4,000以上のファッションブランド分析から見えた CO2削減の現在地

4,000以上のファッションブランド分析から見えた CO2削減の現在地

「世界で第二位の汚染業界」と評されて久しいファッション業界(※1)。実態はどうなっているのだろうか。2022年11月、ファッションブランドのエシカル度をレーティングし、アプリとして情報提供しているGood On Youが、約4,180のブランドの分析結果を発表した。その結果をみると、ファッション業界の現在地が浮かび上がる。

※1 国連広報センター「国連、ファッションの流行を追うことの環境コストを『見える化』する活動を開始」より

世界的なエシカルファッションベンチマークGood On You

Good On Youはオーストラリア発の取り組みで、約5割の消費者がサステナビリティに配慮した買い物をしたいと思っているにもかかわらず、その要望を満たす情報公開がなされていないことに着目し、2015年に開発、公開された。ファッションブランドを「環境」、「人権」、「動物の福祉」、この三つの側面について、800項目以上のデータ分析を行い、格付けしている。アメリカ、カナダ、そしてヨーロッパ各国などにも進出し、今では毎月20万人以上もの人が使用している(※2)。女優エマ・ワトソンが自身のファッション選びのベンチマークとして活用していることでも知られる。

※2 日本でも使用できるが、英語のみ。また日本のブランドは海外でもメジャーなブランドのみがカバーされている。

環境全般の取り組み状況

Good On Youが今回行った調査によると、まず、環境全般の取り組みの結果は以下の通りとなった。

  • Good On Youに掲載されている、売上高上位40ブランドのうち、環境面で「すばらしい(Great/5段階中、最上位)」という評価を得ているブランドはゼロ。
  • Good On You全体で「すばらしい(Great/5段階中、最上位)」を得ているのはわずか8%。
  • 最も売上をあげているブランドのうち上位70%は環境面で低位の評価「不十分(Not Good Enough)」「避けよう(We Avoid)」いずれかの評価を受けている。

結果をみると残念ながら主要ブランドが環境面での責任を果たしているとは言い難い状況だ。ファッション業界は、廃棄物、化学物質、水資源、森林破壊とさまざまな環境問題を引き起こす要因となっている。「世界第二位の汚染業界」の汚名を返上するにはほど遠い現状にあると言わざるを得ない結果となった。

気候変動の取り組み状況は

発表がCOP27の開催前だったこともあり、特に気候変動に関する分析結果も公表されている。それによると、「大手ブランドのうち、45%が少なくとも直接の運営先、もしくは取引先を含め、温室効果ガスの削減目標を設定している」ものの、半分にも満たず、さらに「51%のブランドは目標達成に向けて順調に進んでいるかどうかを公表しておらず」その進捗は不透明であることがわかった。さらに、「大手ブランドのうち、科学に基づいた温室効果ガス排出削減を行っている割合は21%」に留まっていることがわかった。

ネットゼロの達成は世界共通の課題であることを踏まえると、ほぼ全てのブランドが削減目標を設定している状況にあるべきだが、現状は半分以下。さらに、進捗がわからなければ達成度合いさえわからない。非常に厳しい結果となっている。

行動よりもPRが先行?

今や、エシカルやサステナビリティをうたうブランドは多い。しかし、この調査から浮かび上がってくるのは、消費者に向けてPRしているものの、実態は不透明で、グリーンウォッシュ(あたかも環境に配慮しているかのようにみせかける表示)になっている可能性が高い、ということだ。

実際、2050年までにネット・ゼロを達成することを約束する国連の「ファッション業界気候行動憲章」​​には100以上のブランドが署名している(※3)。多くのブランドが
未だ行動をしていない中で署名をしているだけでも評価すべきところだが、北米のNGO、STAND.earthが署名をした上位10の大手ブランドを調査したところ、2030年までに2018年比で55%減、つまり1.5度未満に抑えるために必要な削減を達成するのはリーバイスのみであることが判明している(※4)。その他、ナイキやH&M、ZARAといったブランドは軒並み排出量が増加しており、パリ協定の目標を達成するどころか遠のいていっているのが現状だ。

