世界を“素”から変えていく。プラスチックのあり方を変える三井化学の挑戦

世界を“素”から変えていく。プラスチックのあり方を変える三井化学の挑戦

環境問題を背景に社会で進む、脱プラスチックの動き。しかし、プラスチックは私たちの暮らしにとってもはや無くてはならない存在となっており、脱プラには限界があるという見方もあります。従来のプラスチックに代わる素材の開発や脱プラのためのリユース製品などに注目が集まるなか、化学メーカー・三井化学株式会社(以下、三井化学)は脱プラならぬ“改プラ”を掲げ、プラスチックのあり方を根本から変えようと挑戦を進めています。その一環として2022年に立ち上がったのが、プラスチックの原料転換と資源循環の実現を目指す二つの新ブランド。今回は、三井化学・ESG推進室の松永有理氏に、新ブランド立ち上げの経緯や同社が描く未来について伺いました。

話者プロフィール

松永 有理 氏
三井化学株式会社 ESG推進室 カーボンニュートラル戦略グループ
2002年三井化学入社。食品パッケージなどの素材であるポリオレフィン樹脂の営業・マーケティングを経て、2011年よりコーポレートコミュニケーション部(広報担当)。2021年4月よりESG推進室。2015年に組織横断的オープンラボラトリー「そざいの魅力ラボ(MOLp®)」を設立、B2B企業における新しいブランディング・PRの形を実践している。PRSJ認定PRプランナー。MOLp®の活動を通して2018年グッドデザイン賞ベスト100、2018トレたま年間大賞(テレビ東京WBS)、Japan Branding Awards2021「Rising Stars」賞受賞。

その時代の原料転換をリード。三井化学が“改プラ”に取り組む理由

三井化学のはじまりと石炭化学事業

1912年、石炭化学事業から始まった三井化学。発足当時は石炭コークスの副生ガスを原料とした化学肥料を製造。1958年には石炭から石油へと原料転換を進め、日本初の石油化学コンビナートを興し、ポリエチレンやポリプロピレンなど石油由来のプラスチックの製造を開始しました。

現在まで石油化学製品の生産を支え、日本の経済発展と共に化学産業の一端を担ってきた同社が新たに立ち上げたのが、社会課題解決に向けた2つの新ブランド。化石資源からバイオマスへの原料転換を図り、カーボンニュートラルの実現を目指す「BePLAYER®︎」と、廃プラスチック等の廃棄物を資源として再利用し、サーキュラーエコノミーの形成に資する「RePLAYER®︎」です。

三井化学の新ソリューションブランド、BePLAYER®︎・RePLAYER®︎
バイオマスでカーボンニュートラルを目指す「BePLAYER®︎
」とリサイクルでサーキュラーエコノミーを目指す「RePLAYER®︎」

プラスチックの主な原料である、石油などの化石資源。燃焼するとCO2を発生すること、さらには海洋プラスチックごみの問題から、社会で「脱プラスチック」の動きが活発になっています。プラスチック商品の利用に罪悪感を持つ消費者が増える一方で、現代社会の暮らしがプラスチック製品に支えられているという認識は薄いと松永氏は言います。

「クルマ、住宅、インフラ、家電、パソコン、スマートフォン、雑貨、衣類、食品包装、私たちの暮らしを支えるありとあらゆるものにプラスチックが使われています。それはプラスチックが加工しやすく、熱や薬品に強い、衛生的で軽くてしなやかなど、素材として非常に優れた機能を持っているからこそです。現代社会からプラスチックを完全に切り離すことは難しい。脱プラには必ず限界が来ます。それならば私たちは、消費者がプラスチック製品を使うことに対して感じている罪悪感を取り除くことが使命ではないかと考えています」

実際に、世界では年間3億6千万トンを超えるプラスチックが生産され、その生産・使用量は年々増加しています。

三井化学の原料転換の歴史

「当社はこれまでも、石炭からガス、そして石油へ、時代に合わせて原料転換を行ってきた歴史があります。だからこそ今、化学メーカーとして化石資源からバイオマスやリサイクル資源への原料転換を図ることで、世界を素から変えていくことができればと思っています。『BePLAYER®︎』ではバイオマス活用によるカーボンニュートラルの実現、『RePLAYER®︎』では既存のプラスチックの資源循環によるサーキュラーエコノミーの形成。2つのブランドにはそれぞれの役割があります。カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーは重なり合う部分も多いのですが、目的を明確にし、2つのソリューションブランドを両輪で進めていくことで、リジェネラティブ(再生的)な未来の実現に貢献したいと考えています」

BePLAYER®︎とRePLAYER®︎の両軸で目指すリジェネラティブな社会

バイオマスでカーボンニュートラルを実現する BePLAYER®︎

プラスチックや化学品の原料であり、石油を精製することによって取り出される、ナフサ。三井化学は日本で初めて、食用油の廃油や残渣油などから生まれたバイオマスナフサを使用したバイオマスプラスチックの製造を開始しました。

「化学の心臓部であるクラッカー(ナフサを分解し、基礎化学品を製造する装置)にこれまでと異なる原料を入れることは、大きなリスクを伴うため敬遠されがちなのですが、当社は日本で初めてバイオマスナフサ投入を開始しています。これによって、世界中で大量に使われていながらもバイオマス化が難しかったポリプロピレンのバイオマス化も可能になりました」

