企業への糾弾は問題解決になるか?厳格化するグリーンウォッシング規制と、その向き合い方

企業への糾弾は問題解決になるか?厳格化するグリーンウォッシング規制と、その向き合い方

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事です。

企業が偽りの環境目標を発表したり、環境意識の高い消費者に誤解を与える表現をマーケティングに用いたりすることを指す「グリーンウォッシング(ウォッシュ)」。このグリーンウォッシングへの規制や監視が、気候危機意識の高まりを受けて、年々厳しくなっている。

フランス、イタリアといった欧州各国やアメリカ、オーストラリアといった国々では、すでに企業のグリーンウォッシングに対し罰金を含めた厳しい法的措置が取られている(※1)。また、2023年1月には韓国が虚偽や誇張した環境配慮を掲げる企業に罰金を課す法案を立案するなど、こうした動きはアジアにも訪れている。

2024年2月には、欧州委員会が根拠のない曖昧な環境表現を禁止する新規制を正式に採択(※2)。EU圏では、正式な証明書を付けずに「環境に良い」といった宣伝をすることや、カーボンクレジットを購入することでCO2排出を相殺する、カーボンオフセットを行っていることを根拠に「カーボンニュートラル(気候中立)」と訴えることなどが2026年から禁止される。これは、実質的な排出量削減を行わずにカーボンオフセットを利用して環境への貢献を装うことへの対策だ。

2024年5月現在、日本には未だグリーンウォッシングに対して罰金を含めた厳しい措置を可能にする法は存在しない。しかし、2022年12月には消費者庁が、「環境に配慮した製品である」「堆肥化可能で生分解性である」などと根拠なく製品表示したとして、日本企業10社に対し措置命令を出した(※3)。グリーンウォッシングへの厳格化の流れは時間と共に着実に訪れるのではないだろうか。

本記事では、グリーンウォシングに対して厳格化する世界の動向を踏まえ、改めてグリーンウォッシングとは何か、健全にグリーンウォッシングを防いでいく社会の仕組みやマインドセットなどについて考えていきたい。

そもそも、グリーンウォッシングとは?

そもそも、グリーンウォッシングとは何か。冒頭では虚偽の環境主張を行ったり、消費者に誤解を与える欺瞞的な広告表現を行ったりすることだと述べたが、改めて事例や研究を参照しつつ、この問いの答えを考えてみたい。

具体的な事例としては例えば、「環境に優しい」と宣伝している商品の生産プロセスで環境汚染を行っていたり、「環境に良い素材を使っている」と商品を宣伝していながら、そうではない素材を用いたりといった、明らかな嘘に当たるパターンがまず挙げられる。

また、一部の商品に対して行われている環境配慮をあたかも事業全体で行っているように見せかける、もしくはそう見えてしまうような宣伝の仕方をする、環境に大きな負荷のかかる事業を行いながら、消費者にそれを感じさせず罪悪感を消し去るような言葉(「低炭素」「ゼロカーボン」など)を用いたりするといった、紛らわしいコミュニケーションが問題となっている事例も多い。

さらに、サステナビリティレポートで述べられている環境報告に曖昧な根拠を用いたり、掲げている環境目標に対して実態が伴っていない、もしくは大きな乖離があるなど、必ずしも意図的とは言えないが、投資家や消費者に対して誠実さに欠けると判断された場合も、グリーンウォッシングとされる。

企業や商品の広告に、自然を想起させる緑や青といった色や、山や森などの自然風景、そのほか絶滅危惧種の動物や再生可能エネルギー源などの画像、または音を事業とは直接の結びつきがないにもかかわらず無闇に使用することも、グリーンウォッシングにあたる。フランスの消費者心理学およびマーケティング研究者であるBéatrice Parguelらの研究では、これを「実行的グリーンウォッシング(Executional greenwashing)」と呼び、企業が“グリーン”であることを暗に示し、消費者が受ける印象を実態にかかわらず操作するものとして警鐘を鳴らしている(※4)

実行的グリーンウォッシング イメージ
例えば、こうした画像を事業との結びつきは関係なしに使うことが「実行的グリーンウォッシング」にあたる。イメージ画像によって、その企業がグリーンだと無意識に錯覚してしまう。

