脱炭素で注目される「気候テック」世界の企業・事例まとめ
CO2排出量の削減や地球温暖化の影響への対応など、気候変動対策に焦点を当てた技術やビジネスのことを指す、気候テック(Climate Tech)。
英国に本拠を置くサービス業世界大手のPwCは、気候テックの主要セクターをCO2を多く排出する、エネルギーとモビリティ・輸送、建設と重工業、および食品や土地使用の5つに分類している。また、CCUS(二酸化炭素回収貯留・利用)と気候・地球データ作成についても課題のある分野であると位置づけている。気候テックの例として挙げられるのは、代替燃料、電気自動車や高速充電ステーション開発、建物の高効率照明や高効率空調、エネルギー・資源効率の高い製造プロセス、代替肉などの代替食品や精密農業などだ。
2050年までのCO2排出量ネットゼロを目指し、スタートアップから大企業まで様々な事業者がこの気候テックに取り組んでいる。今回の記事では、各分野で注目を集める気候テックを幾つかご紹介したい。
気候テックに取り組む企業5選
グリーン水素の産業利用を目指すスタートアップ
燃焼時にCO2を排出しない次世代エネルギーとして、多くの国で政策的に推進されているのが水素エネルギーだ。その中でもグリーン水素は、再生可能エネルギーを用いて製造するため製造時もCO2が排出されず、特に環境負荷が低いと言われている。一方で課題は、化石燃料を用いて製造するブルー水素などと比べて、コストがかかる点だ。このグリーン水素の製造と商業化に、様々なスタートアップが取り組んでいる。
アメリカのスタートアップ、Electric Hydrogen社は、産業利用に焦点を当てたグリーン水素の製造技術を開発している。2022年6月には、ベンチャーキャピタルや金融機関、三菱重工業やリオ・ティントなどのパートナー企業から1.98億ドル(約275億円)の資金調達を行った。多量の水素を低コストで製造できるよう、今後は電気分解装置のスケールアップと実証実験を行っていく予定だ。
新鮮な野菜を都市部に届ける、環境にやさしい作物生産テクノロジー
気候変動の影響で従来のように農作物が育たない。より環境負荷の低い方法で新鮮な農産物を都市部に届けたい。このような課題に取り組むテクノロジーの一つが、垂直農業(Vertical Farming)だ。
高層ビルなど屋内で作物を育てる垂直農業には、様々なメリットがある。気候の影響を受けず、農薬も使わず、限られた敷地面積で農作物を育成できる点だ。しかし実現するには、それぞれの作物に適した温度、湿度、照明、空気循環を、低層部から高層部まで維持管理する技術や、作物の育成・出荷状況をトレースする技術が必要だ。ビッグデータ、AI、IoT、植物工学、ロボット工学など、様々な専門知識とテクノロジーの連携が求められる。
アメリカのAeroFarms社は、2004年の設立以来、550種を超える野菜と果物を垂直農業で生産してきた。従来の農業と比べて、水の使用量は最大95%削減、土地の利用は最大99%に抑えられた。また、都市部周辺で生産することで、輸送時の環境負荷やコスト削減にもつながる。
AeroFarms社は、垂直農業分野のリーディングカンパニーとして、アメリカ国内外で50件以上のアワードを受賞している。同社は2020年に、屋内垂直農業分野において世界最大規模の研究開発センター(90,000平方フィート、約8,400平方メートル)をアブダビに建設することを発表した。また2022年には、世界最大規模の垂直農業施設(150,000平方フィート、約14,000平方メートル)がバージニア州に建設される予定だ。
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グリーン電力で電気自動車を急速充電
CO2が排出されず環境負荷が低い自動車として、日本でも利用者が増えつつある電気自動車。しかし、充電時の電力がどのように生まれているか、気になる人もいるだろう。
電気自動車が普及するアメリカで、100%再生可能エネルギーによる電力調達を始めた会社が、EVgo社だ。EVgo社は、アメリカ国内で約850の充電ステーションを運営している。同社がパートナーシップを組むのは、電力供給会社と、グリーン電力証書(Renewable Energy Certificate、REC)を取得するパートナー企業だ。グリーン電力証書とは、再生可能エネルギーによる発電であることを証明する、取引可能な証書である。グリーン電力証書を購入すると、証書に記載された電力量(kWh)相当分のグリーン電力を利用したとみなされる。
EVgo社は、自動車充電に使用した電力量に相当するグリーン電力証書を購入することで、ユーザーが環境への影響を気にせず充電できる環境を整えてきた。2019年にこの取り組みを始めて以来、アメリカで再生可能エネルギー100%の充電ステーションを運営するのは、同社のみだという。
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CO2を吸収する、カーボンネガティブなコンクリート
