環境破壊が犯罪に。ジェノサイドならぬ「エコサイド」の意味と世界の動きを解説
今、ヨーロッパを中心に、過度な環境破壊「エコサイド」を国際犯罪として法的に位置づけようとする動きが活発化しています。「エコサイド」とは、深刻で広範囲な、または長期間の環境被害がかなりの可能性で発生すると知っていながら行われた違法または不法行為を意味します。
具体的にどのような行為がエコサイドに該当するのか、また、国内的にも国際的にもさまざまな環境規制がある中で、なぜあらためて「エコサイド」を法制化する動きが活発化しているのかについて紹介します。
目次
1. エコサイドとは
実は「エコサイド」の歴史は古く、1970年に米国の生物学者、アーサー・ガルストン氏がつくりだした概念とされています。その後、数十年にわたる議論の末、2010年に、環境権保護活動家であり弁護士であるポリー・ヒギンズ氏が、国連が定める「平和に対する罪」、つまりジェノサイド(集団殺害犯罪)、戦争犯罪、侵略犯罪、そして人道に対する犯罪に加え、エコサイドを第5の犯罪として認定することを提案しました。すでにロシアやカザフスタン、ベラルーシやウクライナなど国レベルでは大規模環境破壊を犯罪として位置付けているところもありますが、国際的な位置づけは現段階でありません。
2. エコサイドの具体例
では具体的にどんな行為がエコサイドに該当するのでしょうか。「エコサイド」の国際犯罪認定をめざすNGO、ストップ・エコサイドでは例として、以下のようなものを挙げています。
- オイルの流出やプラスチックによる海洋汚染
- 底引き網や乱獲による海洋資源の枯渇
- 牛の放牧、鉱物資源の採掘、パームヤシプランテーションによる森林破壊
- 鉱物資源の採掘や繊維産業から排出される化学物質などによる土地と水の汚染
- 核実験や原子力発電所の事故による放射能汚染
- 工場から排出される汚染物質による大気汚染
この他にも、気候、そして生物多様性の危機も、長年にわたる有害な産業活動の結果と位置付けており、その責任は、意思決定権を持つ、企業、金融、そして政府のトップにある、としています。
これらはあくまでNGO、ストップ・エコサイドの考えであり、国際的に公認されたものではありませんが、法制化された際にどのような行為が対象になるのか、また誰の責任が問われるのかを考えていく上で参考になる情報です。
3. エコサイドの法制化に向けた世界の動き
冒頭でもお伝えしたように、近年、エコサイドを国際犯罪として法制化する動きが活発化しています。法制化とは具体的には、国際刑事裁判所(ICC)を規定するローマ規定に修正を加える形で、エコサイドを国際的な犯罪として位置づけることを意味します。締約国121か国のうち80か国がエコサイドを追加することを提案するローマ規定の修正案に署名すれば成立となります。
2021年4月には仏下院で、国内における重大環境破壊をエコサイドと位置づけ、罰則をもうけた法案が可決しました。また英国でも、2021年6月に元・緑の党首のバロレス・ベネット議員が環境法案にエコサイドを追加する修正案を提出。法案の内容は、政府が国際刑事裁判所におけるエコサイドの議論を支持すること、可決された場合、大臣は1年以内に国際刑事裁判所にエコサイドを追加する修正案を出すこと、という内容になっています。また同年月EUでも、加盟国が国際刑事裁判所のローマ規定のもとでエコサイドを国際的な犯罪として認識することを促進するよう求める決定がなされました。さらには、NGO、ストップ・エコサイドが国際法学者などから構成される独立専門起草委員会を設置し、エコサイドの定義を発表するなど議論が活発化しています。
2022年には、EUの議長国となるフランスの大統領、マクロン氏がエコサイドの国際的な法制化にも意欲的であると報道されているほか、先立って2021年12月に行われる国際刑事裁判所の総会で、いずれかの国がエコサイドの法制化を提案する可能性もあるという予測もあります。
4. エコサイド法制化が意味すること
エコサイドを国際的に法制化しようという議論が急速に高まっていることの背景には、環境破壊の深刻化があります。
今や常に世界のどこかで洪水や干ばつ、大雪などの異常気象が多発。プラスチックスープと呼ばれるほどプラスチックだらけになった海、見渡すかぎり広がるパームオイルのプランテーション、鉱山開発による自然破壊。一年に4万種もの生き物が絶滅する大絶滅時代でもあります。これらは、なんらかの環境破壊行為に起因しており、まさに、多くの人や生き物が命を奪う、エコサイドと捉えることもできます。
しかし、こうした深刻な環境問題が起きているにもかかわらず、環境破壊につながるような行為が十分に防止できているとは言えません。もはや環境問題を引き起こしている行動を「犯罪」として位置付けなければ、人類、地球上に生きる生命を守ることができないところまできた、というのがエコサイド法制化の背景にあります。
NGO、ストップ・エコサイドの共同創設者、ジョジョ・メーサさんはBBCの取材に対し、「現在は、掘ったり、ドリルで穴をあけたりして石油をとる許可を政府から取ることができます。でも、人を殺す許可はとれません、なぜなら犯罪だからです」と語っています。多くの人が気候変動による異常気象で命を落とす昨今の状況を踏まえれば、化石燃料の使用はもはや許されない行為=犯罪として位置づけ、石油の採掘を禁止していかなければ、将来世代も含め多くの人の命は守れない、という理解です。
ただ、エコサイドの定義は広いため、具体的にどんな行為、不作為が法律に触れるようになるのかはいまだ議論の余地があります。しかし、エコサイドが国際犯罪として位置づけられれば、多くの政策決定者は、何が該当するのかを想定しはじめ、環境破壊につながるような行為を抑制するようになるでしょう。つまり、一定の抑止力になる可能性も秘めているのです。そして政策決定者に対して、通常の環境規制よりも高い緊張感を生み出し、より積極的な行動が期待できます。
エコサイドの議論はヨーロッパを中心に今後さらに活発化することが予測されます。企業や組織としては、単に処罰のリスクを回避するという受け身の姿勢ではなく、エコサイドとは何かという議論を深め、各組織の環境政策を根本から見直す好機として活用していきたいものです。
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