「ラグジュアリーとサステナビリティは同一である。」展覧会から見る、ケリングが捉える生物多様性とは
ラグジュアリーとサステナビリティ、一見相反するもののように感じられる二つの言葉。しかし、世界的なラグジュアリー・グループであるケリング・グループ(以下ケリング)は「ラグジュアリーとサステナビリティは同一である。」を掲げ、独自の生物多様性戦略を通じてこの言葉を体現しようと取り組んでいます。
ケリング・ジャパンは2021年11月26日(金)から28日(日)まで、東京・表参道ケリングビルにて、ファッションと生物多様性の関係を紹介する展覧会「Fashion & Biodiversity:ケリングと共に考えるファッションと生物多様性」展を開催しました。今回はその模様をお伝えし、グッチやバレンシアガといった高級ブランドを展開するケリングが生物多様性をどのように捉え、ファッションに関わるユーザーをはじめとしたすべてのステークホルダーに対してどのようにメッセージを伝えているのかを紐解いていきます。
1枚のセーターをめぐる旅
樹の枝をモチーフに描かれた誘導ライン上に置かれた展示板は、まるで風にそよぐ葉のよう。生物多様性戦略の展覧会と聞くと文字とグラフがぎっしりつまったパネルが並んでいるーーそんな予想をしていたのですが、会場に入った瞬間、やわらかな雰囲気に包み込まれました。
最初に出会う、ウェルカムメッセージがこちら。冒頭にご紹介した、「ラグジュアリーとサステナビリティは同一である。」というケリングの信念と共に、ケリングの製品は「農場や草原、森林、その他世界中の生態系からスタートしています」と書かれています。
「農場はともかく、草原や森から服が生まれている?」と疑問に思われるかもしれませんが、この後に続く展示がその疑問を丁寧に紐解いてくれました。
展示は以下、6つのセクションで構成され、1枚のカシミヤセーターをもとに、素材を生産・採取する工程からセーターが誕生するまで、さらには生物多様性に関するケリングの取り組みも紹介しています。
Sec.2 私たちが直面している危機
Sec.3 EP&L:自然への影響をみえるようにする
Sec.4 ケリングの生物多様性戦略
Sec.5 ブランドの取り組み
Sec.6 ケリングの約束
そして、カシミヤの歴史が古いことも。
「約5万年に、遊牧民の祖先が南ゴビ砂漠にやってきた(4)」。ゴビ砂漠は夏は40度、冬は逆にマイナス40度になることもあるほど過酷な地。カシミヤはそこで生きる遊牧民の知恵と歴史と共に生まれ育まれた素材であることに気付かされます。
さらに、さかのぼると……
ヤギも人も、すべての生き物ははるか40億年前にその原型が誕生(5)。
さらにさかのぼると、46億年前の地球の誕生に至ります。日頃ここまで考えることはなかなかありませんが、確かに言われてみればその通り。
「セーターは地球とつながっている」そんな壮大なフレーズが頭をよぎりました。
ウールは草原に生きる羊から、コットンは畑で育つ綿花から、そしてセルロース系の繊維は森林から生まれます。そう考えると、まさに展示の言葉通り、地球は「ファッションの故郷」と言えます。
しかし、その故郷は今、瀕死の状態です。
服をつくる工程は地球に大きな負担をかけていることは事実。たとえば、ケリングが考案した、企業活動の環境負荷を可視化する環境損益計算(EP&L)によると、原材料の調達段階で温室効果ガスの排出や土地の利用、水質汚染といった分野で多くの環境負荷がかかっていることがわかっています※1。
※1 「ENVIRONMENTAL PROFIT & LOSS (EP&L) 2020 Group Results」KERING,6p
ケリングの生物多様性戦略
ケリングは2025年までにグループ全体の環境への影響を40%削減するという目標を設定し、そのロードマップとして3本の柱「ケア(配慮)」「コラボレート(協業)」「クリエイト(創造)」を掲げ、責任あるラグジュアリーを追求していますが、ブランドによる生物多様性のための戦略として4つのステージを設定しました。
「回避する」
