ビジネスフィンランドに聞く、フィンランドの森林資源活用分野におけるサーキュラーエコノミー最前線

ビジネスフィンランドに聞く、フィンランドの森林資源活用分野におけるサーキュラーエコノミー最前線

フィンランドは森林資源の豊富な国として知られている。フィンランドの国土面積に占める森林の割合(森林率)は約74%と、OECD(経済協力開発機構)加盟国のうち第一位。人口は550万人と、北海道の人口と同程度だ。一人あたりの森林面積は欧州平均の16倍ということから、森は常に身近な自然として親しまれてきた。

この森林資源を持続可能な形で経済に組み込むバイオエコノミーへの転換が、20年以上前から進められてきた。サーキュラーエコノミーにおいても、同国が2016年に掲げたサーキュラーエコノミーロードマップの5つの重点分野のうちの一つが、「森林資源を基礎とした循環(Forest Loop Cycle)」である。

翻って日本の森林率は68%でOECD加盟国中第三位と、森林資源が豊富という点は共通している。そこで、フィンランドの森林資源活用の日本への示唆については各方面で研究や議論、両国間交流が進められている最中だ。ここでは、サーキュラーエコノミーの観点に絞ってフィンランドの森林資源を基礎とした循環について取り上げたい。今回編集部では、ビジネスフィンランド(フィンランド大使館商務部)上席商務官​​のInka-Liisa Häkälä(インカ=リーサ・ハカラ)さん(冒頭写真)にお話を伺った。

 

1. 持続可能な形で、森林資源を経済に組み込む

1800年代後半から盛んだった林業。国民に近い産業として、レクリエーション機能だけでなく、経済システムの一部としても親しまれてきた。産業規模で見ると、鉄鋼業に次いで第二位を誇る。森林の約5割を個人が所有しているが、経済活動として活かせる仕組みがあることが特徴だ。保有者は林業組合に所有林の管理を委託する場合が多く、森林売買時に伐採権を販売することを告知。最も有利な条件を提示した企業と契約する。森という資産価値を即座に換金できる仕組みと需要があるため、いざとなったとき有効な資産として担保しておけるのだ。そのため、森林を保有することは国民にとって誇りを持つことにつながっているのだという。

こういった社会システムがあるなか、森林資源の価値をさらに高めるため、産官学共同で機械化とデジタル化に注力してきた。

機械化については、1980年代から森林作業の機械化が普及。ハーベスタやフォワーダーなどの機械が広く導入され、森林作業の100%は機械化を実現。

一方のデジタル化は、同国ヨエンスー市のビジネス推進機関であるビジネスヨエンスーのティモ・ターバナイネンさんによると、4つの段階を経て進められてきたという。

  1. 森林のデジタル化
  2. データ収集の改革:データを収集するだけでなく、データを加工、最適化して木材を取引する。正確なデータが木材の低価格化につながる
  3. オープンデータ化:森林などのデータに自由にアクセス可能に。森林への投資拡大につながる
  4. デジタルフォレスト:森のデジタルツイン構築へ。2010年代には国家オープンデータ政策により加速化。所有権や樹種、森林伐採時期などのデータが一元化されており、誰でもそのデータを閲覧できる

ハカラさんは、「昔は樹木の本数を数える仕事があったくらいデータ整備に力を入れてきました。現在は3Dマッピングで森林を計測するのですが、たとえばある木材繊維がどの木から作られたのかということまで追跡できるようになっています」と話す。

昨今、製品にトレーサビリティを含むサステナビリティ関連情報を製品に付与する動きが相次ぎ、EUではデジタル製品パスポートの構想が具体化している。繊維のトレーサビリティへの対応も求められることが予想されるなか、同国の森林データ基盤は一つの強みになるだろう。

ハカラさんは、機械化やデジタル化を進め森林資源を有効活用する同国の背景についてこう続ける。「1990年代、フィンランド社会は国内外のデジタル化により紙需要が減少することを見込んでいたため、産官学一体となって木材の高付加価値化に向けた研究を進めてきました。5年ほど前からは、PoC(実証実験)の動きが相次いでいるという状況です。現在では、木材由来の多様なバイオマテリアル利用が重要な役割を果たしています」

サーキュラーエコノミーロードマップにおける「森林資源を基礎とした循環」でも、「木材量を増やすよりも高付加価値化の方が重要」と明記されている。その一つの方向性が、モノとして価値を抽出するバイオマテリアルということになる。

たとえば、フィンランドの世界最大級パルプメーカーであるメッツァファイバー社(Metsä Fibre)は、木材から出るサイドストリーム(屑や樹皮)などの効率化を進め、サイドストリームからさまざまなバイオマテリアルを作る。さらに、材料にできないサイドストリームはエネルギーへ利用される。結果、グループ全体で151%のエネルギー自給率を実現。つまり、工場で化石燃料を使わずにバイオマテリアルを作れるだけではなく、地域にエネルギーを供給していることになる。こういったサーキュラー思考はフィンランドのバイオエコノミー関連企業に根付いているというのが、ハカラさんの見方だ。

2. フィンランドのバイオマテリアルスタートアップ、3事例

上記を背景として、持続可能な形でバイオマテリアルを開発・製造するスタートアップが昨今多く誕生している。ハカラさんからご紹介いただいた注目スタートアップのうち、今回は3つをご紹介したい。

