空間づくりの常識に切り込む。船場がリニューアルした循環型オフィス

空間づくりの常識に切り込む。船場がリニューアルした循環型オフィス

人々の生活スタイルの変化によって、商業施設やオフィス、公共施設といったさまざまな空間のあり方が変容しています。特にオフィスに関しては、コロナ禍の影響により、移転やレイアウトの変更などの何らかの形でオフィス戦略を見直す動きが見込まれています。建物の内装や建築などを手がける業界ではその目まぐるしいトレンドや需要の変化への対応が迫られる一方、それに伴う資源の大量消費や廃棄物の問題が浮き彫りになってきています。

そんな内装業界の環境課題に取り組んでいるのが、商業施設等の空間創造を手がける株式会社船場。資源循環型のリノベーションサービスをローンチするなど、課題の解決へ動き出しています。また、そのノウハウを活かし、2021年4月に「地球や⼈・社会に優しいグッドエシカルなオフィス」を掲げ、本社オフィスをリニューアルしました。今回は、内装業界の課題や、資源循環を中心としたエシカルな空間づくりについてお話を伺うべく、船場の成富法仁さんを訪ねました。

話者プロフィール


成富法仁氏
株式会社船場 エシカルデザイン本部 デザインディレクター
商空間をはじめ大型のオフィス空間や公共施設も手がける。近年はエシカルデザインシンキングを体現する空間のあり方を模索し続けている。

内装業界に存在する課題と、エシカルな空間創造

Q. 内装デザインを手がけるなかで課題に感じていた部分を教えてください。

業界の慣行となってしまっていますが、築浅改装への疑問はありました。商業施設や駅ビルなどの建物では、短期間でテナントの入れ替えを行うことで、目新しさや差別化を図ることが必要です。そのため、賃貸の契約期間も6~10年前後と短く設定され更新されるサイクルとなっています。結果、建物オーナーからみて収益性の低いテナントは割と短期間で撤退を余儀なくされ、せっかく作ったものを短期間で解体するということがしばしば起こっています。

私は設計に携わってきた立場なので、自分が作ったものが「売り上げが上がらないから」といって3〜4年で壊されることもあり、展示会のような一時的な場所は3〜4日で解体されてしまうので、とてもショックに思っていました。

それに加え、解体時に出る廃材も活用されていないのが実情です。繰り返し使える素材も存在しますが、建築業界と比べて内装業界では資源循環に関する法整備があまり進んでおらず、生産から廃棄までかなり直線的になっており、これには違和感がありました。

「Rethink」を中心とした資源循環型のリノベーション

このような業界の課題に向き合うべく、2021年3月にスタートしたのが、資源循環型リノベーションサービス「CIRCULAR RENOVATION™」です。リノベーション時の素材の選定から廃棄物削減・リサイクル率向上を実現し、施工時だけでなく施工前後でのCO2排出量削減に取り組んでいます。

Circular Renovationの概念図

1. Return:改修・移転時にどうしても出てしまう残置物を運搬・保管・補修し、次の計画に転用。『使う責任』のサポート
2. Reuse:残置物のうち有価物として引き取れるものは、市場に還元。撤去処分費と混合廃棄物を削減。
3. Recycle:徹底した分別・解体により、混合廃棄物の削減とリサイクル率の向上。産業廃棄物の資源化。
4. Reselect:使用する資材の見直しと自社開発。施工時の廃棄物削減と解体時のリサイクルのしやすさを追求。
5. Redesign:リメイクやアップサイクルで、廃棄物の新たな循環の創出と、空間利用や商品化を実現。
6. Renovate:既存建築を生かした空間の刷新で、開発コストの低減と建築ライフサイクルの長期化。

資源の回収からリサイクル、再活用までの流れを表した上記の図は、エシカルな視点で再考する「Rethink」を中心とした1〜6の循環ステップを示しています。今回の船場オフィスのリノベーションにおいてもこの「CIRCULAR RENOVATION™」のノウハウが用いられました。

Q. 業界の常識に疑問を投げかけ、全社的に「エシカル」の方向へシフトした経緯を教えてください。

船場では、これまでも商業施設づくりを通して、人の使い勝手を大切にした空間づくりや、地方創生型事業に取り組むなど「人」や「地域」への心配りにはアプローチしてきましたが、先に述べたように「持続可能な環境づくり」に対しての配慮が足りていませんでした。「開発」という名のもとによりわかりやすい豊かさや目新しさを生み出すことを事業の要においてきました。しかし豊かさの意味が大きく変化し、生活者が求める幸福感も変わりました。目先での目新しさは通用しなくなりました。このまま負荷をかけ続けていくと事業を続けていくことができないですし、感じている違和感に対して真摯に取り組んでいくことが必要だと捉え、「エシカル」の方向へシフトしました。

Q. 「エシカル」という言葉を使うのはなぜでしょうか?

船場では、「空間創造に、思いやりの視点を。」の理念のもとサステナブルやリサイクルといった思考で事業を再構築していきます。しかし、船場が手掛ける空間は前述のように「人や地域」との関わりを重視してきたことも大切にしていきたいと思っています。空間を使う人や、訪れる地域の人や地域事業者にとってどんな場所にしていきたいかは私たちにとっては当たり前の染み込んだ考え方なので、それも大切にしていきたい。そんな思いも含まれる言葉として「エシカルなデザイン」に行きつきました。