コンビナートの心臓部を担うクラッカーへのバイオマスナフサ導入

プラスチックの中でも世界で最も多く使われている、ポリエチレンとポリプロピレン。そのバイオマス化の成功は、様々なプラスチック製品のバイオマス化を可能にするとともに、社会のバイオマス化を大きく進める一歩となることを意味します。

バイオマス素材に対するメーカーの反応について、松永氏はニーズ拡大の側面で課題があると言います。

「バイオマス素材の普及には需要の拡大が不可欠です。現状ではまだ国内よりもアジアを含めた海外のほうがニーズが高いという状況です。また、バイオマスプラスチックの普及率は世界でも日本でも1%未満に留まっています。バイオマスプラスチックは石油由来のプラスチックよりもコストが高いため、普及にはコストに対する消費者意識の向上も必要になってくると思います」

リサイクルでサーキュラーエコノミーの実現を目指す RePLAYER®︎

サーキュラーエコノミーの実現において重要なポイントとなるのは、製品使用後のリユース・リサイクルを想定した製品設計を行うことや、素材を循環させるシステムを形成することです。RePLAYER®︎で実際に行っている取り組みについて伺いました。

「消費者の環境配慮製品に対する購買意欲調査の結果から、製品の埋め立て廃棄が問題視されているということが明らかになりました。埋め立て廃棄を減らすためには、リサイクルしやすいように製品設計から見直すことが必要です。例えば、製品設計の段階から廃棄時に分解しやすいことや、モノマテリアルで設計することなどが求められます」

モノマテリアルとは、単一素材のことを意味します。例えば、フィルムやシートといったプラスチック製品も、実は多様な素材を用いた7層構造であったりと、複数の素材が重ねて用いられていることが多いのです。もちろん、これらの素材はそれぞれ必要とされる機能を持ち、明確な目的をもって構成されているのですが、複数の素材であるがゆえに分離できず、マテリアルリサイクルケミカルリサイクルも困難なケースがあります。

「RePLAYER®︎では、リサイクルしやすい設計の提案やリサイクルシステムの開発を進めていきます。マテリアルリサイクル普及のための相容化技術(異なる素材が混ざっていてもリサイクルしやすくするために混ざり合わせる技術)の提供やケミカルリサイクルの社会実装の検討、印刷インキの除去システム、ブロックチェーンを用いたトレーサビリティシステムを構築することで、よりリサイクルを受け入れやすい土壌作りなどを進めています。

RePLAYER®︎で生み出されたアップサイクル商品のECサイトでの販売

また、素材の長寿命化に資するアップサイクルプロジェクトも社内の有志活動から生まれています。プロジェクトから生まれたデザイン性、ロングライフ性を特徴としたプロダクトはECサイトやイベント等で紹介・販売しています。アップサイクル製品は制作に手間もかかるので、値段もそれなりにするのですが、ECサイトやイベント会場でもご好評頂いております。素材を長く愛してもらいたいという私たちの思いを聞いていただけるのは嬉しいことです」

デザインの力で素材の魅力を発信。社内有志により立ち上がった MOLp®

三井化学では、有志による社内活動として「そざいの魅力ラボ MOLp®」を立ち上げ、素材の視点から革新的なデザインの製品を生み出し、情報を発信しています。粉末状の荷物を保管する大型袋「フレキシブルコンテナ」から作られたトートバックは、RePLAYER®︎のアップサイクルプロジェクトの一環として商品化され、人気商品の一つとなっています。

フレキシブルコンテナから作られたトートバック

「フレコン素材は軽いうえに強度が高く丈夫で水にも強いので、使用上の利便性も高く、長く使っていただけます。展示会でもお客様から『こんな商品を探していた』と言って購入していただきました」

MOLp®の商品の魅力は、素材の強みを生かした製品であることはもちろんですが、そのデザイン性の高さにもあります。これまで新進気鋭のクリエイターから、世界的ファッションブランドまで、業界の垣根を超えた協働を行ってきました。化学とデザインのコラボレーションが今後も新たな価値を生み出すことが期待されます。

一人ひとりがプラスチック変革のPLAYERに

2つの新たなブランドから創造する未来について、松永氏は仲間の重要性を語ります。「2つのブランド名に共通して“PLAYER”を付けているのは、社会を構成するさまざまな立場の一人一人が“PLAYER”になり、自分ごととして行動を変えていくことが必要だからです。バイオマスへの原料転換においても、バイオマス素材を製品に取り入れる企業が増えれば、我々素材メーカーは供給を増やすことができます。私たちだけでは思い描く未来の実現は難しい。同じ志を持つ仲間を増やして、社会のバイオマス度を高めていきたいと思っています」

三井化学の目指すリジェネラティブな未来は、あらゆる業界や立場を超えた協働により実現へと進んでいきます。素材メーカーが切り開く、“改プラスチック”への挑戦に今後も注目していきたいところです。

【関連サイト】三井化学株式会社 BePLAYER®︎-RePLAYER®︎
【関連サイト】MOLp®︎ ONLINE STORE
【関連サイト】MOLp®︎ そざいの魅力ラボ

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