー、コミュニティバス、航空まで多様なモビリティやサービスと連携し、東京における大都市型のMaaS「my! 東京MaaS」を展開している。

8月には、リアルタイムな運行情報・列車走行位置がわかる「東京メトロmy!アプリ」も公開した。タクシーアプリ「JapanTaxi」「S.RIDE ®」や、シェアサイクルサービス「HELLO CYCLING」「bike share service」とも連携したアプリで、今後が楽しみだ。

リンク:大都市型MaaS「my! 東京MaaS」始動!

まとめ:MaaSの課題点とこれから

日本でもJR東日本や小田急、トヨタ自動車などが積極的に取り入れていこうとしているMaaSだが、課題もある。

たとえば多くのサービスは、主に都市部で交通をカスタマイズできるよう作られているため、郊外や地方ではうまく機能しない可能性があることや、ほとんどがモバイルアプリとして作られておりPC向けではないこと、デジタルリテラシーのない層にサービスが行き届かない可能性があることなどだ。他にも、それぞれの交通機関が独立しており協力関係にない場合は、情報提供が難しくなり、ユーザーの利便性を高めることにはつながらない。

また、自家用車を所有するより「安い」かというと、そうでない場合もある。1日に複数回の移動がある人や、毎日さまざまな場所に移動する人にとっては車の方が早くて便利で、値段も安いだろう。そういった人のために、フィンランドのWhimなどはMaaSにサブスクリプションプランを導入している。

このように多くの課題もあるなかで、やはり世界からは期待値が高まっているMaaS。2020年8月には、伊予鉄グループがジョルダンと連携して乗換案内のサービスを適用した「伊予鉄MaaS」を打ち出した。日本国内でも今後の動きに期待だ。

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事となります。

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