「肉なしじゃ物足りない」を覆す。レストラン商品開発の裏側【Pizza 4P’s「Peace for Earth」#08】
ベトナムの大人気ピザ屋「Pizza 4P’s」のSustainability Managerである永田悠馬氏による、レストランのサステナブルなプロジェクトに焦点をあて、Pizza 4P’sがさらにサステナビリティを突き詰めていく「過程」を追っていくオリジナル記事シリーズ「Peace for Earth」。
前回は「幸福度」をテーマに、Pizza 4P’sで働く従業員の現在の幸福度や、それを定期的に計測する調査方法、従業員の幸福度を上げる施策や今後の課題など、サステナブルアクションに取り組む企業のリアルな現場をシェアしてきた。
▶ 最優先事項は「従業員の幸せ」。どのようにして、幸福度を計測するか?【Pizza 4P’s「Peace for Earth」#07】
第八回目である今回の「Peace for Earth」では、Pizza 4P’sがローンチした新しい「ヴィーガンメニュー」に焦点を当てる。気候変動や動物愛護の観点から世界中で急速に広まるヴィーガニズム。近年はあまりにも工業的になりすぎた食肉産業と、食肉自体が気候変動へ与える影響の大きさが認知され、ヴィーガニズムへの注目がますます高まっている。5月3日には、NYにある有名レストラン「Eleven Madison Park」がミートレスになることを発表したのも話題となった。
ベトナム国内でもヴィーガンが注目され始め、Pizza 4P’sでもヴィーガンメニューを提供することになった。今回の記事では、「商品開発の裏側」や「ベトナム人の反応」など、ベトナム国内でサステナブルアクションに取り組む企業のリアルな現場をシェアする。
Pizza 4P’sで「限定ヴィーガンメニュー」を開発
Pizza 4P’sではグランドメニューとは別に、季節ごとの期間限定メニューも提供している。2021年3月、ホーチミン市内にあるXuan Thuy店では、店舗限定のシーズナルメニューとして、ヴィーガン料理を提供することにした。
このXuan Thuy店が位置するタオディエン地区は、欧米人が多く住むエリアだ。今回のヴィーガンメニューは、ヴィーガンの欧米人のお客様、ヴィーガンではないが食に対する感度が高いお客様、また20代後半の女性をイメージしてメニューを開発した。
欧米諸国と比べるとベトナム人のヴィーガン比率はまだそれほど多くはない。しかし、ベトナム人には仏教徒が多いため、宗教的な理由で菜食である方々も一定数いる。また、元々ベトナムの食事が米粉やハーブなど植物性の食材が中心であることもあり、ヴィーガンの考え方はベトナムでは親和性が高いように感じる。実際に、近年は若者を中心にヴィ―ガンの考え方が徐々に広まりつつある。
Pizza 4P’sでは色々な食事シーンに合わせて提供できるよう、一皿でも完結できるような構成にした。今回開発した、サラダ、スープ、カレー、バーガーの4品をご紹介する。
カシューナッツが決め手。ヴィーガンでありつつコクがあるサラダ
シーズナルメニューのサラダには、栄養価の高い瑞々しい野菜をチョイス。ロメインレタスの食感で食べ応えある一品に仕上げた。一番のポイントは、自家製「グリーンゴッデス」ドレッシングだ。カシューナッツをペーストにして、ヴィーガンでありつつも十分なコクを出すことができた。数種類のハーブをたっぷり使っているので香り高く、ヴィーガンの方でも食べれるシーザーサラダのような位置付けだ。
マッシュルームの出汁がホッとするお味。動物性の肉を使用しないダンプリングスープ
よくダンプリングの中身やお出汁に使われる動物性の肉は一切使用せず、ヴィーガンの方でも美味しく召し上がれるダンプリングを開発。スープには低温で抽出したマッシュルームのお出汁を使用。中身にはスパイスや香草、豆類、蓮根のピューレを使用し、複合的な味になるようなダンプリングに仕上げた。Pizza 4P’sのヘッドシェフは、このメニューについてこう語る。
「こうした、美味しいヴィーガンメニューがベトナムで理解されるようになったら嬉しいと思って作りました。お客様はもちろんですが、Xuan Thuy店で働くPizza 4P’sの従業員や、ベトナム国内の他のレストランの方、食に関わっている方が『Pizza 4P’sがなんだか今までと違ったアプローチを始めた』と、まずはヴィーガンに興味を持って欲しい。そして、実際に食べたときに『美味しい』と思ってもらえたら嬉しいですね。」
肉なしでも満足感たっぷり。お野菜とハーブがいっぱいのヴィーガングリーンカレー
