カーボンクレジットでつながる地域と企業。北海道下川町の森林中心のまちづくりとは

カーボンクレジットでつながる地域と企業。北海道下川町の森林中心のまちづくりとは

カーボンニュートラル(脱炭素)の動きが広がる中、どうしても出てしまう炭素の扱いについて、森林整備・省エネ機器の導入を進める自治体などが発行するカーボンクレジットでオフセット(相殺)を検討する必要があります。国内でカーボンクレジットを発行している事業者はおよそ250を超えますが、企業はどのようにカーボンクレジットを選び、自治体との連携を進めたらいいのでしょうか。

今回IDEAS FOR GOOD Business Design Lab編集部はカーボンクレジットを発行する北海道下川町を取材しました。北海道下川町では、カーボンクレジットをはじめ企業との連携を進めながら森林を中心とした循環型の地域づくりを実践しています。自治体と企業の連携の可能性について探りました。

目次

北海道下川町の町有林

1.カーボンクレジットとは

カーボンクレジットとは、組織や個人が日常の経済活動において排出されるCO2の削減に取り組み、それでもなお削減しきれないCO2について別の場所で取り組まれている削減・吸収量を購入できる形式にしたもの。カーボンオフセットの取り組みには、再生可能エネルギーの開発・使用などでCO2の排出量そのものを削減する「排出削減系」の活動と、植林活動や森林保護を通して大気中のCO2の吸収を促す「森林吸収系」の活動があります。これらの活動で削減・吸収されるCO2量が「クレジット」として市場で取引されます。このクレジットにより、企業はどうしても出てしまうCO2排出量分のクレジットを購入することで、事業をカーボンニュートラルに近づけることができます。

J-クレジット制度とは森林経営や省エネ機器の導入により、中小企業・農業者・森林所有者・地方自治体等のCO2吸収量を国が認証する制度です。J-クレジットとして認定され、企業にCO2吸収分が購入されることで森林経営・省エネ機器のランニングコストを削減することができたり、クレジットを購入した企業によるPR効果・ネットワーク構築が見込めたりと、メリットも多く、2021年10月現在、J-クレジットの対象プロジェクトは852にものぼります。

カーボンクレジットを購入する企業は、カーボンニュートラルを実現できるだけでなく、普段関わりの薄い地方自治体や農業・林業を営む第一次産業の従事者の方とのコミュニケーションを生み、カーボンクレジットを購入するというプロセス自体をサステナビリティの社内浸透につなげることができます。

2.北海道下川町の取り組みの背景

今回は、カーボンクレジットを発行する北海道森林バイオマス吸収量活用推進協議会について、そして下川町の取り組みについて下川町政策推進課の山本さんに伺いました。「北海道森林バイオマス吸収量活用推進協議会(以下、4REST)」は、北海道4町(足寄町/下川町/滝上町/美幌町)が連携してJ-VERを発行しています。間伐促進によるCO2吸収クレジットでは国内第1号です。

下川町政策推進課の山本さん
4RESTの背景を教えてください。

下川町ではカーボンオフセットという制度がなかった平成14年ごろから森づくりの財源確保ができないかと構想を持っていました。当時は国などの補助金で整備している森林で吸収したCO2を売るなんて何事だ、と言われることもあり、断念していました。

それでもその後に北海道の市町村に呼びかけ、特に賛同した足寄町・滝上町・美幌町と共に独自にカーボンオフセット制度を作ろうとしていたところ、環境省の方が制度設計を始められるということで、環境省の制度に参加することになりました。実際に売買が始まったのは2009年です。

この4町にはどのような共通点があったのでしょうか?

この4町は、町の面積の80-90%が森林に囲まれており、自然豊かで林業が盛んな地域です。だからこそ、森づくりにかなり危機感を持っていた4町だったのではと思います。森林整備は永続的に次の世代に引き継ぎ、林業を活性化していかないといけないという使命があります。

昭和39年から始まった木材の輸入自由化から、外国産の安い木材に価格で負けて、林業が衰退してきたという背景があります。効率を上げてコストを下げるために高性能林業機械の導入など進めておりますが、森林整備には国の補助金が不可欠なのが現状です。一方で国の補助金も、予算の兼ね合いで補助金の枠は変動しがちです。森林は生物多様性の保全、土砂災害の防止、水源のかん養、保健休養の場の提供、地球環境保全など多くの多面的機能を有しており、そういった意味でも企業をはじめ、多様な方々に森林整備に関わっていただければと思っております。

高性能林業機械による間伐作業
森林整備とは具体的に、どんなことにどのくらい金額がかかるものなのでしょうか

下川町の町有林では毎年約40~50haで木を伐って必ず植えて育てる作業を60年サイクルで行っています。約1億5千万円ぐらい事業費をかけていますね。また効率的に木材を運び、森林整備を行うには、毎年林道の開設、そして維持管理が必要です。これに約7千万円ほどかけております。この森林整備を担う地元の森林組合さん、林道整備を担う地元の建設業界の企業さんの雇用を守る意味も含め維持していきたい事業です。

3.限界集落をバイオエネルギーで循環型地域に再生

森林を中心とした循環型の地域づくりについてお聞かせください

下川町は環境未来都市として平成23年に国から地域指定を受けまして、環境・社会・経済が調和する持続可能な地域社会モデルの創造として、「一の橋バイオビレッジ」構想進めています。

