大企業の新規事業担当者は知っておきたい、事業成功の鍵となる「Sense Out Marketing」とは?

大企業の新規事業担当者は知っておきたい、事業成功の鍵となる「Sense Out Marketing」とは?

SDGsやESG投資など、企業に社会課題解決主体としての役割が求められる昨今では、新たな事業を開発する際にもサステナビリティやCSV(共有価値創造)など、その事業を通じて収益だけではなくどのように社会的なインパクトをもたらすのかという点がかつてないほどに求められるようになってきています。しかし、大企業で事業開発担当をしている方の中には、下記のような悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか。

  • 事業開発にあたって何から手をつければよいか分からない。
  • 社会的視点をどのように身につければよいか分からない。
  • 環境問題をジブンゴト化できず、情熱を維持できない。
  • コロナをどのように機会として捉えればよいか分からない。

常に収益性を求められる大企業の事業開発の現場で、大きな目標を掲げながらサステナビリティや社会課題の解決につながる事業を作り出すことは決して簡単なことではありません。

今回は、これまで多くの新規事業創出に携わってこられた合同会社O (O ltd.) 代表、そして早稲田大学MBAソーシャルイノベーションの講師でもある大畑慎治さんに、大企業の新規事業担当者は知っておきたい新規事業の失敗パターンと、事業のあるべき姿が見えるアイデアの生み出し方「Sense Out Marketing(センスアウトマーケティング)」について伺いました。

目次

1.潰すべき懸念点はスピード・ノウハウ・リスク

企業の進むべき大きな目標を見据えて進む新規事業開発。一方で、大企業の新規事業開発においては、「スピード」「ノウハウ」「リスク」の3点がボトルネックになっていくことが多いといいます。この3点によって引き起こされる失敗パターンについて紹介します。

1-1.スピード

事業開発においては、意思疎通やPDCAのスピードが大切です。特に、業界を横断していたり、経営層の判断が必要だったりする場合は、PDCAや意思決定のスピードが出せない状況になっているケースがありますが、それは事業開発においては致命的です。なぜなら、事業開発ではアイデアや構想が一発必中で上手く進むことはないので、常に高速にPDCAを回しながら、一歩一歩進んでいくことが重要になってくるからです。

また、社長の任期や担当者の人事異動に応じて、新規事業に挑戦する環境がなくなったり、新規事業へのモチベーションが保たれなくなって、フェードアウトをしてしまうこともあります。

迅速に意思決定をしながら、高速にPDCAを回すことができるプロジェクト体制をいかにつくるのか、そして、連携したい社外の担当者や経営層といかに最短距離でコネクションを作って、検討から実行に移していけるかが重要となります。

1-2.ノウハウ

また、ノウハウの欠如も大きな問題です。一般的に、企業は既存事業のプロとして事業を営んでおり、新規事業の経験は豊富ではないので、事業の立ち上げ経験や事業開発の判断軸もない状況で、担当者が試行錯誤をしている場合が多く見られます。また、業界を隔てて新規事業を検討する場合には、他の業界についての情報を知ることだけではなく、実際に事業開発の検討を進められる異業界の経営層や部署とのネットワークも必要になってきます。

身の回りの経験やリソースだけで準備しようとせずに、事業開発の経験が豊かな人から事業開発の進め方を学ぶことや、それぞれの業界で事業開発をしている人たちが集まる場所に積極的に足を運んで情報交換や意見交換を迅速に行うこと、ネットワークを築くことが大切です。

1-3.リスク

最後に、大企業の場合には、企業ブランドを毀損するリスクが大きくて、失敗できる土壌がないという課題もあります。大企業が新規事業を作る場合、新しいサービスの発表はニュースにもなってしまいますし、PDCAを回すといっても、失敗や撤退になった場合には株主への説明もできないという恐れが出てきます。

例えば企業の名前を伏せて小さく事業を始めるなど、ブランドが毀損するリスクを回避しながら、「失敗できるPDCA」を回せるような環境を整える必要があります。

 

2.新規事業成功の鍵を握る「Sense Out Marketing(センスアウトマーケティング)」とは?