最初のステージである「回避する」では、生態学的に保護価値が高い地域から生物を採取・捕獲しないことを意味します。たとえばビスコースなど木材パルプを原料とする素材は、希少価値の高い古代林や危機的な状況にある森林からではなく、FSC認証を得たサプライチェーンから調達するといった取り組みを行っています。こうした取り組みを進めるためにも、2025年までに100%のトレーサビリティを実現することを目標としています。
「削減する」
次に「削減する」というステージでは、「回避」できずに生物多様性に悪影響をおよぼしてしまう場合、影響の出る期間の短縮や影響の緩和をはかることを意味しています。そのため、ケリングが主に使用する17の素材の調達・製造プロセスについてまとめた「ケリング・スタンダード」を策定し、各ブランドやサプライヤーに配布。基準の中にはオーガニックコットンの優先調達やリサイクル素材の使用の推進などが含まれています。2025年までにスタンダードの100%遵守を目指しており、2020年時点で達成率は74%となっています。
「修復・再生する」
三つ目のステージ、「修復・再生する」では、破壊や劣化といった悪影響を受けた環境を専門家と連携しながら再生する取り組みを行っています。たとえば、砂金の採取地である仏領ギアナ地域やアマゾンにある高山の森林再生などに取り組んでいます。また、2025年までに店舗や倉庫、事業所などを含めたケリングの直接的なフットプリントの合計3倍以上の面積を修復することを目標としています。
「転換する」
最後、四つ目のステージ「転換する」では、グループ内の取り組みに止まらず、ファッション・アパレル業界全体の変革へとつながるよう、業界全体への働きかけを行っています。たとえば、ケリングの会長兼CEOであるフランソワ=アンリ・ピノー氏は2019年、気候変動、生物多様性、海洋保護の3分野において、ファッション・テキスタイル企業が共通の目標を掲げて取り組む「ファッション協定」をリード。現在、業界シェアの約三分の一を占める70社もの企業が参加するグローバルイニシアチブとなっています。
また、温室効果ガスの排出量や水使用量、土地利用、廃棄物量など、バリューチェーン全体の環境負荷を可視化、貨幣価値に換算する環境損益計算(EP&L)など課題解決のために役立つツールを開発。オープンソースとして公開し、業界全体の転換を推進しています。
次のラグジュアリーをつくる
「ラグジュアリーの定義が変わり始めている」。そう実感させられる展示会でした。というのも、これまでにご紹介した内容はほんの一部。紹介し尽くせないほど多くの取り組みがケリングの公式サイトで紹介されています。
一昔前であれば、高級で上質な素材を使い、物質的に贅を尽くしたものが=ラグジュアリーと捉えられていたかもしれません。しかし、これからはそうはいかないことは明々白々です。
今後、環境や人権、アニマルウェルフェアなどサステナビリティと共にビジネスを進めていくブランドこそが、本来の豊かさであり、ラグジュアリーなのではないでしょうか。
「ラグジュアリーとサステナビリティは同一である。」
サステナビリティの奥深さ、複雑さを考えれば、この言葉を実現するのはそうたやすいことではありません。各ブランドやバリューチェーンと時には対立しながら、NGOや専門家と常に対話を続け、戦略を見直し、取り組みを進化させていく。そこには「必ず実現する」という強い決意を感じます。
壮大な挑戦ではありますが、ケリングのモットーである「イマジネーションをその先へ」そのもの、とも言えそうです。ケリングが今後、どうラグジュアリーの未来を切り開いていくのか。イマジネーションを超えた創造性豊かな取り組みとはどのようなものか、期待が高まります。
展覧会の最後のボードはこちら。ケリングの生物多様性戦略を実現するアクターには「私」も含まれていることが印象的でした。
【参照サイト】公式 ケリング・グループのサステナビリティ
著者プロフィール
Marico
小学生の頃に環境グループをつくって以来、環境活動がライフワーク。オーガニック食品会社や京都の環境NGOで広報・エシカル消費活動などを担当。「もっとサステナブルな世界。コミュニケーションで」をテーマにコミュニケーションデザインを行う。料理、温泉、新聞、日本酒好き。個人サイト:https://swave.fun/
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