カナダのグリーンマーケティング・エージェンシーのTerrachoice社が発表した「グリーンウォッシングの七つの大罪」では、こうしたさまざまなグリーンウォッシングを「隠れたトレードオフの罪」「根拠を示さない罪」「曖昧さの罪」「偽りのラベル崇拝の罪」「無関係の罪」「より大きな『悪』と比べる罪」「フィビング(不正確)の罪」以下の7つに分類している。

    1.隠れたトレードオフの罪:企業がアピールしたい一点のみに言及し、他で環境破壊が起こっていることや環境負荷が大きいことなどには言及しないこと
    2.根拠を示さない罪:何の証拠もなく「認証済み」「サステナブル」「エシカル」「環境にやさしい」と宣伝すること
    3.曖昧さの罪:どの部分が、どのように良くなったのかという定義・数字・事実などを明らかにしないこと
    4.偽りのラベル崇拝の罪:存在しない、またはまともに機能していない第三者機関からお墨付きをもらって説得力を持たせること
    5.無関係の罪:事実かもしれないが、商品やサービスによる環境インパクトとは無関係の情報を「訴求ポイント」として提示すること
    6.より大きな『悪』と比べる罪:環境負荷を出す「より悪い」ものと比較して、まだマシだと宣伝すること
    7.フィビング(不正確)の罪:間違った情報に基づいて商品・サービスをサステナブルだと主張すること

これに対し、オハイオ大学で環境研究プログラムのディレクターを務めるStephen J. Scanlan氏が行った石油ガス産業(OGI)における水圧破砕に関するコミュニケーションの研究では、OGIが行ったグリーンウォッシングを例にTerrachoiceの7つの罪に続く形でさらに以下の6つの新しい罪を挙げている(※5)

    8.偽の希望の罪:技術の発展を根拠に、偽りの希望を強化する主張を行うこと
    9.恐怖煽りの罪:組織の実践に賛同しないことに関連する不安を作り出す主張を行うこと
    10.約束違反の罪:失敗した場合取り返しのつかない影響を及ぼすにもかかわらず、地域の経済発展などを理由に特定の企業活動を肯定する主張を行うこと
    11.不公正の罪:特定の企業活動によって最も影響を受ける人々ではなく、その企業活動によって利益を享受する人々に対して環境コミュニケーションを行うこと
    12.危険な結果の罪:不平等な現実を隠し、付随するリスクから公衆の注意をそらすこと
    13.人々や環境を犠牲にした利益の罪:人々や環境を犠牲にして利益を得ること

また、ペルナンブコ連邦農業大学の研究「グリーンウォッシングの概念と形態:体系的なレビュー(Concepts and forms of greenwashing: a systematic review)」では、グリーンウォッシングは「選択的開示(selective disclosure)」と言い表せるとしている(※6)。これは、企業にとって都合の良い側面や情報のみを選択して開示することを示し、そうした行為がグリーンウォッシングにあたるとする考え方だ。

拡大していくグリーンウォッシングの定義と、定義すること自体の難しさ

このようにグリーンウォッシングの方法や形態は多岐にわたる。しかし、これらに共通するのは、消費者、または投資家などを、意図的であろうとなかろうと「なんらかの形で結果的に欺く行いである」という点だ。

一方で、「そもそもグリーンウォッシングとは何か?」という問いに答えるのは想像以上に難しい。

例えば、欧州委員会が2024年2月に発表した司令では、カーボンオフセットを用いてカーボンニュートラルを謳うことが2026年から禁止される。この背景には、カーボンオフセットの大部分が実態のないものであるといった疑惑が浮上し、その信頼性が大きく揺らいだことがある。

これにより、これまでCO2の排出量を相殺する手段として広く用いられてきたカーボンオフセットすら、使い方によってはグリーンウォッシングに分類されることになったのだ。気候変動への危機意識は高まり続けると考えられる今後、こうした事例はカーボンオフセットに限らず次々と出てくる可能性があり、グリーンウォッシングの定義として含まれる範囲は社会の中で拡大していくと予想される。

こう考えてみると、これまでに起訴されたり消費者の間で炎上したりしたグリーンウォッシング事例も、多くの企業がある中でその行動が著しく先に述べたようなグリーンウォッシング的行為に当てはまるとされただけであり、起訴されていないその他の全ての企業がグリーンウォッシングに加担していないという根拠はどこにもない。また、「これはグリーンウォッシングで、あちらはそうではない」と二分することも不可能に近い。

