組織・世代を越境して共創をつくるBeyond Conference 2022【イベントレポート】

組織・世代を越境して共創をつくるBeyond Conference 2022【イベントレポート】

2022年4月に鎌倉・建長寺で開催された、and Beyondカンパニー(事務局NPO法人エティック)主催の「Beyond Conference 2022」。昨日までの「当たり前」が当たり前でなくなっていく不確かな時代において、社会の中で果たす企業や組織の役割はどう変わっていくのでしょうか。

今後の人や社会の在り方について”越境”をキーワードにしながら探求するトークセッションを含めた、イベントの様子をお届けします。

「and Beyondカンパニー」とは?

「意志ある挑戦があふれる社会をつくる」をミッションに、組織や社会起業家、学生が交流しあって事業の実験プロジェクトを多数開発。ロート製薬・グリコなどをはじめとする11社でバーチャルカンパニーを設立した。オリパラを機にはじめた本イニシアティブは大阪万博をマイルストーンにしながら、さらに個人・組織・社会の変革(アップデート)を進めています。

なぜ個人や組織の在り方を考える必要があるのか?

社会課題の解決やソーシャルイノベーションを起こすには、個人の在り方や関係性の在り方が大きく関係するため。思考停止状態ではなく、個人・既存の枠組みを超えた関係性が、課題の解決や未来に向けて「ちょっと挑戦してみよう」と一歩を踏み出すことに繋がります。

目次

1. 企業・組織の“役割”をアップデートしよう!〜持続可能社会と個人のウェルビーイングの実現に向けて〜

環境問題、世界情勢など不確実なこれからの時代、社会の中で企業の果たす役割はどうアップデートできるのか?最前線を走る経営者が、社員のウェルビーイングと持続可能な事業を両方見据えた経営について考えました。

登壇者プロフィール(敬称略)

  • 山田 邦雄(ロート製薬株式会社 代表取締役会長)
  • 小巻 亜矢(株式会社サンリオエンターテイメント 代表取締役社長)
  • ファシリテーション:柳澤 大輔(面白法人カヤック 代表取締役CEO)

組織・世代を越境して共創をつくるBeyond Conference 2022写真

今だけが「不確かな時代」ではない

山田:自然災害や環境問題、コロナなど様々な問題が一気に押し寄せてきていますね。この数年で急に不確かな時代に突入したように見えますが、過去数十年が比較的恵まれていただけで、それ以前は戦争や大地震などもあり、不確かな時代でした。今だけが不確かな時代ではないように思います。

小巻:たしかに、今までが恵まれすぎていて、「当たり前」が当たり前でなくなって初めてその有難さに気づきますね。しかし、こういう時だからこそ見えてくるものもあります。なぜ自分はこの仕事をしているのか、そもそも自分が仕事を含めて何をやりたかったのかを一人ひとりが突きつけられ、ウェルビーイングやサステナビリティといった自分のあり方・本質が見えやすくなっているように思います。また、経営者としては先行きが不透明で不安な時期でもありますが、皆大変だから皆で頑張ろう、お互いに助け合おうという動きになってきていて、その意味では良い兆しのようにも思えます。

「企業活動」はどのような役割を担っていくべきか

小巻:株式会社サンリオエンターテイメントは、サンリオピューロランドといったテーマパークを運営する会社ですが、「テーマパークだけどこんなこともしているのか」というくらいに活動を広げています。たとえば子宮頸がん予防啓発活動や子育て支援といった活動ですね。企業という既存の枠を壊していきながら積極的にイノベーションを起こしていく。それは、どんな時代であっても子供たちに夢を見てもらいたいからに他なりません。自社だけでなく、他者との掛け算でさらに可能性を広げていきたいです。
山田:企業がさまざまな活動をしていても「企業の評価を上げて株主に企業価値を評価してもらいたいからではないか」と見られてしまう部分も少なからずあります。実際、「企業の目的は何か」を問われた時に「株主価値の最大化である」と答える企業や経営者は結構いると思うんです。しかし、それでは世の中が良くなるはずがありません。「企業という枠組みを超えて支えあう、応援しあう」というのが今日のテーマですが、誰が誰を応援するのかを考えた時に、古い世代がより未来を長く生きる若い世代を応援したい。古い世代の価値観に従うのではなく、ぶち破って変革していくのが必要なんだと思います。

2. 違う企業文化と混ざって分かったこと~社長を交換、たすき掛けプロジェクトの可能性~

「意志ある個人を応援する企業へ進化を加速させるには?」という問いのアイデアから始まった2時間の「社長を交換する」プロジェクト。「まずはやってみよう!」と各社人事が愛と期待を胸にアイデアを実現し2年目を迎えました。自社の常識は他社の非常識。業界も文化も全く異なる会社同士での取り組みが共有されました。

登壇者プロフィール(敬称略)

  • 田口 義隆(セイノーホールディングス株式会社 代表取締役社長)VTR出演
  • 松本 大(マネックスグループ株式会社 代表執行役CEO / マネックス証券株式会社 会長)VTR出演
  • 渡邉 久人(セイノーホールディングス株式会社 人事部部長/西濃運輸株式会社 人事部部長補佐)
  • 永井 由美(マネックスグループ兼マネックス証券株式会社人事部長)
  • 武田 恵理子(マネックスグループ兼マネックス証券株式会社人事部マネジャー)
  • ファシリテーション:原田 未来(株式会社ローンディール 代表取締役社長)
「たすき掛けプロジェクト」とは?