排出されたCO2の削減方法として注目を集めているのが、他の気体から分離・回収したCO2を資源として有効利用する技術(CCUS)だ。2008年に鹿島建設株式会社等が開発、商品化したCO2吸収型コンクリート「CO2-SUICOM(シーオーツースイコム)」が、例として挙げられる。
建物や道路の建設に欠かせないコンクリートの主原料であるセメントは、製造時に大量のCO2を排出する。CO2-SUICOMは、CO2を吸収しながら固まる性質を持つ特殊な材料を、セメントの代替材料の一部として用いている。セメント使用量を削減し、かつコンクリート製造時のCO2を吸収・固定化することで、CO2排出量を削減するのだ。一般的なコンクリートの場合、製造時のCO2排出量が1立方メートルあたり288キログラムであるのに対し、CO2-SUICOMはゼロ以下(-18キログラム)だという。
しかし、普及には課題も残る。従来のコンクリートと比べると、CO2-SUICOMは約3倍のコストがかかってしまうのだ。2021年に経済産業省が策定した「グリーン成長戦略」において、CO2-SUICOMは代表的な技術として明記されており、今後の需要拡大とコスト低減が期待される。
個人で始められるカーボンオフセット
日常生活や経済活動を通して排出されてしまう温室効果ガス。カーボンオフセットは、個々の排出量削減努力では補いきれない排出量について、排出量削減活動への投資などを行うことで埋め合わせをするアプローチだ。日本でも企業や団体間で取り組みが広がりつつある一方で、個人レベルでは何から始めたらよいか悩む人もいるだろう。
2019年にアメリカで設立されたスタートアップ、Wren社が運営するのは、個人レベルで参加可能なカーボンオフセットのプラットフォームだ。日常生活に関する質問事項に答えると、自分が1年間に排出するだろう二酸化炭素量が計算される。そして、オフセットをするための投資先プロジェクトをリストアップしてくれるのだ。熱帯雨林の保護プロジェクト、植林プロジェクト、山火事を防ぐプロジェクトなど様々あり、月額のサブスクリプションプランもある。
2022年7月にWrenが公表した内容によると、直近半年間のWrenの活動を通して84,490トンの二酸化炭素削減・排出抑止につながった。購読者数も倍増し、世界で約10,000人が定期購読している。
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まとめ
エネルギー、農業、モビリティ、建設、そして個人の生活など、様々な文脈で進化している気候テック。CO2排出量の多い従来の技術や製品と比べると、高コストであるなど普及に課題は残る。しかし、脱炭素化への関心と需要が高まる中、今後私たちの生活にとっても身近な存在になっていくだろう。
【参照サイト】次世代エネルギー「水素」、そもそもどうやってつくる?(経済産業省 資源エネルギー庁)
【参照サイト】主要国で進む水素利活用の戦略策定(1)ヨーロッパの動き(日本貿易振興機構)
【参照サイト】Electric Hydrogen Secures $198M in Financing to Decarbonize Global Industries With Fossil-Free Hydrogen (Business Wire)
【参照サイト】The world’s largest indoor vertical farm is addressing food inequity(abc7)
【参照サイト】垂直農法市場、2026年に198億6千万米ドル規模到達見込み(株式会社グローバルインフォメーション)
【参照サイト】EVgo goes 100% renewables to power nation’s largest EV fast-charging network (Windpower)
【参照サイト】Renewable Energy Certificates (RECs) (United States Environmental Protection Agency)
【参照サイト】グリーン電力証書システムとは?(日本自然エネルギー株式会社)
【参照サイト】知っておきたいエネルギーの基礎用語 ~CO2を集めて埋めて役立てる「CCUS」(経済産業省 資源エネルギー庁)
【参照サイト】コンクリート・セメントで脱炭素社会を築く!?技術革新で資源もCO2も循環させる(経済産業省 資源エネルギー庁)
【参照サイト】CO2を吸い込むコンクリートに熱視線 鹿島、カーボンニュートラル追い風に普及加速へ(産経新聞)
【参照サイト】環境配慮型コンクリート「CO2-SUICOM®(シーオーツースイコム)」(鹿島建設株式会社)
【参照サイト】2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました(経済産業省)
【参照サイト】カーボン・オフセット(環境省)
※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事です。
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