そもそも、環境に少しでも良いものを買うことを推奨し、結果的には消費を促すグリーン・マーケティング活動そのものがグリーンウォッシングであるという主張も存在する。

ジャーナリストのLeah Kirts氏はCNNの記事にて、「グリーンウォッシングの主な問題のひとつは、温室効果ガスの排出、有害化学物質の使用、森林伐採、大気汚染など、企業が行っている汚染について企業に責任を取ることを求めるのではなく、地球温暖化の責任を個人に負わせていることとも言える」と述べる。もちろん、少しでも環境に良いものを買おうとすること自体は、悪いことではない。一方で、こうしたマーケティングが地球温暖化の責任を個人に押し付けている、と考えることもできるのだ。

批判されるなら、言わない方がマシ。現れるグリーンハッシングの罠

ここまでで述べた通り、どこから、何に対してグリーンウォッシング批判の矢が飛んでくるかはわからない時代に突入した。

グリーンウォッシングへの批判は企業活動を健全なものにしていくためには欠かせないが、一方で批判を恐れ、自社の環境目標やその詳細を意図的に外部に公表しない「グリーンハッシング」という行動も台頭してきている。

この言葉は、気候コンサルティング会社サウスポール(South Pole)が2022年10月に発表したレポートをきっかけに広く知られるようになった。レポートではネットゼロを掲げる1,200の大企業のうち4社に1社がSBTiをベースにした科学的根拠に基づく目標を設定しながらも、それに関して公表していないことが明らかになった。ネット・ゼロへの予算拡大やサステナビリティチームの拡充は進んでいるにもかかわらず、公に対して沈黙する企業が増えていたのだ(※7)

サウスポールのCEOであるRenat Heuberger氏はレポートのプレスリリースにて、「これまで以上に、持続可能性において進歩を遂げている企業が、同業他社にスタートを切ることを奨励する必要がある。進歩が沈黙(グリーンハッシング)の中で行われている場合、これは不可能です」とこの流れに警鐘を鳴らす。

英国のシンクタンク・Planet Trackerの研究ディレクターであるジョン・ウィリス氏はedieの記事にて、企業がグリーンハッシングを行う理由が、サステナビリティを示すことへの恐怖から、情報を隠し監視を避ける、より意図的な試みに変わっていると指摘している。

「企業は解決策をテストするためにもっと時間が欲しいかもしれませんし、まだ手の内を見せる準備ができていないかもしれません。他の誰かが先に進んで情報を共有し、その結果つまずくのを見てから判断したいと思っているのかもしれませんし、同じ過ちを犯したくないと思っているのかもしれません」(※8)

また、Planet Trackerの2023年の報告書「The Greenwashing Hydra(グリーンウォッシング・ヒュドラ)」では、グリーンハッシングをグリーンウォッシングの一種と位置付けており、「黙っていること」の罪の重さが強調されている(※9)

プラネット・トラッカーの、グリーンウォッシング・ヒュドラの図。中心から、グリーンクラウディング(Greencrowding)、グリーンライティング(Greenlighting)、グリーンシフティング(Greenshifting)、グリーンラベリング(Greenlabelling)、グリーンリンシング(Greenrinsing)、一番外側にグリーンハッシング(Greenhushing)が位置付けられている。
プラネット・トラッカーの、グリーンウォッシング・ヒュドラの図。中心から、グリーンクラウディング(Greencrowding)、グリーンライティング(Greenlighting)、グリーンシフティング(Greenshifting)、グリーンラベリング(Greenlabelling)、グリーンリンシング(Greenrinsing)、一番外側にグリーンハッシング(Greenhushing)が位置付けられている。

英国・サリー大学の持続可能性マーケティング教授Xavier Font氏も、ハッシングの悪影響について警告する。一方で、彼の地元のツーリズム業界を対象としたグリーンハッシングの研究では、多くの企業が、いつ目標の達成をアナウンスするべきなのかがわからないという本音を持っていることがわかったという(※10)

例えば、レストランで使う全体のうち、半分だけサステナブルシーフードを使っている場合。「もし50%だけ何かしているとき、それを公表することは自社にとって利益になるのでしょうか?」と経営者は語った。

これは、企業が実行可能な取り組みの大半が、環境負荷を以前と比べて軽減するためのものであり、環境に良いことをできても、商品の一部にとどまる場合が多いという現実を反映したリアルな回答ではないだろうか。それで訴えられる可能性があるのであれば、黙っていた方が良いというわけだ。