経営トップと社員という関係性を排除し、社員が自身のアイデアや新しい取り組み・新規事業をプレゼンし、もう一方の他社企業の経営トップが期間限定の社長となって助言と応援をもらうことで、あるべき個人の主体性と創造性を発揮し、自由闊達な挑戦を後押ししていく企画。

社長を交換して内定者・新人を巻き込みながらアイデアを出し、プロジェクトを実施する上で大切にしたことが3つあるといいます。

1. 「挑戦に大小はない」
新規事業のようなものもあれば、社内的な取り組みも歓迎する。

2.「他社の常識」は「自社の非常識」。「自社の常識」は「他社の非常識」
この場では、批判批評はNG。年齢、立場、会社を超えて、交換した社長が「アイデアのブラッシュアップ」と「全力応援」をする。

3.挑戦を応援する人も必要で、重要な役割である。
所属する部署内で取り組みを応援することもあるが、部署を超えて、社を超えて取り組む事例が出てくることを期待する。

武田:これまで、アウトプットの場でダメ出しする上司が多く、長く勤めた社員ほどその企業文化に染まっていました。今回のプロジェクトは公募制でしたが、応募してきたのも内定者や新卒1年目など、まだ企業文化に染まっていない社員ばかり。挑戦できるような社内環境づくりや本人の「挑戦してみたい」という気持ちを大切にしながら、周囲がしっかりと応援することの大切さを実感することとなりました。「挑戦」と「応援」、両方の軸での企業文化の醸成が必要ですね。

渡邉 :このプロジェクトによって文化を変える一歩目として社内公募に一歩踏み出した社員もおりました。2時間という短い時間の中で、企業文化が変わるところまではいかなかったというのが正直なところです。継続することが目的ではないものの、「挑戦」と「応援」の経験を忘れずにいるという意味だけでも継続する意義があると思うので、継続することで「挑戦」と「応援」の企業文化を醸成できればと思います。

3. 越境トークセッション2 組織の中からイノベーションをどう生み出すか?~企業内で自己実現していく人の在り方に学ぶ~

企業の中で自己実現させながらイノベーションを生み出してきた笹原さん、岡さん二人のお話を伺いながら、その心構えや考え方を学びます。また、井上さんも交えて、個人のウェルビーイングとソーシャルイノベーションの関わりや、社会課題解決の本質などについて考えました。

登壇者プロフィール(敬称略)

  • 笹原 優子(NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役社長)
  • 岡 晴信(株式会社竹中工務店 まちづくり戦略室 副部長)
  • ファシリテーション:井上 英之(「スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版」共同発起人 / さとのば大学名誉学長(Chief Co-Learner))

大人が傍観者にならない

岡:竹中工務店は、島根県雲南市で「雲南ソーシャルチャレンジバレー構想」に参画しています。チャレンジには次の4種類があります。

子どもチャレンジ:地域を学びの場とした「雲南コミュニティキャンパス(UCC.)」など
若者チャレンジ:課題解決型の事業を支援する「幸雲南塾」など
大人チャレンジ:地域自主組織による地域課題解決型の住民自治を目指す
企業チャレンジ:地域と企業が協力して社会課題の解決に取り組む

大人は子供や若者の挑戦を見て感動していることが多いですが、大人も積極的に挑戦できる場をつくっています。頑張る大人の姿を見て子供や若い世代もさらに頑張ろうと思うようになりますし、良いサイクルが生まれるのではないでしょうか。

失敗を共有する

組織の中でイノベーションを起こそうと方法を模索する時は一人ですが、実際にイノベーションを起こす段階になった時にどうやって組織で働く人々の理解を得ますか?

笹原:イノベーションを起こすのはとても難しいことなので、すぐに結果が出ることはほとんどなく、失敗ばかりしています。ただ、何をやっているのか伝わっていない、理解されていないという状態が一番良くない。「こういうことに挑戦したら失敗した。失敗の原因は〇〇だと思う」と、失敗したことをきちんと説明するようにしています。失敗したことを共有するとアイデアをもらえますし、相手との関係性ができ、応援してもらえることもあります。そうやって徐々に理解者を増やしていくことが重要なのではないかと思います。

4.編集後記

地盤が不確かな時代において、共創に必要な新しい風を取り込んでいこうという動きが広がっています。しかしそれは既存ビジネスや組織の雰囲気とうまくマッチしないことも多いのが現状です。なにもかも「刷新していこう!」とするのではなく、and Beyondカンパニーが推進していくような、組織の中でもがきながらイノベーションを生み出そうとしている人を「応援する」という文化から共創が始まるのではないでしょうか。

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