工場見学からアクションへ。日本のモノづくりを再考するコミュニティに学ぶ

工場見学からアクションへ。日本のモノづくりを再考するコミュニティに学ぶ

近年、日本国内のものづくりの経済的な衰退が著しい。経済産業省によると、国内生産の減少により、2017年の国内の繊維事業所数、製造品出荷額は、1991年と比べて約4分の1に減少したという。

地域の豊かな伝統や技術を守っていくために、私たちはどうすれば良いのか。実はこうした状況の中で、日本のものづくりを再考する動きも見られる。2022年4月からは、ものづくりを考え、体感するオンラインコミュニティ「bethink_」がスタートするのだ。今回はbethink_代表で、「循環するジーンズ」を展開するland down under代表 池上 慶行さんと、天然素材・染料にこだわる下着ブランドHIKARI underwear代表 杉下史歩さんに、コミュニティ設立に至るまでのお話を伺った。

話者プロフィール

池上さん

池上 慶行(いけがみ・よしゆき)
1993年生まれ。東京都出身。新卒でアパレル企業を経て、2019年に倉敷市児島市に移住。カフェやゲストハウスの立ち上げ、学生向け産地研修プログラム、アウトドア体験の企画・運営などに携わる。2020年に「land down under」を設立。サーキュラーエコノミーの考え方を取り入れ、変化を楽しみながら永く楽しめるデザインと、リサイクルのしやすさを設計に落とし込んだ循環型の服づくりを行っている。

杉下さん杉下史歩(すぎした・しほ)
1995年生まれ。愛知県出身。東京で採用コンサルタントとして一年勤務し、自身の下着への悩みから、下着を作ることを決意し起業する。2018年に地球にも身体にも優しいアンダーウェアブランド「HIKARI underwear」を立ち上げ。心と身体の心地よいバランス、環境に配慮した持続可能なものづくりを追求し続けている。

「点」から「線」で考える、産地の歴史や生産者の姿

bethink
bethink_は、ものづくりの背景を探求するオンラインコミュニティだ。4か月ごとに一つのテーマを掘り下げ、現地やオンラインでの工場見学、トークイベント、映画鑑賞や読書会を実施する。

bethink_代表の池上さんと杉下さんは、それぞれジーンズとアンダーウェアのブランドを運営している。これまで日本各地の産地を訪問してきた二人は、ものづくりの現場で体感しながら学ぶことの重要性を強く感じてきたという。

杉下さん:私はこれまでアパレル関連の領域で勉強したことや働いたことがなく、一消費者として、締め付けがなく良い素材のアンダーウェアを探していました。リサーチする中で自分好みのものが見つからなかったため、だったら自分で作ってみようと思い、「HIKARI underwear」を設立しました。そこで、服が作られている背景を勉強してみたくなり、工場を見学したり、周りのデザイナーたちからものづくりについて教えていただく機会を作ったりしてきました。その中で、ものがどう作られるのか、その背景がわかってきたんです。

bethink

なるべく環境負荷が小さいものづくりのあり方を模索しながら「HIKARI underwear」をスタートし、ものづくりの勉強を重ねてきた杉下さん。その中でも、池上さんが手がける循環するアパレルブランド「land down under」の生産地・岡山県児島への訪問が特に印象的だったという。

杉下さん:児島への訪問を通して、池上さんがなぜ児島の地でブランドを作り、生産者さんたちとどのような関係性でジーンズを作っているのかを知ることができました。また、工場や商品だけでなく、産地の歴史や文化、人々の姿が明確に見えてきました。まさに、「点」でなく「線」で産地を捉えていく面白さを学びましたね。これは、bethink_のコミュニティの中でも伝えていきたい重要なポイントだと思っています。

池上さん:私はピンポイントで工場だけを見学することに、物足りなさを感じていました。数時間の滞在だけだと、産地や素材についてよく理解することは難しいと感じます。だからこそ、一つテーマを深く追っていけるようなコミュニティを目指し、bethink_を構想しました。

「bethink_」という名前についてですが、「be」を頭に置いて「think」の意味を強調し、「深く考える」をテーマにしています。いろんなテーマについて深く考え、理解する。それに加えて、「be」は「ありのまま」や「存在」そのものを意味します。ものづくりの現場に行くと、自分が思っている以上に生産背景や歴史など複雑な面を感じることがあると思いますが、それを複雑なまま受け入れる。そういった、固定観念に縛られずに現場を見ていこうという意味を込めました。

ものづくりをともに考え、行動するコミュニティを目指して

4月から始まったbethink_の第1弾のテーマは「ウール」だ。この素材をテーマにした背景には、代表の2人の素材に対する想いが込められていた。

杉下さん:私たちはもともとウール製品に興味があり、その中でも産地として有名な愛知県尾州を訪問したいと思っていました。ウールは編み方や織り方など種類もたくさんあります。今回のツアーでは、糸から生地を作り、ウールを扱ってきた歴史が長い産地である尾州と、原料自体から製造までを一貫してやられている大阪の工場を訪問予定です。

また、池上さんたちは素材としてのウールだけでなく、化学繊維としても使われるプラスチックやゼロウェイストなど、ものづくりに関連する様々なトピックも考えていきたいと話す。

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一方杉下さんは、これまで様々な産地を訪れる中で、自分が感じたことをそれぞれ異なる視点を持つ人たちとともに考え、行動に落とし込むことの重要性を感じているという。