大企業 ビジネスアイデア
では、これらの懸念点を払拭した事業開発を実現するには、何から始めればいいのでしょうか。大畑さんは、「新規事業に正解のプロセスはない」と強調します。既存事業の仕事の場合には、社内に経験や実績もあり、社内での業務プロセスも確立されていますが、新規事業の場合には、経験も、実績も、確立された業務プロセスもなく、不確定要素が多いからです。

そこで今回は、新規事業の始め方の一つである「Sense Out Marketing」をご紹介します。Sense Outとは、プロダクト起点の「Product Out」や消費者起点の「Market In」とは違なり、自己の「おもしろそう」「やってみたい」という熱い想いを起点にした事業開発のアプローチです。ここでは、Sense Outで作り出す事業において頭に入れておくべき要素をあげていきます。

2-1.熱い想いを語れるか

新規事業では、自身の想いからスタートすることが重要となります。自身の想いからスタートをするためのリサーチであれば意味はありますが、例えば、マクロなマーケティングリサーチや市場分析などからスタートをしても、誰がやっても同じ結論しか出こないので意味がありませんし、ましてや、自分は興味がないけど調査結果的には儲かる市場だという理由でスタートをしても、一朝一夕にはいかない新規事業開発をやり切ることはできませんし、調査結果的に意味があると言った時点で、他責になってしまっています。なので、まずは担当者のわくわくするような興味を起点に一歩を踏み出すことが大切なのです。

また、新規事業においては、人との出会いの「偶然」が事業開発や事業展開の成功の引き金になることがあります。そして、この偶然を必然的に生み出すために重要になってくるのが「担当者がいかに自分の言葉で、個人的な想いも含めて語れるか」です。Sense Outによって他責にせずに、自分の言葉で思いや意思を伝えることで、他業種・他部署の人々を惹きつけ、巻き込むことができます。

終身雇用の時代が終わり、多様な働き方・生き方が認められてきている現代において、「なんのために働くのか」「社会的意義とは何か」を重視する若者を中心とした層が広がってきています。「誰かのために社会課題を解決したい」という欲求のほかに「社会課題に関わることで自分の存在意義を感じられる」という想いがモチベーションの原点になることもあります。自分の内面と向き合うことで、Sense Outなアイデアを生み出すとっかかりが見えてきそうです。

2-2.ユニークなラベリング

リサーチをする際には、仮説がなければ意味がありません。仮説もなくむやみにリサーチをしても予想される結果しか出てこないからです。また、「20代男性は仕事をがんばる」「30代女性は子育て世代」というように、世代や性別によって経験してきたことがほとんど同じであった戦後の時代はペルソナの意味もありましたが、世代や性別が同じであっても多様な経験や趣味、生き方背景にある現代においては、統計的な視点のペルソナ設定は意味を持ちません。

例えば、「30代豊洲在住キャリア女性」のような、既存の統計的データをベースとしたペルソナ設定ではなく、「ちょい悪おやじ」のようにこれから自分自身が社会に生み出していきたいユニークなラベリングをつけることが、クリエイティブな仮説作りに役立ち、新たなマーケット自体を生み出していくことになるのです。

事業主体としてリーダーシップを取って「この層(ラベリング)に刺さる事業を展開したい」と旗を振ることは、否定されたり失敗するリスクも高かったりすることから、勇気がいることです。しかし、そのラベリングに賛同する企業が集まれば、新たなマーケットの大きな渦となることから、価値があることだと言えます。

2-3.経営視点に視座を高める

「収益のために新規事業を作る」というのは分かりやすい目標にはなりますが、必ずしも目先の収益のためだけに新規事業が作られるわけではありません。コロナ禍でも明らかになりましたが、大企業であれば多少収益が減ってもすぐに倒産になるわけではないのです。そういった意味では、大企業にこそ新規事業に挑戦できる体力があると言えます。目先の収益を増やすためという目的以外で、新規事業にどういう意義があるのかを考えてみましょう。