一方、金融セクターでは企業への情報開示の要求は厳しくなっており、今後一定以上の規模の企業はグリーンハッシングさえも行えなくなっていくと予想される。

グリーンウォッシングは個別企業の問題なのか

このように、グリーンウォッシングをめぐる議論は年を追うごとに複雑になっている。

中途半端にコミュニケーションを行えば批判の的になり、黙っていることもできない──企業がこれまでにない厳しい局面を迎える中、今社会に求められていることはなんだろうか。

2021年に欧州連合(EU)が行った調査では、企業による環境主張の53.3%が誇張または虚偽であった(明確な根拠に欠ける)とされている(※11)

また、一般社団法人EARTH COMPANYが2022年に日本企業の経営層・管理職 1,000人を対象に行った「日本企業の経営層・管理職の SDGsやサステナビリティの取組みに関する意識調査」によれば、47%の経営層・管理職が、「正直なところ自社の取り組みがグリーンウォッシュ・SDGsウォッシュになっている」と感じていることがわかった。

同調査では72%の経営層・管理職が「より本質的に、SDGsやサステナビリティに関する事業や人材育成に取組むべきと考えている」と回答しており、サステナビリティの重要性は理解しているが、取り組みが追いついていないという現実や、この問題が単に個別の企業の「悪意」や「不誠実さ」によるものと片付けることはできないと言える。

また、先に述べたように企業としては真剣な態度で環境問題に取り組んでいても、表示やコミュニケーションの仕方で知らないうちにグリーンウォッシングに加担してしまっている場合も大いにある。

こうしたことから、今求められているのは、グリーンウォッシングの問題に個別企業が対応することはもちろん、社会全体の問題として知見や改善策を共有し、より本質的に持続可能で再生的な社会を構築する仕組みを作ることではないだろうか。

グリーンウォッシングを健全になくしていくために、企業ができること

個別企業がグリーンウォッシングやグリーンハッシングを回避するためにまずできることのひとつは、冒頭で述べたEUのグリーンクレーム指令(Green Claims Directive)規制や、監視の進む国々の法律や基準を参考にし、自社の活動に照らし合わせ、どのような主張が過少、または過剰にあたるのかなどを理解することだろう。

こうした精査に、AIなどのテクノロジーを用いることもひとつの手だ。

例えば、「ChatNetZero」は、ビジネスや政府、金融機関によって設定された脱炭素化計画の信頼性を判断することを目的に、企業や政府の気候コミットメント、NZTコンソーシアムおよび国連のネットゼロコミットメントの分析レポートなどが含まれるNet Zero Tracker(NZT)データベースに基づいてトレーニングされており、自社で進めている事業が気候変動防止に役立っているかどうかを客観的に評価してくれる。

また、批判される恐怖心からハッシングに陥る危険性を回避するために、透明性が高い環境コミュニケーションを行い、消費者の支持を得ている企業も参考にしたい。

スニーカーブランドのVEJAでは、ウェブサイトの「Limits」と呼ばれるページで、自社の取り組みでできている部分、またできていない部分(限界)を正直に顧客に伝えている。

例えば「Dyes(染め)」の項目では、「(VEJAのスニーカーに使われる)レザーやコットンに使用している染料は自然素材ではない」と書かれている。続く段落では、「VEJAは2012年と2013には植物やミネラルから作られた染料を生産の40%に用いていたが、その赤色のクオリティが自社の基準に満たなかった」「安定していて褪せない色味を出すために、現時点では既存の染料を使っている」と述べられている(※12)

VEJA Limitsのページの一部。
VEJA Limitsのページの一部。

また、同じくスニーカーブランドのAllbirdsでは、生産過程でどれだけCO2のフットプリントがあるかを全てのスニーカーで表示している(※13)。こちらも、目標を策定したうえで、現在地を示す潔さと透明性の高さが環境意識の高い顧客に評価されている。

こうした自社の弱みを正直に公表することを、難しいと感じる企業も多いだろう。しかしこれは、自社の取り組みを正直に伝えるだけではなく、同業者と協力し業界全体としての持続可能性を推進していくためにも欠かせない行為だ。

例えばVEJAの場合、Limitsがあることによって、現在の課題やブランドの限界が明確になる。これにより、その課題の解決に向けた研究を始める次世代や意外なソリューションを思いつく人が出てきたり、それによって開発が推進されたりする可能性もある。一方、そもそも正直に課題を明らかにしなければ、企業は他社や他団体に助けてもらうこともできないうえに、業界や社会全体としての前進も遅れる。同じ課題がボトルネックとなっている他社は必ず存在するからだ。

Allbirdsはさらに、自社のカーボンフットプリント算出の方法をオープンソースとして開示する「カーボンフットプリント算出キット」を制作し、ファッション業界全体のCO2排出量を減らすためにCO2の計測を以下のように呼びかけている(※14)

独自の情報を公開することは、ビジネスとしては意味がないかもしれません。しかし、今、私たちにとって重要なのは、ビジネスではなく世界的な気候変動の危機です。競争社会によって、このような地球の姿にしてしまったのなら、次は協力によって解決しませんか?