ヴィーガン料理というと「物足りない」や「コクがない」と思われてしまいがちだ。このグリーンカレーは、動物性食品によるコクや旨味を、植物だけでどのようにして補い、満足度を感じられるようなテイストにできるかを大切にして作りあげた一品である。作り方はいたってシンプルだが、色鮮やかな「グリーン」を表現するために、ズッキーニ、オクラ、コールラビのピクルスといった様々な野菜とハーブを合わせることでクリアな味にした。コクを補うため隠し味に味噌を加えているのもポイントだ。
未来の昆虫食!?ガッツリ食べられるコオロギバーガー
このバーガーはPizza 4P’s初となる昆虫食メニュー。シェフ曰く、当初は「豆腐」と「数種類の豆」でパテを作っていたが、やはり食感が物足りず悩んでいたという。そこに、ベトナム産のコオロギを使用した代替肉生産者との出会いがあり、実際にテストしてみたところ、ヴィーガンの方でも満足いくボリュームとテイストに仕上げることができた。スパイスを多用することで、パテに複雑味を作り出しているため、お客様が「何が入っているのかな?」とワクワク考えながら食べることができる一品だ。
今回のパテには、2017年に創業したクリケットワン社の食用コオロギパウダーを採用した。同社はベトナム南部のビンフォック省を拠点に、食用コオロギの生産から加工まで手がけるコオロギ養殖スタートアップである。コオロギを加工した各種パウダーやオイルといった原料を販売し、すでに日本や欧米を含む15ヶ国への輸出実績を持つ。
コオロギはタンパク質が豊富であり、家畜生産と比較すると圧倒的に環境負荷が低いエコなタンパク源だ。牛肉と比較すると、餌は約15分の1、水は約8,000分の1、生育期間も約35日間と短い。同社は自社養殖だけでなく、地域の小規模農家にもコオロギ養殖をトレーニングを行っている。委託生産したコオロギを買い取ることで、農家の所得向上も目指しているのだ。
ヴィーガンメニューの気になる売れ行きとお客様の反応は?
2021年3月から販売をスタートした、今回のXuan Thuy店限定のヴィーガンメニュー。本記事執筆時点(2021年5月)で、それぞれのメニューの1ヶ月あたりの注文数は、およそ100オーダー前後となっている。ちなみに、ヴィーガンサラダだけは全店舗で提供しているが、Xuan Thuy店はこのサラダの注文数が他店舗と比べると2〜3倍にもなり、欧米人の方々のヴィーガンに対する関心の高さが感じられた。
ヴィーガンメニューというと、どうしても「薄味」になりがちだが、今回開発した4品はどれも「ヴィ―ガン食は物足りない」というイメージを覆すような、ガッツリ食べられてお腹がいっぱいになるメニューを目指した。結果、ヴィーガンの方だけでなく、ヴィーガン以外のお客様からも「満足感はあるのにヘルシーで、胃がもたれることもなくて良い」といった嬉しいコメントをもらっている。
コオロギバーガーはPizza 4P’s初となる昆虫食メニューということでどんな反応になるかとドキドキしたが、概ね好評だ。「やはりお肉とは少し違うけれども、味はとても美味しい」というコメントもあった。挑戦した甲斐があったと思う。
今回のヴィーガンメニューは、もともと3ヶ月の期間限定で販売を予定していた。しかし、予想以上に多くのポジティブな反響を受けたことから、販売期間を延長することが決まった。今後、継続的にいいフィードバックを受けることができれば、他の店舗やグランドメニュー入りする可能性もある。Pizza 4P’sは、今後も地産の良い食材を見つけながら、「ヴィーガン食は物足りない」を覆すような、美味しいヴィーガンメニューを作っていきたい。
筆者プロフィール:Pizza 4P’s Sustainability Manager 永田悠馬(ながた ゆうま)
1991年、神奈川生まれ。東京農業大学を卒業した後、カンボジアに渡航。2014年からカンボジアの有機農業や再エネ関連の仕事に携わったのち、2018年にベトナムへ移住。ケンブリッジ大学ビジネスサステナビリティ・マネジメントコース修了。現在はPizza 4P’sのサステナビリティ担当。著書に『カンボジア観光ガイドブック 知られざる魅力』。
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【参照サイト】 Pizza 4P’s
Edited by Erika Tomiyama
本記事は、ハーチ株式会社が運営するIDEAS FOR GOODからの転載記事です。
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