ではどうすればよいのだろうか。

※3 「Participants in the Fashion Industry Charter for Climate Action」に掲載されているsignatoriesのみをカウント。2022年12月現在で109。

※4 「Fashion brand emissions are rising. Again.」より

気候変動分野でグリーンウォッシュを防止するには

気候変動に限っていえば、まず、2050年までにネットゼロ達成の方針を打ち出すことはもちろんだが、スコープ1(自社排出)、スコープ2(間接排出)、スコープ3(取引先などからの排出)を含め、削減に向けた中間目標を定め、毎年結果を公表していくことが必要だ。その際には、科学的な根拠に基づいていることを証明する、SBT認定を受けるとなおよいだろう。

Good On Youの調査によると、目標達成に向けて進捗を公表していたのは約半数。残りは情報を公開していないため、評価すらできない。透明性の向上はグリーンウォッシュを防止する上で必要不可欠だ。目標を定め、公開し、毎年、現在地も公表する。こうした基本的なプロセスを欠如させたまま、「気候変動に貢献しています」などと訴求を行えば、消費者を誤解に陥れてしまい、意図せずともグリーンウォッシュになってしまう。

Good On Youの格付け担当部長のクリスチャン・ハーディマンさんは「気候変動はブランドが最もグリーンウォッシュを起こす、もしくは消費者をだましやすい分野だろう」と語っている。全世界共通の課題であり、多くの消費者が関心を持っているだけに、必要な手順をとった上で、表示を行う際にはより一層の注意が求められる。

宣伝、広告、マーケティング担当の理解度向上も重要

環境の取り組みを消費者にどう訴求するかについては、宣伝や広告、マーケティング部署などが果たす役割も大きい。Good On Youのレポートは、こうした「コミュニケーション」にかかわる人たちの問題への理解の重要性も指摘している。現状を踏まえて、どこまでどう表現できそうか、キャッチコピーといった言葉だけではなく、グラフィックも含めて的確かどうかを判断していくとなると、こうした表現にかかわる人たちのサステナビリティへの理解も必要不可欠といえるだろう。

IPCCの第六次評価報告書によると、「最終的には消費者側で温室効果ガス排出量の40〜70%削減が可能」とされている。ブランドが消費者の誤解を生じるような表示をすれば、消費者の選択も間違ったものになり、温室効果ガスの削減も危うくなってしまう。グリーンウォッシュは単なる表示の問題ではなく、地球の未来に関わる問題であるという認識が必要だ。

今回調査対象となったブランドはマイナーなブランドではなく、いずれも、街中やオンラインショッピングで私たちがよく目にするようなメジャーなブランドばかりだ。それだけに残念な結果ではあるが、環境や社会に配慮した商品を求める消費者は世界的に増えつつあり、サステナビリティに関する目標と現在地を伝えることはブランディング戦略上も重要だ。今後、多くのブランドが世界基準に基づき、目標を定め、現在地を正直に公表していくことを期待したい。

【参照サイト】Is Fashion Making Progress on Climate Change? We Rated 4,000 Brands to Find Out

IDEAS FOR GOOD Business Design Labとは?

本サイトを運営するIDEAS FOR GOOD Business Design Labでは、「Make Sustainability Desirable.(サステナビリティに、ワクワクを。)」をコンセプトに、会員の方向けに(登録無料)SDGs・サステナビリティ・CSV・サーキュラーエコノミー関連プロジェクトの企画立案・立上・運営までをサポートしております。IDEAS FOR GOODならではの豊富な国内外の事例を活用し、御社の強みを生かした事業づくりについて考えてみませんか?IDEAS FOR GOODチームとの共創プロジェクトも可能ですので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

先進事例を活用したサービスとは?
BDLのサービス一覧を見る
自社に合った先進事例活用法とは?
事例活用について相談する
Leave your comment
Comment
Name
Email

CAPTCHA