下川町は人口3,100人ほど、高齢化率が40%という超高齢化社会に突入しています。特に一の橋という集落では昭和35年の下川町の人口のピーク時に約2000人おりましたが、現在では100人程度になっています。5-6年前の高齢化率は52-53%で、まさに限界集落に近い地域でした。ここに住んでいらっしゃる方は、生涯住み続けたいという想いがあるものの、働く場所も商店も、診療所もない状況でどう維持したらいいのかを町と住民で考えておりました。

そこで環境未来都市のモデル事業として、集落の再生をテーマに取り組みを進めています。このカギにあるのがバイオマスエネルギーです。下川町はマイナス30度にもなり、電気需要よりも熱需要の方が圧倒的に多く、化石燃料の消費量も非常に多い地域です。そこで森林整備で出る未利用な細い木材や端材をチップ化し、熱エネルギーに変え産業を興すことで地域活性化につながっています。この取り組みを実施することで若い世代が増え、高齢化率は30%を切りました。

熱利用による雇用創出

菌床のしいたけ栽培。ハウスの温度を一定に保つことで通年での栽培が可能に。そのため通年雇用も実現。また、熱を使った誘致企業の王子ホールディングスも漢方薬の原料生薬の栽培に利用。

電気は太陽光パネルを利用

バイオマスボイラー棟の屋根に15kWの太陽光パネルを設置。バイオマスボイラーや温水ポンプの電源に利用。

伐った木をあますことなく使い切る

人工林のカラマツは、木炭を製造する際に出るタール成分(木酢液)も燻製加工ができる建築資材として活用。加工時にでる端材はバイオマスボイラーで燃焼させて工場内の暖房や木を乾燥させる蒸気に利用。おが粉は牛の寝床に。トドマツの葉はアロマオイルとして利用。

素晴らしいですね。木材で地域づくりの可能性が広がりますね。今後どのような方々との協業を考えていますか?

田舎の木工細工は、ものができてもデザイン面では他の商品と勝負できないところがあります。デザインは外注、加工は地元、といったコラボがもっと広がればいいなと思います。デザインによって商品を手に取ってもらえる方も増えますし、そうすれば森林にも利益を還元できます。また、企業さんとのつながりも積極的に作っていきたいです。

一の橋集住化住宅・ボイラ棟

4.企業とつながり、広がる可能性

企業とはたとえばどのような関係づくりができると考えていらっしゃいますか?

まずは研修・環境教育ですね。現地に来て、植林活動をしていただければと思います。その中で地域の方と交流して頂いて、新たなビジネスの展開に至ったケースもございます。また、「企業の森」という事業では、一定の森林面積を企業さまの命名権としてご購入いただき、企業さまと一緒に協働の森づくりを行っています。

他にもカーボンクレジットを活用した最近の取り組みでは、例えば「Green Ponta Action」がございます。環境の取り組みを宣言するアプリの利用者が増えると、カーボンオフセットの量が増えるという仕組みです。2021年10月は4町の取り組みが対象となり、目標の100トンが達成されました。

また、サテライトオフィスやプロボノの形で関わりを持って下さる方もいらっしゃいます。ホームページを作成いただいたり、先日も製薬メーカーの社員さんに3か月ほど滞在頂き、新たなコラボ企画をまとめて頂いたりしております。また、ワーケーションの受け入れなども最近は活発にしております。

こうした関係を資本にして財源化できるといいですよね。

そうですね。先ほどの森林環境教育も含めて財源に活用させていただきたいと思います。また、今まで化石燃料を使っていた燃料コストより、バイオマスの燃料の方が半額くらいになります。公共施設全体で年間3千万円程度のコスト削減につながっていますので、その財源を一部基金化して、将来のバイオマスのボイラーの更新費用に充てるための積み立てと、残りの半分を新たな子育て支援の財源に活用しています。例えば学校給食費や保育料の助成、中学生までの医療費無償化など、バイオマスの取り組みで生まれた財源を子育て世代の町民の皆さまに還元する仕組みも行っています。

交流会の様子
未来への投資にも視野を広げていらっしゃるのですね。

移住相談では家・仕事・子育支援情報などワンストップでの相談窓口を設置しており、子育て世代の方から多くご相談を頂いております。直近5年で120人ほどの移住実績があります。去年でもコロナ禍ですべてオンライン対応でしたが、それでも32人移住されました。

また、自然に近いところで、何か自分でチャレンジしてみたいといった目的を持って来られる若い方も最近多いですよ。そういった起業家を目指す方々も起業型の地域おこし協力隊として伴走支援をしています。今はまだ多くはありませんが、起業家の方のビジネスに広がりが出てくれば、また新たなビジネスモデルも展開できるのではと思います。

まとめ

日本が抱える大きな課題の一つである林業の収益化。下川町では森林を中心に、カーボンクレジットやバイオマスエネルギーなどの取り組みにより、多くの外部の人を巻き込みながら社会関係資本を築いています。

どんな事業においてもどうしても出てしまうCO2を、地域や森林とつながるコミュニケーションツールにし、このネットワークは今後さまざまな場面でさらに広がりを見せそうです。

IDEAS FOR GOOD Business Design Labを運営するハーチ株式会社は、北海道下川町からカーボンクレジットを購入し、出張旅費や調達した備品によるCO2排出量をオフセットしました。今回の取材を端緒に、今後の下川町との関わりにもご注目ください。

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