エネルギー危機で広がる「脱炭素モビリティ」とは?フランスの事例に学ぶ
欧州の燃料不足が深刻化している影響で、欧州各国では燃料をめぐる争いが起きている。なかでもフランスでは、インフレを背景に大手製油所の職員らが賃上げを要求する長期的なストライキの影響で、ガソリンスタンドでの燃料供給に支障が出ており、自動車燃料の供給不足に拍車をかけている。
フランス政府の公式サイト「LE PRIX DES CARBURANTS」では、フランス本土すべてのガソリンスタンドの燃料入手可能性と価格をリアルタイムで示したマップが公開されているほど。
さらにフランス国鉄SNCFなどの運転手らによるストライキを理由に、鉄道での移動制限やバスの大幅減便が起こり、人々の日常生活の快適さを大きく阻害している。そうした燃料不足や公共交通機関の混乱が、今パリ市民の習慣を思わぬ方向に変えていっている。その一つが、「持続可能なモビリティ(交通手段)の選択肢が大幅に増えた」ことだ。これまで以上に、電動自転車や電動スクーター、カーシェアリングなどの持続可能なモビリティが、パリ市民にとって身近な選択肢となっているのだ。
ストライキ発生後、カーシェアリングの利用者が急増
フランス発、カーシェアリング大手の「BlaBlaCar(ブラブラカー)」は、エネルギー危機が起こってからネットでの検索数が25%増加したという。BlaBlaCarとは、自家用車で移動するドライバーと、行き先が同じ個人をマッチングするサービスだ。
車移動をシェアすることで、燃料代を分担できるだけでなく、相乗りなので新しい出会いももたらしてくれる。フランスやスペインなど欧州を中心に、通勤だけでなく、旅行などにもよく使われている。
2022年10月18日に起こったフランスの大規模ストライキ前日には、BlaBlaCarアプリ経由の検索数が30%増加しており、同社は1年前に燃料価格が急激に上昇し始めてから、全国で100万人の新規会員を獲得している。
社会格差も大きいフランスでは、サステナビリティ推進のために経済的メリットが強調されていることが多いと感じる。実際に、ライドシェアを利用することにより、フランス市民は平均4ユーロ(約580相当)を節約しているという。環境面だけでなく健康面、そして経済面でメリットがあることから欧州では今、ライドシェアが移動の選択肢の一つになっているのだ。
欧州で人気が高まる「電動自転車」。その課題は?
そして近年、欧州各国で注目されているモビリティが「電動自転車」である。パリ市でも、パリ市主導のレンタル自転車システム「Vélib(ヴェリブ)」などは電動自転車のレンタルが中心となっている。
これは今に始まったことではなく、欧州ではロックダウン解除後、自転車の利用者が52%上昇、電動自転車・キックボードの利用者も急増。欧州だけでなく日本でも、電動スクーターや電動アシスト付き自転車を街なかで見かけることが増えてきた。
「15分都市」というコンパクトなまちづくりをしているパリだけでなく、アムステルダムやロンドンなど欧州各国で自転車レーンが拡大している中でも、自動車からいきなり自転車に乗り換えるのは体力的にも難しいと感じる人もいるかもしれない。そうした中で電動自転車は、自転車よりもハードルを下げた脱炭素を促す移行手段とされている。
欧州では将来的に自転車に移行したいと回答している人が38%で、それよりも高い割合である70%の人々が「将来的に電動自転車を利用したい」と考えているという(※1)。このことからもわかるように、電動自転車は今、多くの人にとって車移動に取って代わる可能性を秘めているのだ。
最近の調査によると、車移動の15%が電動自転車に代わることでCO2排出量が12%減少することがわかっている(※2)。フランス政府は2022年8月、古い自動車を下取りに出し、電動自転車または自転車を購入する国民に支給する補助金を、1人あたり最大4,000ユーロまで増額。国として、個人へのインセンティブを増やすことで持続可能なモビリティを選択することを促している。
一方で、世界中で電動自転車が急速に普及していることは、同時に廃棄物問題が浮上することを意味する。フランスでは、パリ市内の使われなくなった古い自転車を回収し、電動自転車に生まれ変わらせているスタートアップ「Teebike」が廃棄物を減らしながら、電動自転車を人々にとって身近なものにしている。
同社の電動モーターによって回転するタイヤは、どんな自転車にも前輪として簡単に装備することが可能。従来のモーターが重い、技術的に複雑、値段が高いなどの電動自転車のイメージを払拭している。
また、フランスだけではなく自転車大国オランダでは、電動自転車のモジュールデザインでサーキュラーエコノミーを促進する「Roetz Life」などのブランドがうまれている。
毎年、オランダだけで100万台以上の自転車が購入されており、2021年以降、これらの自転車の半分以上が電動であるという。通常の自転車は、手入れが行き届いていれば最長で30年使用が可能だが、電動自転車は10年以上の使用は難しいのが現状だ。
そこで同社では、通常よりもサーキュラー率65%の電動自転車を開発。自転車のブレーキからタイヤまで、バイク全体についたセンサーが、メンテナンスが必要である箇所をライダーに警告。部品が修理できないほど損傷する前にサービスを提供することを可能としている。
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欧州各地に広がるモビリティの変化
こうしたモビリティの選択肢が増える動きは、欧州各地で見られる。
ドイツでは、電車に破格の金額で乗れる「気候チケット」の実験が行われており、2022年6月から8月にかけて1ヶ月たったの9ユーロ(1,300円相当)で電車が乗り放題になるチケットが発行された。実証実験の結果、180万トンのCO2が削減され、都市の大気汚染レベルは7パーセント下がったという(※3)。オーストリアでも2021年10月から、国内すべての公共交通機関で使える年間チケットが1,095ユーロ(約14万4千円)で発売されている。
同様にバルセロナなどでも車を手放した人は交通機関が3年間無料になる交通カード「T-verda」が支給されるなど、欧州各国で車から公共交通機関への乗り換えが進んでいる。
新型コロナウイルス感染症やエネルギー危機、暴動にもつながるデモなど、人々の平穏な日常生活が脅かされている欧州の状況により、市民の大きな行動変容が起こっている。
こうして実験を重ねながら人々の移動の選択肢を増やすことが、持続可能な都市設計には欠かせない。今後数年で欧州を筆頭に、世界のモビリティ分野は大きく発展していくのではないだろうか。
※1 Electrically-assisted bikes: Potential impacts on travel behaviour
※2 The E-Bike Potential: Estimating regional e-bike impacts on greenhouse gas emissions
※3 Germany’s €9 Train Ticket Scheme Has Reduced CO2 Emissions
【参照サイト】Covoiturage, scooters électriques, trottinettes… La pénurie de carburants fait la part belle aux mobilités durables
【参照サイト】Roetz Life
【参照サイト】France is giving €4,000 to people who trade in their car for an e-bike
【参照サイト】燃料価格1リットル当たり30ユーロセントの割引を11月中旬まで継続
※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事です。
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