アフターコロナ時代に求められる「あいだ」のイノベーションデザインと越境人材

アフターコロナ時代に求められる「あいだ」のイノベーションデザインと越境人材

世界中で猛威を振るい、私たちの生活を一変させた新型コロナウィルス感染症。コロナの感染拡大は、改めて世の中に存在していた「分断」の存在を浮き彫りにしました。

例えば、人間と自然。長い歴史のなかで、私たち人間は自然の脅威から自らを守るために自然と離れ、壁を築き、コンクリートを敷き詰めることで都市を築いてきました。狭い空間の中にあらゆる機能を集中させ、人を横ではなく縦に積み上げ、様々なインフラを効率化することで生まれた都市空間は、多様な人間同士が交わりあい、イノベーションを生み出す拠点としては非常に優れていました。

しかし、今回のコロナをきっかけに、都市はその効率性とは裏腹に、大きな脆弱性を抱えていることも明らかになりました。都市が生み出した三密空間はウィルスの格好の住処となり、世界中で感染爆発を引き起こしたのです。コロナの感染拡大は、自然と人間が分断された結果として起こった悲劇だとも言えます。

また、コロナによってグローバルなサプライチェーンが分断された結果、食料やマスクの確保に不安を抱えた都市の消費者は一斉にスーパーやドラッグストアへと駆け込み、お店の棚からは在庫がなくなるといった現象が起こりました。災害のたびに起こるこうした買いだめ現象は、都市の消費者が抱える不安に端を発しています。彼らは自ら食料やエネルギーなどを生産しておらず、それらを地方や海外からの輸入に頼っているからです。

自らが生きていくうえで必要な資源を自給していない消費者にとって唯一頼りになるのはお金です。だからこそ、不安から逃れるためには長時間働き、お金を貯めるしかありません。このような不安は、現在のグローバル資本主義や大量生産・大量消費システムの結果でもあり、逆にそれをさらに加速させるエンジンでもあると言えます。

生産と消費の分断によって人々が抱えることになった根源的な不安は、今回のコロナのように命を脅かす災害が起こるたびに、過度な消費者行動として顕在化されるのです。

分断を乗り越え、なめらかにするテクノロジー

一方で、コロナ禍においてはテクノロジーを通じてこれらの分断を乗り越えたり、なめらかにしたりする取り組みも数多く生まれました。

例えば、Facebookでは地方の生産者が都市の消費者と直接つながり、そのままでは廃棄になってしまう野菜や肉類などを直接売買するグループがとても盛り上がり、SNSを通じた生産者と消費者の助け合いの場が生まれました。

また、外出自粛により多くの人々がリモートワークに移行したことで、これまでオフィスと自宅という形で切り離されていた生産と消費の場が融合するといった事態が起こり始めています。このようなリモートワークを可能にしているのも、zoomをはじめとしたオンラインのコミュニケーションテクノロジーです。

場所にとらわれず働くことができるようになり、多様な人が集まる都市ならではの魅力だったイベントなどもオンラインに移行され、誰もがリモートで都市の持つ社会資本や人的資本にアクセスできるようになれば、人々の中には都市で暮らす意味を失う人もいるかもしれません。

自然も豊かで土地も安い地方に移住し、リモートで都心の企業に勤めるといったライフスタイルはより加速することになるでしょう。逆に、三密空間というリスクを抱える都市は、空間そのものの変革を迫られることはもちろん、わざわざ都市にいなくてもよい時代に人々がそこにいたいと思う「意味」を提供する必要性に迫られることになるでしょう。

「あいだ」に生まれるイノベーションのチャンス

アフターコロナの時代に経済や社会をどのように再開し、取り戻していくかという議論の際、「グリーンリカバリー」や「ビルド・バック・ベター」といった言葉がよく使われますが、これらの考えはいずれも、上記で説明したような人間と自然、生産と消費、都市と地方などの様々な分断をなめらかにしていくトレンドとして捉えることができます。

そして、この分断の境界線があいまいになるなかで、その「あいだ」に多くのイノベーションのチャンスが生まれることが予想されます。ここでは、それぞれのテーマで具体的に起こりつつあることを説明していきます。

人間と自然の「あいだ」

人間と自然を切り離し、人間中心に設計した都市が、ウィルスを前にその脆弱性を露呈したことで、人間と自然との関係性は改めて見直されることになりそうです。これまで都市はエネルギーや資源など自然資本を搾取し、利用することで社会資本や経済資本を構築する装置として機能してきましたが、これからは都市自体が自然資本の生産機能をもち、自然の一部として存在することが求められるようになるでしょう。これは、都市の緑化といった表面的な取り組みにとどまらず、あらゆるレベルで起こる変革だと言えます。