杉下さん:自分が生産地を訪問していた時は、自分に知識がなかったために生産者のいうことをそのままインプットすることしかできなかったんです。だからこそ、自分が感じたモヤモヤや疑問について、いろんな方とそれぞれの目線から感じたことを共有したいですね。ネット上では環境配慮のものづくりについての情報が見られるけど、そうしたものに良し悪しも正解もありません。

自分の目線で感じたことを話し合えると、より深く学べると思っています。その先で、私たちは何ができるのか、どのような選択をしたら自分は納得できるのかに向き合っていく。全部のテーマを見ようとしなくても、まずは自分が好きなテーマに対して一歩踏み込んで実際の現場を見に行きながら、最後の1ヶ月は振り返りとして参加者の気持ちの変化を整理する時間を作りたいと思っています。

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また、杉下さん達はbethink_を通して、参加者とともにコンテンツを盛り上げていきたいと話す。

杉下さん:メンバーの皆さんには、このコミュニティをうまく活用してほしいです。bethink_の発起人は私たちですが、運営や参加メンバーの肩書きを超えて、学んだ後にみんなで実践してみるというアクションにつながったら良いなと思います。このコミュニティのサブテーマとして、「一人でできないことをみんなで」というメッセージがあります。学び続けるのも一人だとしんどいですが、みんなで共有し協働することでプロジェクトが動いていったら嬉しいです。

池上さん:ものづくりの実践者のみならず、自分が身の回りにあるものや身につけるものに納得したい、その背景を知りたいという方にもbethink_に入っていただきたいですね。実際にコミュニティの中で、読者会や映像を一緒に見たり、感想をシェアしたりする機会を作りたいと考えているのですが、コンテンツを詰めこみすぎることはあえてしていません。参加者からの提案をコンテンツに落とし込んだり、メンバー同士でアクションを軸にしたりと、「余白」を残しながらコミュニティを作っていきたいと思っています。

「物質」から「意識」の循環へ

これまで国内のものづくりを学び、実践してきた池上さんと杉下さんは、近年注目される「サステナビリティ」に対して、ある種の違和感も持っていると話す。

杉下さん:深く学ぶほど、問題は一つでなくつながりあっているし、何かを解決すると何かに負担がかかる構造だと感じています。だからこそ、一言で「環境に良い」と書かれているのを見ると、「本当はどうなんだろう?」と疑問が生じるようになりました。それぞれいろんな考え方や目線があることを知ると、そうした言葉に対して鵜呑みにしなくなるようになりましたね。

同時に、自分が100%にしようとすればするほど、物事を知れば知るほど、罪悪感を覚えてしまいますよね。それって楽しくないし、楽しさがなくなってしまうことにも違和感があって。そうでなく、いろんな人が関わっていることに感謝したり、自分の中でポジティブに折り合いをつけられたりすると、「サステナブル」なものづくりに対して取り組み続けられると思っています。

池上さん自身も、これまで「循環するジーンズ」をテーマにサーキュラーエコノミーとものづくりについて考えを深めてきた。一方で、物質的な文脈だけで語られるサーキュラーエコノミーに対して違和感があるという。

池上さん:私自身、ブランドを始めた当初は、物理的にジーンズが循環しているイメージを持っていたので、「サーキュラー」という言葉をキーワードにしていました。当時はそこまで理解されていない言葉でしたが、この一年で良くも悪くもこの言葉を使う頻度が増えたと感じます。本来「サーキュラーエコノミー」では、物質だけでなく、ものづくりを取り巻く人々や環境全体を循環させる必要があるんですよね。例えば、工場の方々の意識が「循環」という方向に向いていないと、サーキュラーエコノミーはうまくいかなくなる。結構もろいものだなと感じてきました。

物質を捉えるだけでは、本当の循環の意識は生まれない。服が巡っていくことが面白い、楽しいと思えると、ミスコミュニケーションがなくなるのではないでしょうか。商品開発をする中で素材や産地の歴史について掘り下げていくと、昔は産地の中で複数の企業が協働で生地を作っており、産地規模で一丸となってものづくりがされていたことを知りました。まさに、これは生産者をはじめとした人々の意識の循環であり、ものづくりに関する情報が産地の中で回っていたのだな、と。bethink_の中でも、そうした人々の循環が生まれたら良いなと思います。

編集後記

筆者自身も、これまで国内のものづくりの産地を訪れる機会があった。同じ染めや織りであっても、産地によってその技術が生まれ、発展してきた背景は異なる。産地の歴史を学ぶと、今まで教科書や本の中でしか知り得なかった地域、日本、そして世界の歴史がより立体的に浮かび上がってくる。まさに、インタビュー中に述べられていたように、物事の「点」同士がつながりあい、「線」へ、さらには「面」へと変化していく感覚だ。

私たちの生活に身近な衣服、そしてその背景にあるものづくりについて学びを深めていくと、自ずと日本や世界における社会・文化の姿が見えてくる。現地での学びや多面的な議論を大切にするbethink_は、今後のものづくり、そして「サステナビリティ」を考える上で重要なヒントを与えてくれるはずだ。

【関連記事】ジーンズからジーンズへ。land down underが投げかける循環ファッションの未来
【参照サイト】Instagram
【参照サイト】bethink_ サイト

Edited by Megumi

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事です。

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