Woodly®

(出典:Woodly®公式ウェブサイト

まずは上の写真をご覧いただきたい。このプラスチック容器包装の素材はプラスチックだと思う方が多いかもしれない。しかし、認証された針葉樹由来のセルロースを主成分としている。つまり木からできている。Woodly®は、社会に浸透している利便性のあるプラスチックすべてを置き換えるというよりも、プラスチックを「再設計」し素材自体を変えてしまおうという発想のもとに、セルロース由来のバイオプラスチックを製造する。なお、このプラスチックはカーボンニュートラルでリサイクルも可能であると公表している

Sulapac®

(写真:Sulapac® 公式ウェブサイト

化粧品容器に使い捨てプラスチックが多いことに気づき、何ができるのかを考え行動に移したSuvi Haimi 博士とLaura Tirkkonen-Rajasalo 博士。100%木材由来で副産物からできる素材は、既存の工場・ラインで製造可能だ。リップバームなどの化粧品容器に利用され、シャネルのサステナビリティを軸にしたライン「N°1 de CHANEL.」における一部の製品の容器にも採用されている。

Paptic®

出典:Paptic社プレスリリース(2021年12月16日)

先述の木材のマテリアル利用の流れで誕生したスタートアップ。この「紙のような」素材は100%木材からできているが、伸縮性やヒートシール性(接着剤を使わずに、熱でフィルム同士を接着させる性質)といった機能性を持つ。こちらもパルプが活用され、リユース・リサイクル可能。伊藤忠商事株式会社も日本における戦略的市場パートナーとして展開を進めている。日本では2021年の母の日に、ROSE GALLERYによる期間限定イベントで、Paptic®が花束の包装に採用された

3. 素材のバイオ化だけではなく、設計のサーキュラー化

これらの企業に共通する点は、持続可能な森林資源由来の素材であることはもちろん、バイオ資源だからといってすぐさま設計をリニアにしていないことだ。再利用可能あるいはその後はリサイクルができるような設計が最大限取り入れられている。つまり、素材のバイオ化だけでなく、材料設計においてもサーキュラリティが高められている。森林資源の価値を余すところなく使い切る考えが表現されているといえよう。(なお、Sulapac®については、生分解を目的としている素材のため、設計において長寿命化は考慮されていないが、耐久性を向上させる条件について解説している。)

4. バイオエコノミースタートアップの課題は?

期待が集まるこれらのスタートアップだが、一方でどのような課題があるのだろうか。ハカラさんはこう答える。「最大の課題は商品化の問題です。技術としては開発されていますが、まだ商品化ができていないものが多くあります。製品になるまでは資金や商品化への技術が必要で、そこは日本企業との連携や共同研究に期待するところでもあります」

バイオ分野でのサーキュラーエコノミー移行に向け、双方が連携を深めることには大きな意味があるだろう。

5. サーキュラーエコノミーに即した海外展開戦略とは?

これらのスタートアップ企業には、生産設備などのリソースが揃っていないという課題がある。加えて、国内でスケールしても人口約550万人のフィンランドは市場として十分な規模ではない。当然ながら海外展開を視野に入れることが必要となる。

海外展開を考慮する際、まずは「モノの輸出」以外の方法を模索するという。サステナビリティやサーキュラーエコノミーの観点からこれらの企業が海外展開戦略として持つ基本的考えは、「モノ売り」から「知財売り」だとハカラさんは話す。「日本含め、フィンランド国外からモノを買いたいという企業が多いのですが、フィンランドでは知財を売りたいという希望を持つ企業が少なくありません」

ビジネスフィンランドが実施するフィンランド企業とのマッチング支援のあり方においても、この考えが適用されていることを強調された。

「ビジネスフィンランドのイノベーションファンドでは、サステナビリティが一つの活動基準になっています。たとえば、フィンランド企業が製造する木材由来の容器包装をフィンランドから日本に輸出したいという相談をいただく場合、まずはモノの輸出以外の方法(ライセンス販売など)を採用できないか助言する必要があるのです」

やはり、扱う素材がバイオという理由が大きい。モノの移動には環境負荷を含めたコストがかかることは言うまでもない。現地で調達・製造可能なものは現地で完結する方が小さな循環を構築できるとともに、環境再生にもつながりうる。

6. サーキュラーエコノミーに組み込まれるバイオ資源

サーキュラーエコノミーへの移行には、まず製品設計の段階で、①脱物質化②既存の素材・成分でエコ製品設計(耐久性、分解性、修理可能性、リサイクルなど)③バイオ化などの手段の活用が考えられる。そのうち、今回は③の取り組みに該当するが、次の3点が重要であることが合わせて確認できた。

  1. デジタル化や機械化による森林資源の持続可能で効率的な利活用
  2. 木材から最大価値を抽出するカスケード利用
  3. 素材のバイオ化とともに製品のサーキュラー化

上記のとおり産官学挙げて取り組んできた結果が、世界の持続可能な製品市場の拡大の流れとも相まって、フィンランドの同分野の存在感を高めている。日本はこれらからどんなことが学べるだろうか。フィンランドの変遷や経済、地理的状況、生態系などにおいて日本とは状況が異なる部分もあるが、木材のマテリアル利用を推し進める日本が参考にできることは多い。ハカラさんによると日本企業によるフィンランド企業への照会希望は増えており、ビジネスフィンランドとしてもこれからもより一層の事業マッチングの機会を創出していくそうだ。両国のサーキュラーエコノミーの発展のため、さらなる協業が実施されていくことを期待したい。

【参考】

【関連記事】【連載② 欧州委が発表した「持続可能な製品イニシアチブ」。その意図と課題、日本への示唆】デジタル製品パスポートが意味すること 

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Circular Economy Hub」からの転載記事です。

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