この算出キットには、製品のカーボンフットプリントを推定、問題点を特定し、排出量削減を推進できるライフサイクルアセスメント(LCA)ツール、カーボンフットプリントを簡単に算出するためのスタートガイド、顧客コミュニケーションのヒントとなるカーボンフットプリントのラベルなどが含まれている。

Allbirdsは、同社がカーボンフットプリント算出に用いる指標の正確性などが疑われ、アメリカでグリーンウォッシングだと訴えられている事実もある。一方で、業界全体の連帯を推進しようとするAllbirdsの姿勢そのものは、すでに環境への取り組みで一歩先を行く企業が手本として見習うべきものではないだろうか。

企業でも消費者でもある私たちにできること

いかがだっただろうか。ここまで、グリーンウォッシングの現在地と考えられる防止策について述べてきた。一社でも多くの企業がグリーンウォッシングに関する規制云々に関係なく、真の意味で持続可能性を実現するために、自社の取り組みを継続的に省み、透明性を高めることで他者と協働し社会全体のグリーンウォッシング蔓延を防いでいく必要がある。

一方で、最後に現存の経済システムの中でそれを行おうとする難しさや限界についても問い直したい。

現在の終わりなき成長を前提とした経済システムの中では、企業は利益を生み出すために競争を続けざるを得ない部分がある。そうした中で外部から環境対策を強いられれば、なるべくコストを抑えて自社の取り組みを少しでも環境配慮のあるものに見せようとしたり、他者製品と環境性で競うために事実を誇張したマーケーティング手法を取ったりしてしまうリスクは、どのような企業も孕んでいるのではないだろうか。

だからこそ、企業人としても一市民としても今後考えていきたいのは、現在の成長、競争を前提とした行き過ぎた資本主義経済に疑問を投げかけていくことではないだろうか。これによりグリーンウォッシングの問題がすべて解決するわけではないが、企業への規制や監視ばかりが提示されがちなグリーンウォッシングの議論において、長期的な目線で解決していくための一つの方向性として示したい。

また、グリーンウォッシングの議論になると、往々にして消費者は、企業と比較して「判断能力がなく」「弱い存在」として位置付けられることがある。もちろんその側面があるのは事実だが、本当にそうだろうか。例えば、「環境に良い」と言われている商品でもすぐに捨ててしまえば意味がない。一方で、「環境に良い」と謳っていない服でも、10年着ればよりサステナブルと言えるだろう。

つまり、自分たちの行動が長期的に環境に与える影響に対して無自覚に生活している限りは、私たちはグリーンウォッシングの負の面を被る存在であるのと同時に、加担者にもなってしまうのである。そうした消費を是とするあり方を見直し、より本質的な変化を追求していく態度が、企業人として、同時に一市民としての私たちに求められているのではないだろうか。

※1 世界で横行するグリーンウォッシングに規制と監視が厳しくなる
※2 Consumer rights: final approval for the directive to empower consumers for the green transition
※3 消費者庁、10社に措置命令を実施。「堆肥化可能で生分解性」などと根拠なく製品表示
※4 Can evoking nature in advertising mislead consumers? The power of ‘executional greenwashing’
※5 Framing fracking: scale-shifting and greenwashing risk in the oil and gas industry
※6 Concepts and forms of greenwashing: a systematic review
※7 Going green, then going dark – One in four companies are keeping quiet on science-based targets
※8 What is ‘greenhushing’ and why is it a risk for sustainability professionals?
※9 Greenwashing Hydra(Planet Tracker)
※10 Volunteer tourism, greenwashing and understanding responsible marketing using market signalling theory
※11 ENVCLAIMS_INVENTORY_2020_FINAL_PUBLI.PDF
※12 Limits(VEJA)
※13 サステナビリティ(Allbirds)
※14 カーボンフットプリント算出キット(Allbirds)

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