かねてよりサステナビリティの世界では、自然と人間を切り分けて考えるのではなく、人間を自然の一部として捉え、人間の活動を通じて自然やコミュニティを再生させるようなリジェネラティブなありかたへの移行が叫ばれていましたが、コロナをきっかけにまさに人間と自然の関係性のリデザインが進むと考えられます。

その好事例とも言えるのが、グリーンリカバリーの一環として欧州の都市で行われているまちづくりです。パリやミラノ、ロンドンといった都市では、三密性の高い電車やバスなどの公共交通機関や、環境負荷の高い自動車の代わりに自転車による通勤や移動を推進するため、サイクリングロードの整備を進めています。サイクリングロードの整備は、CO2排出の削減や人々の健康の促進、道路の安全向上につながるだけではなく、地域の飲食店や商店への人々の支出も増えるという調査結果があります。自動車の代わりに自転車でまちを移動する人が増えれば、ローカルコミュニティが潤うのです。環境にやさしい都市インフラの整備が、経済にとってもプラスをもたらす。ここに、人間と自然の関係を問い直すうえでの大きなヒントがあるように感じます。

また、コロナ禍において外出自粛が求められるなか、庭やベランダで家庭菜園をはじめたという話をよく聞きますが、このように都市の暮らしの中に自然を持ち込む人々が増えているというトレンドにも注目です。最近は、市民同士が自分が育てた野菜などを売買できる、「共給共足」をコンセプトとするアプリなども誕生しています。

自然の猛威から身を守り、自然と離れるために作られた都市の中で暮らす人々が、もういちど自然とつながろうとしているのです。

生産と消費の「あいだ」

自分が生きるのに必要な資源を自給していないことのリスクに多くの人が気付けば、家庭菜園なども含む消費者の生産者化の動きは、今後も加速することが予想されます。これは、マクロなトレンドとしてはシェアリングエコノミーやサーキュラーエコノミーの流れとも共通しています。

例えば、自宅を宿泊施設として貸し出す民泊はシェアリングエコノミーの代表例ですが、これまで消費者として家を購入し、そのなかで食べ物や家具、家電などを消費していた人々が、それらの財を使って宿泊サービスを提供するというこの仕組みは、まさに消費者が生産者化する事例の一つです。これは車のシェアリングも同様です。

また、サーキュラーエコノミーは、リニアな経済モデルにおいて対極の位置に存在していた生産者と消費者を、サーキュラーモデルにすることで隣り合わせの存在に置き換えました。サーキュラーエコノミーにおいては、消費者は、製品の回収や廃棄物の活用といったプロセスを通じて生産の一部に取り込まれていきます。消費者は製品の利用者であると同時に、製品のサプライヤーともなるのです。

消費者と生産者の境界線が曖昧になると、そこには多くのビジネスチャンスが生まれます。生産者になりたい消費者のニーズを満たす製品やサービスは、多くの支持を得ることになるでしょう。

都市と地方の「あいだ」

コロナの以前から、都市の地方化、地方の都市化、というトレンドは進んでいたように感じます。都市には地方が持つ自然や生産機能の実装が求められ、それが都市の緑化や都市農園、垂直農業など様々な形で取り組まれてきました。

一方、地方創生の流れのなかで注目を浴びている地域の多くは、都市から人が移住し、都会的なセンスでその地域の魅力をうまく編集することに成功しているという印象があります。ありのままの地方というよりも、都会的なセンスが加わったリノベーションのお店や建築物、空間などが、地域のアイコンとしてアピールされ、多くの人を惹きつけているのです。

今後、リモートワークなどが普及すれば、マクロにおいては引き続き都市への人口流入が続くとしても、ミクロレベルでは都市の人々が地方に移住し、自らのクリエイティビティを活かして地方で新たな営みをはじめるといった事例は増えていくのではないかと考えられます。また、特定の地域に移住するのではなく、二拠点や多拠点居住といった新たなライフスタイルを追求する人も増えるでしょう。すでにこうした生活を実現するためのサービスは登場しており、インフラも整いつつあります。

このような人々が増えると、都市と地方の境界線はより滑らかになり、都市はより地方らしさを求め、地方はより都市らしさを求めるといった傾向がより加速する可能性があります。その「あいだ」には、多くの新たなビジネスの種が広がっているはずです。

ウチとソトが曖昧になる時代に求められるコスメとは?