事業は、今の収益のベースを固める既存事業と次の収益の柱を立てる新規事業のバランスで成り立っています。新規事業は短期的には投資対効果は悪いですが、既存事業がいつか縮小してしまって企業が立ち行かなる前の、長期視点の大切な投資の役割を担っています。新規事業自体は儲からなくても、既存事業との相乗効果があって既存事業の収益に貢献するケースや、既存事業ではつくれない新たな情報源やネットワークの構築、チャレンジングな企業文化の醸成の他、経営全体をゼロから考えなければいけない新規事業の立ち上げ経験を積むこと自体が未来の経営層の人材育成に貢献したり、新規事業に挑戦し続ける企業姿勢自体が企業としてのコーポレートブランディングの役割を担い、社員のエンゲージや人材採用に貢献したりする部分もあります。

経営視点に視座を高めて、何のために事業を始めるのか、その事業がどうあるべきなのかを考える必要があります。

2-4.会社の「異端児」を取り込む

どんな大企業にも存在する、フットワークが軽く、柔軟な考え方を持つ「会社の異端児」。社内会議で稟議を取ってから他社に話をもっていってという正当法では時間がかかりすぎてうまく行かないことでも、社外にコネクションを多く持っていたり、自らどこにでもコネクションを切り開いていくことができる彼らの存在を活用することで、短い時間で事業開発を進められるケースもあります。

自社・他社関係なく、外の力をうまく使うことが大切です。関連して、「リサーチや分析」にコミットしているコンサルファームではなく、新規事業の「実行」にコミットしているコンサルファームを使うのも一つの手です。自社以外とサポートしあう体制を構築することが大切です。

2-5.短期間で成果を出そうとしない

既存事業の部隊から見て新規事業の部隊は「お金かけて楽しそうにしている」と内部コンフリクトが置きてしまうことも。そうすると、社内のプレッシャーに耐え切れず新規事業担当者は本質的なアプローチから外れて、目先の成果を出すことを急いでしまうこともあります。しかし、数か月で成果が出せる内容であれば、他社も簡単に追随できてしまうということを念頭に置きましょう。

事業の内容によっては、できるだけ早くリリースして市場の中でPDCAを回す形がいいケースもあれば、数年単位でマイルストーンを置き、他社の追随を許さないくらい状態まで準備をしてからリリースをした方が良いケースもあります。どう進めるのかは、事業特性に合わせて冷静に判断をすると良いと思います。

3.DoではなくBeで考える

「今後の新規事業においては、より一層『DoではなくBe』が大事になっていく」と大畑さんは話します。何をするのかではなく、「企業がどうあるべきか」という態勢を示すことがユーザーにとっても納得感のある選択・購買につなげることができるのです。先が不透明なコロナ禍においても、「企業のあるべき姿」を共有しておくことは企業・消費者・社員を助ける大事な指針になっていくはずです。

4.アイデア出しに行き詰まったら

いかがでしたでしょうか。大企業の中で新しいアイデアを考える際に他業種とのネットワークや長期的なトレンドを踏まえた視座が必要です。そこで行き詰まったら、IDEAS FOR GOOD Business Design Labでアイデア出しや他業種との関係性作りのお手伝いをすることができます。

実際に様々な事例に関わった経験のあるスタッフが、御社のご要望に合わせたワークショップをアレンジします。ワークショップでは、一例として、様々な事例をご紹介・IDEAS FOR GOOD Business Design Labが考える寄付を募る施策のポイントをお話しした上で、社員さんを巻き込んだブレインストーミング、アイデアソンなどを実施します。また、各アイデアに対するレビューを行い、実際にそれらのアイデアをアクションに落とすところまでサポートいたします。必要に応じて、Business Design Labのパートナー企業のご紹介も可能です。

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【参照サイト】O ltd.

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