VUCA時代のオフィスのエシカルなあり方

船場のオフィスリニューアルのテーマは「ハッカブルデザイン」と「デジタル&エシカル」。それぞれに込められた想いについて聞きました。

ハッカブルデザイン

社会情勢や生活スタイル、働き方の変化に伴って、オフィスに求められる役割も変化していくと考えられていますが、船場は新型コロナの感染拡大前からリモートワークの活用を視野に入れたオフィスデザインや仕組みの構築を進めるなど、変化を予測し、それに対応できる空間づくりをオフィスで体現してきました。

今回のオフィスリニューアルでテーマとしている「ハッカブルデザイン」は、こうしたニーズの変化に伴う「解体」を想定しつつ、試しながら作っていくという発想で、空間に使用する資源を循環させることを目的としています。

成富さんは「ただ可変、可動なものにするのではなく、空間や『コト』に入り込んで『当たり前』を変えていくことがハッカブルなデザイン」だといいます。

廃材をそのまま活用し、解体時に再利用しやすいデザインとしながらも、利用する社員が好みの使い方ができる仕組みに

デジタル&エシカル

「CIRCULAR RENOVATION™」のメソッドに則り、今あるものを活用することで新たな価値の創造を目指す「エシカルデザイン」の取り組み。リニューアル前のオフィスで使用していた什器や備品に加え、内装業界ならではの「マテリアルサンプル」の余り、現場工事で出た廃材を活用し、新しいワークスペースのための家具やアート作品へと生まれ変わらせました。全社を挙げて廃材の分類や選定を行い、旧オフィスの廃材リサイクル率99%を実現しました。

オフィスの一角に展示された、廃材を活用したアート作品
Q. 船場では「エシカル」と「デジタル」を組み合わせた手法がとられていますが、この2つを組み合わせたのにはどのような意図があったのでしょうか。

これまでは、廃材を細かく分類してデータにするということはできていませんでした。それがBIM(※)の導入によってデータとなり、資材の追跡(トレース)が可能になりました。また、レイアウトが直感的にイメージしやすくなり、合意形成のスピードが上がった結果、2〜3か月という短い期間での設計が可能となりました。

社内では「情報をつなぐことが循環をつなぐこと」ということがよく言われていますが、資源を廃棄せず活用していくためにはできるだけ素の素材に戻し、データとして管理可能な形にしていくことが必要です。廃棄物に関する情報開示や産廃処分情報の追跡サービスの提供を通じて、今後もエシカルな空間づくりを実現していきたいと考えています。

旧オフィスで使用していた什器や備品、現場での廃材も新たな家具や作品としてオフィスに馴染む

※BIMとは…Building Information Modelingの略。コンピューター上に作成した3次元の建物のデジタルモデルに、コストや仕上げ、管理情報などの属性データを追加した建築物のデータベースを、建築の設計、施工から維持管理までのあらゆる工程で情報活用を行うためのソリューションであり、また、それにより変化する建築の新しいワークフローのことを指す。

全社的に学びながら手がけたオフィス変革。「気づき」と「まず動くこと」の大切さ

Q. 今回のオフィスリノベーションでは、設計から施工に至るまで全社横断的に活発的な議論・情報共有をしながら進められたと伺いました。具体的な取り組みについて教えてください。

エシカルラーニングという取り組みを継続し、社内イベントやウェビナーを通じて勉強会を実施してきました。また、情報共有に使用している社内SNSでもエシカルに関する情報を発信し続けました。エシカルデザイン本部が旗振り役となりつつ、部署を超えてつながれるよう、インフルエンサー的な存在に情報発信をしてもらい、彼らを中心に議論を進めてもらいました。

Q. 廃材の活用や新しい働き方への対応という今までになかった形でのリノベーションが、社員一人ひとりの手によってスピーディーに遂行されました。そのポイントとは何だったのでしょうか。

ポイントは「とりあえずやってみる」「ダメだったら戻る」ということだと思います。建築や内装の業界では工程が決まっているのでなかなか難しいですが、試行錯誤が可能な段階であればそれを通して気づきを得られます。実際にオフィスリノベーションを手がけた社員からは「エシカルな思考を前提に、意匠性と両立したデザインを手がけていきたいと思うようになった」(設計)「他部署からの視点を参考に、社内廃棄物の分別の仕組みを整備したい」(総務)というように、試しながらやってみるというサイクルを繰り返すことで意識の変化が見られました。

ただその一方、内装デザイン企業として関わる業界は多岐に渡り、エシカルに対する意識の差もあるため、目線を合わせていていくことが欠かせません。

今はエシカルに対する意識にグラデーションがあってよくて、私たちは継続的に「気づき」を得られる機会を設けていく立場。関心を持ってくれたらその人たちと「まずやってみる」そして「ダメだったら戻る」を繰り返して、一歩一歩前進していくことができたらと思います。

編集後記

生活スタイルや働き方の変化により、そのあり方が問われ続ける空間づくり。サステナブルな空間づくりを考えるためには「どれだけ環境負荷の小さい素材を使うか」に留まらず、「どうすれば、ニーズに合わせて形を変えながら空間を活用し続けられるか」という視点を持つことが必要となります。人にやさしく、環境にも地域社会にもやさしい空間とは何か、社員一人ひとりがそれぞれの視点で考え、現状に対する違和感に向き合い、正していく。内装業界に限らず、小さな気づきを起点として、自社ノウハウを生かしたソリューションを考えていきたいところです。

【参照サイト】株式会社 船場
【参照サイト】Semba Ethical Design Thinking
【参照サイト】船場本社がハブオフィスの新たな価値を追求するGOOD ETHICAL OFFICEにリニューアル

写真:青木勝洋写真事務所

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