少し抽象的な話が多くなってしまったので、ここで一つ具体例にも触れたいと思います。コロナに伴う外出自粛により、世間では化粧品の売上、特に口紅の売上が減ったというニュースが話題になりました。

外出が減れば化粧をする機会が減るのは当然ですし、外出時もマスクをつけるとなると口紅の売上が減るのも納得ですが、ここで考えたいのは、化粧品という商品が前提としていた社会の仕組みです。ウチでは「すっぴん」、ソトでは「化粧」が当たり前だったように、もともと化粧品とは「ウチ」と「ソト」が明確に分かれていた時代の商品でした。

それでは、自宅で働き、自宅からオンラインを通じた同僚とのコミュニケーションが求められるリモートワークが当たり前になり、「ウチ」と「ソト」の境目が曖昧になる時代は、どのような化粧品が求められるのでしょうか。

それは、オンライン上でだけ利用できるアバターのようなバーチャルコスメかもしれませんし、「綺麗に見せる」ための化粧品ではなく「実際の肌が綺麗になる」化粧品かもしれません。すると、コスメとスキンケアの境界線もますます曖昧になっていきます。

また、これは冗談半分ですが、オンラインでの仕事や会議などのコミュニケーションが当たり前になってくると、「化粧品会社がzoomのような動画テクノロジーに投資をする。なぜなら、動画の解像度が上がるほど化粧品の売上が伸びるから」といったようなストーリーが生まれる可能性もあります。

このように、これまで分断されていた領域の境界線があいまいになると、その「あいだ」には多くのイノベーションやビジネスのチャンスが生まれるのです。

高まる越境人材の価値

それでは、この「あいだ」にあるイノベーションの種を見つけ、形にしていくためには、どうすればよいのでしょうか。そこでキーワードとなるのが、「越境」です。

「あいだ」に起こることを予測し、機会を見つけることが一番得意なのは、その「あいだ」の両側をよく知っている人材です。たとえば、都市のことも地方のことも知っている、生産者の気持ちも消費者の気持ちも知っている、自然の暮らしも、都心の暮らしも知っているなど、様々な領域を越境した経験がある人材は、よりはやく正確に「あいだ」に起こりつつあることを予測できるのです。

また、これは行政と民間、国内と海外、テクノロジーとデザイン、ウェブとリアルなど、様々な領域の「あいだ」にも当てはまることです。様々な分野を越境し、その両側を知れば知るほど、「あいだ」のイノベーションデザインができるようになるのです。

つまり、アフターコロナの分断がより滑らかになっていく社会では、越境人材の価値がさらに高まるということです。

これは、例えばサーキュラーエコノミーの分野で考えてみても同様です。サーキュラーエコノミーの実現には、異なるプレイヤー同士のコラボレーションが欠かせません。誰かにとっての廃棄物が誰かにとっての資源であるということを発見するためには、異なる業界からの視点を持つ人材の存在が欠かせません。

また、回収後の製品のリサイクル率を高めるためには、競合するメーカー同士が手を組み、業界全体として共通した製品パッケージ基準を作り上げるといった取り組みや、廃棄物回収に関するルールを作っている行政と企業との連携、メーカーと廃棄物回収企業との連携など、様々なプレイヤー同士の協働が必要不可欠となります。ここでも、会社やセクターの垣根を超えて協働できる越境人材が求められるのです。

越境人材とは、あらゆる領域の分断をなめらかにし、イノベーションを起こす媒介となりうる存在であり、アフターコロナの世界においてはますますその重要性が高まるのです。

アフターコロナの時代におけるイノベーション創出に興味があるかたは、ぜひ越境人材という生き方を実践してみてはいかがでしょうか。様々な分断の「あいだ」に、活躍の場が広がっています。

7月3日、イベントを開催します!

7月3日の19:00~、IDEAS FOR GOOD Business Design Lab では「アフターコロナ・分断の時代に求められる「あいだ」のイノベーション・デザインとは?」をテーマとしたオンラインイベントを開催します。

当日は、民間と行政、都市と地方、日本と海外など、様々な分野を越境し、数々の共創プロジェクトを展開している越境人材として活躍している Business Design Lab 所長の加藤遼氏、「越境リーダーシップ」プロジェクトファウンダーの三浦英雄氏、株式会社ブリヂストンの山口真広氏の3名をゲストにお迎えし、上記テーマをさらに深堀したトークを行います。

いま「あいだ」に起こりつつあること、「あいだ」に起こりつつあるイノベーションをどのようにセンシングするか、イノベーションの具現化に向けてどのようにマルチセクターの共創を実現するかなど、越境人材に求められるスキルや考え方、実務ノウハウを余すことなく語り合います。興味がある方はぜひお申し込みください。

【BDLオフ会#1】アフターコロナ・分断の時代に求められる「あいだ」のイノベーション・デザインとは?

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